これからどのような科学技術政策が打ち出されてくるのかを知るうえで、現在進行形の検討委員会の議事録を読むのはとても興味深いものです。また、古い議事録を読む場合には、過去の政策がどのような経緯で出てきたものかが理解できて、なるほどそういう議論が裏にあったのかと納得がいくこともあります。つまり誰のどんな意見が通ったのかが、わかるわけです。
非常に長い議事録なので以下は抜粋ですが、自分が気になった部分を抜き出したり太字にしたりしています。全文はリンクをご覧ください。
【科学技術政策担当大臣 井上信治】我が国の中長期発展のために最も必要なのは、結局「人材」と考えています。研究の世界においても、博士を含む研究人材の育成と活用は、時間はかかりますが、中長期視点で見れば一番の近道だと思います。
【内閣府官房審議官 柿田】現状認識といたしまして、アカデミアにおける閉塞感、また、我が国の研究力の相対的な地位低下という課題があるということ。‥ 若手を含む研究者が誇りと展望を持って研究に打ち込む。そうした中で卓越した成果を創出し続けていけるような環境を作っていく。‥ 博士号取得後10~15年頃までには、テニュア、いわゆる任期のない職として独立した研究者になれるような、そういった展望を若い時期から、少なくとも修士、または博士課程の段階で学生がそうした展望を持ってしっかりと博士号を取得することができるようにしていくべきであると考えます。指標としましては、40歳未満の大学本務教員の数を1割増加、そして将来的には40歳未満の割合を3割以上にするということ。‥ URA、マネジメント人材、エンジニアといったプロフェッショナルとしての活躍のパスを拡げていくということ、それから産業界、あるいは行政へ進んでいくというところも拡げていく
【上山会長】主に研究力の強化と、それに関係する大学改革の問題でございます。
【松尾議員】博士人材、大学、研究機関、あるいは企業等において研究職に就く以外に様々な分野で活用が望まれるということなんですけれども、今日の私の1点目は、このキャリアパスとしてアカデミアの中で、先ほどから話が出ておりますURA、あるいはエンジニア、技術職員としてしっかり活用すべきであるという立場から意見を述べたい ‥ の「URAの制度と課題」というのが書いてあります。結論としては、現状のところ、ここでPh.D.が活躍するような安定的職業とは言い難いということ ‥ エンジニアは全国で7,000名ぐらいいます。これも結論としては、URAより更に条件が悪いということで、今のところPh.D.が活躍するには魅力が薄い
【五神委員】5年前に私も第5期の計画の策定に際し、ちょうど今のこのステージの議論に参加していて、そのときにキーワードになって第5期で施策として実現したものが「卓越研究員」とか「卓越大学院」でした。卓越大学院は、修博一貫を進めることで博士課程教育を強化し、優秀な人材を博士に呼び込もうとして実施したものです。しかし、残念ながら、私の感触としては成果は出ていない。つまり、博士離れは止まっていないということです。‥ 東京大学では、一、二年生の段階から、特に優秀で意欲的な学生をアトラクトして文と理のど真ん中に入るような、つまりブロックチェーンやAI、量子などの最新の知識を持って、たとえば金融、行政官、あるいは経営を担うような人材を育てる教育プログラムを創設したいと検討を進めています。‥ 大学債を発行した大学は今のところ東大しかないので、少しだけコメントさせていただきます。今回、200億円という規模で40年債を発行し、発行額の6.3倍のオーダーをいただき、その意味で市場からは大歓迎していただきました。これは大学にとっては自由度の高いキャッシュの資金であることが重要です。ただし、残念ながら今のところは使途が施設・設備、土地というものに限定されているので、これをジェネラルパーパスに拡張するということは、絶対すぐにやっていただきたいと思います。例えばオックスフォードが出した100年債にせよ、アメリカの大学の発行した債券にせよ、使途には限定のないジェネラルパーパスで発行しています。‥ 東京大学の債券は40年固定で年利0.823%ですが、東京大学自身が行っている基金のリスク運用のリターンは3.5%を優に上回っています
【小谷議員】世界中が国際協働というフェーズに入っている中、まだまだ日本は従来の国際的な交流というところにとどまっているということに危機感を持っております。‥ 日本の研究のビジビリティが下がっているということにおきまして、認知度を高める上で国際共同研究や国際共同プロジェクトということが影響することはよく知られているところでございます。更に、将来の日本の優秀な人材の確保、そして活躍の場ということにおいても国際的な連携、国際頭脳循環の機会が必要です。国レベルでは科学技術外交という形で既に進み始めているということは認識しています。特にムーンショット等の大型プロジェクトが欧米と協力して進むということについては大変うれしく思っています。
【永井委員】大学病院の経費が日本の場合には入っていると思います。海外の大学は、普通はこれは別会計です。例えば東京大学の経常費が約2,300億円ですが、このうち約550億円は実は病院の経常費ですので、病院以外では1,800億円弱なわけです。‥ 海外と比較するのであれば、病院の経常費を除いて、一般の教育・研究に関する基本統計とすべきではないかと思います。
【篠原議員】産業界による、博士の採用を増やすという大きな方向感、これは目標も掲げて出ているのですが、これは非常にいい話だと思っております。ただ一方で、そのためには二つ必要条件があると思っていまして、1点は大学院での、いわゆる学生に対する意識付けみたいなことをしっかりやっていただかないといけない。自分はアカデミアでずっと生きるつもりでいたが、卒業しようと思った瞬間にポストがなかったから産業界に行かなきゃいけない、という形では、産業界でなかなか活躍できないと思っています。ですから、ドクターの学生を教育する段階において、いわゆるアカデミアを引っ張る、若しくは先ほど松尾先生がおっしゃったようなURAで活躍する、又は産業界で活躍するといったような意識付けと、それに応じた教育というものを大学院の中でしっかりやっていかなきゃいけないと思っております。もう一つ、産業界が博士を増やすための必要条件として大切なことは、産業界が博士の能力というものをしっかり理解・認識することだと思っております。誤解を恐れずに言いますと、遠藤先生からも、博士の就職先は研究者に限られるというお話がございました。実態はそうです。ただ、それは本当はよくないことで、産業界側が博士を単なる専門性の高い人間としてしか捉えていなくて、いろいろなことができる人間だという捉え方が十分できていないと思っています。‥ 正直言って今の博士というのは玉石混交です。玉の方がすごく多くて、石というのはめったにいないのですが、正直言って玉石混交の部分がございますので、弊社の場合でも、今ジョブ型みたいなことが進んでいるわけですが、まずはお試しで普通に入っていただいて、1年以内ぐらいに給料を上げていくというような、そんなやり方が現状では現実的なのかなと思っています。すみません、玉石混交というのは言い過ぎなのですが、玉石混交が正しいのだとしたら、もう一つの博士課程進学者を増やすということについては、これは博士課程進学者を増やすことが大事なのではなくて、優秀な博士課程の学生を増やすということが一番大事だと思っています。そういう観点からは、今の状況というのは必ずしも優秀な学生が全てドクターコースに行くのではなくて、マスターを終えて企業に入ってしまうということが起こっていると思うのです。
【久能アドバイザー】統計ですとか世論調査、あるいはアンケート調査というものでは本当のニーズは出てこない‥ 本当のことを答えてくれない ‥ 一生安定した職を若手の研究者の人に与えてしまうと、要はそういう安定が欲しい人ばかりが日本の国立大学に残ってしまうということにもなるのではないかな
総合科学技術・イノベーション会議 第10回 基本計画専門調査会 1.日 時 令和2年(2020年)11月18日(水)9:59~12:21 https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon6/10kai/giji10.pdf