ロボットが人間の助けを借りずに東大の入試を解けるくらいに人工知能の研究が進めば、きっといろいろ社会の役に立つ応用があることでしょう。
しかし、なぜ「東大」なのでしょう?
東大は「日本の知性の象徴」であり、この入試問題にロボットが答えることは「クイズに答えることより難しい」。一方では、「京大の入試問題ほどイジワルではない」ことから、チャレンジに適した題材である(公立はこだて未来大学教授の松原仁氏)
東大入試を人工知能に解かせるという設定は、チャレンジングな問題を与えてくれるという点で研究を推し進める原動力になると思われます。その一方で、大学受験をネタにしているために科学技術の問題に止まらず、社会的に影響力を持ってしまうことは免れません。
TWITTERでの反応を見ると、将来人間が知能の高いロボットに職を奪われることを恐れる人々がいます。また、ロボットに対して競争心を抱いて自分はロボットよりも賢いのか劣っているのかを考え始める人もいます。さらに、「ロボットでも入れる程度の大学」、とロボットのレベルを大学の序列化に利用する考え方も見受けられます。
偏差値信仰により日本の大学が輪切り化されているのは非常に由々しき問題ですが、東ロボくんの成績の報道に、この偏差値信仰を助長あるいは容認する姿勢が見られるのが気になるところです。代々木ゼミナール関係者のコメントの引用とはいえ、
「東大の合格は難しいが、私立大学には合格できる水準」だった。(日本経済新聞)
中堅私大よりやや下のレベルであれば十分合格可能(読売新聞)
といった表現を大手の新聞社が行うことは、世間における大学の序列化の風潮を容認しているようなものです。大手の新聞社による報道として果たして適切と言えるのでしょうか?
大学合格の難易度が大学ごとに大きく異なるのは紛れのない事実ですが、私立大学が国立大学よりも入りやすいとか、レベルが高い低いとか、「中堅」などといった言葉遣いは、各大学の関係者に対して失礼極まりない物言いでしょう。
そもそも東ロボくんプロジェクトのリーダーとして研究開発チームを率いている当の科学者が、
『うちの子はこんな大学に合格できるんですよ』って近所の人に自慢してみたい心境です。(NHK)
という発言をしています。子供は親の虚栄心を満たすために大学受験するわけではありません。
東ロボくんプロジェクトのニュースに感心したり面白がったりする人がいる一方で、不快感を示す声もあります。
参考ウェブサイト
- 国立情報学研究所ニュースNo.60 June.2013 (PDFリンク)
- 東大目指す人工知能 模擬試験に挑戦(NHKニュースウェブ11月22日 17時17分):新井教授は「ことしは、どこかの大学について模擬試験でA判定をもらって、来年、再来年はA判定になる大学を増やし、『うちの子はこんな大学に合格できる んですよ』って近所の人に自慢してみたい心境です。でも、今回の模擬試験は、どの科目も難しくて、特に英語が難しかった。きっと東大はE判定だと思う」と 話していました。
- 「東ロボくん」、センター模試の偏差値は45(読売新聞2013年11月23日21時32分):代ゼミの担当者は「中堅私大よりやや下のレベルであれば十分合格可能」と評価した。
- 人工知能が東大模試挑戦 「私大合格の水準」(日本経済新聞2013/11/23 20:06):大手予備校の代々木ゼミナールの判定では「東大の合格は難しいが、私立大学には合格できる水準」だった。
- 【科学朝日】最終回 ロボットは東大に入れるか? 人工知能の挑戦(collaborate with 朝日ニュースター、3月22日放送):やっぱり日本人にとって東大というのは知性の象徴ですから
- 数学の偏差値が合格者平均上回る! 東大合格目指す「ロボット」が快挙(JCASTニュース2013/11/25 18:17)
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