CRISPR-Cas9でpol遺伝子62コピーを破壊

臓器移植の治療において問題となる臓器不足の解決策として、ヒトの臓器と大きさや生理学的特性が近いブタの臓器を利用することが議論されています。しかし、ブタの臓器をヒトへ移植した場合に、ブタ内在性レトロウイルスが患者に感染する恐れがあるという問題が指摘されてきました。この問題を解決するアプローチとして、最新のゲノム編集技術CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)を利用して、ブタのゲノム中に存在する内在性レトロウイルス(porcine endogenous retroviruses (PERVs))のpol遺伝子62コピーを同時に破壊し、感染する恐れを劇的に減少させることにハーバード大学の研究グループが成功しサイエンス誌に発表しました。今回の遺伝子破壊実験はブタ腎由来上皮細胞PK15に対して行われ、共培養されたヒト細胞株HEK-293への感染の有無がqPCR法により調べられました。

Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses (PERVs)

Abstract The shortage of organs for transplantation is a major barrier to the treatment of organ failure. While porcine organs are considered promising, their use has been checked by concerns about transmission of porcine endogenous retroviruses (PERVs) to humans. Here, we describe the eradication of all PERVs in a porcine kidney epithelial cell line (PK15). We first determined the PK15 PERV copy number to be 62. Using CRISPR-Cas9, we disrupted all 62 copies of the PERV pol gene and demonstrated a >1000-fold reduction in PERV transmission to human cells using our engineered cells. Our study shows that CRISPR-Cas9 multiplexability can be as high as 62 and demonstrates the possibility that PERVs can be inactivated for clinical application to porcine-to-human xenotransplantation.
Published Online October 11 2015 Science DOI: 10.1126/science.aad1191

参考

  1. Yang et al., 2015. Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses (PERVs). Science DOI: 10.1126/science.aad1191. Published Online October 11 2015
  2. 遺伝子の改変数、10倍超に向上 – ゲノム編集、実用化へ前進(マイナビニュース 2015/10/12):”生物の遺伝情報を改変する「ゲノム編集」という最新技術を使い、ブタの遺伝子62個を操作して働かなくさせたと米ハーバード大医学部などのチームが11日付米科学誌サイエンス電子版に発表した。”
  3. Gene editing could make pig organs safe for human transplant pigs (WIRED.CO.UK 12 October 15 by K.G Orphanides)
  4. Dunn et al., 2015. Genetic Modification of Porcine Endogenous Retrovirus (PERV) Sequences in Cultured Pig Cells as a Model for Decreasing Infectious Risk in Xenotransplantation. April 2015 The FASEB Journal vol. 29 no. 1 Supplement LB761
  5. 「日本の移植・再生医療〜次の半世紀に向けて〜」 第50回日本移植学会総会報告4 (MediPress 2014/12.19):”移植臓器の不足を解決するもう一つの方法として、人間以外の動物からの移植を可能にする技術を研究している鹿児島大学医歯学総合研究科再生・移植医療学の山田和彦先生が、実用化を目指した3つの研究システムを紹介しました。第一は、臓器不足を早期に解決するための直接的手段として、ブタや霊長類の腎臓を移植するモデルで、現在米国で行っている研究の内容について解説されました。”
  6. ブタを医学・医療に使う意義 ―現状と将来 自治医科大学 先端医療技術開発センター 小林 英司 (Biophilia Vo.5 No.2 2009)
  7. 人獣共通感染症 第124回 新刊書「異種移植とはなにか」:” 第三の微生物学の観点では、ブタ由来のさまざまな微生物による感染の防止が問題となる。とくにブタの染色体に組み込まれているブタ内在性レトロウイルスが移植を受けた人に感染するだけでなく、家族など周辺の人への感染を起こし、さらには社会にまで感染を広げるおそれがないかという点が大きな問題になっている。”
  8. 異種移植(臨床)の歴史:”1992年Czaplickiがブタの心臓を、1993年Makowkaがブタの肝臓を移植しているが、結果としては超急性に拒絶されている。”
  9. 生命操作ー復刻版ーケーススタディ30例 23 ブタが「命の恩人」 (NHK):”アメリカ、オハイオ州に住むエリック・トーマスさんは、ブタが命の恩人だという。 1992年、彼は肝臓病から昏睡状態におちいり生命が危うくなったのだが、肝臓移植のための臓器が届くまで、豚の肝臓を一時的に代用して、血液を体外で循環させる治療をうけた。5日後、無事に人の肝臓を移植して、今はとても元気に生活している。”
  10. Xenotransplantation
  11. Auckland Island Pigs Animal Experimentation Experiments in NZ Australian news report