ファイザーのmRNAワクチンはインド変異型の新型コロナウイルスに効果あるのか

      2021/05/14

ようやくファイザーのワクチンが少しずつ一般市民にも接種されるようになってきていますが、新型コロナウイルスは変異型が広まっており、若い年齢の人にも感染しやすいようです。接種したワクチンが変異型ウイルスに対しても中和抗体を作れるのかが非常に気になります。せっかくワクチン接種しても変異型を中和できないのであれば、ワクチンを打つ意味がなくなってしまいます。

横浜市立大の研究チームは12日、米製薬大手ファイザーの新型コロナウイルスワクチンを接種した人の9割が、日本で見つかっている複数の変異株に対する抗体を持っていたとの研究結果を発表した。

(変異株にファイザーワクチンが効果 インド株にも97%で抗体 横浜市大チーム発表 2021年5月12日 16時16分 東京新聞

今みんなが一番知りたいことを、横浜市立大学が調べてくれたようです。

横浜市立大学 学術院医学群 臨床統計学 山中 竹春 教授、同微生物学 梁 明秀 教授、 宮川 敬 准教授、附属病院 感染制御部 加藤 英明 部長らの研究チームは、現在接種が進められている新型コロナウイルスワクチンが、従来株のほか、様々な変異株に対しても中和抗体の産生を誘導し、液性免疫の観点から効果が期待できることを明らかにしました。(新型コロナ変異株に対するワクチン接種者の約9割が 流行中の変異株に対する中和抗体を保有することが明らかに 2021.05.12 プレスリリース 横浜市立大学

ちなみに「中和抗体」というのは免疫学・生物学独特の用語だと思いますが、抗原タンパク質の機能を阻害する能力を持った抗体という意味です。

新型コロナウイルスに対する抗体の中和活性の測定法

中和活性をどうやって測定するんだろうと思いましたが、そういう簡便な実験系をすでに確立していたのだそうです。hiVNT(hiBiT-tagged Virus-like particle Neutralizing antibody Test)システムと名付けられた実験系。発表論文は、J Mol Cell Biol. 2021 Mar 10;12(12):987-990に掲載(PUBMED)。2020年9月15日に論文が公開されています。新型コロナウイルスそのものを扱うとなると、バイオセーフティレベル3(BSL3)の厳重な実験設備が必要になりますが、感染性のあるウイルスそのものを扱わないのであれば、通常の実験室で実験可能です。本物のウイルスのかわりに、感染する恐れが全くない、中身がないウイルス粒子みたいなものを使うようです。

Virus-like particles (VLPs) are self-assembling, non-replicating, non-pathogenic entities of similar size and conformation as that of infectious virions. VLPs can be generated to possess the surface proteins of any kind of viruses on their membrane devoid of the viral nucleic acids.(論文

このウイルス粒子に新型コロナウイルスのスパイク蛋白質を発現させておき、細胞に感染させるときに中和抗体活性を試すというわけです。ウイルス粒子が細胞の中に入ると、ウイルス粒子の中身が細胞内に入ったときに光を発するような仕掛けがなされているというわけ。安全にウイルスの感染能を調べることが出来る優れものですね。この論文の図1aの図による説明がとても分かりやすいと思いました。

さてこの論文に掲載された方法を用いて、今回は変異型ウイルスに対する中和活性を調べたわけで、まだ学術誌に掲載されたわけではなくて、プレプリントサーバーに論文を掲載したということです。

Rapid detection of neutralizing antibodies to SARS-CoV-2 variants in post-vaccination sera.
medRxiv doi: https://doi.org/10.1101/2021.05.06.21256788 (PDF)

中和活性をテストしたウイルスの変異型は7種類。B.1.617というのがインド型のようです。横浜市大がテストしたB.1.617の変異パターンは、図を見たところでは、T95I, M153I, E154K, L452R, E484Q, D614G, P681R, Q1071H

インド型と一口にいっても、少なくとも3種類の変異パターンが知られています。

B. 1.617 系統は、スパイクタンパク質にL452R、D614G、P681R変異を共通に有している。さらに、同系統はB.1.617.1〜3に分類される (表1)。

表1に示されているアミノ酸の置換のパターンを書いておきます。

SARS-CoV-2 B.1.617.1:G142D, E154K, L452R, E484Q, D614G, P681R, Q1071H
SARS-CoV-2 B.1.617.2 :T19R, G142D, del157/158, L452R, T478K, D614G, P681R, D950N
SARS-CoV-2 B.1.617.3 :T19R, L452R, E484Q, D614G, P681R, D950N

(参照:SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統について(第2報)NIID国立感染症研究所)

比べてみると、完全には一致しないようですが横浜市大が調べたB.1.617はB.1.617.1のようです。別のサイトで見てみると、

B.1.617 Spike: L452R, E484Q, D614G

B.1.617.1 Spike: (T95I), G142D, E154K, L452R, E484Q, D614G, P681R, Q1071H

B.1.617.2 Spike: T19R, (G142D), Δ156, Δ157, R158G, L452R, T478K, D614G, P681R, D950N

B.1.617.3 Spike: T19R, G142D, L452R, E484Q, D614G, P681R, D950N

(*) = detected in some sequences but not all

(SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions Updated May 12, 2021 Centers for Disease Control and Prevention

ちなみにSARS-CoV-2のスパイク蛋白質のアミノ酸配列は、https://www.uniprot.org/uniprot/P0DTC2で見る事ができます。

さてインド型変異は世界的にも驚異になっています。

インドで感染者が爆発的に増えているインド型変異は、アジアに加えて、オーストラリアやイギリスでも増加しており、世界全体で見ても無視できない割合になっています。(次々に変異する新型コロナウイルス  山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信 )

さてここで重要なのはインド型の3つの変異種のどれが脅威かということです。

英当局は7日、インドで最初に見つかった「B.1.617.2」と呼ばれる新型コロナウイルス変異株を「VOC(懸念すべき変異株)」に指定した。英イングランド公衆衛生庁(PHE)は、同変異株の感染件数が先週の202件から500件以上に増加したと発表。ジョンソン首相は「この変異株に十分注意しなければならない」と呼び掛けた。(英、インド変異株が1週間で2.5倍に感染増 「懸念すべき」コロナウイルスに指定 2021年5月8日(土)11時53分 Newsweek)

 

イギリスの保健当局はインドで最初に確認された変異ウイルスのうち「B1.617.2」と呼ばれるものについて、「感染力が強い」と発表しました。…なお、3種類の変異ウイルスはいずれも感染力を強める可能性のあるL452Rと呼ばれる変異がありますが、B1.617.2には他の2つにはあるE484Qと呼ばれる変異は認められません。(英 「インド型変異ウイルス」のうちB1.617.2は「感染力強い」 5/7(金) 23:01 TBS系(JNN)

ここで今まで免疫逃避型と言われていた変異をおさらいしておくと、E484QでなくE484Kが免疫逃避型とされていたもののようです。

これまでに知られていたスパイク蛋白484番目の変異は「E484K」という「免疫逃避」と呼ばれるものでした。「E484K」は南アフリカ由来の変異株501Y.V2ブラジル由来の変異株P.1などが持つ変異であり、新型コロナワクチンの有効性の低下、再感染のリスク増加が懸念されています。一方、このB.1.617の持つ「E484Q」に関しては、免疫逃避に関与しているかどうかのエビデンスは限られています。実験室レベルでは、新型コロナに感染した人が持つ中和抗体による中和活性が低下したことが報告されています。もう一つの「L452R」という変異は、カリフォルニア変異株と呼ばれるB.1.429(またはCAL.20C)という変異株などが持つ変異です。この変異は、新型コロナに感染した人が持つ中和抗体の中和活性低下や、実験室でのいくつかのモノクローナル抗体によるウイルスの中和が弱くなることと関連しているとされており、ワクチンの効果低下が懸念されています。また、この「L452R変異」が感染性の増加と関連しているとする報告もあります。(インド由来の変異株について分かっていることは?二重変異ってどういう意味? 忽那賢志 | 感染症専門医 4/25(日) 16:50 YAHOO!JAPAN

しかしプレプリントの図2を見ると、SARS-CoV-2南アフリカ変異株 (B.1.351)に関して一番中和活性が弱い(中和活性が低い人たちが多い)のが気になります。

当初の疑問で、ワクチン接種によって産生された中和抗体はインド型変異株にも効くのかということですが、一番脅威とされているB.1.617.2はこの論文では試されていないようなので、油断は禁物だと思います。インド株にも有効という受け取り方は、B.1.617.2を試すまでは保留しておいたほうがいいでしょう。

この実験データをみると、もともと中和活性の低い抗体しかできていない人が少数存在しているので、それらの人を除いて、変異型でないスパイク蛋白質に対しては100%近い阻害活性を持った血清が、変異型をどの程度阻害したのかという図を見せてほしいところです。この図だけで判断しても、残念ながら変異型に対しては中和活性が低い人たちがある程度存在していることが読み取れます。つまり大多数の人は、変異型に対しても有効だが、少数の人は効き目がないといえるでしょう。自分がたまたまその少数の人だった場合には、ワクチン接種したから安心とは言えないということです。

それにしてもこの実験系はとてもわかりやすい結果が得られるので、是非、多くのラボで同じ実験ができるように広まって欲しいと思います。


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