CRISPR/CAS9法は、非常に簡単に遺伝子組換えが起こせる技術として、瞬く間に世界中に広まりました。分子生物学実験と動物実験ができるラボであれば、どんな学生でもできる簡便さです。しかし、ヒトに適用するとなると話は全く別で、安全性の問題、倫理的な問題などが山積しています。そういった問題を全部無視して、2018年に中国の科学者賀建奎(He Jiankui)氏がクリスパーベビーを世界で初めて誕生させことを発表し大問題になりました。生まれたのは双子の姉妹でニックネームとしてlulu、Nanaと呼ばれています。実験を実施した賀建奎氏らは逮捕され実刑判決を受けました。
目次
世界初クリスパーベビーの成長
- chinese scientist behind world’s first gene-edited babies shares children’s status Carl Samson Sat, February 11, 2023
- ゲノム編集の子、順調に成長 実刑の中国人研究者が主張 2/8(水)/2023 17:04 共同通信 YAHOO!JAPAN
- ‘Respect them,’ says He Jiankui, creator of world’s first gene-edited humans 7 Feb, 2023 South Cnina Morning Post The world’s first genetically edited children are living happily with their parents, according to He Jiankui, the controversial scientist who created three gene-edited babies in 2018 and 2019.
2022年 賀建奎 He Jiankui氏 出所
- 「ゲノム編集ベビー」事件の中国人科学者が出所=研究再開については沈黙―米華字メディア Record China 2022年4月8日(金) 18時20分
- 「遺伝子編集ベビー」誕生から3年、実刑の中国人科学者が釈放 by Antonio Regalado2022.04.07 MIT Technology Review
未発表論文Birth of Twins After Genome Editing for HIV Resistance
- 未公表論文を独占入手中国・遺伝子編集ベビー問題専門家が語る13の疑問 by Antonio Regalado2019.12.13 MIT Technology Review
- China’s CRISPR babies: Read exclusive excerpts from the unseen original research By Antonio Regaladoarchive page December 3, 2019 MIT Technology Review
- 賀建奎 (He Jiankui)の未発表論文原稿“Birth of Twins After Genome Editing for HIV Resistance”を読む 2019年12月04日 crisp-bio.blog.jp
2019年クリスパーベビーを誕生させた賀建奎 He Jiankui氏に懲役3年の実刑
賀建奎 He Jiankui氏は、HIV感染男性と感染女性のカップルの受精卵に対して、ウイルスが免疫細胞に感染するときに必要とする使うタンパク質CCR5(C-C chemokine receptor type 5)ができなくなるように受精卵のCCR5遺伝子をCRISPR/CAS9法によって改変しました。CCR5遺伝子の変異は、なぜかAIDSにならない人たちが存在していて、かれらの間で自然に起きている変異(32塩基の欠失 CCR5∆32)として同定されたものです。He Jiankui氏の操作の結果、ルルにはCCR5遺伝子の意図していない箇所で遺伝子の改変が起きており、ナナは2つある遺伝子コピーのうち、1つはまったく改変できていなかったとのこと。意図した遺伝子操作ができていないことがわかっていたにもかかわらず、受精卵を女性の胎内に戻したのだそうです。またルルの胚は遺伝子操作に関してはモザイクになっていたそうです(参考記事 2019/12/31(火) 1:43 YAHOO!JAPAN)。
He Jiankui氏は「Birth of Twins After Genome Editing for HIV Resistance」という論文を書いて発表しようとしたそうですが、どの雑誌社も掲載を見送ったために公開されていないようです。
- ゲノム編集ベビーの賀建奎博士に懲役3年の実刑判決 では、日本で起きたら? 詫摩雅子科学ライター&科学編集者 2019/12/31(火) 1:43 YAHOO!JAPAN
- China jails ‘gene-edited babies’ scientist for three years Published 30 December 2019 BBC
- CRISPR’d babies: human germline genome editing in the ‘He Jiankui affair’ Henry T Greely J Law Biosci. 2019 Oct; 6(1): 111–183. Published online 2019 Aug 13. doi: 10.1093/jlb/lsz010
- He Jiankui, embryo editing, CCR5, the London patient, and jumping to conclusions By Henry T. Greely April 15, 2019 STAT
- ゲノム編集「悪魔のハサミ」への憂慮 2019年3月20日 張田勘(特別寄稿)/李明子 楊智傑(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳) Science Portal China
- 中国「世界初のゲノム編集赤ちゃん」 双子の誕生と、別の女性の妊娠を確認 2019年1月22日 BBC
- 2019年12月30日の中国国営の新華社通信によると深セン市の裁判所が賀氏に対して懲役3年の実刑、罰金300万人民元(4700万円相当)の判決
- 2019年1月21日 広東省当局が、ゲノム編集ベビーが実際に誕生していたという予備調査の結果を新華社通信を通して発表。南方科技大学は同日付で賀氏を解雇
- 2018年11月28日 香港大学で開催された国際会議で中国広東省深セン市 方科技大学副教授(当時)賀建奎氏がゲノム編集技術を施した双子の女の子を誕生させと発表
(ゲノム編集ベビーの賀建奎博士に懲役3年の実刑判決 では、日本で起きたら? 詫摩雅子科学ライター&科学編集者 2019/12/31(火) 1:43 YAHOO!JAPAN
2018年クリスパーベビー誕生が学会報告される
About Lulu and Nana: Twin Girls Born Healthy After Gene Surgery As Single-Cell Embryos The He Lab 2018/11/26
- “ゲノム編集で双子誕生”の衝撃 2018.12.03 NHK 11月28日、香港で開かれた第2回ヒトゲノム編集国際サミットで登壇した中国・南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)准教授。‥ この日議長を務めた、デビッド・バルティモア博士は壇上で、「医学的にみてこのケースではゲノム編集を行う必要はなかった。透明性も確保されておらず、科学界の自己規制は失敗した」と痛烈に批判しました。
- ゲノム編集ベビー誕生の報告に非難殺到 Natureダイジェスト 26 NOVEMBER 2018
参考論文
- CRISPR’d babies: human germline genome editing in the ‘He Jiankui affair’ Henry T Greely J Law Biosci. 2019 Oct; 6(1): 111–183. Published online 2019 Aug 13. doi: 10.1093/jlb/lsz010
- Lulu and Nana open Pandora’s box far beyond Louise Brown Shiva M. Singh, PhD CMAJ. 2019 Jun 10; 191(23): E642–E643. doi: 10.1503/cmaj.71979 PMCID: PMC6565397 PMID: 31182462
- Global distribution of the CCR5 gene 32-basepair deletion Nat Genet . 1997 May;16(1):100-3. doi: 10.1038/ng0597-100.
参考(遺伝子治療)
- ゲノム編集技術を用いた画期的な遺伝子治療開発と課題 2019年9月14日山口照英金沢工業大学日本薬科大学
- 遺伝子治療とゲノム編集治療の 研究開発の現状と課題 国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部第1室 (遺伝子治療担当室) 内田 恵理子 NIHS
参考(ゲノム編集)
参考(日本での議論)
- 第1回ゲノム編集専門部会 議事録 平成30年11月8日
- 遺伝子治療とゲノム編集の臨床研究に関する日本と欧米の規制の現状 国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 内田 恵理子 第2回遺伝子治療等臨床研究に関する指針の 見直しに関する専門委員会 2017.5.15