role ofかrole forか、前置詞ofとforの使い分け【科学英語作文】

英語で論文を書くときに、遺伝子産物など何か分子”の役割”と書きたいことがよくあります。「~の役割」というときの「の」にあたる前置詞は何でしょうか。

「role of~」が真っ先に思い浮かびますが、「role for ~」も見かけます。両方が使われるわけですが、どのように使い分けられるのでしょう。ちょっと悩んだので例文を見ながら、使い分ける考え方を整理しておきたいと思います。

role for ~ は ~に割り当てられる役割;~に対する役割;新たに見つかった役割

role of ~ は ~が持っている役割;~が果たすべき役割

という文脈で使われることが多いようです。つまり従来からあったもの、従来から認識されているものであればofを使い、新しく見出されたもの、新しく割り当てるものであればforを使うという具合です。この事情を反映して、roleの前につく冠詞も、

a role for ~

a new role for~

the role of ~

のようになることが多いようです。ofとforの使い分けは前後の言葉や文脈で決まるため、一つの文章中で両方が混在することが普通に起こります。未知か既知かというニュアンスの違いがあるので、一度未知なものとしてa role for~と読者に紹介されたあとは、それ以降、既知になるのでthe role of~と自然に変わるわけです。パターンで覚えるのは無意味で、あくまで文脈に応じた使い分けが必要になります。

具体例を見ていきましょう。グーグル検索でたまたまヒットした論文ですが、

A human ESC-based screen identifies a role for the translated lncRNA LINC00261 in pancreatic endocrine differentiation (文献リンク eLife

論文のタイトル中では、「翻訳された長鎖ノンコーディングRNA LINC00261の役割」というときにa role forが用いられています。これは今まで知られていなかった役割を見出したという文脈だからforです。

Our comprehensive assessment of functional lncRNA translation identified a likely trans-regulatory role for LINC00261 in endocrine cell differentiation that appears to be independent of the seven microproteins that were individually deleted.

ここでもa ~ role for ~ という形が使われています。ところが、今度は、

To identify potential functional roles of translated lncRNAs during pancreas development, we selected ten candidates for CRISPR/Cas9-based genome editing in hESCs through excision of the lncRNA promoter or entire lncRNA locus (Figure 3A,B).

とof が使われています。これは「lncRNAsの役割」の「の」ですが、ここでは役割が存在するという前提をもとに話を進めている場面なのでfor よりもof が適当だと思われます。次に、

Trans-regulatory roles of LINC00261 have also been observed in previous studies.

ここでもofですが、これはこの役割があることを前提とした文脈だからです。

These results indicate that there is not one dominant LINC00261 sORF that is required for endocrine cell formation, suggesting a functional role of the LINC00261 transcript and not the individual sORFs mutated here.

ここもofが使われています。

In this study, we have characterized the role of translated lncRNAs.(本研究では翻訳される長鎖ノンコーディングRNAの役割を解析した。)

役割があるという前提で話しているのでofが使われています。

ofでもforでも大差ないと思われる例もありますが、この論文は、文脈を反映した使い分けがわかりやすいと思って紹介しました。