現在、文科省の研究費部会では科研費「新学術領域研究」を見直すための議論が行われています。2019年(令和元年)5月22日に文部科学省において第10期研究費部会(第2回)が開催され、現時点での構想が明らかにされました。新学術はだいぶ制度が変わるようです。
仮称ですが、「学術変革領域研究」と変更され、助成金額や研究機関などの規模の違いで(A)と(B)の2つに分かれます。(A)はこれまでの新学術領域研究に近い内容ですが、(B)は若手向けに新設されたもので、「公募研究」は無く、研究グループ数も3~4つ、応募金額上限が5000万円という規模で、研究成果をあげて(A)へステップアップすることが期待されています。
学術変革領域研究(A)は従来の新学術領域研究を踏襲しているように思えますが、審査区分から「複合領域」が廃止されました。また”真に必要な場合”には、従来の応募金額の上限を超えるものも認めるとしています。最も大きな変更点は、年齢制限を加えたことでしょう。若手研究者を支援するためという意図をかなり全面に押し出した制度変更のようです。
新学術領域研究の主な変更
これまでの新学術領域研究 | 学術変革領域研究(A) | 学術変革領域研究(B) | |
規模 | 3~4研究グループ。将来(A)への展開が期待される研究 | ||
応募金額 | 1000万円~3億円程度 | 現行の新学術領域研究を踏まえて措置 | 5000万円まで |
公募研究 | 有り | 有り | 無し |
審査区分 | 4系(人文・社会系、理工系、生物系、複合領域) | 3系(人文・社会系、理工系、生物系) | 3系(人文・社会系、理工系、生物系) |
計画研究の年齢の条件 | 若手から中堅の研究者(45 歳以下の研究者を想定)を研究代表者とする計画研究が、少なくとも複数含まれる領域構成とする | 若手から中堅の研究者(45 歳以下の研究者を想定) | |
公募研究の年齢の条件 | 総採択件数の半数程度が若手研究者(博士の学位を取得後8年未満又は39 歳以下の博士の学位を未取得の研究者を想定) |
(配布資料3 「新学術領域研究(研究領域提案型)の見直しについて(作業部会における検討状況の経過報告」(PDF)を参考にして一部の情報のみ抜粋して表を再構成)
学術変革領域研究の狙いは何?
新制度の名称に「変革」という言葉が入り、実際に、「目的」にもそれが明記されています。目的の部分を比較してみると、新しい制度で何を変えたいのかがわかります。新学術では走っているプロジェクトを見てみると、新学術が新しい学問分野の創造を意図していることが明らかだと思いますが、「学術変革領域研究」では、それが明示的に示されました。また、若手育成ということも全面に出ています。
多様な研究者の共創と融合により提案された研究領域において、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを先導するとともに、我が国の学術水準の向上・強化や若手研究者の育成につながる研究領域の創成を目指し、共同研究や設備の共用化等の取組を通じて提案研究領域を発展させる研究。(学術領域変革研究A 目的)
多様な研究者グループにより提案された、我が国の学術水準の向上・強化につながる新たな研究領域について、共同研究や研究人材の育成、設備の共用化等の取組を通じて発展させる。(新学術領域研究(研究領域提案型)目的)
(太字強調は当サイト)
ツイッターでみる世間の反応
新学術に手が加えられる、特に、若手重視の方針が打ちされたことに衝撃を受けた研究者がかなりいたようです。どこのラボでも話題になった模様。ツイッター上の声をいくつか拾って紹介します。
新学術のかわりに新しくできるかも、という学術変革領域研究だが(A)は公募研究の半数が39歳以下で、(B)は計画研究すら年齢が45歳まで。40前半の谷間世代にはますます厳しい世の中ですな。
— N Nagata (@nagata_ngt) 2019年5月23日
新学術の改革、氷河期世代には優しくないなぁ。
— ねずみ (@nezumi_51) 2019年5月23日
新学術も年齢制限を加えることで若手支援するみたいだけど、それよりも安定した若手ポストを増やすことが先じゃない???
— Kenzi OSHIMA (@kenzi_oshima) 2019年5月23日
公募研究の半分を若手にって、ちょっと偏重すぎやしないか?博士取って8年以内なら出せばだれでも通っちゃうよ(´・ω・`)
【変わる科研費】新学術領域研究を見直しへ~制度の主な変更点~ https://t.co/2u6uzq8YSN
— Takashi Iida (@takashy57) 2019年5月23日
新学術の公募研究に大御所が出すなやボケが、と言い続けてきた。そしてそれを採択すなよボケが、とも言ってきた。ようやくそれが年齢制限付きで制度化されていくようですね。
5年遅いわw 応募できない年齢だわw
計画班でやるしかないよね~(棒
— つか@海の光合成 (@tsuka_pennstate) 2019年5月23日
これは凄すぎる変革.少し年齢制限がキツすぎて,ロスジェネはおいていきぎみなきもしないでもない.とにかく超若手を支援したい気持ちはわかる感じ. https://t.co/1DKITuo83T
— とある研究者 (@NEJP2009) 2019年5月23日
駆け出しPIを優遇する方向性は良いと思う。しかし現状では該当する若手PIポジションが少ないので、non-PIスタッフが表に出てきて実質背景にいるお方に吸いあげられる構図が目に浮かぶ。研究代表者のPI要件(コレスポ必須等)を明確化する必要があると思う。何より独立支援策が全然足りてない。
— Kazunari Miyamichi (@K_Miyamichi) 2019年5月23日
twitterには研究者の方々の意見、感想が見られますが。私は、新学術領域は無くしてしまった方がよかったと思います。
【変わる科研費】新学術領域研究を見直しへ~制度の主な変更点~ https://t.co/hbXn1HHF3L
— Koichi Kawakami (@koichi_kawakami) 2019年5月23日
賛否両論ありそうだけど、僕はいいんじゃないかなと思うな。
新学術、毎度毎度同じ面子ばっかやし、公募研究に大御所クラスが並んでるのには違和感があったから。
— 山田です (@sato_dehanai) 2019年5月23日
今度は年齢制限かぁ。45歳ってまたロスジェネ外しっぽいなぁ。ぎりぎり?。僕は外れた。
— ごんごん (@KazuSamejima) 2019年5月22日
新学術、若手向け(おっさん排除)に変革されるのか…
うちのラボには辛い話— MR_PiXie (@Ryj_Myzk) 2019年5月23日
参考
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