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MDPIはハゲタカジャーナルか?MDPIのインパクトファクター(JCR2018)(2019年6月発表)
MDPI社の学術誌に自分の論文を投稿しても良いものかどうか、で悩んでいる人がかなり多いみたいなので、MDPIに関する評判を纏めておきます。
オープンアクセスジャーナルの発行元の一つに、MDPI (Multidisciplinary Digital Publishing Institute)という会社があります。以前はBeall氏にハゲタカジャーナルという認定を受けていたのですが、強行な抗議行動を行ったため、結局Beall’s Listからは外されました。Beall氏の最近の論文を読む限り、彼はBeall’s ListからMDPIを外しはしましたが、MDPIに対する考え方は全く変えていないようです。MDPIがいかに執拗な嫌がらせ行動を仕掛けてきたかを報告しています。
Still others tried different strategies. Some tried annoying university officials with numerous emails and letters, often sent as PDF attachments, with fancy letterhead, informing the university how I was hurting its reputation. They kept sending the emails to the university chancellor and others, hoping to implement the heckler’s veto. They tried to be as annoying as possible to the university so that the officials would get so tired of the emails that they would silence me just to make them stop. The publisher MDPI used this strategy. (What I learned from predatory publishers. Jeffrey Beall. Biochemia Medica 2017;27(2):273–8 PDF)
scholarlyoa.comというウェブサイトにも、MDPIに関して警告を発する記事があります。Stef Brezgovさんいわく、研究者は、
- MDPI社のどの雑誌にも論文を投稿しない Not submit papers to any of the MDPI journals
- MDPIのエディターへのお誘いには乗らない、エディトリアルボードには加わらない、多数ある「特集号」企画のゲストエディターも引き受けない Not accept invitations to serve as journal editors or editorial board members, including as guest editors for the publisher’s many “special” issues
- MDPIのエディトリアルボードに加わっているなら降りる、エディターからも降りる Resign from any MDPI editorial boards they are currently serving on, and resign as editors
ことを勧めています。この記事では、MDPIのそもそもの狙いは、中国の研究者が国際誌に論文発表する必要がある、そのニーズにこたえるために作られたものではないかという意見を紹介しています。スイスに本部があるといってもそこで働く人はほんの数名(about a half dozen)で、中国支部には100人以上もの人間が働いている事実からも、中国人相手のビジネスであることは明らかだろうと解説しています。中国人は、国際誌に英文論文を出すことが昇進のために必要なので、そのニーズに見事にこたえるビジネスモデルだというわけです。
昇進に国際誌に掲載された論文業績が必要というのは、中国に限らず日本もそうです。それが、MDPIビジネスが大躍進しているカラクリでしょう。このウェブ記事の著者は、「サイエンスなんてどうでもいい、インパクトファクターがあるジャーナルに論文を出せればいいんだ」という研究者にはうってつけだと述べています。
MDPIのジャーナルのインパクトファクター
インパクトファクターが4以上あるMDPIのジャーナルを列挙してみます。
- Cancers 6.162
- Journal of Clinical Medicine 5.688
- Cells 5.656
- Pharmaceutics 4.773
- Vaccines 4.760
- Biomolecules 4.694
- Antioxidants 4.520
- International Journal of Molecular Sciences (IJMS) 4.183
- Nutrients 4.171
- Microorganisms 4.167
- Remote Sensing 4.118
- Nanomaterials 4.034
参考
- 2018 Impact Factors Released in the Journal Citation Reports (Announcements from MDPI 20 June 2019 )
MDPIのビジネスモデル
MDPIもジャーナルによってはそこそこ高いインパクトファクターがあるため、もはやハゲタカジャーナルという括りに入れられないでしょう。しかしジャーナルサイトを見ると、非常に多くのレビューアーティクルを掲載しており、MDPIの論文を引用してインパクトファクターを上げるための戦略だとしたら、無批判にインパクトファクターの数字を見て感心している場合ではないかもしれません。下の投稿ではそのような懸念が示されています。
However, it appears they may boost their impact factor by publishing loads of reviews, and possibly by promoting citation of their previously published papers in the reviews they publish. I have no direct evidence of the latter, except that I published in Viruses, and most citations for that review have been from other papers published in Viruses. (MDPI journals redditit.om)
MDPIは大量のレビューアーティクルを掲載していますが、それは、MDPIジャーナル論文を引用することによりインパクトファクターを引き上げる目的ではないかと懸念されているということのようです。
MDPIのビジネスモデルで、もうひとつ重要な戦略が特集号の乱発です。私も特集号のエディターをやりませんか?というお誘いメールをMDPIからよく受け取ります。自分の専門から外れた内容であることが多いので、煩わしさを感じますし苛立ちを覚えます。テキトーに勧誘メールを送り付けているのでしょう。
MDPIのビジネスモデル分析。
各ジャーナルのレギュラーイシューに対して「特集号」が狂ったように多いのがポイント。本当に狂ったように多い。もうひとつは投稿から出版までの期間が異常なまでに短いことで、これも本当に異常。このビジネスモデルは続かないだろうという予想 https://t.co/57YAHrzoBd
— あ〜る菊池誠(反緊縮) (@kikumaco) April 21, 2021
Updated 2021 data on @MDPI special sssues.
8 journals have more than 1000 open special issues.
35 have more than 1 *per day*.
Sustainability has 8.7 *per day*.
This is predatory publishing.
Stand clear of them. pic.twitter.com/1KaVLm2POj
— Paolo Crosetto (@PaoloCrosetto) March 12, 2021
誰がMDPIを認めているのか
東大や京大の研究者もMDPI社のジャーナルに多数の論文を出しているという現実があります。
関連記事 ⇒ PubMed収載MDPIジャーナル一覧:東大京大での一番人気はInt J Mol Sci
MDPIのサイトによれば、MDPIと割引契約を結んでいる研究機関や大学は、理研!、東大!をはじめとして、2研究所、11国立大学、3公立大学、11私立大学、4高等専門学校、合計31機関、それに加えて6学会ありましたので(2021年11月21日閲覧)、以下に紹介します。
MDPI社と契約している研究機関
理研といえば、RIKENで通るくらいに世界に名を馳せている日本最高の研究所なわけですが、その理研がMDPIを認めているという事実をどう受け止めればよいのか。理研でジョブを獲ろうと思えば、ネイチャー、サイエンス、セルなどの超一流誌に論文業績が無い限りお呼びじゃない、そんな日本の最高峰というイメージだったのですが、その理研がMDPIと契約しているというのを知って、脱力。Harvard Universityとか、 Massachusetts Institute of Technology (MIT)とか、Max Planck Society (Max-Planck-Gesellschaft)もMDPIと契約しているから、いいじゃんとでもいうのでしょうか。
MDPI社と契約している国立大学
- 東京大学 University of Tokyo
- 名古屋大学 Nagoya University
- 北海道大学 Hokkaido University
- 九州大学 Kyushu University
- 熊本大学 Kumamoto University
- 岡山大学 Okayama University
- 電気通信大学 The University of Electro-Communications
- 長崎大学 Nagasaki University
- 弘前大学 Hirosaki University
- 九州工業大学 Kyushu Institute of Technology
- 浜松医科大学 Hamamatsu University School of Medicine
”研究及びこれを通じた高度な人材の育成に重点を置き、世界で激しい学術の競争を続けてきている大学(Research University)”による国立私立の設置形態を超えたコンソーシアム「学術研究懇談会」(通称、RU11)を構成する11大学(北海道大学、東北大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、筑波大学、東京工業大学)のうち、東京大学、名古屋大学、北海道大学、九州大学の4大学の名前がMDPI社と契約しているリストの中に見受けられます。
自他共に日本一の研究大学と認める東京大学をはじめとして、これらの大学はMDPIを認めていると理解して良いのでしょうか。MDPIジャーナルに論文を出していながら、”世界で激しい学術の競争を続けている”と言えるのかな‥
激しい学術競争の場が、MDPIジャーナルということ?まさかね。
激しい学術競争に敗れて辿り着いた場所が、MDPIジャーナルだったというわけ?ないわな。
まあ、エラーバーを手作業でずらしてネイチャーに出すくらいなら、ちゃんとした実験結果をMDPIジャーナルに出すほうが、研究者として誠実だと思います(比較にならんけど)。
MDPI社と契約している公立大学
- 東京都立大学 Tokyo Metropolitan University
- 奈良県立医科大学 Nara Medical University
- 徳島文理大学 Tokushima Bunri University
MDPI社と契約している私立大学
- 近畿大学 Kindai University
- 立命館大学 Ritsumeikan University
- 関西学院大学 Kwansei Gakuin University
- 東邦大学 Toho University
- 昭和薬科大学 Showa Pharmaceutical University
- 明治薬科大学 Meiji Pharmaceutical University
- 東京歯科大学 Tokyo Dental College
- 神奈川歯科大学 Kanagawa Dental University
- 吉備国際大学 Kibi International University
- 九州保健福祉大学 Kyushu University of Health and Welfare
- 龍谷大学 Ryukoku University
MDPI社と契約している学会
- 日本マイコトキシン学会 Japanese Society of Mycotoxicology (JSMYCO)
- リモートセンシング学会 The Remote Sensing Society of Japan (RSSJ)
- 日本写真測量学会 Japan Society of Photogrammetry and Remote Sensing
- 日本マススクリーニング学会 Japanese Society for Neonatal Screening
- 日本臨床工学技士会 Japan Association for Clinical Engineers (JACE)
- 陸水物理学会 Japanese Society of Physical Hydrology (JSPH)
MDPIと契約している高等専門学校
- 鈴鹿工業高等専門学校 Suzuka College
- 大分工業高等専門学校 Oita College
- 小山工業高等専門学校 Oyama College
- 都城工業専門高等学校 Miyakonojo College
東北大学
東北大学の研究者の間では、MDPIは、よく投稿しているランキング15位に入っています。
東北大学所属研究者の論文公表 掲載数の多い出版社 上位15社(2016年)
1 Elsevier
2 Springer Nature
3 Wiley
4 Inst of Phys (IOP)
5 Amer Chem Soc (ACS)
6 Royal Soc Chem (RSC)
7 Taylor & Francis
8 Amer Inst Phys (AIP)
9 IEEE
10 Pub Lib of Science (PLOS)
11 Oxford Univ Press (OUP)
12 BioMed Central (BMC)
13 Lippincott W&W (LWW)
14 日本金属学会
15 MDPI
- 国立大学図書館協会 学術情報委員会 学術情報流通検討小委員会 平成 25 年度調査報告 オープンアクセスジャーナルと学術論文刊行の現状 -論文データベースによる調査-
京都大学
京都大学は、MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)社の”Institutional Open Access Program(IOAP)” に2018年5月15日から参加していましたが、IOAP参加は2020年10月31日で終了したとのこと。
MDPI社オープンアクセスジャーナルの論文投稿料割引について
京都大学は、2018年5月15日より、査読付きオープンアクセスジャーナル誌を刊行する MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)社の”Institutional Open Access Program(IOAP)” へ参加いたしました。 これに伴い、MDPI社発行のオープンアクセスジャーナルに京都大学の構成員が論文を投稿する場合、論文投稿料(APC)が10%割引されます。
ありがとうございます。
私の認識はむしろこっちでした。https://t.co/oWo3VkXtI5
京大が認めてるから何だ、と言われれば返す言葉もありませんが。— Naminoama (@Naminoama) June 9, 2020
MDPI社オープンアクセスジャーナルの論文投稿料割引について→【2020年10月31日終了】https://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/bulletin/1378506
この方針変更を反映してか、MDPI社の人気雑誌International Journal of Molecular Sciencesへの投稿量を見てみると、京都大学では2021年に論文数が減少しています。ちなみに東大は増加傾向。両大学のMDPIに対する姿勢の違いが鮮明。
投稿量の10%割引がなくなったくらいで投稿を控えるとも思えないので、これは京大の研究者がMDPIの雑誌を避け始めているあらわれか。
九州大学
オープンアクセス論文掲載料(APC)割引情報 論文をジャーナルに投稿する際に、掲載論文をオープンアクセスにするためには、多くの場合、オープンアクセス論文掲載料(Article Processing Charge : APC)と呼ばれる費用が発生します。本学で機関購読契約をしていることにより、下記ジャーナルでは本学の構成員(教職員・学生)がオープンアクセス論文掲載料の割引を受けることができます(2019年10月現在)。
Multidisciplinary Digital Publishing Institute (MDPI) すべてのジャーナル 本学ではInstitutional Open Access Program(IOAP)に参加しているため、本学構成員がCorresponding Authorの場合、10%の割引が適用されます。(九州大学付属図書館)
名古屋大学
APC割引情報 (2018年9月現在) 名古屋大学の構成員はAPCの割引制度を利用することができます。
Multidisciplinary Digital Publishing Institute(MDPI) (Journal list) APCが10%割引されます。(価格表) MDPIの論文投稿システムにて,「Institutional membership」の画面で「Nagoya University」を選択してください。(名古屋大学)
これからジョブを獲ろうとする若者への警告
上記のように日本のメジャーな研究大学がMDPIジャーナルの割引制度を利用しており、事実上、このジャーナルを認めているように思います(すくなくとも図書館の人は)。MDPIがハゲタカか否かという議論はさておいて、教授がハゲタカジャーナルに論文を出しているからといって、若者がそれを真似してその手のジャーナルに論文を出していいわけではありません。その点を指摘したブログ記事があったので紹介しておきます。
国立大の博士後期課程の友人から聞きましたが、そこでの採用においてはハゲタカ出版社に投稿したことを業績としていることが判明した時点で不採用だそうです。… もう既にテニュアな地位を得た人は国際誌の実績などどうでもいいのかもしれませんが(本当は全く良くない)、これから競争社会に突入していく若手研究者にとっては、国際誌の投稿が生命線になるんだということを認識する必要があります。(上司がハゲタカ出版社に投稿… 2017-04-11 10:00:51 水道研究者の生態)*太字強調は当サイト
大学図書館がMDPIの割引サービスを宣伝しているからといって、その大学の教員採用のコミッティーメンバーの教授たちがMDPIを認めているということにはなりませんので注意が必要です。
ネットの匿名掲示板でも、自分の考えと同様の書き込みがありました。これらの投稿を見ると、MDPIジャーナルをハゲタカ視している大学教員が存在していることが伺えます。
687Nanashi_et_al.2021/04/01(木) 04:32:29.12 うちはハゲタカに出してるっていう理由で当落ラインにいた応募者を落としたことあるよ オープンアクセスっていうだけで毛嫌いする爺さんもいる
688Nanashi_et_al.2021/04/01(木) 05:52:18.71 うちはMDPI出してたら問答無用で落とす
(引用元:【エンドレス】新・教員公募星取り表62【ポスドク地獄】 5ちゃんねる ttps://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/rikei/1612706788/)
MDPI社のジャーナルの評価は月日が経つうちに変わっていくかもしれません。しかし、現時点で認められているのかどうかをシビアに見ておかないと、研究者としてのキャリアアップに影響する恐れがあります。特に、自他共に認める日本有数の研究大学、世界に伍すると自負する研究大学においては、学生を指導する立場の教員にも、大きな責任があると思います。知らなかったでは済まされません。
うちの学部で以前に博士課程の学生の学位論文審査でMDPIの雑誌に掲載された論文が含まれていたことに対して、数人のファカルティメンバーから疑義が唱えられたとの話もあり (引用元:http://flypusher48.blogspot.com/2021/06/ijms.html)
ハゲタカジャーナルを支持する研究者の特徴
上で紹介したBeall氏の論文では、興味深い分析がなされています。いわく、ハゲタカジャーナルに論文を掲載した研究者は、そのハゲタカジャーナルの最大の擁護者になるとのこと。
I was also always surprised at the extent to which researchers who had published in one or more of a predatory publisher’s journals became the publisher’s biggest defender. It’s as if they felt a sense of loyalty to the publisher. (What I learned from predatory publishers. Jeffrey Beall. Biochemia Medica 2017;27(2):273–8 PDF)
ハゲタカ出版社のジャーナルに論文を発表したことのある研究者が、その出版社の度を
越えた擁護者になってしまうことにも常に驚かされました。… 厳密な査読を実施するジャーナルによって論文をリジェクトされ続けた研究者は、論文を受理して出版してくれた出版社を愛してしまうのです。(引用元:ハゲタカ出版社から学んだこと ジェフリー・ビール kulib.kyoto-u.ac.jp)
査読の厳しい他の雑誌でさんざん却下されてきた研究者であれば、自分の論文を受理してくれるハゲタカジャーナルを好きになるのは当然だろうという分析です。
ハゲタカジャーナルが果たす役割
MDPI誌がハゲタカジャーナルかどうかの議論はさておき、ハゲタカジャーナルが科学コミュニティで果たしている役割をジェフリー・ビールさんが端的に述べています。
ハゲタカ出版の出現以来、何万人もの研究者が、修士号と博士号を取得し、学位、その他の資格と認証を授与され、雇用と昇進を受け取り、職に就いたものと思われます。金さえ払えば載せてくれるジャーナルの軽薄なアクセプト体制がなければ、到底達成することができなかったはずの 成功を手にしているのです。
(引用元:ハゲタカ出版社から学んだこと ジェフリー・ビール kulib.kyoto-u.ac.jp)
MDPIジャーナルの使われ方を見ていると、ハゲタカかどうかは別にしても、上の記述と同じような役割を果たしているのは明らかでしょう。
MDPIに対する個人的な印象
私の個人的な体験で言えば、一度関わってしまうとMDPIは分野違いの雑誌・論文でもお構いなくやたらめったら査読依頼をしてくるので、スパム的な活動すなわちハゲタカジャーナルっぽさを感じていた(る)微妙な会社です。私の個人的な印象を裏付けるようなことがネット上でいくらでも見つかるので、紹介しておきます。
- 査読をした経験から言うと、審査は厳しくない。(MDPI は predatory journal か?)
MDPIの査読はかなり緩いようです。下のフォーラムの投稿によれば、自分の学生たちの論文が、サブミッションからアクセプトまでが2週間もかからなかったそう。しかも、それらの論文は他のジャーナルではレビューにすら回してもらえないような内容で、博士課程の中途半端でぽしゃった仕事で、やむにやまれずMDPIジャーナルに出したものだったとのこと。
15 days from submission to first decision is super fast, and in my experience not atypical for MDPI journals. Several of my fellow students have published in their journals as a last resort to publish broken, half finished projects at the end of their PhDs. Work which was rejected without review from other journals was accepted by MDPI journals with no revisions less than two weeks from submission. (reddit.com)
こんな雑誌に出した論文が、業績としてカウントしてもらえて、職が得られたり昇進させてもらえたりするというのであれば、他のジャーナルから蹴られてばかりの研究者にとっては甘美な誘惑になるでしょう。
ジェフリー・ビールの懸念は、「MDPIの大問屋雑誌は何百もの安易に査読された、科学を伝えることよりむしろ昇進や終身雇用(テニュア)を獲得する目的のために主に書かれ、出版されている論文を含んでいる」ことであった[30]。ビールは、MDPIが原稿を募るために電子メールスパムを使用したとも主張した[31]。(MDPI ウィキペディア)
上で紹介したStef Brezgovさんの記事でも、MDPI社の学術誌に掲載されている論文は、サイエンスのためというよりも、昇進人事に必要な論文数稼ぎのためだろうと指摘しています。
I think MDPI’s warehouse journals contain hundreds of lightly-reviewed articles that are mainly written and published for promotion and tenure purposes rather than to communicate science.
厳格に論文を精査しようとしたエディターが、MDPIに辞めさせられたという記事もあります(下記リンク)。個々の研究者は、このような事実関係を知ったうえで、MDPIのジャーナルに自分の論文を出していいのかどうかを判断する必要があるでしょう。
- Open-access journal editors resign after alleged pressure to publish mediocre papers (By Jop de VriezeSep. 4, 2018 sciencemag.org)
MDPIはハゲタカジャーナルなのか?
ハゲタカジャーナルの定義がそもそも明確ではないため、非常に難しい問題です。一般的にハゲタカジャーナルの特徴として論文掲載料がバカ高いことが挙げられますがネイチャー系のオープンアクセスジャーナルもバカ高いのに、誰もハゲタカジャーナルとは呼びません。
また、ハゲタカジャーナルと判断する指標として粗悪な論文が多いということもありますが、ネイチャーやその姉妹紙でも編集長が疑惑論文を撤回しないために、粗悪な論文が放置されています。粗悪なと言う意味は、「実験で得られたオリジナルデータ≠論文の図表で示されたデータ」という意味です。そうなると、もうどっちがハゲタカ?と頭を抱えててしまいます。
関連記事 ⇒東大が会見、医学系5教授は不正なしとする
MDPIの資料(Annual Report 2018)を見ると、出版している雑誌の数が203、Web of Science Core Collectionに収録されている雑誌の数が127、SCIE掲載の雑誌数が54、Scopus掲載の雑誌数が111ということなので、少なくともMDPIが発行する雑誌の半分程度は世の中で認められている、すなわちハゲタカジャーナルとはみなせないということになります。残りの半分弱は、評価が定まらない状態と言うべきでしょう。PubMedデータベースにも多数のMDPI雑誌が収録されています。
関連記事 ⇒ MDPIジャーナルのうちPubMed収録されている雑誌のリスト
- 質問: MDPIの評価について 質問の内容 – MDPIから投稿の依頼がメールで再三にわたり来ておりますが、 MDPIの一般的な評価はどのようなものでしょうか。 お忙しいところ誠にお手数とは存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます。 (過去の質問 2018年11月22日 エディテージインサイツ)
- 当初はハゲタカジャーナルと名指しされリストに掲載されていたものの、現在はOA学術出版社協会に加盟し、リスト上でも雑誌によって「良いもの悪いものもある」という注釈が加えられている。(粗悪オープンアクセス(OA)ジャーナルについて)
- 中国系OA出版社”MDPI”、金目当ての疑い 2014年02月20日
Nature系の雑誌とMDPIの雑誌の間を分ける線すら客観的に引けない以上、Web of Scienceに収録されたMDPIジャーナルをハゲタカ認定することはできません。ハゲタカとハゲタカでないものを分けるのは、その専門分野の研究者の多くがどう考えるか?という主観的な判断だけかもしれません。
FrontiersとかMDPIとかを、ハゲタカとか粗悪とかって括ってしまうのは違和感がある。現在は論文出版形態の過渡期にあり、様々な出版社が模索中である故の混沌状態な気が。例えば、MDPI系列のLife誌のシアノバクテリア特集号なんか、著者リストはオールスター感が溢れているhttps://t.co/GI2gCTlCsi
— サクセスリバーinエイトプリンス (@rei_nari) May 8, 2019
Frontiersも以前Beall氏にハゲタカ認定された過去がありますが、Fronteirsは激しく抗議して、Beall氏の勤務先であるコロラド大学デンバー校に圧力をかけたため、Beall氏は失職の危機に陥りBeall’s listからFronteirsを外し、さらにはBeall’s listそのものもこの世から消えるという事態にまでなりました。私の個人的印象ではなぜFrontiersがハゲタカ視されたのかがピンとこなくて、この件に関してはBeall氏の判断が正しかったか疑問だと感じます。Beall氏のリストの影響力は非常に大きなものがあり、実際に科学者コミュニティに警鐘を鳴らした点で貢献度は多大だと思いますが、ハゲタカかどうかの最終判断は、Beall氏の個人的判断ではなく、研究者の主観の集体によって決まるのではないかと思う事例でした。
関連記事 ⇒ FRONTIERSはハゲタカジャーナルか?
SNSでみるMDPIの評判
MDPIがハゲタカジャーナルかどうかのアンケート調査結果
【アンケート】医学生物学の研究に携わっている方への質問です。
Q. MDPIやFrontiersはハゲタカジャーナルだと思いますか?
— biomedcircus (@biomedcircus) November 22, 2021
MDPIの日本のネットの評判
14 Nanashi_et_al.2018/10/23(火) 20:05:45.17>>15>>59>>67 MDPIのジャーナルって評判どう?
15 Nanashi_et_al.2018/10/23(火) 21:18:55.34 >>14 絶対やめとけ 将来に響くよ
486 Nanashi_et_al.2019/07/30(火) 09:47:06.49 >>484 MDPIもAPCが十数万円したりする 投稿して10日くらいしか経っていないのに受理されたって喜んでるのを見ると不安になるよ
722 Nanashi_et_al.2019/11/26(火) 16:37:08.49 MDPIはビミョーだよなあ 投稿は当然したことないし、今は査読も避けてる。 いままで5件ぐらい査読したけどくそ論文ばかりでrejectしかしていない。
889 Nanashi_et_al.2020/03/16(月) 09:32:06.79>>891 MDPI にだすような奴は軽蔑してるわ。 あそこはクソ雑誌。
890 Nanashi_et_al.2020/03/16(月) 09:50:19.21 サイレポと同じだろ
891 Nanashi_et_al.2020/03/16(月) 19:42:13.48 >>889 普通にリジェクトくらったよ。 もう引退するわ。
(引用元:ttp://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/rikei/1539509705)
693Nanashi_et_al.2021/04/01(木) 12:33:38.32>>709 科研落ちたからもうMDPIでもタカワシでも何でも出してやるよ
694Nanashi_et_al.2021/04/01(木) 15:50:29.49 京大が信じたMDPIを信じろ
696Nanashi_et_al.2021/04/01(木) 17:46:02.03 またMDPI系列のジャーナルから査読来やがった。月1頻度で何様のつもりなんだろ。 真面目に読む気すら起こらんクソ論文ばかりでマジで腹立たしいから一切無視する。
(引用元:【エンドレス】新・教員公募星取り表62【ポスドク地獄】 5ちゃんねる ttps://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/rikei/1612706788/)
自分の研究分野でMDPIが認められているのなら、出せば良いと思いますし、評判が良くないのなら論文をMDPIに出しても研究者として評価されにくくなる恐れがあります。
So anyway, MDPI might have been removed from Beall’s list at some point, and they might have a startlingly high impact factor, but… they definitely seem to still behave like predatory publishers. If you’re thinking of submitting with them, caveat emptor. n/n
— Matt Williams (@matthewmatix) July 30, 2019
下のツイートをした人は、MDPIに投稿するのも、査読を請け負うのも、エディトリアルボードに名を連ねるのも今後は絶対にしないと言っています。エディトリアルボードから外してくれという要求を全然聞き入れてもらえなかったそうです。
I wrote them three emails to get off the editorial board of their journal, Sustainability. But it was only when I tweeted about it that they finally did it. I pledge never to publish an article there again, nor review for them, nor serve on the board of any of their journals. https://t.co/8UfaOpjyaM
— Arun Agrawal (@gotonura) May 16, 2019
雑誌のサイトはちょっと変わってる感じがしますが
Beall’s List of Predatory Journalshttps://t.co/qQrM4SbljN
にはMathematics, MDPIとも入っていませんし,Editorial Board Membershttps://t.co/WZVrgFhgga
にLuc Vinetらが入っているので,安心して良いとは思います— Paul Painlevé@JPN (@Paul_Painleve) April 30, 2019
I’m gonna ask whether publishing in MDPI journals is good or more specifically how is publishing in ‘International Journal of Molecular Sciences’ ? (October 23, 2017 Researchgate.net)
Is the journal ‘Universe’ predatory? (reddit.com)
私なりの結論
- MDPI誌はド大量のジャーナルを刊行しており、そのうちの少なくとも一部はWeb of ScienceやPubMedに収載されていて、インパクトファクターがそれなりにあるジャーナルもあるため、内心どう思っていようとも、もはや、ハゲタカジャーナル呼ばわりを公の発言としてすることは不可能。
- 自分の周囲の研究者の論文業績をよくよく見てみたら、MDPIジャーナルにレビュー論文や原著論文を書いている人が結構いて、もはや、「MDPIってハゲタカなんじゃないんですか?」などといったナイーブな発言はできないことが判明。
- 大量のジャーナルを発行し、査読依頼メールをほとんど無差別に送り付け、安易にエディトリアルボードに勧誘し、安易に特集を組むためのエディターの依頼を送り付けるビジネスモデルってどうなの?と思う(自分の経験です)。科学の進展に真摯に貢献したいという気持ちは全く感じられず、ビジネスをいかにうまくやるかという部分だけが目につく。(完全に個人的な印象です)
- 過去にBeall氏のハゲタカジャーナルリストに載っていたこと、ネットの評判からわかるように今でもハゲタカジャーナル視する研究者は少なからず存在するため、投稿先として選ぶには、注意を要する。
- 査読がかなり緩くて、大学生のへっぽこ卒研レベルの、他の雑誌では絶対出せないデータでも論文として出せそう(これは自分の査読経験や、ネットの評判に基づく考え)。
- これから研究者としてPIの職を獲ろうとしている若者には、個人的には、絶対に勧めない。
- すでにパーマネントの職(助教、講師、准教授、教授)についていて、その大学内部において職の維持や昇進のためにとにかく論文の数が必要というのであれば、大いに助けになる雑誌。これは、Beall氏が指摘している通り。しかし、この状態は科学の発展にとって、あるいは研究業界の在り方として、決して望ましいものではない。
- 東大や京大で科研費基盤研究(A)を採択されているような研究者が論文投稿してよい雑誌だとは、個人的には、到底思わない。
- 個人的な好みとしては、MDPIジャーナルに出すくらいならBMC系の雑誌、Froniter系の雑誌、Scientific Reports, PLoS ONE、あるいは他の中堅専門誌のオープンアクセス姉妹紙などを選ぶ。ちなみにFroniterもハゲタカ認定された過去があったそうで、時間が来ると悪い評判も風化するのかも 関連記事 ⇒ FRONTIERSはハゲタカジャーナルか?
- 世の中にはネイチャーに出したから凄いと反応するような人が多い(というかほとんどみんながそう)。出す雑誌でその人が評価される。ネイチャーの対極に位置する雑誌に関しても、同様の見られ方をする恐れがある。
- 研究者の善意(非常に短期間で論文を読み込んで査読コメントを返すなど)の上に成り立っている論文出版ビジネスなのに、査読コメントを無視して受理の決定をするのであれば、研究者の善意を踏みにじっている/搾取している。そういう意味ではまさにハゲタカジャーナルという指摘が当たっていると感じる。そんなわけで、MDPIから来た査読依頼は、自分は基本的に断ることにしました。
- MDPIに論文を出してハッピーに生きている研究者もいるので、人は人、自分は自分だと思う。
- MDPIが仮に当初ハゲタカジャーナルだったとしても、ビジネスが上手くて、「餌」(ニーズを満たしてくれるサービス)をばらまいてみんなを取り込んでおり、MDPIに投稿している人がいい加減な人かというと、決してそんなことはなくて、自分の身の回りを見渡すかぎりごく普通の真面目な研究者ばかり。つまり、じょじょに受け入れる人が増えていけば、やがてかつてハゲタカ呼ばわりされていたことはみんなの記憶から消えていくのではないかと思われる。戦争を知らない子供たちが大人になっていくように。
- 研究者には2つのタイプがいる。MDPIに論文を出す人と、MDPIに出さない人と。研究者としての自分の居場所を見つけることができた人(=パーマネントポジションを得た人)は、MDPIに出そうが出すまいが、どっちでもいい話。居場所これから見つけようと奮闘している人は、とりあえずMDPIは避けて通ったほうが無難。
研究者は置かれた立場がそれぞれ異なるので、MDPIに出すのも正解だし、MDPIに出さないのも正解というところに落ち着きそうです。
良いジャーナルに論文を出すための英文論文執筆の教科書
Adrian Wallwork 『ネイティブが教える 日本人研究者のための論文の書き方・アクセプト術』世界中で使われているノンネイティブのバイブルが待望の邦訳。これほど網羅的で深い示唆を与えてくれる指南書はほかにない。ネイティブの思考・語感で、ワンランク上の論文に! そのまま使える論文英語表現を580例も掲載!(講談社サイエンティフィック 書籍紹介 より)