【出願番号】特願2024-38114(P2024-38114)
【出願日】令和6年3月12日(2024.3.12)
【出願人】【氏名又は名称】日清製粉株式会社
Gemini 3による解説:
この特許(特開2025-139277)は、日清製粉が「健康機能(ハイアミロース)」と「美味しさ(食感)」を両立させるための「小麦粉の物理的性質」を定義した非常に実利的な特許です。
目次
1. 何が新しいのか?(技術的工夫)
従来の乾麺、特にスパゲッティにおいて「ハイアミロース小麦(HAW)」の使用は、食物繊維(レジスタントスターチ)を増やす目的で知られていました。しかし、これまでは食感がボソボソしがちでした。
この特許の新規性は、単にハイアミロース小麦を使うだけでなく、「アミロース含量」と「損傷澱粉量」の組み合わせを特定した点にあります。
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ハイアミロース小麦の採用: アミロース含量が約48%〜63%という、通常の小麦よりも圧倒的に高い小麦を使用しています。
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損傷澱粉の意図的なコントロール: 通常、製粉では損傷澱粉を抑えるのが定石ですが、この特許では4.1%〜5.8%程度の「適度な損傷」を持つ粉(No.1〜No.5)が、弾力となめらかさを向上させることを示しています。
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遺伝的背景の特定:
SBEIIa遺伝子の変異に関する記述があり、特定の品種や育種系統を念頭に置いた技術となっています。
2. どんな問題を解決したいのか?
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「健康だけど不味い」の打破: ハイアミロース小麦は血糖値の上昇を抑えるなどのメリットがありますが、麺にすると「滑らかさ」や「弾力」が損なわれる課題がありました。
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配合の難しさ: デュラムセモリナを混ぜなくても(HAW 100%でも)、あるいは混ぜた場合(HAW 50%)でも、良好な食感を維持できる条件を見出すことで、商品設計の自由度を高めています。
3. どんな製品をもくろんでいるのか?
表紙の「乾麺類の製造方法」という名称や実施例から、以下の製品が想定されます。
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機能性表示食品クラスの乾燥スパゲッティ: 実施例で「乾燥スパゲティ」が具体的に評価されています。
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高食物繊維麺: 100%ハイアミロース小麦を用いた、糖質制限やダイエット層向けのプレミアムパスタ。
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業務用・市販用のブレンド粉: 他の小麦粉と混ぜて使うための、特性が管理された「高機能小麦粉」そのものの供給も視野に入っているでしょう。
4. 市場へのインパクト
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パスタ市場の「高付加価値化」: 低価格競争が激しい乾麺市場において、「美味しさを犠牲にしない健康麺」というポジションを独占できる可能性があります。
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原料支配: 特定の遺伝的特徴(SBEIIa変異など)を持つ小麦の利用を権利化することで、川上の原料から川下の製品まで、日清製粉がサプライチェーン全体で優位に立てます。
5. 特許申請の戦略分析
この明細書の書き方には、プロの「防衛」と「攻撃」の意図が透けて見えます。
① 「パラメータ特許」による逃げ道の遮断
「アミロース含量」や「損傷澱粉量」といった数値範囲で権利を定義するパラメータ特許の形を取っています。
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これにより、他社が同じようなハイアミロース小麦を使って麺を作った際、その粉の損傷澱粉量がこの範囲に入っていれば、製法が少し違っても特許侵害を主張しやすくなります。
② 比較例(No. 6, No. 7)の使い方が巧妙
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No. 6(比較例): アミロースは高いが損傷澱粉が低いもの。
- No. 7(対照): 標準的な小麦。これらと比較して、本願の範囲(No. 1〜5)がいかに「弾力」と「滑らかさ」で優れているかを数値(3.1〜4.1)で対比させています 10101010。これは審査官に対し、「この数値範囲には明確な技術的意味(臨界的意義)がある」と納得させるための王道の書き方です。
③ 100%と50%の両建て戦略
実施例において「HAW 100%」 11と「HAW 50%:デュラム 50%」 12 の両方のデータを載せています。これにより、「純粋な健康麺」から「通常のパスタに近い配合」まで、権利の網を広く網羅しようとしています。
総括
この特許は、日清製粉が「次世代の健康パスタ」のスタンダードを握るための「スペック(仕様)の囲い込み」です。単なるレシピではなく、小麦粉の物理的な物性を押さえることで、競合が類似品を作る際のハードルを非常に高く設定しています。
請求項(特許の権利範囲)がどのような戦略で組み立てられているか
この特許の核は、「ハイアミロース小麦(HAW)を使いつつ、損傷澱粉量をあえて高く制御することで食感を改良する」という点にあります。
請求項ごとの出願戦略分析(推定を含む)
【請求項1】主柱:広範な権利の網
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内容(推定): 「高アミロース小麦粉を30質量%以上含む生麺を乾燥させる、乾麺の製造方法」。
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戦略: まず「30%以上」という低い閾値を設定することで、ハイアミロース小麦をメインとした麺だけでなく、他社が「健康」を謳って少量をブレンドした製品も射程に入れています。この「30%」という数字は、実施例の50%や100%を包含しつつ、権利を最大限に広げるための典型的な手法です。
【請求項2〜4】パラメータによる「逃げ道」の封鎖
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内容(推定): 小麦粉の「アミロース含量(約48〜63%)」や「損傷澱粉量(約4.1〜5.8%)」の数値を特定。
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戦略: 単に「ハイアミロース小麦を使う」だけだと公知技術(既にある技術)に近いとされるリスクがあるため、「損傷澱粉量」という物理的な物性パラメータを加えています。
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比較例(No. 6)では損傷澱粉が3.7%と低く、これだと「滑らかさ」が落ちることをデータで証明しています。
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「あえて一定以上の損傷を与えることで食感を良くする」という逆転の発想を権利化することで、他社が同様の粉を製造・使用する際のスペック(仕様)を縛る狙いがあります。
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【請求項5】粒径による多層防御
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内容(推定): 「高アミロース小麦粉の平均粒径(MV)を60〜100μm程度に規定」。
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戦略: 損傷澱粉量は製粉時の粒径とも密接に関係します。粒径という別の尺度を追加することで、もし「損傷澱粉量」の規定が審査で否定されても、「粒径」の条件で権利を残すという二段構え(多層防御)の戦略です。
【請求項6】バイオ・育種技術との連携
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内容(推定): 「SBEIIa遺伝子が欠損した小麦粉を用いること」の特定。
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戦略: これが非常に強力な「攻撃的戦略」です。特定の遺伝的特徴を持つ小麦(SBEIIa変異体)を指定することで、日清製粉が確保している(あるいは独占契約している)特定の小麦品種そのものを権利の対象に固定しています。これにより、他社が同じような粉を別の方法で作ろうとしても、原料の時点で権利に抵触する可能性を高めます。
【請求項7】最終用途の特定(スパゲッティ)
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内容(推定): 「乾麺がスパゲッティであること」の特定。
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戦略: 最も実利的な製品への適用です。実施例でパスタとしての評価(弾力、なめらかさ)を詳細に載せているのは、「パスタ市場」における独占権を確実に確保するための落としどころです。
全体を通じた分析
- 「製造方法」での権利化:製品(麺)そのものの特許は、他社が少し配合を変えるだけで回避されやすいですが、「粉の物性をコントロールして作る」というプロセスを抑えることで、製造現場での侵害を主張しやすくしています。
- 「臨界的意義」の立証:表(Page 7-8)にある通り、比較例(No. 6)と製造例(No. 5)の差はアミロース1%、損傷澱粉0.4%という極めて僅かな差です。しかし、この僅かな差で「弾力」や「滑らかさ」が0.3〜0.7ポイント改善することを証明しています。このように「微差が大差を生む」ことをデータで見せるのは、特許取得率を高める高度なテクニックです。
- ブレンド比率の網羅:HAW 100%(特化型製品)と50%(一般普及型製品)の両方の評価を載せている点から、「ニッチな健康食」から「大手スーパーに並ぶ主流製品」まで、全方位をカバーする意図が読み取れます。
まとめ:
この特許は、「原料小麦の遺伝子(育種)」「製粉による物性変化(損傷澱粉)」「最終製品の食感(官能評価)」の3点を数珠つなぎにした、隙のない権利形成を目指しています。日清製粉が「健康パスタ」という市場を技術的・法的に独占するための、非常に練られた戦略と言えます。
請求項1の表現だけを見ると非常にシンプルですが、特許明細書において「当業者が再現できる(実施可能要件を満たす)」ための具体的な中身は、主に【実施例(製造例)】と、そこに至るための【物性の限定】のセクションに詳しく書き込まれています。
1. 「具体的な数値」は 7 ページ目の表に集約されている
当業者が最も重視するのは、単なる「高アミロース小麦粉」という言葉ではなく、その物理的なスペックです。7ページ目の表に、再現に必要な核心部分が数値化されています。
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アミロース含量(48~63質量%): どの程度のハイアミロース性が必要か。
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損傷澱粉量(4.1~5.8質量%): ここがこの特許のキモです。単に粉にするだけでなく、この範囲のダメージを与えるように製粉する必要があることを示しています。
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平均粒径(70.4~93.1μm): 粉の細かさも指定されています。
これらが揃うことで、当業者は「どのような粉を準備(または製造)すればよいか」が具体的に理解できます。
2. 「どう作るか」は 8 ページ目の製造例に示されている
「生麺を乾燥させる」というプロセスの具体的なアウトプットが、8ページ目の「製造例1-1~2-5」の評価結果に紐付いています。
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配合比率: 「HAW 100%」の場合と「HAW 50%:デュラム 50%」の場合の2パターンが明記されており、他社が自社製品に混ぜて使う際のガイドラインになっています。
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評価指標: 出来上がった麺の「弾力」と「滑らかさ」が2.0(対照)に対してどの程度向上するか(3.0~4.1)が数値化されています。
当業者は、この表にある「No.1~No.5」の粉を使用すれば、比較例や対照よりも優れた食感の麺が作れるという「結果の再現性」を確認できます。
3. 「遺伝的背景」による裏付け(2~4 ページ)
さらに専門的な「再現性」として、特定の遺伝子変異(SBEIIaやSGP-1)についての言及があります。これは、単に「高アミロースな粉」を化学的に合成するのではなく、「どのような系統の小麦を使えば、表にあるような物性の粉が得られやすいか」という川上の情報を提供しています。これがあることで、育種や原料調達の担当者にとっても再現可能な内容となっています。
4. なぜ請求項1は「具体的」に書かないのか?
請求項1に詳細な方法(温度、時間、粉の粒径など)をすべて書き込まないのには、戦略的な理由があります。
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権利を狭めないため: もし請求項1に「損傷澱粉4.1%」と書いてしまうと、他社が「4.0%」で同じ効果を出した場合に逃げられてしまいます。
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「実施例」で補完する: 広い網(請求項1)を張りつつ、その網が「デタラメではないこと(再現できること)」を証明するために、明細書の後ろの方(実施例)でガチガチに具体的な数値を固めるのです。
当業者は本当に再現できるか?
結論から言えば、「できる」と判断される可能性が高いです。
理由は、単に「乾燥させる」と言っているだけでなく、「成功する粉の条件(損傷澱粉と粒径)」が数値で特定されており、それを用いた場合の食感データ(実施例)が対比形式で示されているからです。
もし、この明細書に「損傷澱粉量」の表がなかったとしたら、「どうやったらその食感になるのか不明」として、特許庁から「実施不能」という拒絶理由を受けるリスクが高まりますが、この出願はその点をしっかり数値でガードしています。
この明細書の抜粋を見る限り、一般的な「〇〇度で何分混ぜる」といった調理・加工の操作手順に関する詳細な記述が少ないように見えます。これは、この特許が「レシピの特許」ではなく、「材料の物理的状態(スペック)を制御する特許」だからです。操作の過程がどこにあるのか、またなぜあえて詳しく書かないのか解説します。
1. 核心となる「操作」は「製粉(粉の作り方)」にある
この特許における最大の「操作」は、麺を茹でる工程ではなく、その前段階の「小麦粉をどう挽くか」という過程に隠されています。
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製粉工程のヒント: 5ページ目に「smooth roller(スムースロール)」という言葉が登場します。
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物理的処理: 単に粉砕するだけでなく、スムースロール等を用いて小麦粉に「物理的な圧力」をかけることで、7ページ目の表にある「損傷澱粉量(4.1〜5.8質量%)」という特定の数値を実現しています。
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プロセスの特定: つまり、この特許における「具体的な操作」とは、「特定の損傷澱粉量になるように製粉条件を調整する操作」を指していると言えます。
2. 麺の製造工程は「あえて一般的」に書かれている
「生麺を乾燥させる」という工程については、詳細な温度プロファイルなどが伏せられている、あるいは「公知の方法」に委ねられている可能性があります。
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権利の汎用性: もし「70度で3時間乾燥させる」と工程を絞り込みすぎてしまうと、他社が「80度で2時間」で行った場合に特許逃れを許してしまいます。
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「当業者」の常識: 乾麺(特にスパゲッティ)の製造において、真空押し出し機を使ったり、長時間乾燥させたりするのは食品業界の「当業者(専門家)」にとっての常識です。
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再現性の根拠: 専門家であれば、特定の物性(アミロース量、損傷澱粉量、粒径)を備えた粉さえ手に入れば、既存の設備を使って同様の品質の麺を再現できる、と特許庁は判断します。
3. 特許戦略としての「ブラックボックス化」
明細書を書く際、あえて操作手順を詳しく書かない「ノウハウの秘匿」というテクニックがあります。
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特許とノウハウの使い分け:
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特許にする部分: 最終製品から分析可能な「成分比」や「損傷澱粉量」などの数値(逃げられない証拠)。
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ノウハウ(隠す部分): その数値を実現するための「ロールの回転数」や「乾燥機の湿度設定」など(工場の中を見ないと分からない秘密)。
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この出願では、「どんな粉を使えばいいか」は公開して権利を押さえつつ、「その粉をどう効率的に大量生産するか」という細かな職人技は社外に漏らさないという戦略を取っている可能性が高いです。
まとめ:当業者は再現できるのか?
特許法上の「実施可能要件」という観点では、以下の情報が揃っているため、再現可能とみなされます。
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原料の特定: SBEIIa変異など、どの小麦を使えばいいか。
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粉のスペック: 損傷澱粉と粒径をどの範囲に調整すればいいか。
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結果の保証: その粉を使えば、弾力となめらかさが向上するという実証データ。
「操作の過程」が書かれていないのは、実は「粉のスペックさえ合わせれば、あとは普通の作り方でOK」という、権利としての強力さ(汎用性の高さ)の裏返しでもあります。
「製粉(粉の作り方)」や「混練(こねる工程)」に関連する具体的な記述
この特許は「どうこねるか」というレシピよりも、「どのような物理的ダメージを粉に与えるか(製粉条件)」を権利の核に据えています。
1. 「製粉」に関する記述
公報の5ページから7ページにかけて、製粉工程とその結果としての粉の物性に関する核心的なキーワードが散見されます。
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具体的な操作(手段): 「smooth roller(スムースロール)」
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分析: 小麦を粉砕する際、ギザギザのあるロールではなく、平滑なロール(スムースロール)を用いて「圧力をかける(押しつぶす)」工程が含まれていることを示唆しています。これにより、澱粉粒子に適度な損傷を与えています。
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製粉の結果(指標): 「損傷澱粉量(質量%)」
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分析: 7ページ目の表には、No.1〜No.5の粉において「4.1〜5.8質量%」という数値が並んでいます。一般的な小麦粉よりも高い、あるいは特定の範囲に制御されたこの数値こそが、製粉工程における「具体的な操作の着地点」です。
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粉の仕上がり: 「平均粒径(MV: µm)」
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分析:「70.4〜93.1µm」という範囲が指定されています。これは、単に細かく挽くだけでなく、特定の粒度分布に揃える「分級(ふるい分け)」工程の存在を裏付けています。
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【出願戦略のポイント】
「ロールを毎分〇回転させる」といった工場の設定値を書く代わりに、「結果として損傷澱粉が〇%になった粉」と書くことで、他社がどんな機械を使おうとも、その物性の粉を作った時点で特許権の網に引っかかるように設計されています。
2. 「混練(こねる)」に関する記述の抜き出しと分析
意外にも、8ページ目の実施例(製造例)において、混練や乾燥の具体的な「温度」や「時間」の数値は極めて限定的です。
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工程の存在を示す記述: 「製造例 1-1 〜 1-5」 、「乾燥スパゲティ」
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分析: 表には「弾力」や「滑らかさ」の評価結果(3.1〜4.1)が記載されています。これらは、原料粉に加水し、混練し、成形・乾燥させた結果として得られた数値です。
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なぜ「こねる工程」を詳しく書かないのか?
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「公知技術」としての扱い: 大手製粉メーカーにとって、パスタの混練・乾燥条件(真空ミキシングや高温短時間乾燥など)は既知の技術であり、特筆すべき発明ではないと判断されている可能性があります。
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権利の汎用性を維持: 「30度で10分こねる」と限定してしまうと、他社が「35度で8分」で行った場合に権利が及ばなくなるリスクがあります。「この粉を使えば、通常の工程で優れた麺ができる」という形式にすることで、あらゆる製麺プロセスをカバーしようとしています。
3. 当業者はこれで「再現」できるのか?
特許法には「その技術分野の専門家(当業者)が再現できる程度に書け」というルールがあります。この明細書がそれをクリアしているロジックは以下の通りです。
- 「粉さえあれば作れる」という理屈:「損傷澱粉 5.8%、粒径 70.4µm のハイアミロース小麦粉」 9という材料スペックが極めて具体的に定義されています。当業者は、スムースロール 10 のクリアランス(隙間)を調整すれば、この物性の粉を作ることは可能です。
- 「失敗例」との対比:比較例(No.6) 11では、アミロース含量は十分(47%)でも、損傷澱粉が低い(3.7%)と食感が悪くなる(弾力 2.9, 滑らかさ 2.5) 12 ことが示されています。これにより、「どの数値を外すと失敗するか」が明快であり、これが「再現性のガイドライン」として機能します。
総括
この明細書における「製造方法」の実体は、「特定の物理状態まで小麦粉を痛めつける(製粉する)こと」に集約されています。「混練」などの後の工程をあえてぼかしているのは、「この特別な粉(HAW)さえ使えば、誰が作っても美味しくなる」という、原料供給元として最も強い権利形態を目指した戦略的な書き方であると分析できます。