早稲田大学が小保方氏の博士論文調査書を公開

      2018/04/28




早稲田大学が、小保方晴子氏の博士論文に関する調査書を公開しました。小保方氏の学位論文における不正行為は認めつつも、「博士論文における不正行為と博士号取得との間に因果関係は存在しない」ので学位は取り消さないという結論です。

どういうことかというと、小保方氏の場合は既に海外の学術誌に論文が一報出ていたので、それによりすでに博士号の取得条件が満たされており、大学に提出する博士論文は(不正があろうがなかろうが)学位取得の審査に大きな影響を与えるものではなかったという論理です。

小保方晴子氏の博士取得までの経緯は報告書にまとめられています。

平成20年4月1日    早稲田大学理工学術院先進理工学研究科生命医科学専攻博士課程進学     
平成20年9月1日    ハーバード大学で研究開始          
平成21年8月末    日本に帰国    
平成22年6月30日    Tissue Engineering誌へ論文投稿       
平成22年9月30日    Tissue Engineering誌が論文受理                 
平成23年3月15日    早稲田大学が小保方氏に対して博士学位授与       
平成23年4月    理研CDB客員研究員
報告書 8ページの内容を簡略化して記載)

学位取り消しをしないという判断において考慮されたもう一つの点は、学位取得者はすでにそれに基づいて社会的な地位を得ていて影響が大きすぎる、というもの。

“… 大学から博士の学位を授与された者は、それを前提として就職する等、生活の基盤及び社会的関係を築いており、それに伴い、多くの人がその前提のもと、その 者との社会的関係を築いていくのが通常であるところ、学位を取り消すことは、学位授与を前提として形成された、これらの生活及び社会的関係の多くを基礎か ら破壊することになり、学位を授与された者及びその者と関わり合いをもった多くの者に対し、不利益を中心とする多大な影響を与えることになる。…” (報告書47-48ページ)

研究者としての能力がないにもかかわらず不正行為により業績を挙げ、研究者として生き残り、教育者としての能力もないのに大学でポジションを得ている人たちが存在する一方で、真面目に研究をして実績もあるのに職を得られず研究の世界から去っていく人が多いという不条理な現実があります。早稲田大学の今回の決定は、サイエンスに蔓延するこの著しい不公平感をさらに助長するものです。

“…本件博士論文には、著作権侵害行為、創作者誤認惹起行為、意味不明な記載、論旨が不明瞭な記載、Tissue誌論文との記載内容と整合性がない記載、及び論文の形式上の不備と多くの問題箇所が認められた。そして、本来であれば、これらの問題箇所を含む本件博士論文が博士論文審査において合格に値しないこと、本件博士論文の作成者である小保方氏が博士学位を授与されるべき人物に値しないことも、本報告書で検討したとおりである。
しかし、本件においては、本研究科の博士論文審査において本件博士論文が合格とされ、本件博士論文の作成者である小保方氏に対して博士学位が授与されてしまった。
このことは、博士学位を授与した早稲田大学、及び早稲田大学において過去に博士学位を取得した多くの人々の社会的信用、並びに早稲田大学における博士学位の価値を大きく毀損するものであった。…(報告書78ページ)

早稲田大学がいくら報告書の中で小保方氏らを厳しい、批判的な言葉で糾弾したとしても、行動が伴わなければ説得力を持ちません。「早稲田大学から授与された博士号には全く価値がな い」というメッセージを早稲田大学自らが日本中に発信しているだけのことです。

困ったことに、この問題は早稲田大学だけにとどまりません。日本で研究レベルがトップク ラスという私立大学の現状がこれでは、日本人の研究者が世界に出て行ったときに、「日本の大学から授与された博士号には全く価値がない」とみなされる恐れがあります。

また、報告書では提出論文が「下書き」だったのかどうかを論点の一つにしています。自分の大学院生活の集大成である博士論文を製本するときに、「下書き」と「本物」とを取り違える大学院生などいません。本来なら荒唐無稽すぎて論点にすらなり得ないのに、驚くべきことに、早稲田大学調査委員会は小保方氏の「うっかり下書き製本」説を真実だと認め、小保方氏の主張に寄り添う理由を挙げています。

“本調査において、小保方氏は、「本件博士論文は、最終的な完成版の博士論文ではなく、作成初期段階の博士論文を誤って製本してしまったものである。」等と供述する。また、小保方氏からは、かかる主張の根拠として、最終的な完成版の博士論文であると主張する論文(以下「小保方氏主張論文」という。)が平成26年5月28日に本委員会に対して提供され、小保方氏は、「小保方氏主張論文は、主査及び副査の本件公聴会における指導を受けて、公聴会時点の論文を修正して作成したものである。」等と供述する。…”(報告書34ページ)

“…本調査において、小保方氏から本取り違えの主張が初めてなされたのは、(a)平成26年4月30日であったが、小保方氏が本委員会に対して小保方氏主張論文を送付したのは、同年5月27日であり、主張が初めてなされた時点から小保方氏主張論文の送付がなされるまでに1か月程度の期間が経過しており、このことは、本取り違えの主張の真実性を否定する可能性がある。…”(報告書39ページ)

“…小保方氏主張論文が、本件博士論文の問題点を指摘され、最近作成したも(d)のだとすれば、「問題がある」等として報道等において厳しく批判がなされた序章の修正もなされているのが通常であるが、小保方氏主張論文の序章においては、この点が修正等されず残されている。また、ウェブサイトにおいて「問題がある」等として取り上げられているFig. 6の画像、Fig. 12のIの画像、Fig. 17等の修正がなされているのが通常であるが、やはり、小保方氏主張論文においては修正等されず残されている。…”(報告書38ページ)

こちらが本物でしたといって3年以上も遅れて提出された博士論文中には、まだ、下書きのときの不正行為の痕跡が修正されずにそのままたくさん残っていたので、最近作成されたものではないという証拠になるという、なんとも好意的な解釈です。

 

Tissue Engineering誌論文の内容を下敷きにしたという博士論文に数多くの不正行為が見つかったのですから、逆に、この不正まみれの博士論文と同じ研究内容のTissue Engineering誌論文にはそもそも不正行為がなかったのかどうかが非常に気になります。ここを追及しないのもおかしいのですが、調査書ではほとんど問題視していません。

“…第2章から第4章までは、Tissue誌論文で論述されている実験と同一、又は、その一連のものとして行われた実験をもとに記載されている。
Tissue誌は、いわゆる査読付欧文学術雑誌であり、その分野の高度の専門的知識をもち、かつ独立、公平性の高い査読者が論文内容のオリジナリティ、教育的価値及び有効性を考慮に入れた上で、内容を評価、検証し、その結果、内容の明確性、正確性、論理性等が掲載に値するとされた場合のみ、掲載を許される。そのため、Tissue誌がその掲載を受理したことは、査読者が上記一連の実験の実在性に疑問をもたなかったことを示している。
この事実に加えて、本調査においては、以下の事情が認められた。
(a) 小保方氏は、「これらの実験は主にハーバード大学で実施した。」、「それを裏付けるデータ等(ラボスタッフ共通の実験ノート等)は同大学に存在する。」等と供述する。
(b) S氏は、小保方氏と同様の供述をした上、さらに具体的に、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●等と供述する。
(c) 平成21年から平成22年の日付が入った小保方氏のノートの抜粋(写し)及び顕微鏡写真等の電子データが存在している。
これらの事情等に照らすと、本件博士論文第2章から第4章のもととなった実験の実在性を推認できる。..”

Tissue誌は査読付英文誌ですが、実は小保方氏が留学した先のハーバード大学チャールズ・バカンティ教授が作った雑誌です。論文受理の判断において、差読者による査読結果だでけでなく編集者の意向が大きく反映されることを考えれば、自分がFounding Editorである雑誌に自分の論文を掲載させることがいかに容易なことかは想像に難くありません。しかも、小保方氏の論文に関してはインターネット上でDNA電気泳動の写真データに関して疑義が持ち上がり、バカンティ教授が後から「修正」をしています。このようないきさつと、今回の問題の重大性を考えれば、ハーバード大学に存在するはず実験ノートの内容をチェックするくらいのことは当然すべきだったはずです。バカンティ教授に対してコンタクトをとらずに、まともな調査ができたのか甚だ疑問です。

参考

  1. 「先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」調査報告について(早稲田大学 2014/07/19):”2014年3月31日に設置した「大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」による調査報告書が7月17日、早稲田大学総長 鎌田薫に提出されましたので、以下の通り公表いたします。…”
  2. 先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会調査報告書 全文(7月19日掲載)(PDFファイル
  3. 先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会調査報告書概要(7月17日掲載)(PDFファイル)
  4. 先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会調査報告書 別紙(7月19日掲載)(PDFファイル
  5. 早稲田大学大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会の設置について (早稲田大学 2014/03/28):”早稲田大学は、3月17日付で先進理工学研究科から調査委員会設置の要請を受け、小保方晴子氏(2011年 先進理工学研究科博士後期課程修了、同 博士(工学)取得)の博士学位論文に関する調査委員会を3月31日付で立ち上げることといたしました。…”
  6. Haruko Obokata, Koji Kojima, Karen Westerman, Masayuki Yamato, Teruo Okano, Satoshi Tsuneda, and Charles A. Vacanti. Tissue Engineering Part A. March 2011, 17(5-6): 607-615. doi:10.1089/ten.tea.2010.0385.
  7. 文部科学省の研究大学強化促進事業の支援対象大学に選定 「国際研究大学」の地位確立を目指した研究環境の整備・改革を加速 (早稲田大学 ニュース 2013/08/06):このたび、本学が文部科学省の「研究大学強化促進事業」における支援対象大学に選定されました。本事業は、世界水準の優れた研究活動を行う大学群を増強し、我が国全体の研究力の強化を図るため、大学等による、研究マネジメント人材群の確保や集中的な研究環境改革等の研究力強化の取組を支援するものです。
  8. Tissue Engineering, Parts A, B, & C Founding Editor Charles A. Vacanti, MD Brigham and Women’s Hospital

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