研究目的が曖昧なまま実験を続ける大学院生、仮説をもたずに研究している研究者、実験結果を得ていないのにグラフを作成してしまうトンデモナイ人、考察が書けずに悩む人、次の研究テーマが思い浮かばない人など、研究の現場にはさまざまな悩みや問題を抱えた人たちがいます。いまいちど、中学校の理科の教科書に立ち戻って、研究の進め方に関する基本事項を再確認してみるというのはいかがでしょう?
以下、中学校1年生の理科の教科書(教育出版)の最初の数ページから、一部を抜粋して引用・紹介します。
理科学習の進め方
進め方1 疑問を持つ
はじめに、不思議に思ったことや疑問に思ったこと、知りたいことなどをはっきりさせておきましょう。進め方2 課題を設定する
知りたいことや調べたいことがはっきりしたら、これから取り組む課題を設定しましょう。進め方3 仮説をもち、計画をたてる
課題がきまったら、自分はその課題に対してどのような考えかたをもっているか、どのようにしたら自分の考えが正しいかどうかわかるのかを話し合いましょう。 自分の考えは仮説としてノートに書いておき、調べたあとで振り返ることができるようにしておきましょう。進め方4 観察や実験を行い、結果を得る
自分で立てた計画に沿って、実際に観察や実験を行い、得られた結果は、あとで考察しやすいように表などにまとめましょう。また、結果をグラフに表すと、知りたいことがわかりやすくなる場合があります。進め方5 得られた結果をもとに考察する
観察や実験が終わったら、得られた結果からどのようなことがわかるか、そして、自分の立てた仮説は正しいといえるか、考察し、自分の考えを発表しあいましょう。進め方6 新たな疑問から、さらなる課題へ
みんなの考えがまとまり、設定した課題が解決したら、観察や実験を行ってわかったことが、次にどのように役に立つのか考えましょう。また、調べてみて、新たな疑問が生じたら、次の課題を設定して、さらに調べていきましょう。
(中学校理科1 教育出版 文部科学省検定済教科書 中学校理科用 17教出 理科731 平成28年度 2~6ページ)
日本の中等教育の教科書は科学的な態度を育むように書かれています。高校の教科書にも、研究の進め方が解説されています。以下、啓林館の「生物基礎」から一部を抜粋して紹介。
●私たちの探求活動●
仮説を立てずに観察・実験する方法もありますが、ここでは仮説を設定する方法で考えます。
<課題の発見>
最初は自然現象をよく観察することです。疑問を生み出す方法を紹介します。まず比較という方法があります。.. 5W1Hを活用する方法もあります。「何が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」のパターンで疑問をつくってみます。 .. この課題でやろうと思ったら、同じテーマですでに研究されているかどうかを調べてみます。
<仮説の設定>
仮説を設定します。考えつく限りの仮説をあげていましょう。仮説が立ったら、その仮説は、どのような観察や実験を行えば証明できるのかを考えて実験・観察を計画します。実験・観察から得られる結果から、立てた仮説が論理的に導かれるように計画する必要があります。
<観察・実験>
観察・実験で大切なことは「再現性」です。 .. 因果関係を調べるときには「対照実験」の設定も必要です。対照実験とは、比較のために対象とする条件以外を同じにして行う実験のことです。 ..
<結果の記録と処理>
結果の記録は正確に行うように心がけます。 ..
<考察>
実験などの結果かが仮説の正しさを証明したかを考察します。結果が仮説と矛盾しないかを考えます。ひとつの仮説を検証すると、そこから新しい疑問や課題が生じてくるものです。また明らかになった知見が、これまでに知られていることとどう関係するかも考える必要があります。 ..
<報告書の作成と発表>
研究したことは報告にまとめて、発表するようにしましょう。 ..
(引用元:啓林館 平成30年度 生物基礎 改訂版 本川達雄 谷本英一 編 (10~11ページ) 61啓林館 生基315 文部科学省検定済教科書 高等学校理科用)
中等教育(中学、高校)でも、高等教育である大学でも、サイエンスの基本はまったく同じです。たとえば、放送大学「自然科学はじめの一歩」の授業内容の説明には、
実際の科学研究は分野によらず、問いを立て、仮説を設定して検証し、結論を導き出すという一連の作業を通して進行する。さらに文献調査、論文執筆といった作業が伴う。(放送大学「自然科学はじめの一歩」第15回 自然科学の展望:さらなる一歩へ向けて)
とあります。放送大学の放送の中では、子供の自由研究と科学者が行う研究との違いは何でしょうか?実はやっていることはどちらも変わらないんです。ただし、プロの研究者は、自然界に関する新しい知識を作り出してそれを人類で共有するために論文発表をする、それが唯一の違いですと解説されていました(主任講師: 岸根 順一郎 2017年7月22日放送 第15回 自然科学の展望:さらなる一歩へ向けて)。
このように日本の理科教育では、研究がいかにして進められるかに関してしっかりと教えるようになっています。ところが、肝心の、プロの研究者を育てる場であるはずの大学院においては、仮説に基づいて実験するという当たり前の態度がなぜかないがしろにされている研究室が散見します。中学や高校での理科教育で強調されてきたことは、研究の現場である大学院でも実践されて然るべきでしょう。