日本の科学と技術

東京女子医大が細胞シート論文を撤回

小保方晴子氏が筆頭著者の2011年ネイチャー・プロトコルズ(Nature Protocols)論文に関しては、以前から研究不正の疑惑が複数のインターネットサイトで指摘されていました。ネイチャー・プロトコルズが2016年2月25日に公表したところによれば、4人の共著者のうち小保方晴子氏を除く3人の申し出により、この論文は撤回されました。。

Retraction: Reproducible subcutaneous transplantation of cell sheets into recipient mice Published online 25 February 2016 (http://www.nature.com/nprot/journal/v11/n3/full/nprot0316-616a.html)

今回取り下げられたこの論文は小保方晴子氏が大学院時代に行った細胞シート工学関連の仕事です。早稲田大学と東京女子医大は医工融合研究教育拠点TWInsを2008年に設立しており、小保方氏の研究はここで実施されました。

Haruko Obokata,    Masayuki Yamato,    Satoshi Tsuneda    & Teruo Okano. Reproducible subcutaneous transplantation of cell sheets into recipient mice. Nature Protocols 6, 1053–1059 doi:10.1038/nprot.2011.356 Published online

論文著者4名のうち、筆頭著者の小保方晴子氏が実験の計画、実験の実施、データ解析、論文執筆を、大和雅之氏が実験の計画、データ解析、論文執筆を担当し、常田聡氏および責任著者の岡野光夫氏は研究プロジェクトの監督を行いました。

Contributions H.O. designed and conducted the experiments, analyzed the data and wrote the paper. M.Y. designed experiments, analyzed data and wrote the paper. S.T. and T.O. supervised the project.

大和雅之、常田聡、岡野光夫の3氏は、疑惑が指摘されていた論文の図に対応する生データが見つからず、論文の結果に対する確信が失われたため論文を取り下げたいと説明しています。ネイチャー・プロトコルズ誌は、論文撤回に関して小保方晴子氏の見解を求めようとしましたが連絡が取れませんでした。論文取り下げは、2016年1月13日付け。

retracted 13 January 2016
Masayuki Yamato, Satoshi Tsuneda and Teruo Okano would like to retract this protocol after concerns were raised by the community about some of the figures. Specifically, concerns were raised that the fourth graph in Figure 5a and the first graph in Figure 5b look very similar, and some of the error bars look unevenly positioned. Masayuki Yamato, Satoshi Tsuneda and Teruo Okano have been unable to locate some of the raw data to verify these figures and are no longer confident in the paper’s results. Given that these results are key to demonstrating the reliability and reproducibility of the protocol, these authors wish to retract the protocol, and they sincerely apologize for the adverse consequences that may have resulted from its publication. Haruko Obokata could not be reached by the journal for comment on the retraction. (http://www.nature.com/nprot/journal/v11/n3/full/nprot0316-616a.html)

この論文のデータの疑わしさや相反利益問題は、以前よりインターネット上の複数のサイトで指摘されていました。

小保方論文についてはNatureに出たSTAP細胞論文とTissue Eng. Aの論文について不正疑惑が出てますが、その陰に隠れてNat. Protocol.に2011年に出した論文でも怪しい点が指摘されているんです。それが、この図。Fig.5aのNumber of B cellsとFig.5bのNumber of neutrophilsの値がクリソツすぎる。違う細胞種を異なる条件で実験してるのに、この一致ぶりは奇跡。(もう一つの小保方論文のストーリー  anond.hatelabo.jp 2014-02-23)

伏線もあった。2011年、『ネイチャープロトコル』誌にセルシード社の細胞シートに関する論文が載った。執筆者には小保方氏、岡野氏、大和氏が名を連ね ている。岡野氏は細胞シートの利害関係者であるにもかかわらず、論文の「COMPETING FINANCIAL INTERESTS」(金銭的利害関係の有無)の欄には「The authors declare no competing financial interests.」(筆者らは競合する経済的利益はないと宣言する)と記していた。(小保方研究に関与する企業の株価が急上昇――STAP細胞騒動に株価操作疑惑 週刊金曜日 2014年4月30日

参考

  1. もう一つの小保方論文のストーリー (anond.hatelabo.jp 2014-02-23)
  2. 小保方研究に関与する企業の株価が急上昇――STAP細胞騒動に株価操作疑惑 (週刊金曜日 2014年4月30日)
  3. 東京女子医科大学 大和雅之教授は、(株)セルシード社の株主であり共同研究先 (小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑 stapcells.blogspot.jp 2014年2月13日):”利益相反事項の隠蔽疑惑:小保方晴子氏の2011年のNature Protocol誌の論文は、(株)セルシード社の製品の細胞シートの性能に関するものでした。そして、論文の共著者である東京女子医大の岡野光夫教授や大和雅之教授は(株)セルシードの関係者であり、特に、岡野光夫教授は、有価証券報告書ではこの時点で同社株の大量保有者かつ役員でした。このように、金銭的利益相反問題が存在するにも関わらず、このNature Protocol誌の論文には、”金銭的利益相反は無い(The authors declare no competing financial interests.)”と宣言していました。これらの虚偽記載もまた、彼らの信用を大きく損なう結果となりました。”
  4. 東証JQG 7776 (株)セルシード チャート(10年) ヤフーファイナンス
  5. 東京女子医科大学・早稲田大学連携 先端生命医科学研究教育施設 TWIns:”東京女子医大と早稲田大学による医工融合研究教育拠点である「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」を2008年4月にオープンしました。東京女子医大のT、早稲田のW、そしてInstitutionを組み合わせて、通称「TWIns(ツインズ)」と命名しました。”
  6. 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 メンバー: 大和雅之 所長・教授 Masayuki YAMATO Director of TWIns, Professor 岡野 光夫 特任教授     Teruo OKANO Professor
  7. 小保方晴子(ウィキペディア)
  8. 株式会社セルシード (CellSeed) 基盤技術 論文紹介
  9. 株式会社セルシード 日本発・世界初の「細胞シート再生医療」の世界普及を目指す (東京女子医大先端生命科学研究所細胞シートティッシュエンジニアリングセンター)セルシードは、2001年に設立された東京女子医科大学発の再生医療企業です。日本発・世界初の再生医療プラットフォーム技術である「細胞シート工学」を 基盤技術とし、細胞シート工学を用いて組織や臓器を再生することによって様々な難治性疾患・損傷を治療する「細胞シート再生医療」の事業化・世界普及を目 指しております。
  10. 東京女子医大先端生命科学研究所細胞シートティッシュエンジニアリングセンター ご挨拶:”我々はこうした細胞シートの積層化で組織や臓器を少量の細胞から造り、まったく新たな“細胞シート治療学”の確立とその医療テクノロジーの普遍化を達成することで再生医療の世界拠点の形成を目指す。 特任教授 岡野光夫”
  11. 企業事例 IPO編 株式会社セルシード (あなたのビジネスを、公的機関がバックアップ! J-NEt21 中小企業ビジネス支援サイト 企業事例 こうして活用しよう中小企業向けファンド):”2001年5月に創業した際には、東京女子医科大学岡野教授など創業メンバーを中心にして資本金を集めた。そして、創業から入念な準備を経て、約1年後の2002年6月に、初めてVC投資を受け入れ、本格的な研究に取り組みはじめた。”
  12. 小保方氏のSTAP以前の論文撤回 ネイチャー姉妹誌 (日本経済新聞 2016/2/27):”英科学誌ネイチャーの姉妹誌「ネイチャープロトコルズ」は27日までに、小保方晴子氏がSTAP細胞論文より前に発表していた別の論文を撤回したと発表した。”
  13. 小保方氏らの論文撤回 英科学誌「元データ確認できず」(朝日新聞DIGITAL 2016年2月27日):”STAP細胞論文の筆頭著者で、早稲田大の大学院生だった小保方晴子・理化学研究所元研究員らが執筆した論文が撤回されたと、英科学誌ネイチャーの関連誌電子版で25日発表された。”
  14. 小保方氏ら4人論文 英科学誌が撤回 共著者3人申し出(毎日新聞2016年2月27日):”英科学誌「ネイチャー・プロトコルズ」は、元理化学研究所研究員の小保方晴子氏(32)らが2011年に報告した論文を、1月13日付で撤回したと発表した。”
  15. 小保方氏らネイチャー論文、共著者申し出で撤回(読売新聞 YOMIURI ONLINE 2016年02月27日12時37分):”元理化学研究所研究員の小保方晴子氏(32)らの2011年の論文が撤回されたと、英科学誌ネイチャーが25日、発表した。論文中の二つのグラフが酷似しているとの指摘があり、小保方氏以外の共著者3人が撤回を申し出た。同誌は小保方氏にも接触を試みたが、連絡がつかなかったという。論文は、再生医療に用いる「細胞シート」の性質を、マウスで評価するための手順をまとめた内容。STAP論文を発表する2年半前の11年6月、「ネイチャー・プロトコルズ」誌に掲載された。”
  16. 読売新聞の見出しは変だ: 「小保方氏らネイチャー論文、共著者申し出で撤回」 「ネイチャー」(本紙)と「ネイチャー・プロトコル」(同じ出版社だが、いわゆる姉妹雑誌)の違いを分かっていないようだ。 From: rjgeller at: 2016/02/28 06:50:56 JST
  17. ライフサイエンスと利益相反 (平成25年度「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」(研修・教育プログラムの作成)5.ライフサイエンスと利益相反 東京女子医科大学リサーチ・アドミニストレーター河原直人)
  18. 利益相反かあるかどうかを判断するための”6つのP” (Editage Insigts 投稿者 ヴィレンドラ・ナイク 2015年01月13日):”金銭的利益の原因となる利益相反は、著者が一番多く直面し、開示しなければならないものです。資金提供源、研究から金銭的利益を得る会社の株の所有、研究の恩恵を受ける会社からもらう顧問料や給料などが挙げられます”
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