あんかけやシチューや豆腐で舌をヤケドしそうになる理由【生活の科学】

スープを熱くして飲んでいたら、思ったよりも熱すぎて、口の中を火傷しそうになりました。なぜスプーンの上で十分冷ましたつもりでも意外なほど熱いままなのでしょうか?

いろいろたくさん溶けているから100度以上になっていたせい?それとも、熱容量(比熱)がサラサラの水よりも大きいの?それとも混ざりにくくて外気に触れる外側の部分だけ温度が下がっていて内部は高温のままだから?

実際のところどうなんでしょうか。

「なぜ、あんかけの食べ物は冷めにくいのか」という日常生活の中の単純な疑問を、徹底的に分析し、とてもスッキリした結論を導いた作品である。  本研究では、液体の温度が下がるのは、蒸発熱が奪われることと、熱の対流の作用によることを、最初に突きとめている。その後、片栗粉を溶かしたあんかけが水の蒸発を防ぎ、粘り気が対流を押さえる効果があることを実験を重ね、確認している。(あんかけはなぜ冷めにくいのか?  [審査員] 秋山 仁 審査評 茨城県龍ケ崎市立長山中学校 理科研究生あんかけ班1年 シゼコン自然科学観察コンクール Supported by Olympus)

ホクホクのお芋さんなら熱い熱いと言いながら口の中で転がして冷ますことができますが、トロミのある液体はそうもいかないからというのが下の説明。

とろみのあるものが熱く感じる最大の理由は、熱いと感じたときに、熱いと感じた場所から簡単に移動してくれないからです。口腔内の粘膜への粘着性が高く熱伝達が良い事も災いします。… とろみがあると熱いと感じても口腔内の粘膜に貼り付いて動いてくれません。空気と混ぜようにもとろみが邪魔をして簡単には混ざってくれません。そのため熱いと感じた場所に長時間接触するので火傷にいたることもあります。(とろみのある食べ物はなぜ熱いのですか? 2011/7/12 10:32:44 YAHOO!JAPAN知恵袋)

自分は熱容量が大きいからということかと勝手に思い込んでいたのですが、そうではなかったようです。

水溶液の濃度と熱容量の関係は多くの場合薄い方が熱容量は大きくなります。水の比熱容量と、水に混合する物質の比熱容量との比較になりますが、水はあらゆる物質の中でも特に比熱容量の大きな物質ですから、一般に混合する物質の割合が少ないほうが混合物の比熱容量は大きくなります。… それは一般に冷めにくさを支配するファクタが熱容量にある訳では無いからです。水の対流のしやすさ、水の蒸発のし易さ、の2つが重要なファクタになります。… コンソメよりもポタージュが冷めにくいのは対流し難いため表面だけ冷めても中が冷めないからだし、ラーメンの汁が冷めにくいのは表面を覆う油が水の蒸発を妨げているからです。熱容量はほとんど関係がありません。(2010/5/622:34:22 飲み物の濃さと冷めにくさについて YAHOO!JAPAN知恵袋

熱容量が大きいものが冷めにくいのは、他の条件が同じならそれはそうなのですが、そもそも水の熱容量は大きいほうだということ。温度を1度上げるのに必要な熱量が熱容量で、1gの物質あたりの熱容量が比熱容量または比熱と呼ばれます。水の比熱は、1gの水を1度上げるのに必要な熱量が1カロリーと定義された歴史的な経緯があるので、1cal/g です。ジュールの単位だと、およそ4.2J/g。

  • 比熱が大きい物質ほど温めるのに必要な熱量が多い。温まりにくい。また冷めにくい。
  • 逆に、比熱が小さい物質ほど温まりやすく、冷めやすい。
  • 比熱が大きい物質ほど熱を貯える能力が大きい。温度変化しにくい。

(引用元:http://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/Physicaldata_water.pdfsubsites.icu.ac.jp

上のサイトの比熱の表によれば、海水(3.9%塩溶液)の比熱は0.94 cal/g (3.97 J/g)で、水よりも小さいんですね。engineeringtoolbox.comにある比熱のリストをみると、トマトスープ(Tomato soup, concentrate)は、3.67 kJ/(kgoC) 、つまり3.67J/gなので水よりも小さい値です。熱い豆腐でやけどしそうになることもありますが、豆腐の比熱はどうなの?と思ったら、豆腐の比熱と熱伝導度を測った論文がありました。これを見ると豆腐の比熱も水より小さいようです。

  • Specific heat of the tofu containing moisture content of 0.33–0.68 (wb) was 2.52–3.69 kJ kg−1 K−1 for temperature range of 10–105°C. 
  • Thermal conductivity of the tofu was 0.24–0.42 W m−1 K−1 for moisture content range of 0.34–0.72 and temperature range of 6–74.2°C.

Determination and Modeling of Thermal Properties of Tofu. Oon‐Doo Baik & Gauri S. Mittal. International Journal of Food Properties Pages 9-24 | 06 Feb 2007  https://doi.org/10.1081/JFP-120016621

水の熱伝導率は0.582 W/m・K(引用元)だそうなので、豆腐もさほど変わりません。豆腐を熱く感じる理由としては、熱容量や熱伝導率といった物理的な性質の違いでは説明できなさそうです。ちなみに牛乳の比熱は3.89 J/gなので(Milk, Whole 引用元)、牛乳が思ったより熱かったとしても、やはり比熱や熱容量のせいにはできません。結局、冷ますときには対流や、かき混ぜる行為が重要なのではないかと思います。パソコンで例えれば、ヒートシンクだけでは不十分なら空冷ファンでCPUを冷やす必要があるのと同じことでしょうか。

 

参考

  1. 研究レポート26 キッチンの熱まわりの科学。(主婦と科学。家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所)熱容量を説明するのにちょうど良いのが「豆腐」!湯豆腐などが「思いがけず」まだ熱くて舌に火傷をしてしまった経験のある方は多いかと思います。これは、豆腐は熱容量が大きくて冷めにくいからなんです。
  2. 物質の粘度が高くなると、熱移動が悪くなるのでしょうか(技術の森)先の方の回答のように対流は滞ります。あんかけは冷めにくいですよね。
  3. 加熱調理と熱物性(PDF)(日本調理科学会誌 Vol. 46,No. 4,299~303(2013)〔講座〕 杉山久仁子)各成分の比熱を表 3 に示す。この結果から,水の比熱が他の成分の比熱よりも大きく,他の成分間では炭水化物が少し小さい値であるが大きな違いは無く,水分を多く含む食品ほど温まりにくいと判断することができる。
  4. In soup, why do tomatoes retain heat longer than other vegetables? (Ask the Van. Department of Physics University of Illinois at Urbana-Champaign)
  5. 熱伝導のはなし http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/ubung/yyosuke/chemmeth/chemmeth.htm
  6. カロリー(ウィキペディア)

 


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