最近は、教育改革の話題の中でアクティブ・ラーニングという言葉を頻繁に見聞きします。しかし、カタカタでいわれてもいまひとつピンと来ません。アクティブ・ラーニングとはいった何のことでしょうか?
目次
アクティブ・ラーニングの定義
【アクティブ・ラーニング】 伝統的な教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学習者が能動的に学ぶことによって,後で学んだ情報を思い出しやすい,あるいは異なる文脈でもその情報を使いこなしやすいという理由から用いられる教授法。発見学習,問題解決学習,経験学習,調査学習などが含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワークなどを行うことでも取り入れられる。(第4期中央教育審議会 大学分科会 制度・教育部会 学士課程教育の在り方に関する小委員会(第6回)議事録・配付資料 資料8-2 学士課程教育の再構築に向けて(審議経過報告)(案)用語解説(案)) (リンク)
この説明からすると、特定の教授法というよりも、実践的な教育方法のひとつの考え方であり、そのような考え方に基づく教授法をまとめた呼称のようです。
アクティブ・ラーニングの学術的な定義では、『一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う』(*2)とされています。(*2 溝上慎一「アクティブラーニング論から見たディープ・アクティブラーニング」(松下佳代編著『ディープ・アクティブラーニング』勁草書房、2015年、p.32)より)(アクティブ・ラーニングをどう評価すべきか〜西岡加名恵氏に聞く eduview)
アクティブ・ラーニングに対応する日本語は何か
文科省の資料を見ると、
「主体的・ 対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ ラーニング」の視点)(幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)平成28年12月21日 中央教育審議会 )(PDF)
「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の視点からの道徳科の指導改善について (考える道徳への転換に向けたワーキングループ(第3回) 主にご検討いただきたい論点について)(HTML LINK)
言葉の使い方が曖昧なのですが、事実上、「アクティブ・ラーニング」=「主体的・ 対話的で深い学び」という英語と日本語の言い換えをしているようです。
アクティブ・ラーニングという言葉遣いの歴史的な経緯
どうにもわかりにくいアクティブ・ラーニングという言葉ですが、なぜわかりにくい状況になってしまったのかをわかりやすく解説したサイトあったので紹介します(一部割愛、太字強調は当サイト)。
近年ずっと教育業界では「アクティブ・ラーニング」という用語が一人歩きしてきました。このアクティブ・ラーニングについて、起源を辿ると2012年8月に中教審に取りまとめられた「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」に遡ります。
本文には「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」という表現が出てきています。…
つまり、アクティブ・ラーニングとは、当初は大学教育のあり方を考える際に使用された言葉だったのです。… こういった発想が、なぜか高等学校・中学校・小学校にまで下ってきたというのが現状です。(2020年、次期学習指導要領~消えた「アクティブ・ラーニング」Posted on 2017-04-10 by 夏目 凛 edutmrrw.jp)
アクティブ・ラーニングがなぜ、「主体的・ 対話的で深い学び」という日本語に落ち着いたのか、その経緯は、以下のサイトでかなり詳しく解説されています(一部割愛、太字強調は当サイト)。
active learningという用語は、1980年代に米国の高等教育のなかで用いられるようになり、1990年代に入って定義され概念化された。… このようなactive learningは、日本の高等教育改革のなかで「アクティブラーニング」としてカタカナとして紹介され、後に『質的転換答申』(2012年)で「アクティブ・ラーニング」として国の施策用語となった(詳しくは「(理論)アクティブラーニング論の背景」「(理論)大学教育におけるアクティブラーニングとは」を参照)。
「アクティブ・ラーニング」が、高等教育のみならず、初等中等教育にまで下りて用いられる方向で検討され始めたのは2014年11月のことである。下村博文前文科大臣より中教審へ諮問され(注1)、「アクティブ・ラーニング」が学習指導要領の改訂の目玉の一つとなったのである。… 「深い学び」が加わったのは、「主体的・協働的な学び」としてのアクティブ・ラーニングでは、教科学習の理解の質が落ちるという懸念が、中教審委員、文科省事務方に大きくもたれたからだと推察される。((理論)初等中等教育における主体的・対話的で深い学び-アクティブ・ラーニングの視点 v3 溝上慎一のホームページ)(HTML LINK)
アクティブ・ラーニング、アクティブ・ラーニングとこれほど騒がれてきたにもかかわらず、新しい学習指導要領ではアクティブ・ラーニングという言葉の使用は避けられて、日本語で「主体的・ 対話的で深い学び」に落ち着いたというのが実情のようです。学習指導要領の中では使われなかったとはいえ、アクティブ・ラーニングという言葉が今でも非常に重要なキーワードとして活発に使われていることが、文科省のウェブサイト上の文書をみるとわかります。
アクティブ・ラーニングへの批判
「はいまわる経験主義」「活動あって学びなし」「はいまわるアクティブ・ラーニング」などの批判があるようです。
生活経験を重視するあまり、伝統的な学問体系の教授が軽視され、断片的な学習に終わって知識の積み重ねが不十分であったり、また活動という手段が目的化された活動主義に陥りがちなどの批判や反省が湧きあがる。「這い回る経験主義」とは、これらの批判を揶揄したものである。(這い回る経験主義 ハイマワルケイケンシュギ eic.or.jp)
参考(アクティブ・ラーニングの手法の例)
- アクティブ・ラーニングとは ~基礎・基本を事例含めご紹介!~ (find-activelearning.com)
参考(文科省資料など)
- 新しい学習指導要領の考え方 -中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ- 文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf
- 「主体的・対話的で深い学び」が求められる背景 2030 年の社会を見据えて https://www.tochigi-edu.ed.jp/center/cyosa/cyosakenkyu/h29_jyugyokaizen/pdf/h29_jyugyokaizen_01-1.pdf
参考
- (理論)初等中等教育における主体的・対話的で深い学び-アクティブ・ラーニングの視点 v3 溝上慎一のホームページ HTML LINK
- 2020年、次期学習指導要領~消えた「アクティブ・ラーニング」Posted on 2017-04-10 by 夏目 凛 edutmrrw.jp
- Practical Approaches to Active Learning in ESL (YOUTUBE 1:17:18)