ジョベかと思ったら、JoVEはジョウブ、ジョーブと読むようです。
JoVEが初めて世に登場したときは、実験のやり方の実際が動画で見られるとは、なんて画期的なんだと思いました。それから長い年月が経ってJOVEの動画も随分増えましたし、JoVEも勧誘メールを無差別に?論文著者に対して送り付けてきているようです。JoVEからメールをもらった研究者の、「JoVEってどうなの?」、「動画作ったほうがいいの?」という声をよく耳にします。
そこで、JOVEについて自分の印象をまとめておきます。個人的な偏った見方に過ぎないことはご理解ください。
目次
JoVE設立の意義、コンセプト
科学論文のマテリアルズ&メソッズ(Materials and Methods)セクションを読んでも、自分がやったことがない実験の場合にはチンプンカンプンなことが多いです。実験手技を文字で説明されるよりも映像で見ることができればわかりやすいのに、という思いに答えたのがJoVEなわけです。
Academic Video Publishing: Moshe Pritsker, PhD, CEO, Co-founder JOVE Publishing (1 of 2)
JoVEの設立者は誰?
創立者は、Moshe Pritsker博士ら。
JoVEは2006年にKlaus KorakとMoshe Pritsker,Nikita Bernsteinらによって150万ドルをかけて米国において創刊された,初めてのオンラインビデオジャーナルである。CEOであるMoshe Pritskerの仕事は編集や出版の過程の調整,ビジネスモデルの確立やマーケティングといった通常の学術雑誌の編集長として行う仕事のほかに,IT関連や動画の撮影,編集システムや投稿システムの確立や改良,研究機関への広報やPRなど多岐にわたる。彼の積極的な働きにより,オンラインビデオジャーナルJoVEのシステムの確立に成功している。(JoVE オンラインビデオジャーナルの可能性 駒田 致和,高雄 啓三,中西 和男,宮川 剛 2009)
- August 2014 ATG Interviews Moshe Pritsker, CEO and CoFounder, JoVE Katina Strauch Against the Grain Volume 22 | Issue 6 Article 18
- Interview with Moshe Pritsker (January 24, 2009 by Martin Fenner in Interviews PLOS BLOGS)
- Visualize This! Interview with Moshe Pritsker (By clock on February 7, 2008 ScienceBlogs)
- https://www.jove.com/blog/author/moshe-pritsker/
JoVEから動画つくりませんか?ってメール来たんだけど、ぶっちゃけ、JoVEの評判ってどうなの?
自分および周りの研究者の状況から判断して、JoVEは論文を出した人になら誰に対してでも勧誘メールを送りつけているようです。別に「あなたの論文が凄いから」とか、「あなたの論文の実験手技は動画で説明したほうがわかりやすいから」という理由ではないみたい。悪く言えばスパム的な営業かも…(?💦)。まあ、向こうもビジネスですから。そのため、JoVEから勧誘メールが来たけど、どうしよう?と悩む研究者も多いのではないでしょうか?
JoVEの巷の評判はどうなんでしょうか?
- How is publishing in JoVE (a “video journal”) perceived (academia.stackexchange.com)
-
Does anyone have experience with the Journal of Visualized Experiments? (ResearchGate)
- JoVE: Is this legit? (reddit.com)
スパム的に勧誘メールを送り付けていることや、価格の高さを快く思わない研究者がいるのは確かなようです。
JoVEで動画作成する場合の価格
たまにJoVEが研究者から動画を買い取ってくれるの?と勘違いする研究者もいますが、違います。普通の論文掲載と同じで、研究者がJoVEに高いお金を払って動画を作るのです!なお、JoVEの動画はJoVEを購読している人しか視聴できません。JoVEのウェブサイトで視聴できる動画が一部あるのは、著者が追加料金を払ってフリーアクセスにしているからです。
Standard access: $2,400
Open access(optional): additional $1,800 (https://www.jove.com/publish/editorial-policies/)
1800ドル追加してフリーアクセスにするかどうかは懐と相談でしょうか。自分はいつもJoVEのサイトで良さげな動画をクリックして最初の30秒くらいしか見られなくてガッカリすることが多いので、みんながお金を払ってフリーアクセスにしてくれればいいのにと思います。一つ耳よりな情報として、「標準アクセス」価格であっても、映像を自由に使う権利はもらえます。つまり自分の研究室のウェブサイトにJOVEの映像を埋め込んで(フルアクセスできるURLをもらえる)、全部を視聴してもらうことが可能です。自分のラボのウェブサイトにアクセスが期待できる人なら、JoVE動画を埋め込んで置けば全部見てもらえるので、それで十分かもしれません。
自分は、JoVEのサイトで検索をかけて見たい動画をリストアップするので、やはり全部自由に見られたらいいいのにとという不満が募っています。
JoVEに査読はあるの?
JoVEにも査読がありますよ。いきなり動画を撮るわけではなくて、最初にプロトコール論文の部分(文書)を書き上げてそれを投稿します。それが査読に回されて受理されてから、動画撮影用のスクリプト(ナレーション部分、動画撮影のステップバイステップの記述)を書き上げて、いざ撮影となります。原著論文の実験手技の部分を動画にするので、新しいデータはもちろん不要ですし、JoVEもビジネスなので、査読で落ちることはまずないでしょう。査読者は著者がサジェストするので、だいたい顔見知りの人が読んでくれるでしょうから、厳しいことは言われません。ただし、ハゲタカジャーナルのように査読があってないようなものとは意味が違うとは思います。友達のよしみでちゃんと読んでくれるのではないでしょうか。
JoVEの評価とインパクトファクター
Our impact factor is 1.184. (https://www.jove.com/journal)
JoVEは査読付きの論文で、雑誌のインパクトファクターが1.184もあるなんて、論文業績的にはずいぶんと魅力的ではありませんか?原著論文一報出せば、もれなくもう一報ついてくるなんて、素敵。Buy one, get one free!じゃないですけど、Publish one, get another at the cost of $2,400! です。
動画制作の実際 & JoVEに対する個人的な印象
自分の印象ですが、JoVEの動画制作はマクドナルドファーストフードみたいなものだと思いました。動画編集者はわかりませんが、カメラマンやナレーターは研究とは無縁の人たちでしょうから、それでもそういうスタッフによって科学研究の動画ができてしまうというわけです。つまり彼らJoVEのスタッフにはあまり頼れないので、科学的に良いもの、研究者に役立つものを作る責任は全て著者にあるということになります。撮影の段取りや撮影のためのスクリプトは研究者がしっかりと作りこまないと、撮影当日はカメラマンが「機械的に、さっさと」その手順書に沿って撮影をしていくだけですので、その場での変更はそうそうできないと思います。撮影の時には自分の書いたスクリプトに自分が縛られることになるので、きちんと練ったものを用意したほうがいいでしょう。日本にJoVEのカメラマンが何人いるのかわかりませんが、自分の撮影のときの印象はあまり「共同作業で何かを作り上げる」という熱気は感じませんでした。たんたんと撮るべき映像を撮影していくというスタンスでした。多分、日本在住のフリーランスのカメラマンがJOVEと契約をしているだけなので他の仕事もたくさんあって忙しいのでしょう。
日本人研究者が英語の文章をつくり、話すのは大変なのではと思われるかもしれませんが、テンプレート化された文章をJoVEがくれるので自分の研究の用語をテンプレートにはめ込むだけでナレーション用原稿が完成します。だからJoVEの動画をいくつか見るとわかるように、皆が同じ文章をしゃべっています(!!)これも、自分がJoVEはファーストフードだと思った理由の一つです。話すとき原稿を暗記しておく必要もありません。カメラの横に掲げらられたカンペ(プロンプター)に表示される原稿を読むだけです。ただし、いい動画に仕上げたければ、原稿を読みあげるのではなく、あたかも人に話しているように笑顔で演技して話すことが必要です。JoVEの動画をいくつかみて、お手本になりそうなものを探してください。
結局、JoVEはお勧めなのか?
自分はJoVE設立のコンセプトには共感しますが、スパム的な勧誘メールやファーストフード的な動画作成プロセスには若干の違和感を覚えます。そのようなマイナスの側面を承知のうえで、お金と時間と気持ちの余裕があるのなら作ってみるのも悪くないのでは?と思います。別に自分で勝手にプロトコール動画をつくってYOUTUBEに載せればいいという気がしないでもないのですが、”一定”の品質のものがお手軽にできるので、のっかるのも悪くないかと。
JoVEを推す理由を考えてみますと、
- 自分の研究の宣伝にはなるのではないか(自分も他人のJOVE動画を結構見るので)
- 自分自身のための実験手技の忘備録になる(カタチにして残しておかないと、結構忘れるものです)
- 自分の実験手技を人に教えるときの映像資料になる(JoVEW見てちょうだい、で済むので楽チン)
- 査読付き論文なので業績欄が1行増える(?)(原著論文をもう一報出すほうが勿論いいのですが)
- 自分が最近出した論文のマテメソの部分をステップバイステップに書き直して図をつけるだけの作業であり、新しいことは何もないので原著論文を出す苦労と比べればかなり楽。
といったことが挙げられます。
JoVEの難点も挙げておきます。
- 原著論文ほどでは全くないが、JoVEのための原稿を書くのも思ったよりは手間暇がかかる。
- 論文発表のために何年も前にやった実験を今更JoVEの動画撮影のためにあらためて実演するのはおっくうだったり、装置がなかったり、出来る人間がすでにラボを去っていたりする可能性がある。
- ナレーションがいまいち、というか、全然かも。
- 価格が結構高い。
- マテメソの文章をそのまま使うと剽窃チェックツールに引っかかるので、いちおうそれをクリアする程度の文章に書き直す必要がある。(メソッドの英文ってバリエーションが作りにくいんですよ。 ( ;∀;) 泣)
JoVEへの不満
JOVEのサイトで動画を視聴してすぐ気付くのは、ほとんどのナレーションの抑揚が極めて不自然で、ナレーターは自分がしゃべっている内容を全く理解せずに読んでいるように聞こえることです。ですから、聞いていて非常に内容を理解しづらいです。これなら英語の下手な日本人研究者の説明のほうがはるかにわかりやすい。ネイティブの英語話者なら誰でも良いわけではないというのが、自分の見方です。
そんなわけで、自分がJOVEに持っている一番大きな不満はナレーションのまずさですね。良さげなナレーターを研究者が選んで指名できるようにしてほしいものです。エディテージ(editage)で英文校正を頼むときに、以前頼んで直し方のうまかった校正者に再度頼んだり、良くなかった人を外すといった選択ができたと思いますが、それと同じことです。
内容を理解したイントネーションでナレーターが読んでくれて、全ての動画が見放題になれば、JoVE最高!!と手放しで褒めちぎりたいのですが、そんな日は来るのでしょうか。
JoVEは高いのか?
価格に関していうと、25万円($2,400)という価格設定は動画編集、カメラマン、ナレーター、編集者の手間暇を考えれば妥当かなと個人的には思います。しかし、フリーアクセスにする場合には、50万円近く( additional $1,800)にまで跳ね上がります。宣伝効果を考えればフリーアクセスにしておくほうが絶対にいいとは思いますが、ちょっと高いですかね。
JoVEのススメ
改善してほしい部分はありますが、予算と時間があれば、広報・宣伝・実験手技の普及のためにJoVEの動画を撮るのは悪くないと思います。自分にとっては日常的で当たり前すぎる実験で、何もたいしたことないんだけど、ちょっとでも分野違いの人、立ち場が違う人からすれば、それがとっても知りたい情報ってことが意外とあります。ですから、わざわざ人に見せるほどのものではないなどと思いこまずに、とりあえず動画を撮ってみてはいかがでしょうか?世に出しておけば、きっと誰かの役に立ちます。
JOVEのビジネスモデル
最近、JoVEが科学教育のための動画も作っていることに気付きました。これはなかなかいいアイデアだと思います。YOUTUBEには結構教育的な動画もありますが、ほとんどが論文投稿時のサプリメンターリームービーであって、断片的で一般の人が見ても何がどうなっているのかわからないものがほとんどです。ちゃんと解説付きでまとまった内容にすれば、教育的な効果が期待できます。
日本のJOVE
日本のJOVEの支社はありませんが、ユサコが国内総代理店になっています。
ユサコ株式会社はこのたび、世界初のビデオ学術誌”Journal of Visualized Experiments”(JoVE)と国内総代理店契約を締結した。[ニュースソース]メールマガジンUSACO News 2013.2.28 No.236 (ユサコ社、ビデオ学術誌”JoVE”の国内総代理店に 2013年03月04日 JST科学技術情報プラットフォーム)
2006年に創刊された世界で初めてのビデオ学術誌です。生物学、医学、化学、物理などの研究分野をカバーし、文章だけでは理解が難しかった実験方法や技術を、動画で分かりやすく表現します。論文は権威ある編集者によってピアレビューされ、PubMedにも索引されています。多くの論文はアクセプト後に、JoVEの専門スタッフが、ビデオ収録・ナレーション・イラスト動画等の作成作業を担当し、高い品質を保っています。(Journal of Visualized Experiments(JoVE) 最終更新日:2018年11月30日 ユサコ株式会社)
日本の大学の研究室にどうやってアメリカの会社のスタッフが来るの?と疑問に思いましたが、日本在住の(フリーランスの?)カメラマンがJOVEと契約していて、日本のラボに来るようです。
- 営業 ★科学の実験内容などが配信される動画共有ツールの営業/在宅勤務の過去の転職・求人情報概要(掲載期間: 2017/02/23 – 2017/04/05) エン転職(キャッシュ)
JoVEのアーカイブ
- Journal of Visualized Experiments : JoVE 2006 to 2018 The archive for this journal includes issues 1-140. The journal no longer participates in PMC.