2020年4月17日15時半より、さきがけの研究領域の一つである「原子・分子の自在配列と特性・機能」の募集説明会がウェブ上で開催されました(ZOOMを利用)。
以下、聴講した内容のうち自分が興味を持ったところを記します。(聴講中のメモ書きをもとにした記事のため、研究総括の言葉をそのまま正確に伝えるものではありません。自分の理解不足で不正確なところもあるかも。)
お話をされたのは、研究総括を務める西原寛 東京理科大学教授。2020年3月に東京大学を退官された後、2020年4月からは東京理科大学で新しくラボを立ち上げて研究を続けられているそうです。ご専門は錯体化学、電気化学、光化学、ナノサイエンス。
ご自身も若いときに「さきがけ」に採択されています。当時は、さきがけ研究21という名称で、「光と物質」(総括は本多健一東大教授)という研究領域。さきがけに入ったことにより、いろいろな研究者と交流できて研究者としての財産になったという経験を踏まえて今回、さきがけの研究総括を務められるそう。
この研究領域の「原子・分子の自在配列と特性・機能(略称は『自在配列』」概要説明はウェブサイトにもまとめられています。しかし、こうして説明を聞くと、研究総括が何を重視しているかがわかりやすく伝えられていると思いました。
領域概要(3)のスライドの説明では、原子や分子を自在に結合、配列、集合する手法を駆使して、次元性、階層性、…などの観点からユニークな構造を作り出す研究がテーマですが、何がどうユニークなのかに関しては提案者が提案書の中で説明してほしいとのこと。
選考方針(1)のスライドでは、研究対象分野は限定せず、化学、物理学、生物学、電子工学、材料工学などから広く募集するということでした。
提案書を書く際の心得
提案書の書き方に関しては、異分野の研究者にも理解できるような記述をしてほしいとのこと。
「良い提案は、異なる分野の研究者が読んでもインパクトを与えるもの」だと考えているというお言葉がありました。
選考基準
選考にあたってはさきがけ研究期間内だけでなく、その後の発展や研究分野の創成の可能性も考慮すると述べらていました。
領域アドバイザーはスライド上では5人がリストされていましたが、あと2名から受諾されており、合計7名、総括を含めて合計8名でさきがけ採択者に対してアドバイス、支援を行っていくということです。
研究総括の説明では、新しさ、ユニークさ、これまでにないものを強く求める姿勢を感じました。
質疑応答の時間には、応募する研究領域を決めたり、提案書に書く内容を考えるためのいろいろな役立つ情報がありました。
さきがけ経験者は有利?
さきがけは、少数ながら2回採択されている人もいるのだそうです。過去に1度採択経験がある場合に、2回目を応募することに関して質問がありましたが、過去に採択を受けていることは、マイナスにもプラスにもならないという答えでした。あくまでも、今回の提案を読んで選ぶということです。
さきがけの応募や採択に棲み分けはあるのか
さきがけでは、他にもトポロジーやナノと言った分野の領域が立ち上がっていますが、棲み分けがあるのかどうかが気になるところで、それに関する質問も出ました。その質問に対しては、「棲み分けは考えていない」とのことです。領域の名前や内容にオーバーラップする部分はあるかもしれないが、研究総括の方針などの特徴を把握して、自分の研究がどちらの領域に合致するかを考えて応募先を考えてほしいという主旨の答えでした。
これはちょっと意外に感じました。広い分野をうまくカバーするように複数の研究領域が設定されているのかなという先入観が自分にはありましたが、そういう棲み分けはないのだそうです。
若くない年齢は不利になるのか
年齢に関してはという質問も出ました。年齢はあまり気にしないと言いつつ、将来まで研究を発展させられる年数がまだ残っている(若い)人であってほしいようです(一字一句書き留めていないので、自分が理解した印象です)。
何歳までが若手か、いつも悩ましいですね。
配列というキーワードについて
領域名が配列ですが、配列する研究じゃないといけないのか、方法に関してはどうなのかという主旨の質問もありました。べつに物理的に配列するというだけを意味するわけではないとのことです。化学的な手法で配列することもあるでしょうし。領域概要(3)のスライドでは、配列という言葉と合わせて、結合、集合という言葉も盛り込んであるのは、そういう幅広さを出すためだそう。
社会に役立つ必要がある?
研究提案は社会的な貢献まで含めたものでないといけないのか?という主旨の質問がありました。このさきがけ研究ではそこまでは求めていないそう。ただ、きれいな構造、面白い構造をつくって自己満足するだけの研究ではなく、せっかく世の中にない物質を新たに作るのであれば、何か世の中の役に立つかを考えることも重要だと強調していました。実際に使われるかどうかは別としても、これは何に使えるだろう?と考えることは重要だとのこと。社会貢献までやれというつもりは全くないけれども、単なる自己満足だけでは足りないということでした。
こういった回答は、提案書を書く際にどういうバランスで書くかの役にたちそう。
理論や計算の研究もあり?
理論計算のみの提案も可能なのか、モノづくりをする研究者との連携が必要なのかという質問がありました。モノづくりをする人しか提案できないと思われるかもしれないが、頭で作るという計算によるアプローチも十分、採択の対象に入ると考えているそうです。ただし、理論や計測のみの提案も可能だがそれだけではない観点もいれてほしいといった回答だったと思います。
原子や分子の新しい配列を作ったとに機能まで求める?
新しい配列の構造を作ったときに、その配列に機能を求めるのかという質問がありました。構造は面白いけど何の役にも立たなかったら意味が無さそうですが、研究総括の回答では、作った本人以外でいろいろな人が新たな構造を見れた、新しい用途を思いつくであろうから、機能に関してまで完璧な提案をしろということはないそうです。
採択されるために業績は必要?
さきがけで採択されるには業績があると有利かどうかとう質問も出ました。そりゃ業績は必要でしょと思って聞いていたのですが、研究総括の回答は絶妙でした。
「基本的には、(選考は)業績には関係ないというのが正しいかもしれない。ただし提案には裏付けが必要で。あまりにも発想が豊かすぎて私どもがついていけないような発想を書かれたときに、それがどの程度信憑性があるのか、実現性があるのかというときに、どの程度バックグラウンドがあるのか、これまでやってきたこと、業績があるのかということは重要になってくる。」
細かい語句まで正確ではないですが、このような答えだったと思います。
質疑応答が終わり、研究総括が補足的に一言述べて説明会は終わりました。
「この領域は間口を広くしてある。自分のオリジナルな提案を。究極の、自分の一番すごいなと思うものを、それはきっと私やアドバイザーの胸に刺さると思います。」
といった内容の言葉でした。
説明会を聴いていて、やはり、研究に対する強い気持ちを伝えれば、それが受け止めてもらえるのだろうという感想を持ちました。
これまでに、さきがけやCREST、ACT-Xの説明をいくつも聞いてきましたが、やはり研究総括の個性というものをそれぞれに感じます。研究というのは人間の営みだとつくづく思いました。今回のこの説明を聞くまえは、物理化学の領域だと思っていましたが、視聴したあとは、生物系の人にも研究内容にもよりますがチャンスがあるのかもと思いました。
さきがけは、トップダウン式の研究助成であり、ボトムアップ型(科研費の基盤研究など)とは全くことなり、研究のゴールは国によって示されています。JSTによる制度説明で毎回強調されることですが、国が設定した戦略目標を達成するための研究提案になっているかどうかが、採択されるためには非常に重要です。
参考
- 自在配列と機能(令和2年度の戦略目標及び研究開発目標 文部科学省)
- [自在配列]原子・分子の自在配列と特性・機能(さきがけ)