Category Archives: ゲノム科学

ゲノム情報(DNA)から顔かたちを予測する技術

平成12年12月に起きた東京都世田谷区の一家殺害事件で現場に残された犯人のDNA型をもとに、犯人の顔や容姿などを推定する試みがなされるそうです。子が親に似るのは当たり前ですが、だからといってDNA情報から顔が予測・再現できるところまで科学技術が進んできていたとは知りませんでした。

  1. 世田谷一家殺害 最新DNA型鑑定で容姿推定へ (12/30(水) 0:28 産経新聞 YAHOO!JAPAN)

 

ゲノム情報から顔かたちを予測する日本の研究

  1. 顔ゲノムモンタージュプロジェクト(科研費による「顔形状を含む可視形質を規定する遺伝要因に関する双生児研究」) 慶應義塾大学
  2. 顔形状を規定するゲノム変異の網羅的探索によるゲノム・モンタージュ技術の開発 研究種目 基盤研究(A) 研究分野 生命・健康・医療情報学 研究機関 東海大学 研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31

参考

  1. DNAの情報で顔を再現! (2019年5月10日 NHK NスぺPlus)
  2. 精度90%超え! 「顔だけで遺伝子性疾患を推定」するアプリの驚愕 スマホのカメラがセカンドオピニオンに (AI SCHOLARAI 2019.04.12 gendai.ismedia.jp)
  3. DNAから顔を正確に予測することはできるのか? (2017.10.22 19:05 6,280 author 山田ちとら GIZMODO)
  4. J. Craig Venter Human Longevity
  5. Parabon NanoLabs DNA Snapshot
  6. ゴミについたDNAから顔を復元、ポイ捨てした人をポスターにするキャンペーン 香港のNGOが、街に落ちているゴミを集めて、付着したDNAから落とし主の顔をデジタル写真に復元。ポスターにして掲示している。 (2015.05.20 WED 06:10 WIRED.JP)近未来的技術を利用した指名手配写真を思わせるこれらのポスターは、香港の非営利団体「Hong Kong Cleanup」のために、広告代理店オグルヴィが制作したものだ。
  7. 街で集めたDNAから、その人の顔を復元して3Dプリント (2013.05.09 THU 12:03 WIRED.JP) 街角に落ちている髪の毛や爪、タバコの吸い殻、チューインガムなどを集めてそれからDNAを抽出し、元 IRIEDの人の顔を復元するプロジェクトの展覧会が行われている。
  8. ヘザー・デューイ=ハグボーグ(Heather Dewey-Hagborg) 2012 Stranger Visions
  9. DNAから人相推定も 目・鼻の位置など決める遺伝子特定 (2012年9月14日 12:09 日本経済新聞)

アフリカツメガエルのゲノムが解読される

発生生物学の実験材料としてよく用いられるモデル動物アフリカツメガエル(Xenopus laevis)ゲノムの塩基配列が解読され、今週のNature誌に論文が発表されました。

Adam M. Session,    Yoshinobu Uno,    Taejoon Kwon,    Jarrod A. Chapman,    Atsushi Toyoda,    Shuji Takahashi,    Akimasa Fukui,    Akira Hikosaka,    Atsushi Suzuki,    Mariko Kondo,    Simon J. van Heeringen,    Ian Quigley,    Sven Heinz,    Hajime Ogino,    Haruki Ochi,    Uffe Hellsten,    Jessica B. Lyons,    Oleg Simakov,    Nicholas Putnam,    Jonathan Stites,    Yoko Kuroki,    Toshiaki Tanaka,    Tatsuo Michiue,    Minoru Watanabe,    Ozren Bogdanovic,    Ryan Lister,    Georgios Georgiou,    Sarita S. Paranjpe,    Ila van Kruijsbergen,    Shengquiang Shu,    Joseph Carlson,    Tsutomu Kinoshita,    Yuko Ohta,    Shuuji Mawaribuchi,    Jerry Jenkins,    Jane Grimwood,    Jeremy Schmutz,    Therese Mitros,    Sahar V. Mozaffari,    Yutaka Suzuki,    Yoshikazu Haramoto,    Takamasa S. Yamamoto,    Chiyo Takagi,    Rebecca Heald,    Kelly Miller,    Christian Haudenschild,    Jacob Kitzman,    Takuya Nakayama,    Yumi Izutsu,    Jacques Robert,    Joshua Fortriede,    Kevin Burns,    Vaneet Lotay,    Kamran Karimi,    Yuuri Yasuoka,    Darwin S. Dichmann,    Martin F. Flajnik,    Douglas W. Houston,    Jay Shendure,    Louis DuPasquier,    Peter D. Vize,    Aaron M. Zorn,    Michihiko Ito,    Edward M. Marcotte,    John B. Wallingford,    Yuzuru Ito,    Makoto Asashima,    Naoto Ueno,    Yoichi Matsuda,    Gert Jan C. Veenstra,    Asao Fujiyama,    Richard M. Harland,    Masanori Taira    & Daniel S. Rokhsar.  Genome evolution in the allotetraploid frog Xenopus laevis. Nature 538,336–343(20 October 2016)doi:10.1038/nature19840
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東京大学の平良眞規博士、カリフォルニア大学・ダニエル・ロクサー博士とリチャード・ハーランド博士らを中心とする国際コンソーシアムが共同して行った成果です。日本の多数の大学、研究機関がこのコンソーシアムに参加しています。プレスリリースによると本研究論文の日本人の著者は、東京大学(平良眞規、近藤真理子、道上達男、鈴木穣)、国立遺伝学研究所(藤山秋佐夫、豊田敦)、名古屋大学(松田洋一、宇野好宣)、広島大学(高橋秀治、彦坂暁、鈴木厚)、基礎生物学研究所(上野直人、山本隆正、高木知世)、産業技術総合研究所(浅島誠、原本悦和、伊藤弓弦)、北海道大学(福井彰雅)、長浜バイオ大学(荻野肇)、山形大学(越智陽城)、国立成育医療研究センター(黒木陽子)、東京工業大学(田中利明)、徳島大学(渡部稔)、立教大学(木下勉)、メリーランド大学(太田裕子)、北里大学(回渕修治、伊藤道彦)、バージニア大学(中山卓哉)、新潟大学(井筒ゆみ)、沖縄科学技術大学院大学(安岡有理)ら(敬称略)。%e2%96%a0web_%e3%83%ad%e3%82%b4

ちなみに、世界で初めてゲノムが解読されたカエルは、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)ではなくその近縁種である熱帯ツメガエル(Xenopus tropicalis)で、2010年のサイエンス誌に発表されました。

utokyopressrelease20161020%e5%9b%b32a(図は東京大学プレスリリースより)

アフリカツメガエルのゲノムは、進化の過程で比較的最近、近縁異種が交配しゲノムが倍化した「異質4倍体」と考えられています(下図)。ゲノムサイズが大きく複雑になったためにゲノム解読が困難となり、生物学で用いられるモデル動物の中では一番ゲノム解読が遅れていました。

%e5%9b%b31(進化の過程で遺伝子重複が生じた時期(ピンクの星印)。図は東京大学プレスリリースより)

%e5%9b%b33(交雑後にゲノム重複し不稔を免れた仕組み。図は東京大学プレスリリースより)

hdy201365f1(Xenopus laevisの18本の染色体が近縁2種由来であること示すペア Uno et al., 2013 Heredity Fig.1より)

参考

  1. Genome evolution in the allotetraploid frog Xenopus laevis. Nature 538,336–343(20 October 2016)doi:10.1038/nature19840
  2. Lab frog Xenopus laevis genome sequence shows what happens when genomes collide — African clawed frog got double the normal number of genes thanks to hybridization millions of years ago (EurekAlert! / University of California – Berkeley Public Release: 20-Oct-2016)
  3. アフリカツメガエルの複雑なゲノムを解読:脊椎動物への進化の原動力「全ゲノム重複」の謎に迫る(東京大学プレスリリース 2016/10/20)
  4. 東京大学 平良眞規研究室
  5. XenBase

報道

  1. 東大など、アフリカツメガエルのゲノムを解読 – 「全ゲノム重複」解明の鍵(マイナビニュース 周藤瞳美 2016/10/20):”東京大学(東大)などは10月20日、2種類の祖先種が異種交配して「全ゲノム重複」したとされるアフリカツメガエルのゲノムの全構造を明らかにしたと発表した。”
  2. アフリカツメガエルのゲノム解読=脊椎動物の謎解明に期待-東大など(時事ドットコムニュース):”東京大と米カリフォルニア大などの国際研究チームは、アフリカツメガエルの全遺伝情報(ゲノム)を解読したと発表した。アフリカツメガエルは近縁種の異種交配で生まれたため2種類のゲノムを受け継いでおり、研究によく使われるモデル生物の中ではゲノム解読が遅れていた。論文は20日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。”
  3. アフリカツメガエル、ゲノム解読に成功 進化の謎に迫る(朝日新聞デジタル 瀬川茂子 2016年10月20日02時01分):”通常の2倍の染色体を持つ生物(4倍体)として知られるアフリカツメガエルのゲノム解読に日米の国際共同チームが成功した。”

CRISPR-Cas9でpol遺伝子62コピーを破壊

臓器移植の治療において問題となる臓器不足の解決策として、ヒトの臓器と大きさや生理学的特性が近いブタの臓器を利用することが議論されています。しかし、ブタの臓器をヒトへ移植した場合に、ブタ内在性レトロウイルスが患者に感染する恐れがあるという問題が指摘されてきました。この問題を解決するアプローチとして、最新のゲノム編集技術CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)を利用して、ブタのゲノム中に存在する内在性レトロウイルス(porcine endogenous retroviruses (PERVs))のpol遺伝子62コピーを同時に破壊し、感染する恐れを劇的に減少させることにハーバード大学の研究グループが成功しサイエンス誌に発表しました。今回の遺伝子破壊実験はブタ腎由来上皮細胞PK15に対して行われ、共培養されたヒト細胞株HEK-293への感染の有無がqPCR法により調べられました。

Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses (PERVs)

Abstract The shortage of organs for transplantation is a major barrier to the treatment of organ failure. While porcine organs are considered promising, their use has been checked by concerns about transmission of porcine endogenous retroviruses (PERVs) to humans. Here, we describe the eradication of all PERVs in a porcine kidney epithelial cell line (PK15). We first determined the PK15 PERV copy number to be 62. Using CRISPR-Cas9, we disrupted all 62 copies of the PERV pol gene and demonstrated a >1000-fold reduction in PERV transmission to human cells using our engineered cells. Our study shows that CRISPR-Cas9 multiplexability can be as high as 62 and demonstrates the possibility that PERVs can be inactivated for clinical application to porcine-to-human xenotransplantation.
Published Online October 11 2015 Science DOI: 10.1126/science.aad1191

参考

  1. Yang et al., 2015. Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses (PERVs). Science DOI: 10.1126/science.aad1191. Published Online October 11 2015
  2. 遺伝子の改変数、10倍超に向上 – ゲノム編集、実用化へ前進(マイナビニュース 2015/10/12):”生物の遺伝情報を改変する「ゲノム編集」という最新技術を使い、ブタの遺伝子62個を操作して働かなくさせたと米ハーバード大医学部などのチームが11日付米科学誌サイエンス電子版に発表した。”
  3. Gene editing could make pig organs safe for human transplant pigs (WIRED.CO.UK 12 October 15 by K.G Orphanides)
  4. Dunn et al., 2015. Genetic Modification of Porcine Endogenous Retrovirus (PERV) Sequences in Cultured Pig Cells as a Model for Decreasing Infectious Risk in Xenotransplantation. April 2015 The FASEB Journal vol. 29 no. 1 Supplement LB761
  5. 「日本の移植・再生医療〜次の半世紀に向けて〜」 第50回日本移植学会総会報告4 (MediPress 2014/12.19):”移植臓器の不足を解決するもう一つの方法として、人間以外の動物からの移植を可能にする技術を研究している鹿児島大学医歯学総合研究科再生・移植医療学の山田和彦先生が、実用化を目指した3つの研究システムを紹介しました。第一は、臓器不足を早期に解決するための直接的手段として、ブタや霊長類の腎臓を移植するモデルで、現在米国で行っている研究の内容について解説されました。”
  6. ブタを医学・医療に使う意義 ―現状と将来 自治医科大学 先端医療技術開発センター 小林 英司 (Biophilia Vo.5 No.2 2009)
  7. 人獣共通感染症 第124回 新刊書「異種移植とはなにか」:” 第三の微生物学の観点では、ブタ由来のさまざまな微生物による感染の防止が問題となる。とくにブタの染色体に組み込まれているブタ内在性レトロウイルスが移植を受けた人に感染するだけでなく、家族など周辺の人への感染を起こし、さらには社会にまで感染を広げるおそれがないかという点が大きな問題になっている。”
  8. 異種移植(臨床)の歴史:”1992年Czaplickiがブタの心臓を、1993年Makowkaがブタの肝臓を移植しているが、結果としては超急性に拒絶されている。”
  9. 生命操作ー復刻版ーケーススタディ30例 23 ブタが「命の恩人」 (NHK):”アメリカ、オハイオ州に住むエリック・トーマスさんは、ブタが命の恩人だという。 1992年、彼は肝臓病から昏睡状態におちいり生命が危うくなったのだが、肝臓移植のための臓器が届くまで、豚の肝臓を一時的に代用して、血液を体外で循環させる治療をうけた。5日後、無事に人の肝臓を移植して、今はとても元気に生活している。”
  10. Xenotransplantation
  11. Auckland Island Pigs Animal Experimentation Experiments in NZ Australian news report