MRIの造影剤としてガドリニウムが選ばれるに至った歴史的な経緯
初期の研究では、マンガン、クロム、鉄などの遷移金属イオンが用いられ、その緩和効果が示されたが、最終的に(4f)7電子配置に7個の不対電子を持ち、強力なT1短縮効果を示す重金属であるガドリニウム(以下、Gd)が選択された。(ガドリニウム造影剤の使用に関する国内外の動向 Innvervision 32・6 2017)
MRI検査とガドリニウム造影剤
磁気共鳴コンピュータ断層撮影 (MRI)で用いられるガドリニウム造影剤は、ガドリニウム(Gd)を含むキレート化合物で、国内において 6 製剤が販売されているそうです。キレート剤はその構造の違いから線状型と環状型に分類され、線状型に属するものはガドジアミド水和物、ガドペンテト酸メグルミン及びガドキセト酸ナトリウム、環状型に属するものはガドテリドール、ガドテル酸メグルミン及びガドブトロールです(参考:PMDA報告書)。
ガドリニウム造影剤の副作用: 腎性全身性線維症 (NSF)
2006年の腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis: NSF)の報告は衝撃的であった1)。世界中の放射線科医はその副作用の重大性に強い衝撃を受けた。(ガドリニウム造影剤の安全性 対馬 義人 群馬大学大学院医学系研究科 放射線診断核医学分野 日獨医報 第61巻 第1号 2016 radiology.bayer.jp)
ガドリニウム造影剤の副作用発現率は 1~2%程度であり、ヨード造影剤に比べ安全性が高 いとされてきたが、重度腎障害患者に発現する副作用として腎性全身性線維症(NSF)が 報告されて以来その認識は一変し、安全性について世界的に再考されるようになった。 NSFは1997年に発見された新しい疾患で、皮膚の線維化や肥厚、関節の拘縮を呈し、 線維化は内臓臓器まで及び、死亡に至る症例も報告されている。ガドリニウム造影剤の副作用として認識されたのは2006年のことである。現時点で NSF の予防法はなく、治療法も確立していないことから、発症させないための対応が重要となる。(MRI 造影剤の基礎と副作用について テルモ株式会社 ホスピタルカンパニー造影剤チーム 楡木弘行plaza.umin.ac.jp)
- 腎障害患者におけるガドリニウム におけるガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン(NSF とガドリニウム造影剤使用に関する合同委員会報告 )
nephrogenic systemic fibrosis (NSF)
- Chelation of gadolinium with deferoxamine in a patient with nephrogenic systemic fibrosis Nelson Leung Mark R. Pittelkow Christine U. Lee Jonathan A. Good Matthew M. Hanley Thomas P. Moyer NDT Plus, Volume 2, Issue 4, August 2009, Pages 309–311, https://doi.org/10.1093/ndtplus/sfp042 Published: 23 April 2009
ガドリニウム造影剤の問題点:脳内での残留・沈着
ガドリニウムは人体にとって決して安全なものではない。このため、ガドリニウム造影剤は投与後すみやかに人体から排泄されるように設計されることで、造影剤としての安全性が担保されている。ところが、2013年頃よりガドリニウム造影剤が脳内に残留していることが次々と報告され、ガドリニウムの安全性が揺るがされることとなった。(MRI造影剤の脳内残留 神田知紀 神戸大学医学部付属病院放射線科 脳外誌 26巻11号2017年11月 jstage.jst.go.jp)
- Chelation and Gadolinium: How Effective is it? Diagnostic Pathology: Open Access Blaurock-Busch, Diagn Pathol Open 2019, 4:1 DOI: 10.4172/2476-2024.1000151
- ガドリニウム造影剤による副作用の出現頻度と症状は?【腎機能低下例で腎性全身性線維症が生じる。腎機能正常例では副作用の報告はないが,体内にガドリニウムが蓄積している】No.4904 (2018年04月21日発行) P.58神田知紀 (神戸大学医学部附属病院放射線科)日本医事新報社
チャック・ノリス氏のガドリニウム中毒をめぐる訴訟
夫妻は、ジーナの通院に関与した関連会社や施設11社を相手取り、GBCA(ガドリニウム含有造影剤)による後遺症や、その状況を病院が長期間放置したことについて、違法性を争っているという。(【ファクト】最強の男チャック・ノリスが製薬会社11社を提訴! 妻が毒を盛られたとして、医学界と戦争中! TOCANA 2018年1月3日 13:00 excite.co.jp)
Chuck Norris And His Wife Sue Bay Area Drug Company KPIX CBS SF Bay Area Published on Nov 2, 2017
- CHUCK NORRIS SUES MEDICAL COMPANY FOR ALLEGEDLY POISONING HIS WIFE BY EMILY GAUDETTE ON 11/2/17 AT 4:57 PM EDT Newsweek
- Chuck Norris Says Big Pharma Poisoned His Wife November 2, 2017 courthousenews.com
- Chuck Norris Lawsuit Claims MRI Agent Poisoned His Wife Bruce Y. Lee
- Chuck Norris and wife’s lawsuit sparks debate over risks of MRI contrast agents. CBS NEWS November 10, 2017, 7:47 AM
ガドリニウムキレート剤療法
- Treatment Possibilities for Gadolinium Toxicity gadoliniumtoxicity.com
- Chelation Fails To Reverse Gadolinium Deposition: Study October 23, 2018 Written by: Irvin Jackson aboutlawsuits.com
ガドリニウム(Gd)造影剤に関する日本の対応
厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課は平成 29 年 8 月 24 日付けで、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対して、Gd 造影剤 の安全性に係る調査を依頼し、当該依頼を受けたPMDAは、Gd 造影剤使用による脳組織 中の Gd 残存に係る調査を行い、本邦における対応を検討しました。その結果、Gd 造影剤の添付文書の改訂を以下のように提言しています。
- ガドジアミド水和物〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉1. ガドリニウム造影剤を複数回投与した患者において、非造影 T1 強調 MR 画像上、小脳歯状核、淡蒼球等に高信号が認められたとの報告や脳の剖検組織からガドリニウムが検出されたとの報告があるので、ガドリニウム造影剤を用いた検査の必要性を慎重に判断すること。2. 本剤を含む線状型ガドリニウム造影剤は、環状型ガドリニウム造影剤より脳にガドリニウムが多く残存するとの報告があるので、本剤は環状型ガドリニウム造影剤の使用が適切でない場合に投与すること。
- ガドペンテト酸メグルミン〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉1. ガドリニウム造影剤を複数回投与した患者において、非造影 T1 強調 MR 画像上、小脳歯状核、淡蒼球等に高信号が認められたとの報告や脳の剖検組織からガドリニウムが検出されたとの報告があるので、ガドリニウム造影剤を用いた検査の必要性を慎重に判断すること。2. 本剤を含む線状型ガドリニウム造影剤は、環状型ガドリニウム造影剤より脳にガドリニウムが多く残存するとの報告があるので、本剤は環状型ガドリニウム造影剤の使用が適切でない場合に投与すること。
- ガドキセト酸ナトリウム〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉ガドリニウム造影剤を複数回投与した患者において、非造影 T1 強調 MR 画像上、小脳歯状核、淡蒼球等に高信号が認められたとの報告や脳の剖検組織からガドリニウムが検出されたとの報告があるので、ガドリニウム造影剤を用いた検査の必要性を慎重に判断すること。
- ガドテリドール〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉ガドリニウム造影剤を複数回投与した患者において、非造影 T1 強調 MR 画像上、小脳歯状核、淡蒼球等に高信号が認められたとの報告や脳の剖検組織からガドリニウムが検出されたとの報告があるので、ガドリニウム造影剤を用いた検査の必要性を慎重に判断すること。
- ガドテル酸メグルミン〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉ガドリニウム造影剤を複数回投与した患者において、非造影 T1 強調 MR 画像上、小脳歯状核、淡蒼球等に高信号が認められたとの報告や脳の剖検組織からガドリニウムが検出されたとの報告があるので、ガドリニウム造影剤を用いた検査の必要性を慎重に判断すること。
- ガドブトロール〈効能又は効果に関連する使用上の注意〉ガドリニウム造影剤を複数回投与した患者において、非造影 T1 強調 MR 画像上、小脳歯状核、淡蒼球等に高信号が認められたとの報告や脳の剖検組織からガドリニウムが検出されたとの報告があるので、ガドリニウム造影剤を用いた検査の必要性を慎重に判断すること。
参考
- 調査結果報告書(PDF) 平成 29 年 11 月 6 日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
- ガドリニウム造影剤の使用上の注意の改訂について 平成 29 年 11 月 17 日 医薬安全対策課 mhlw.go.jp
- ガドリニウム造影剤の「使用上の注意」改訂 厚生労働省から2017年11月、ガドリニウム造影剤の「使用上の注意」改訂の周知がなされました。(MS CABIN 2017年12月6日 更新:2018年3月8日)
ガドリニウム造影剤の添付文書 (PDF)
- オムニスキャン静注 / ガドジアミド水和物(第一三共)線状型
- マグネビスト静注 / ガドペンテト酸メグルミン(バイエル薬品)線状型
- EOB・プリモビスト注 / ガドキセト酸ナトリウム (バイエル薬品)線状型/肝造影
- プロハンス静注 / ガドテリドール (ブラッコ=エーザイ)環状型
- マグネスコープ静注 / ガドテル酸メグルミン(ゲ ル ベ ・ ジ ャ パ ン)環状型
- ガドビスト静注 / ガドブトロール(バイエル薬品)環状型
参考(ウェブ)
- How To Remove Gadolinium From Brain And Body Tissue mybiohack.com
- Patient advocacy group shares new research on gadolinium levels in urine December 12, 2018 | Michael Walter | Care Delivery radiologybusiness.com
論文 (ガドリニウムの毒性、キレート剤を用いた治療など)
- Impact of chelation timing on gadolinium deposition in rats after contrast administration Magnetic Resonance Imaging Volume 55, January 2019, Pages 140-144 sciencedirect.com
- Evaluating the potential of chelation therapy to prevent and treat gadolinium deposition from MRI contrast agents Scientific Reports volume 8, Article number: 4419 (2018)
- Gadolinium Retention: A Research Roadmap from the 2018 NIH/ACR/RSNA Workshop on Gadolinium Chelates. RadiologyVol. 289, No. 2 PREVIOUS NEXT Original ResearchFree Access Special Report
- Gadolinium Deposition in Brain: Current Scientific Evidence and Future Perspectives REVIEW ARTICLE Front. Mol. Neurosci., 20 September 2018 | https://doi.org/10.3389/fnmol.2018.00335
- Intravenous Calcium-/Zinc-Diethylene Triamine Penta-Acetic Acid in Patients With Presumed Gadolinium Deposition Disease: A Preliminary Report on 25 Patients. Invest Radiol. 2018 Jun;53(6):373-379. doi: 10.1097/RLI.0000000000000453. PubMed
- Chelated or dechelated gadolinium deposition THE LANCET Neurology CORRESPONDENCE| VOLUME 16, ISSUE 12, P955, DECEMBER 01, 2017
- Gadolinium toxicity and treatment Magnetic Resonance Imaging 34 (2016) 1394–1398 PDF
- MRI 造影剤(ガドリニウムイオンを用いた陽性 MRI 造影剤)白石貢一 Drug Delivery System 31―2, 201 PDF