2013年分子生物学会年会は研究不正問題にどう向かい合ったのか?

画像をカットアンドぺーストするなどして安易な方法でデータを捏造し、トップジャーナルに論文を量産している(た?)人たちがいます。数十億円の研究予算を配分されるような分子生物学会の重鎮であった複数の研究室でそのようなことが行われていたことが明らかになり、日本分子生物学会としてどのような防止策を打ち出すのかが注目されていました。2013年の日本分子生物学会年会は様々な新しい企画がてんこ盛りで成功裏に終わったと言えますが、肝心の論文不正の問題に対して日本分子生物学会がどう向き合ったのかは、まだ明らかにはなっていません。ちゃんとそこを取り上げるマスメディアも多くはなく、唯一毎日新聞が記事にしているようです。

研究不正:自浄期待は「理想論」 日本分子生物学会が防止策を議論
毎日新聞 2013年12月12日 東京朝刊

生命科学の研究不正疑惑が後を絶たない。日本分子生物学会(会員数約1万5000人)は今月、3日間にわたるフォーラムを神戸市で開き、防止策などを議論した。だが、延べ10時間近い議論は紛糾、「性善説」に基づく対策の限界も明らかになった。

●不安定な倫理基盤
研究者にとって論文は業績の指標。競争が激しい生命科学分野では、データの改ざんや画像の使い回しといった不正がたびたび起きてきた。画像の加工が簡単にできるソフトの普及が、不正を招きやすくしているとの指摘もある。
「特殊な一部の人の問題ではなく、我々が抱える内部構造の欠陥が背景にある。生命科学研究は急速に進展 したために倫理基盤が不安定だったのかもしれない。自らを律し、不正への対応を現場から考えたい」。同学会研究倫理委員の篠原彰・大阪大教授は、フォーラ ムを企画した意図を説明する。
きっかけは、東京大の加藤茂明・元教授のグループによる不正。加藤氏は総額20億円に上る国の大型研究プロジェクトを主導しており、同学会でも若手向けの教育責任者だった。このことも関係者を驚かせた。

●10%が「目撃、経験」
議論の前半は「不正をどう防ぐか」が中心。学会の全会員に実施したアンケート結果をめぐって意見を交わ した。この調査は回答者の10・1%が「所属する研究室内で、捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正行為を目撃、経験した」という内容で、事実なら不正の常 態化を示す深刻な状況だ。
「回答率(7・9%)が低い。数字が独り歩きするのは危険」という懐疑的な意見の一方で、「皮膚感覚ではもっと多い」という指摘もあった。倫理教育の充実を、という意見には異論がなかったものの、規制や罰則の強化で抑止できるとの提案には賛否両論の意見が出た。
高橋淑子・京都大教授は「基礎研究がビジネスのように過度に競争的になっている。日常から成果を開示 し、互いに議論する努力が不幸な事例を防ぐ」と、自浄作用に期待を込めた。論文を掲載する英科学誌ネイチャーの編集者も、論文の審査体制を強化したことを 報告しながら「出版の原則は(研究者への)『信頼』だ」と強調した。
だが会場からは、これらを「理想論」と断じ、厳罰化を求める意見が出た。発言者は「不正な論文で得をする人の後ろには、競争的資金やポストを逃す人がいる」と訴えた。

●「身内」調査に限界
不正疑惑が浮上した後の対応について議論した後半では、研究者の所属組織に調査を委ねる現行システムの 「限界」も指摘された。加藤元教授のケースでは、東京大が学外の告発を受けて昨年1月に調査を始めたが、2年近くが経過した今も結果は公表されていない。 降圧剤バルサルタンを巡る不正疑惑では、責任者が所属していた京都府立医大は最初「不正はない」との内部調査結果をまとめたが、関係学会の要請で再調査し た結果、データ操作が判明。こうした「身内」による調査は公正性を疑われかねず、米政府が設置している研究公正局(ORI)のような公的組織を設置すべき だとの意見もある。
学会研究倫理委員長の小原雄治・国立遺伝学研究所特任教授は「一定の確率で出る(不正)事案には共通の 基準で対応すべきだ。その場合は第三者機関が必要」と提案。中山敬一・九州大教授も「日本版ORIに調査を主導する専門官を置き、裁判員裁判のように調査 員を委嘱すればいい」と賛同した。
これに対し、学会理事長の大隅典子・東北大教授は「取り締まる第三者機関があるのは末期的だと思う。できればそこに至る前に食い止めたいというのが個人的な意見」と話した。学会は今回の議論を倫理教育に反映させるほか、ホームページで議事録を公開し、科学界以外にも広く議論を呼びかけたいとしている。【八田浩輔】

このように、唯一、毎日新聞社が問題意識を持って記事にとりあげてくれたようです。iPS細胞の臨床応用など華やかな側面だけでなく、このような陰の部分に関してもマスメディアはきちんと事実を世間に伝えるべきです。

データ捏造のようなことは、衆人環視の下では起きえないはずです。全てがガラス張りの世界をつくることが研究不正の抑止力の一つになるのではないでしょうか。データ捏造やアカデミックハラスメントは閉ざされたドアの向こうの見えない場所で起きます。

研究不正は日本の研究競争力を低下させる大きな要因です。見て見ぬ振りすることなく、その根本的な問題点をあぶり出す必要があります。昨日まで自分の同僚や友人であった人の研究不正の告発や不正行為の実証などといった非生産的なことを好んで行いたい人などいません。こんなことを議論していれば、誰だって暗い嫌な気持ちになります。研究者にしてみればそんなことに自分の貴重な時間を費やしたくないのです。論文不正を監視する第三者による公的機関を設置するべきときが来ているのではないのでしょうか?

 

 


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