民事裁判の結果
赤とんぼ研究者による教え子不倫殺人事件に関して、民事裁判では刑事裁判の判断とは異なり、「嘱託殺人」ではないという判断になりました。
福井県で2015年、東邦大大学院生の菅原みわさん=当時(25)=が殺害された事件で、嘱託殺人罪で有罪が確定した元福井大大学院特命准教授の男性(48)に遺族が約1億2000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、千葉地裁(高取真理子裁判長)は13日、殺害依頼は真意ではなかったとして計約8500万円の支払いを命じた。(院生殺害、8500万円賠償命令 民事は「嘱託」認めず―千葉地裁 2021年01月13日20時47分 時事ドットコムニュース)
本当に痛ましい事件ですが、大学教員は学生と恋愛関係になるべきではありません。学部学生にせよ、大学院生にせよ、学生からみると教員というのは憧れの存在、無条件に尊敬する存在です。ですから、教員がよっぽど気を付けない限り恋愛感情を抱く学生が出てくることは避けられないと思います。ですから、大学がしっかりと組織として教員と学生との恋愛を許容しないという姿勢を制度的に確立することが必要だと思います。
- 「みわは生きたがっていた」 受刑者側、争う姿勢 遺族損賠訴訟初弁論 東邦大院生絞殺 (2017年5月11日 10:19 千葉日報)2015年3月、赤トンボ研究の教え子だった東邦大(船橋市三山)の大学院生、菅原みわさん=当時(25)=が絞殺された事件で、殺害した元福井大大学院特命准教授、前園泰徳受刑者(44)を相手取り、遺族が総額約1億2223万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、千葉地裁(小浜浩庸裁判長)で開かれ、前園受刑者側は「嘱託殺人と刑事裁判でも認められた。請求棄却を求める。責任があったとしても割合については争う」などと、全面的に争う姿勢を示した。
刑事裁判の結果
赤とんぼの研究者であった福井大学教職大学院特命准教授の男性(44)が、教え子の東邦大学大学院生の女性(25)を殺害した事件の裁判で、2016年9月29日に福井地裁は嘱託(しょくたく)殺人罪を適用し、懲役3年6月(求刑懲役13年)の判決を言い渡しました。これに対して福井地検は「判決内容および証拠関係を精査し上級庁とも協議した結果、控訴しないこととした」と高等裁判所への控訴を断念しました。被告はこの判決を受け入れており、また、10月13日が控訴期限だったため、10月14日をもって福井地裁の判決が確定しました。
殺人罪は、死刑または無期、もしくは5年以上の懲役にあたる犯罪です。しかし、嘱託殺人罪は、被害者が自分の命を放棄しているという点で、通常の殺人罪よりも被害者の生命の保護の必要性が低いことから、軽い法定刑(6ヶ月以上7年以下の懲役または禁錮)が定められています。(弁護士ドットコム 10月4日)
報道によれば、妻子のある赤とんぼ研究者の男性と女子大学院生は、2011年7月に野外調査で知り合い、一ヵ月後には不倫関係になりました。
前園容疑者が2009年から12年にかけて東邦大で非常勤講師をしていたときに、菅原さんと知り合ったとみられる。特に11年8月のある出来事をきっかけに菅原さんは赤とんぼにのめりこんでいく。11年7月31日から8月4日にかけて、菅原さんら16人の東邦大学生が同市内で野外実習を行った。実習の担当者は前園容疑者だった。8月1日に同市内の法恩寺山山頂で菅原さんが羽にマークのついた1匹の赤とんぼを発見した。このマークは以前、平地の水田で羽化したばかりの赤とんぼに前園容疑者がつけたものだった。これが平地から山地に移動する赤とんぼを確認した国内初のケースという大発見で、のちに菅原さんは地元紙の取材に「赤とんぼ1匹で人生が変わった」と振り返っている。… 前園容疑者が書いた13年3月7日付ブログでは「菅原さんが大学院進学を決め、合格しました」と報告し「しっかりしたバックボーンのある『環境教育のプロ』を育てていきたい」と“恩師”として表明。同年11月28日付には同じく前園容疑者が「(菅原さんは)大御所の先生方にもしっかり顔を覚えられており『前園くんの秘書業がすっかり板についてきた』とからかわれたほどです」とつづった。秘書業が板につくほど、2人はいつも一緒だった。…前園容疑者と菅原さんは家族ぐるみの付き合いで、頻繁に同容疑者宅を訪れていたのが目撃されている。(【教え子殺害】赤とんぼ先生 不倫の末か 東スポWeb 2015年03月17日)
女性は事件前に、LINEで〈死ぬのを許されないなら泰徳さん一家を殺す〉〈妻子が消えるなら犯罪者になっても厭わない〉〈(関係を)マスコミにばらす〉というメッセージを送信していました。
被告は、2015年3月、福井県勝山市の路上に止めた車の中で、「殺してくれ」と頼まれたため首を絞めて殺害したと説明しています。
検察側は、菅原さんのこのLINEについて、「自殺するとは考えず、不倫関係の前園被告の気を引くために送信しただけ」と説明し、「家族を失ったり危害を加えられるのを危惧、特命准教授の地位を失いたくないので、犯行に及んだ」と被告を断罪。
判決は、女性が精神的に不安定だったと指摘して、「自殺の意思を有していた可能性は否定できない」「嘱託がなかったと認定するには合理的な疑いが残る」として、殺人罪ではなく嘱託殺人罪が適用されると結論づけました(弁護士ドットコム 10月4日)。
遺族は弁護士を通じてコメントを発表し、「今回の判決の内容は到底承服できるものではありませんでしたので、検察庁は、必ず、控訴するものと信じていました。従って控訴しないという結論は信じられませんし、全く納得できません。このままでは終わらせたくありません。みわがかわいそうです」(NHK NEWS WEB 福井県のニュース2016年10月15日)と述べています。
参考
事件および裁判の経過に関する報道
- 元准教授、嘱託殺人の判決確定へ 懲役3年6月、福井地検控訴せず(福井新聞 2016年10月13日午後5時20分):”福井地検は13日、赤トンボ研究の教え子で東邦大(千葉県)の大学院生菅原みわさん=当時(25)=を絞殺したとして、殺人の罪に問われ、福井地裁の裁判員裁判の判決で嘱託殺人罪を適用して懲役3年6月(求刑懲役13年)を言い渡された、元福井大大学院特命准教授・前園泰徳被告(44)=福井県勝山市=の判決について、控訴しないと発表した。”
- 教え子殺害 “嘱託殺人罪”の判決確定へ (日本テレビ系(NNN) 10月13日(木)22時35分配信):”この裁判は、福井大学大学院の元特命准教授・前園泰徳被告(44)が去年3月、福井県勝山市の路上に止めた車の中で、教え子の大学院生・菅原みわさん(当時25)の首を絞めて殺害したとして殺人の罪に問われていたもの”
- 教え子殺害に嘱託殺人罪を適用 元准教授に懲役3年6月判決(福井新聞 2016年9月29日午後4時10分):”入子光臣裁判長は嘱託殺人罪を適用した上で懲役3年6月(求刑懲役13年)を言い渡した。公判では、菅原さんによる殺害嘱託(依頼)の有無が争点になっていた。”
- 院生遺族怒りあらわ「娘返して」 元准教授被告の裁判で意見陳述(福井新聞 2016年9月21日午前9時15分):”菅原さんの父親、母親、2人の妹が意見陳述した。妹2人は一緒に法廷に立ち「(弁護側の主張で)姉に関し障害という言葉が出て、第三者におかしい人という風に誤解されないか心配だ」と述べた。菅原さんは同被告と出会ってから雰囲気が変わったとし、菅原さんの携帯電話を破棄するなど証拠隠滅を図った同被告に「もう真実を知ることができない。不信感しかない」と怒りを込めた。”
- 院生殺害、被告が語った当日状況 弁護側質問で供述「3度首絞めた」(福井新聞 2016年9月17日午前7時00分):”車に乗り込み、菅原さんを落ち着かせようと車を走らせながら説得を試みたが、車内で菅原さんは「殺してくれないなら(被告を含む家族を)殺します。もう無理です」と繰り返したとした。菅原さんの首を絞めた際、最初の2回はともに菅原さんが失神し、車を動かすと振動で目覚めたとした。2度目の失神から目覚めた後、さらに強く殺害を求められたため、両腕で首を絞めたとし「殺すんじゃなく、楽にしたいという思いだった」と供述した。殺害後、妻に110番通報させ、菅原さんの車にあったドライブレコーダーの記録カードや携帯電話の破棄については「事故死というストーリーにしたいと思っていた」とした。”
- 殺害元准教授と教え子は不倫関係 検察側が指摘、福井地裁初公判(福井新聞 2016年9月12日午前10時56分):”弁護側は不倫関係などは認めた上で、被害者は「常に愛情に飢え、ゼロか100かの極端な考え方に陥ってしまう『境界性人格障害』だった」と主張。「(被告は)何度も自殺を止めてきた。何とか生きてもらおうとしたが、『もう無理です。殺してください』と何度も言われ、被害者の望みを受け入れた」として「依頼に基づく嘱託殺人」と訴えた。”
- 前園容疑者は赤トンボの生態研究で知られ、2009~12年に東邦大(千葉県)で非常勤講師を務めた際に、同大の学生だった菅原さんと知り合った。その後13年から福井大大学院の特命准教授として勤務、勝山市で子供たちに環境教育を行う活動をしていた。周囲から菅原さんは、前園容疑者の助手のような立場と認識されていた。
- 魔王が嘱託殺人を言い出した「赤とんぼ研究」殺人事件(週刊新潮 週刊新潮2015年4月16日号):”「菅原さんから“殺してください。もう無理です”と頼まれた」前園がそう述べたのは3月31日。福井簡裁で開かれた勾留理由開示の法廷でのことだった。…前園は殺害までの経緯を次のように供述している。〈菅原さんは普段から、医師に処方された睡眠薬を服用していた。(事件のあった)3月12日、菅原さんは多量の睡眠薬を飲んで苦しみ、“殺してください。もう無理です”と言った。だから彼女の首を絞めた〉…「被害者が実際に“殺してほしい”と頼んでいた可能性があるとするなら、裁判では、彼女の“真意”がどうであったかということが争点になります」と、筑波大学名誉教授の土本武司氏(元最高検検事)。「例えば激しい口論の中で女性が“もう殺してよ!”と口にしてもそれは彼女の真意ではない。どのような状況で発言が出たのかを見極める必要があるのです」”
- 赤とんぼ准教授は“魔王様” 菅原さんが「フェイスブック」に記述(SANSPO.COM 2015.3.18):”自身のインターネット交流サイト「フェイスブック」には、前園容疑者との関係を頻繁に投稿。大学院への進学前後には前園容疑者のことを“魔王様”とし「魔王様のおつかいで谷津干潟へ」(13年1月)「いきなり魔王様から『明日までに環境教育学会の口頭発表の申し込みしろ。書類チェックするからさっさと送れ』とご連絡をいただいた」(同4月)などと記述していた。…菅原さんのフェイスブックには“魔王様”とする記述以外にも、2011年夏に赤トンボの生態調査実習に参加した以降「前園先生素敵すぎる…」(11年8月)「厳しくて有名な前園先生に褒められるって、めちゃくちゃ嬉しい!」(12年7月)などと、前園容疑者に傾倒していく様子をつづっている。また、長いつららを持った写真とともに「誰も刺す気はありませんが、この時は私があるお方に刺されそうになりました」(14年3月)という書き込みもしていた。”
判決や事件に関する分析
- 教え子の女性を殺害した「赤とんぼ先生」、なぜ「嘱託殺人罪」が適用されたのか?(弁護士ドットコム 10月4日):”検察官は、「嘱託がなかったこと」の証明をしなければなりません。「なかったこと」の証明は通常困難ですが、被告人自身に殺害の動機があったことなどに加え、被害者の生活状況、精神状況、人間関係、経済状況など様々な視点から、『この被害者が自分を殺してほしいなどと依頼するはずがない」という間接事実を証明していくことになるのでしょう。他方、弁護人としては、被告人や関係者の証言などから、被害者に自殺願望があったことや、被告人に対して「自分を殺してほしい」と言っていた可能性を指摘していくことになります。”
- 「これから死ぬ、今すぐ来て」:赤とんぼ先生教え子殺害事件から(碓井真史 | 新潟青陵大学大学院教授(社会心理学)/スクールカウンセラー 2016年9月29日)
教員と学生の恋愛に関する規定
- ハーバード大学、教授と学生の性的関係を「禁止」(AFP BB NEWS 2015年02月06日):”米国の一流大学の一つ、ハーバード大学(Harvard University)は先ごろ、学内のセクハラに関する方針の見直しを実施し、教授に対し、学生と性的な関係を持ってはならないと通知した。見直しを行った同大学の委員会によると教授らは、担当の教員や指導教員であるかどうかにかかわらず、学生と「恋愛関係または性的関係」を持つことが禁じられる。学部生にも大学院生にも禁止は適用されるという。”