研究インテグリティとは?新たなリスクとは?

新たなリスク

研究インテグリティ(Research Integrity)とは、これまでは研究公正などと訳されてきましたが、最近は、その意味する範囲が拡大しているようです。一つ目の意味は、捏造、改竄、盗用、二重投稿、不適切なオーサーシップといった不正行為をしちゃいけませんよという意味での公正さ。2つめは、産学連携における利益相反・責務相反への対応や安全法相貿易管理等の法令順守に関する公正さ。そして、新たに3つめとして加わったのが、「研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスクへの対応」です。

  1. 文部科学省 科学技術・学術 > 科学技術・学術の国際活動 > 研究インテグリティ

外国からの不当な影響

じゃあ、新たなリスクって何?って話ですが、もう少し突っ込んだ説明を見てみると、

近年、外国からの不当な影響による利益・責務相反や技術流出等への懸念が顕在化。
○米国等主要国では、国際研究協力を重視・大学等の自律性を尊重しつつ、対応策が講じられてきている。
○我が国としても、こうした新しいリスクへの対応とともに、必要な国際協力及び国際交流を進めていくため、国際的に信頼性のある研究環境を構築することが不可欠に。

⇒政府として、研究の健全性・公正性(「研究インテグリティ」)の自律的な確保を目指し、研究者・研究機関等に、透明性と説明責任を求めていく方針を示し、具体的な対応に早期に着手する必要。

(引用元:研究インテグリティの確保に係る対応方針(概要)令和3年12月内閣府科学技術・イノベーション推進事務局)

「新たなリスク」とは、「外国からの不当な影響による利益・責務相反や技術流出等への懸念」だそうです。じゃ、外国ってどこなのと思いますが、上の資料によれば、

2019年以降、中国千人計画参加について虚偽の陳述を行った教授が起訴されるなど、研究者が起訴される事例が相次ぎ発生。

という研究インテグリティが損なわれた事例が紹介されています。例えば中国の活動などが念頭に置かれているようです。じゃあ、中国千人計画って一体何?と思います。

中国千人計画

中国の千人計画は最近ニュースやSNSを賑わせています。中国が世界中から優秀な科学者を大々的に中国に集めて中国で研究をさせることにより、軍事転用を狙っているのではないかと懸念されています。

読売新聞の取材によると、千人計画への参加や表彰を受けるなどの関与を認めた研究者は24人。このほか、大学のホームページや本人のブログなどで参加・関与を明かしている研究者も20人確認できた。‥ 日本政府は軍事転用可能な技術が中国に流出すれば、日本の安全保障環境の悪化につながると強く懸念している。(引用元:中国「千人計画」に日本人、政府が規制強化へ…研究者44人を確認 2021/01/01 05:00 読売新聞オンライン)

 

新たなリスクへの対応:東北大学の実践例

で、文科省は大学に対して、研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスクにどう対応しろと言っているのかと言うと、「令和3年度文部科学省「研究インテグリティの確保に係る調査分析業務」委託業務成果報告書」(2022 年 3 月 国立大学法人 東北大学)なるものを示しています。これは東北大学におけるリスク対応の実践例で、他大学が参考にできます。

ポイント
1.トップマネジメントのリーダーシップの下、既存の体制や仕組みを最大限活用しつつ、一元的に報告・相談できる専門部署の設置など、研究インテグリティに係る全組織的なリスクマネジメントシステムを整備するとともに、適切な研修等を通じて、事務部門も含めて研究インテグリティに関する理解醸成を行う。
2.研究者等(教職員、学生等で研究活動を行う全ての者)に係る基本的な情報を、競争的研究費に係るガイドライン等も踏まえ、既存体制等から確実に把握するとともに、研究者等に対して適切な情報開示を行っている旨の確認を求める。
3.既定の組織内手続の中で情報を収集するとともに、担当事務部門等がレピュテーションも含めたリスクの存在を意識し、リスクが懸念される場合には、一元的な専門部署がサイエンスメリット等も考慮して分析・判断等を行う。(引用元:令和3年度文部科学省「研究インテグリティの確保に係る調査分析業務」委託業務成果報告書 2022 年 3 月 国立大学法人 東北大学)

上の報告書をご覧いただくとわかりやすいポンチ絵があります。

 

参考

  1. 研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について令和3年4月27日統合イノベーション戦略推進会議決定(4ページPDF)
  2. 令和2年度 内閣府 委託事業 研究インテグリティ(Research Integrity)に係る 調査・分析報告書  2021年3月PwCあらた有限責任監査法人(87ページPDF)