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東大が民間英語テストに関する答申を公表

追記

東大が民間試験のスコア提出を受験に義務付けないことを発表しました。国からの圧力で二転三転した東大ですが、現状の民間試験導入に反対する態度を明確に表明したといえるのでないかと思います。

東大、英語民間試験を義務付けず 20年度からの2次試験

東大が、2020年度からの「大学入学共通テスト」の英語で導入される民間検定試験について、2次試験では受験生に得点(スコア)の提出を義務付けない方針を決めたことが25日、関係者への取材で分かった。一定の英語力を出願資格として求めるが、民間試験のスコアだけでなく、高校の調査書などで実力が証明されれば代用可能とする。近く発表する。共通テストの英語は最初の4年間、従来型のマークシート式試験と、「読む・聞く・書く・話す」の4技能を測る民間試験が併存する見込みで、大学入試センターは今年3月、英検(新方式)など7団体の8種類を認定した。(共同通信 2018/9/25 23:47 9/25 23:48 updated)

 


 

文科省や国立大学協会が、センター試験の英語に代えて認定民間英語試験の利用を大学に強要するのは、暴挙としか思えません。例えば、実績ゼロの(これからスタートする)新しい英検(4技能テストを1日で実施)を認定するなど、実績があることを認定基準としていたことに矛盾しますし、TOEICのように高校の英語教育とはかけ離れたビジネス志向の民間英語試験が認定されたのも不適切でしょう。GTECのスピーキングテストで隣の受験者の音声が聞こえるなど、スピーキング試験を適切に実施することの困難さは、ツイッターなどでさんざん指摘されています。

性格が大きく異なる民間試験を複数認定して、スコアの換算を用いて入学者選抜に利用するのは、大学入試の公正さを著しく歪める恐れがあります。問題山積の民間試験導入を拒否した東大が、これまでに、文科省からの圧力のせいなのか態度を二転三転させて、受験生や高校生、高校教育に携わる先生方を不安に陥れているのが現在の状況ではないでしょうか?

そんな東大が、今後の方針を決定する際に非常に大きな手がかりとなるであろう「答申」を公表(PDFリンク)しました。ワーキンググループが議論した結論を東大総長に答申した形ですが、そもそもこのワーキンググループは東大の先生たちなので、これは東大が今、民間試験の導入に関して何を考えているかを表す非常に重要な資料です。報道によれば、

東京大学は14日、2020年度から始まる大学入学共通テストの英語で導入される民間資格・検定試験を合否判定に使うかどうかについて、白紙に戻して検討することを明らかにした。東大は今年3月に民間試験を使わない方針を示したが、4月には一転して活用すると発表していた。(大学入試 東大「白紙に戻し検討」 20年度、英語の民間試験活用  毎日新聞2018年7月15日 東京朝刊)

白紙に戻すという態度の表明ですが、自分が中身を読んだかぎり、いろいろな可能性を残しつつも「使わない」という方向に持っていきたい気持ちが強く感じられます。

 

以下、主観的なコメントを交えながら、この答申を読んでみたいと思います。自分の興味で一部をピックアップして紹介してますので、全文は(PDFリンク)でご覧ください。

 

入学者選抜方法検討ワーキング・グループのメンバー

(敬称略)(答申 PDF Page 14)

  1. 座長:石井洋二郎 理事・副学長
  2. 委員:福田 裕穂 理事・副学長
  3. 委員:岩村 正彦 法学部長
  4. 委員:石田 淳 教養学部長
  5. 委員:小玉 重夫 教育学部長
  6. 委員:中澤 恒子 教養学部教授
  7. 委員:伊藤 たかね 教養学部教授
  8. 委員:高橋 和久 高大接続研究開発センター特任教授

この答申書は東大はどうするのか?を結論付けたものではありません。あくまでも議論のたたき台として、複数の提案を行なっており、それらの提案にいたった考え方や根拠、その提案を実行するにあたっての条件(文科省や国立大学協会への要求など)などが述べられています。

 

東大の選択

ワーキンググループは東大が民間試験導入に関して行なう選択の可能性として、3つ案を示しました(答申 PDF Page 1)。

提案1:出願にあたって認定試験の成績提出を求めない。

提案2:認定試験をめぐる諸課題への対応について文部科学省ほか関係機関からの具体的かつ詳細な説明を受け、十分に納得のいく回答が得られたらその時点で認定試験の活用可能性について検討する。

提案3:認定試験の A2 レベル以上の結果を出願資格とするが、一定の条件のもとに例外を認める余地を残し、可及的速やかに具体的な要件を定める。 

これら3つは同じ重さではなくワーキンググループは(答申 PDF Page 2)、

WG としてはこれら 3 つに 1~3 の優先順位をつけて提案する

提案1すなわち「出願にあたって認定試験の成績提出を求めない。」、つまり、民間の認定試験の成績を使わないことを優先的な提案であると位置づけました。おおざっぱにいえば、

使わない(3月10日)→使う(4月27日)→使わない(7月12日)(今ココ)

と態度が変わってきたといえます。東大受験を考えている高校生にしてみたら、たまったものではありません。文科省や国立大学協会との間の綱引き(?)で最終的にどっちに転ぶのか、注目されます。

 

東京大学の入学者選抜方法:出願資格

そもそも、東大は現在どうやって入学者を選抜しているのかが、この答申の中で説明されています。自分は初めて知ったのですが、出願資格の確認として、センター試験の受験の事実が使われています。当たり前すぎるような気もしますが、このように段階的に考えることは、今回の民間試験導入の道理の有無を議論するうえで重大な意味を持つことが答申を読み進めるとわかります(答申 PDF Page 2)。

本学の一般入試は 3 段階で行われている。
(1)出願資格の確認
(2)第 1 段階選抜:大学入試センター試験の成績による
(3)第 2 段階選抜:第 1 段階選抜の合格者を対象として第 2 次学力試験を行い、その成績と大学入試センター試験の成績とを総合して判定する(理科 3 類のみ、面接試験の結果を総合して最終合格者を決定)
このうち(1)については、直近の「平成 30 年度東京大学入学者選抜要項」では「高等学校又は中等教育学校を卒業した者及び平成 30 年 3 月卒業見込みの者」(あるいはこれに準ずる学習歴を有する者)で「大学入試センター試験のうち、本学が定める教科・科目の全てを受験した者」を、一般入試の出願資格者として定めている。(答申 PDF Page 2)

このことに関しては答申では、念押しして確認しています(答申 PDF Page 2)。

ただしセンター試験に関しては「本学が定める教科・科目の全てを受験」していることのみが出願資格の要件であり、一定水準以上の成績を収めていることを条件とはしていない。すなわち、上記(1)はあくまでも(2)の対象となる資格を確認することが目的であり、この段階で成績による実質的な「選抜」を行うことはしていない。

この点が、国立大学協会の考えかたと食い違ってくるので重要なポイントになります。下に抜き出したように、「一定水準以上の認定試験の結果を出願資格とする」という部分は、東大の上の出願資格でセンター試験の成績をひとまず考えないという方法との間にズレが生じています。(答申 PDF Pages 2-3、太字強調は当サイト)

一方、国立大学協会(以下「国大協」と言う。)は、2018 年 3 月 30 日に「大学入学共通テストの枠組みにおける英語認定試験及び記述式問題の活用に関するガイドライン2」を公表し、英語については「認定試験を「一般選抜」の全受験生に課すとともに、平成 35 年度までは、センターの新テストにおいて実施される英語試験を併せて課す」とした上で、「①一定水準以上の認定試験の結果を出願資格とする。②CEFR による対照表に基づき、新テストの英語試験の得点に加算する」という 2 つの選択肢を提示し、その「いずれか、または双方を組み合わせて活用することを基本とする」としている。…

また、国大協は同年 6 月 12 日に「大学入学共通テストの枠組みにおける英語認定試験及び記述式問題(国語)の活用に当たっての参考例等について3」を公表し、「2.英語認定試験」の項目で、活用方法についてはあくまで「各大学・学部等が主体的に判断すべきものである」としながらも、出願資格とする場合(①)のレベル設定は「CEFR 対照表に基づき、その一定水準(例えば A2)以上を受験資格とすることが考えられる」と述べ、加点方式とする場合(②)、及び出願資格と加点方式を併用する場合(①+②)についても、それぞれ具体的な参考例を掲げている。

国立大学協会の提案と食い違う点を利用して、民間試験の成績を利用しないことの正当化にうまいこと持ち込んだという印象も否めないです。この点を突いて、東大の入学者選抜に関する大原則に矛盾するという論法です(答申 PDF Page 3)。

以上の国大協の方針に従って、本学が①の選択肢をとり、「参考例」に従って A2 以上の水準を設定した場合を考えてみると、この措置はこれまで出願段階においては勘案してこなかった「成績評価」という新たな要素を、しかも英語という特定の科目についてのみ付加することを意味する。これは従来の出願要件を満たす「すべての者に門戸を開」いてきた本学にとって、きわめて大きな方針変更になると思われる。

さきほどから出てくるは「CEFR 対照表に基づくA2レベル」がどれくらいの英語力なのかということが気になりますが、対照表をみると、実用英語技能検定(英検)で準2級の上位または2級の下位に相当するので、東大の受験生の英語力からすれば、まったく難しくないレベルだと思われます。そのため答申のこの部分にどれくらいの説得力があるかは自分には不明ですが、英語が不得意な人が不利になるのが良くないという議論です(答申 PDF Page 3)。

この基準をそのまま出願資格に適用すれば、他の教科においてはきわめて優秀であるのに英語だけは苦手な受験生が、その一事をもって最初から排除されてしまう恐れがある。

民間英語の認定試験の成績を求めないという方針は、国立大学協会の意向と真っ向から対立します(答申 PDF Page 4)。

したがって、WG として優先順位第 1 の選択肢として提案したいのは、少なくとも当面は「出願にあたって認定試験の成績提出を求めない」というものである。これは「認定試験を「一般選抜」の全受験生に課す」という国大協ガイドラインの基本方針とは相容れない提案であるが、そもそも学部入試を行う 82 の国立大学は教育目標も学生に求める資質も一様ではないはずなので、例外をいっさい認めないような文言で全国立大学を拘束すること自体が適切ではないと思われる。

しかし、多様な学生を入学させるべきであるという大義名分の下では正論だと思います。

 

文科省と国立大学協会との間のズレ

民間導入を直ちには行なわなくても良いという根拠を東大が探すときに、文科省の「指導」と国立大学協会の「指導」との間にズレがあるせいで、ややこしいことになっています。(答申 PDF Page 4、太字強調は当サイト)

文科省が 2017 年 7 月 13 日付で公表した「大学入学共通テスト実施方針9」では、共通テストの英語試験(従来のセンター英語試験)は平成 35 年度(2023 年度)まで実施し、「各大学の判断で共通テストと認定試験のいずれか、又は双方を選択利用することを可能とする」とされている。この方針は今日まで変更されていないので、認定試験を利用せずに共通テストのみを用いるという WG の提案1は、これに抵触するものではない10。

しかるに国大協は、2017 年 11 月 10 日付で公表した「平成 32 年度以降の国立大学の入学者選抜制度―国立大学協会の基本方針11」に「認定試験を「一般選抜」の全受験生に課す」という文言を盛り込み、これをそのまま最終的なガイドラインまで踏襲してきた。

この方針を打ち出すことで、国大協はいわば自ら文科省の実施方針を一歩踏み越えた選択をしたことになる。

 

東大から国立大学協会への要望

東大が民間試験の成績を使わないとなると、それは国立大学協会の指針に背くことになるため、背反行為の事実を作らないようにするため、その指針を緩めてほしいと東大が依頼しています(答申 PDF Page 4)。

国大協が任意参加の団体である以上、その決議事項に厳密な意味での強制力はないはずであるが、それでも正当な手続きを経てなされた合意に反する行動をとるのは、東京大学として決して望ましいことではない。そこで WG としては先の提案1と併せて、「2.英語認定試験」の(基本方針)に「原則として」という言葉を加えること、具体的には以下の通り、「国立大学としては」の後にこの一言を付加することを、東京大学として国大協にあらためて求めることを提案する。

下の文を読むと、東大は国大協の顔をつぶさいよう、国大協の見解に反する行動ではないという根拠を懸命に捜し求めているように見えます(答申 PDF Page 5)。

もし以上の変更がもはや認められないということであれば、WG としてはガイドラインの「基本方針」「……を基本とする」といった記述の枠内にあるものとして提案1をとらえることとしたい。

あくまで、「基本方針」なのだから、基本から外れても反することをしたとはいえないよね、というロジック。国大協へのリスペクト溢れる釈明です。

 

スピーキング試験実施の困難さ

さて、提案2が何だったかをもう一度おさらいすると(答申 PDF Page 1)、

提案2:認定試験をめぐる諸課題への対応について文部科学省ほか関係機関からの具体的かつ詳細な説明を受け、十分に納得のいく回答が得られたらその時点で認定試験の活用可能性について検討する。

わかりやすく言えば、こんな問題噴出の民間試験なんて使えるか!ということでしょうか。提案2の背景と理由のセクションには、東大の考え方がいろいろ述べられていて読んでいて大変面白いものです。

まず、グローバリゼーションへの対応(答申 PDF Page 5、太字強調は当サイト)。

「グローバル化」という常套句でしばしば語られるように、国境を越えたヒトやモノの移動が常態化しつつある現代社会においては、加速する社会の変化に応じて、大学もまた変化していかなければならないことは論を俟たない。

東大はエリートを育てる大学だと自負しています(答申 PDF Page 5、太字強調は当サイト)。

本学は科目別に「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」も公表しており、その「外国語」の項目には「現代社会において、市民的エリートとしての責任を果たそうとすれば、英語力が重要な要素であることは明らかでしょう」、「自分の述べたいことを正しく英語で表現できる発信力が不可欠なこともまた明らかです。

東大は英語での表現力としてのスピーキングを重要視してはいるが、スピーキングテストを実施するのは技術的に困難であると説明しています(答申 PDF Page 5)。

「自分の述べたいことを正しく英語で表現できる発信力が不可欠なこともまた明らかです。英作文の問題が出されるのはこのためであり、現在、「話す」能力の試験を課すことができないのはもっぱら技術的な理由によります」という記述がある14。すなわち、本学は英語の発信力を重視しており、できればスピーキングテストも課したいが、もっぱら技術的な理由でできないという意味のことを述べているのである15。

私は、いかがわしい(=官民癒着が疑われる)民間試験の導入などせずに、実績があり評価の確立している現行のセンター試験にスピーキングを加えればいいだけじゃないかと思っていたのですが、東大も同じ見解でした(答申 PDF Page 6)。

理想的に言えば、第1段階選抜における大学入試センターの英語共通試験にスピーキングテストを導入することが最も望ましい形であろう。

スピーキング試験を実施することは受験者の人数を考えるときわめて困難で、実際に、韓国での失敗例が紹介されています。(答申 PDF Page 6、太字下線強調は当サイト)。

しかし文科省も「「高大接続改革」に係る質問と回答(FAQ)16」で認めているように、「大学入試センターにおける英語の 4 技能試験の実施は、特にスピーキング(「話す」)について、約 50 万人の受検生を同時に評価することは困難である」。実際、韓国では 60 万人の大学受験生を対象に、2006 年に実用英語(スピーキングとライティング)の能力を測る国家的英語能力テストの開発を発表したが、膨大な予算を投じて何度もプレテストを実施したにもかかわらず、採点での大量の計算ミスやシステムの不具合が生じたため、2014 年には最終的に計画を中止したという前例がある17。

東大は狭き門とはいえ、受験者数はそれなりに多いので二次試験でのスピーキング導入もやはり技術的に困難なんだそうです(答申 PDF Page 6)。

では東京大学が第 2 次学力試験で独自にスピーキングテストを実施できるかといえば、9000 名を超える受験生を対象にそうした試験を行うことが技術的に不可能であることは前述した通りである18。

 

認定民間英語試験導入の問題点

今でこそ民間試験の成績利用を東大に迫っている国立大学協会ですが、もともと、国立大学協会自身が民間試験の問題点を追及していた側でした。(答申 PDF Page 6、太字強調は当サイト)

ここで思い出しておかねばならないのが、文科省が 2017 年 5 月 16 日付で公表した「高大接続改革の進捗状況について19」という文書に対して、国大協が同年 6 月 14 日に公表した意見表明20である。そこでは「各大学の入学者選抜において、認定試験の結果を具体的にどのように活用するかを検討するためには、次の点について、早急に更なる詳細が示されることを求める」として、「認定の基準及びその方法」、「学習指導要領との整合性」、「受験機会の公平性担保、受験生の経済的負担軽減等の具体的方法」、「異なる認定試験の結果を公平に評価するための対照の方法」の 4 項目が挙げられていた。

これらの問題点が指摘されているのに、誰もちゃんと答えられていないというのが現状です。それにもかかわらず民間試験導入を強行しようとしているから、暴挙なのです。

 

性格の異なる民間試験

もともと大学入試のために使う目的で開発されたわけではない民間試験を大学入試で使おうとするからおかしなことになります。入試に代替するのに問題ないのは、海外の大学や大学院で要求されるTOEFLくらいではないでしょうか。入試改革の目玉であるスピーキングテストですが、民間試験によってあまりにも大きな違いがあることが答申で指摘されています(答申 PDF Page 7)。

スピーキングテストの結果はその方法が「録音」か「面接」かによって左右される可能性が高いし、同じ面接でも、たとえば B1 レベルに対応する英検 2 級のスピーキングは 7 分間であるのに対し、IELTS では 11~14 分と、1.5 倍から 2 倍の時間を費やしている。そして IELTS では最初の自己紹介や日常会話のパートの後、同一のトピックについてスピーチとディスカッションが 7~9 分行われるのに対し、GTEC (Basic, Advanced 共通)では、解答時間が 10 秒から 1 分までの問題を全部で 12 問答える「細切れ」の出題であるといった具合で、これらすべてを一律の基準で判断することはとうていできない。

 

民間英語試験の質をどう担保するつもりか

民間試験の実施体制は、民間団体ごとに大きな違いがあると思います。その場合、試験当日の実施体制や採点などの公正さがどう保障されるのかが明らかではありません。以前ツイッターで話題になりましたが、帰国子女が英検の面接試験(スピーキング)を受けると、日本人の試験官の英語の発音があまり良くないことがあり、そうなると試験そのものに影響を及ぼしかねません。現状ですらこうなのに、これから大量のスピーキングの試験官を動員した場合に、一体どれくらい公正な採点や試験官の質の高さが保障されるのでしょうか?(答申 PDF Page 8)

大学入試における出題ミスや問題漏洩などの不正を絶対に避けなくてはならないことは自明であるにもかかわらず、多くの認定試験が個々の問題を公開していない現状では、これを検証することは不可能である。また、試験の回数や会場(スピーキングにおいては試験官)の増加などの努力が、試験の質や公平性の維持を危うくする可能性も否めない。こうした点について文科省、あるいは大学入試センターが責任を持つ統一的な検証や問題解決のシステムを持たぬまま、これを「共通」試験として全国の受験生に課していいものであろうか。

 

不安に陥れられる受験生

中高一貫校などの生徒は特に、長い年月、大学受験を意識して過ごすと思いますが、入試制度をこれほど性急に劇的にいじるのは、受験生の不安を煽り、高校の英語教育にも混乱を生じさせると思います。やり方が強引で、筋が通っておらず、十分な議論の積み重ねもなく、無責任極まりない話です。(答申 PDF Page 8)

大学側としては、明確な解決の見通しが立たないままに認定試験活用の決定を急いで受験生の不安や混乱を拡大するわけにはいかない。本来であれば、こうした諸課題について十分な対策が講じられていることが確認されてから実施時期を決めるべきであろう。

2020 年という実施時期の設定にいかなる合理的な根拠があるのかは必ずしも明らかでなく、拙速という批判もしばしばなされてきた。大きな改革を進めるに際してはある程度のスピード感が必要であることは事実だが、中途半端な状態で見切り発車をすれば、結局、迷惑を被るのは受験生であることを忘れてはならない。したがって、認定試験に関する諸課題への明確かつ具体的な対応が確認されない限り、本学としての判断は留保せざるをえないと考える。

 

東大から文科省への要求

提案2に関連して、東大は文科省へ説明を求めました(答申 PDF Pages 8-9)。

〇語彙、文法等、あらゆる観点から見て、高等学校学習指導要領との整合性がどのように満たされているのか、検証結果の詳細を示していただきたい。

〇個別の認定試験が示している点数とCEFR換算表との対応を横断的に比較・検証し、異なる認定試験の換算結果どうしを同一基準で比較し得るとする根拠を説明していただきたい。

〇スピーキングテストの実施体制や採点体制が、公平公正の観点から見て十分に信頼できるとする根拠を説明していただきたい。

〇大学入試センターが各実施主体に対して「今後一層の取組を求めたい事項」として挙げている 3 つの点(検定料、試験実施会場、障害等のある受検生への合理的配慮)について、それぞれ具体的にどのような対策が準備されているかを示していただきたい。

 

提案3に関する背景・理由説明の中にも、東大の入試システムに対する考え方が述べられていて、受験関係者には興味深いと思います。

東大2次試験に関する東大の考え方

(答申 PDF Page 9、太字強調は当サイト)

本学はあらかじめ各科類ごとに第 2 段階選抜対象者の倍率を公開しており、入学志願者が予定倍率を超えた場合は大学入試センター試験の成績によって第 1 段階選抜を行うことにしているが、これは第 2 段階選抜において記述式を中心とした学力試験を実施するために必要な、やむをえざる措置である。記述式試験の採点は 1 枚 1 枚の答案と真摯に向き合い、丁寧に対話することではじめて可能になる作業であり、そのためには採点者が膨大な時間と労力をつぎ込まなければならない。おのずから、一定期間内で採点可能な答案枚数は限定される。そのために設定されているのが第 1 段階選抜による予定倍率である以上、合否の線引きは厳密な数字によって行われなければならない。

 

大学入試の1点の差で合否を分けることについて

現在の入試制度に関するこの意見はまことに正論だと思います(答申 PDF Pages 9-10、太字強調は当サイト)。

一般に「足切り」と呼ばれるこうした選抜方法に対しては、しばしば「知識偏重」「1点刻み」といった批判がなされてきた。たとえば現在の高大接続改革の議論の底流をなす中央教育審議会の答申24(2014 年)を見ると、「あらかじめ設定された正答に関する知識の再生を一点刻みに問い、その結果の点数で選抜する評価」からの脱却が主張されている。この主張自体の妥当性については賛否両論ありえようが、少なくとも「1 点刻み」の成績評価を否定することは、入試があくまで一定の入学定員を前提とした「選抜試験」であるという事実とは原理的に相容れない考え方である。定員を厳格に守るためには、どこかで線引きをしなければならないのは必然であり、そのためには成績を「1 点刻み」で数値化せざるをえない。複数の大学で出題・採点ミスによる追加合格者を出す事態が相次いだことからもわかる通り、僅かな点数によって合否が左右されてしまうのが入試の現実である。問題なのは数値化することそれ自体なのではなく、いわば便宜上の選別装置に過ぎない数字が独り歩きして、あたかもそのまま人間の価値を測定する基準であるかのように錯覚されてしまうことであろう25。

 

複数の認定民間英語試験の成績を利用できない根本的な理由

(答申 PDF Page 10、太字強調は当サイト)。

したがって本学の入試では、第 1 段階選抜であれ第 2 段階選抜であれ、厳密に数値換算することが不可能な認定試験の成績を利用することはできない。

 

高校での英語教育が民間テスト対策に陥る懸念

(答申 PDF Page 11、太字強調は当サイト)。

中学校・高等学校における英語教育を認定試験対策に走らせて歪めるようなことがあってもならない。

 

東大入学後の英語教育について

東大での英語教育は、実践的で役に立ちそうです(答申 PDF Page 11、太字強調は当サイト)。

東京大学は教養学部前期課程の 1 年次に、理科生は ALESS(Active Learning of English for Science Students)、文科生は ALESA (Active Learning of English for Students of the Arts)という、英語によるライティングとプレゼンテーションを中心とした少人数授業を必修科目として設定している。また、2015 年度からは英語によるスピーキング授業としてFLOW(Fluency-Oriented Workshop)も必修科目として加わっている。さらに、2018 年度からは「世界の多様な人々とともに生き、ともに働く」力を養うことを趣旨とする「国際
総合力認定制度」(Go Global Gateway)もスタートした。このように、本学はさまざまなカリキュラム開発や制度改革を通して、これからの時代を生きる学生たちに不可欠な実践的英語力を伸ばすことに注力している。その一環として、英語民間試験を入学後の教育に活用することは十分に考えられる方策であろう。

 

参考

  1. 入学者選抜方法検討ワーキング・グループ答申 2018年7月12日(14ページPDF)
  2. 大学入試 東大「白紙に戻し検討」 20年度、英語の民間試験活用 (毎日新聞2018年7月15日 東京朝刊) 東京大学は14日、2020年度から始まる大学入学共通テストの英語で導入される民間資格・検定試験を合否判定に使うかどうかについて、白紙に戻して検討することを明らかにした。東大は今年3月に民間試験を使わない方針を示したが、4月には一転して活用すると発表していた。
  3. 東大、英語民間試験一転活用へ 大学新共通テストで (日本経済新聞 2018/4/27 20:41) 東京大学は27日、2020年度に始まる大学入学共通テストで導入する英語の民間試験について、合否判定に使う方向で検討を始めたと公表した。3月に「判定に用いない」との考えを示していたが、方針を事実上転換した。
  4. 東大 合否判定に使わず 新テストの英語民間試験 (毎日新聞2018年3月10日 12時59分(最終更新 3月11日 08時26分) 東京大学は10日、2020年度に始まる大学入学共通テストで導入される英語の民間資格・検定試験について、合否判定に使わない方針を決めた。制度の移行期間として23年度まで併せて実施されるマークシート式試験と、2次試験の成績で判定する。

 

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