特許対価、本庶氏26億円 大村氏200億円 公正な産学連携のモデルを

ノーベル賞授賞の対象となった研究成果、PD-1抗体(がん免疫治療薬「オプジーボ」)に関する特許を小野薬品工業と共有する本庶佑氏に対して小野薬品から渡る金額が26億円程度でしかないそうで、本庶佑氏は契約の見直しを要求しているそうです。

 

本庶氏、26億円を受け取らず契約の見直しを要望

特許契約を結んだ同社から支払われた約26億円を、納得できない点があるとして受け取っていないと明らかにした。全額法務局に供託されている。(本庶氏、小野薬との特許契約不服 がん治療薬で26億円受領せず 2019年4月10日 午後7時44分 福井新聞

  1. 特許対価、契約で大差 本庶氏26億円 大村氏200億円 問われる企業との交渉力(2019/4/12付日本経済新聞 朝刊 会員限定記事)「26億円」対「200億円」。本庶佑・京都大学特別教授と大村智・北里大学特別栄誉教授が、ノーベル賞の受賞対象となった研究成果をもとに製品を出した企業から、それぞれ得た特許のおよその対価だ。内容や期間が異なり単純比較はできないが違いは大きい。
  2. Nobel laureate Tasuku Honjo says Osaka pharmaceutical firm short-changed him for cancer drug (APR 11, 2019 KYODO / Japan Times) Honjo and his lawyer told reporters that he refused to accept the company’s offer of about ¥2.6 billion, and instead forwarded the funds to the Legal Affairs Bureau, because he believes the company shortchanged him by giving him an inadequate explanation about his compensation when they signed the agreement in 2006.

 

PD-1研究への小野薬品の貢献

本庶博士は、ノーベル賞受賞記者会見の席で、”この研究は、研究自身に関して小野薬品は全く貢献していません。それはもうはっきりしてます。でその特許に関してライセンスを受けてるわけですからそれに関して十分なリターンを大学に入れてもらいたいと思っています。”と述べ、小野薬品に対する不満を露わにしていました。

関連記事 ⇒ 本庶佑 京都大学名誉教授・特別教授のノーベル賞受賞記者会見【動画&書き起こし】

 

本庶氏の特許

  1. 本庶佑教授を発明者とする特許について調べてみた (栗原潔 | 弁理士 ITコンサルタント 金沢工業大学客員教授 2018/10/3(水) 10:52 YAHOO!JAPAN)
  2. https://patents.justia.com/assignee/tasuku-honjo 
  3. Substance specifique pour pd-1 WO2003011911A1
  4. Immunopotentiating compositions comprising anti-PD-L1 antibodies EP2206517A1

 

オプジーボを用いた治療

2017 年 4 月~2018 年 3 月までの 1 年間に約 17,000 人の患者さんに使用されている。・がん腫別の推定新規処方患者数は、全体の 4 割強にあたる 7,300 人が非小細胞肺がん、胃がんが4,200 人、頭頸部がん 2,400 人、腎細胞がん 2,200 人などである。オプジーボの動向について

 

オプジーボの小野薬品への貢献

小野薬品工業(東 1:4528)<ポイント>② 癌免疫薬オプジーボの売上高は会社計画 890 億円に対して 901 億円で着地。前期の1039 億円と比べて落ち込んだのは、昨年 2 月に薬価が 1/2 に引き下げられたため。この影響を除く数量ベースでは 45%増となった。③ 前期~昨秋に効能追加された腎細胞癌や頭頸部癌、胃癌への使用が拡大している。ただ、今年 1~3 月の売上高は 211 億円と、昨年 10~12 月の 284 億円から減少しているが、今春の薬価改定前の買い控えの影響と見られる。④ 提携先の米ブリストルなどからの販売ロイヤルティ収入は計 559 億円と 8 割以上、伸びた。(決算レポート 平成30年 5月14日) *太字強調は当サイト

オプジーボは小野薬品の主力商品。2018年4~12月期連結決算の売上高2231億円のうち、オプジーボ関連が5割超を占め、同社の業績を引っ張っている。(小野薬品「特許使用料引き上げ含め話し合い継続中」 オプジーボの本庶氏会見受け 2019年4月10日 20時15分 毎日新聞

オプジーボの売り上げは2019年3月期に900億円に上る見通し。それとは別にBMSによるオプジーボの海外販売額に応じたロイヤルティ収入があり、その額は推計で500億~550億円に上る。(ノーベル賞で脚光、「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない 大西 富士男 2018/10/04 6:00 東洋経済ONLINE

  1. 小野薬品工業株式会社 2019年3月期 第3四半期決算短信IFRS連結 2019年2月1日 IRライブラリー 
  2. 「オプジーボ」販売量が4割増加 小野薬品、過去最高益(中村光 2018年11月1日17時53分朝日新聞DIGITAL) がん治療薬品「オプジーボ」を製造、販売する小野薬品工業の2018年9月中間期の純利益は、前年比36・0%増の288億円で過去最高だった。
  3. オプジーボが初登場2位、16年度の医薬品売上高 (2017/5/17 6:30 日本経済新聞)2位に入ったオプジーボは15年度の約6倍の1190億円を売り上げた。患者数の多い肺がんなどに適応が拡大したこともあって順調に販売を伸ばした。
  4. 平成 29 年 3 月期の業績(連結)について

 

小野薬品と本庶氏との契約内容

特許の契約の内容および本庶氏が不満とする点に関しては、RONZAの記事が詳しいと思うので、リンク先の記事をお読みください。

本庶さんらが1992年に発表した遺伝子「PD-1」をもとに小野薬品はオプジーボを開発し、その販売や他社からのロイヤルティー(権利使用料)で莫大な収入を得ている。それは、①小野薬品の直接の売上、②ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)社からのロイヤルティー収入、③メルク社との特許訴訟で和解したことによる一時金などに分けられる。 ①と②について、2006年に本庶さんは小野薬品と特許の対価について契約を結んだ。ロイヤルティーの料率は0.75%を基本として、①は小野薬品が開発・製造や販売のコストをかけ苦労して売っているものなので「減額」、②は「上乗せ」するというものだ。(ノーベル賞の本庶さんが特許の対価を巡って怒る! がん治療薬「オプジーボ」成功のかげで深まっていた対立 2019年04月19日 瀬川茂子 朝日新聞編集委員 論座 RONZA)

 

大学の研究者に不利な契約が結ばれた経緯

研究者をだましたり、こちらをミスリードするような説明をしたりするとは想定していない。弁護士費用を払う金もなく、大学も払ってくれるとは言わなかった。(本庶佑氏ら一問一答「常識で対応してほしい」2019.4.10 21:12 産経WEST

同席した井垣太介弁護士は、18年に本庶氏個人と小野薬品が特許に関しての契約を結んだ際、同社からの対価の料率に関する説明が不正確だったと説明。当時の本庶氏が特許契約に関する知識が乏しかったと強調し、「本庶先生は研究で忙しく、弁護士に依頼する余裕もなかった。小野薬品ももう少し慎重なプロセス(過程)を踏むべきだった」と指摘した。(本庶氏「対価引き上げを」 オプジーボめぐり小野薬品に協議要求 2019.4.11 11:15 SankeiBiz)

 

産学連携の在り方・体制の整備に関する本庶佑氏の思い

2006年に本庶氏と小野薬品工業との間で行った特許のライセンス契約に問題があるので見直してほしいということです。実際には2011年に本庶氏が修正を求め、交渉が始まりました。だから、「オプジーボが大ヒット薬となったので、本庶氏が駄々をこねている」というわけではありません。(産学連携の推進へ、わだかまりを残すべきではない 2019.04.19 08:00 橋本宗明 【日経バイオテクONLINE Vol.3146】)

  1. 日本発ブロックバスター医薬品とその売り上げ規模(小原 満穂 (おばら・みちお)国立研究開発法人 科学技術振興機構  産学連携アドバイザー 産学官の道しるべ 産学官連携ジャーナル2016年03月号)2015年に入って、皮膚がん(メラノーマ:悪性黒色腫)に対する画期的な治療薬が販売されている。医薬品メーカーである小野薬品工業株式会社とブリストル・マイヤーズ・スクイブが共同研究して実用化したオプジーボ(一般名:ニボルマブ)である。

本庶氏は会見で「公正な産学連携のモデルを作らないと日本のライフサイエンス(生命科学)分野はダメージを受け、若手研究者もやる気を失う」と語った。(本庶氏「対価引き上げを」 オプジーボめぐり小野薬品に協議要求 2019.4.11 11:15 SankeiBiz)

 

参考

  1. Ono Pharmaceutical Company and Bristol-Myers Squibb Enter Settlement and License Agreement with Merck for Anti-PD-1 Antibody Patent Infringement Litigation (January 21, 2017 ONO PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)
  2. Immune checkpoint inhibitors: the battle of giants (11 July 2017 Pharmaceutical Patent Analyst)
  3. Intellectual property issues of immune checkpoint inhibitors. Ulrich Storz. MAbs. 2016 Jan; 8(1): 10–26.
  4. Case 1:15-cv-13443-MLW Document 1 Filed 09/25/15 DANA-FARBER CANCER INSTITUTE, INC., Plaintiff, v. ONO PHARMACEUTICAL CO., LTD.,TASUKU HONJO, E.R. SQUIBB & SONS,L.L.C., and BRISTOL-MYERS SQUIBB CO., Defendants.