日本の科学と技術

がん幹細胞ニッチ内のがん抑制遺伝子Fbxw7

がん抑制遺伝子Fbxw7の「がん幹細胞ニッチ」における働きを九大の研究グループが発見 細胞外環境を標的とする新しい治療戦略の可能性も

がんの細胞外環境(”がん幹細胞ニッチ”)を標的とする新しい治療戦略の可能性を示す研究成果を、九州大学の研究グループがThe Journal of Clinical Investigation誌に発表しました。

九州大学プレスリリースによると、この研究成果のポイントは、

  1. がんニッチの形成に関わる重要たんぱく質「Fbxw7」が「CCL2」を抑制する作用をもつことを発見
  2. Fbxw7が低下するとCCL2が上昇し、がん転移が増加する。
  3. 上昇したCCL2を阻害するプロパゲルマニウム(既に肝炎治療薬として臨床的に使用されている既存薬)によって、がん転移を強力に抑制することに成功。

とのことです。

論文の要旨

The gene encoding F-box protein FBXW7 is frequently mutated in many human cancers. Although most previous studies have focused on the tumor-suppressive capacity of FBXW7 in tumor cells themselves, we determined that FBXW7 in the host microenvironment also suppresses cancer metastasis. Deletion of Fbxw7 in murine BM-derived stromal cells induced accumulation of NOTCH and consequent transcriptional activation of Ccl2. FBXW7-deficient mice exhibited increased serum levels of the chemokine CCL2, which resulted in the recruitment of both monocytic myeloid-derived suppressor cells and macrophages, thereby promoting metastatic tumor growth. Administration of a CCL2 receptor antagonist blocked the enhancement of metastasis in FBXW7-deficient mice. Furthermore, in human breast cancer patients, FBXW7 expression in peripheral blood was associated with serum CCL2 concentration and disease prognosis. Together, these results suggest that FBXW7 antagonizes cancer development in not only a cell-autonomous manner, but also a non-cell-autonomous manner, and that modulation of the FBXW7/NOTCH/CCL2 axis may provide a potential approach to suppression of cancer metastasis. (http://www.jci.org/articles/view/78782

参考

  1. F-box protein FBXW7 inhibits cancer metastasis in a non-cell-autonomous manner.  J Clin Invest. doi:10.1172/JCI78782. Published January 2, 2015
  2. がんの転移を強力に抑制する既存薬を発見 (九州大学 プレスリリース 平成26年12月17日)
  3. 九大 がん転移抑える薬 (NHK NEWSWEB 2015年1月3日):”中山主幹教授は「既存の薬の成分ならば新薬に比べて格段に早く実用化できる可能性があり、今回の発見のメリットは大きい。今後、臨床を重ねて早くがんの患者に届けたい」と話しています。”
  4. 既存薬で転移抑制 九大教授ら、マウス実験で確認(毎日新聞 1月3日):”がんを転移しやすくするたんぱく質を世界で初めて突き止めたとの研究成果を、中山敬一・九州大教授(分子医科学)らのチームが2日の米科学誌ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーションに発表した。既存の肝炎治療薬に、このたんぱく質の働きを妨げて転移を抑える効果があることもマウスの実験で確かめた。研究チームは「ヒトへの有効性は今後の治験(臨床試験)を待つ必要があるが、副作用が少ない薬なので期待が持てる」と話す。”
  5. がん転移を抑える薬剤 九大、マウス実験で確認(日本経済新聞 2015/1/3):”この薬剤はB型慢性肝炎の治療薬として処方されているプロパゲルマニウム。ニッチを狙い転移を抑える初めての薬となり得るが、現段階ではがん患者への効果は未確認。チームは「国の承認が出るまで使用しないで」と警告している。”
  6. がん転移、たんぱく質関与=薬で抑制、マウスで確認-九州大(時事ドットコム):”がんの周りにあり、増殖や転移を促す細胞の集まり「がんニッチ」に関わるたんぱく質を発見したと、中山敬一九州大教授らの研究グループが発表した。論文は3日、米医学誌に掲載される。”
  7. B型肝炎治療薬、がん転移抑制の可能性 九州大チーム(朝日新聞APITAL):”B型肝炎治療用の飲み薬に、がんの転移を抑える可能性があるとするマウスでの研究結果を、九州大の研究チームがまとめた。ヒトでの臨床試験(治験)で有効性や安全性を確かめ、5年程度で公的医療保険の適用を目指すという。”
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