Monthly Archives: September 2017

平成29年度CREST 新規採択課題が発表される

平成29年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)の新規研究課題がJST CRESTのウェブサイトにて発表されました。

研究領域

閲覧の便宜を図るため、PDFをHTML化して、以下に転載します。

戦略目標:「実験とデータ科学等の融合による革新的材料開発手法の構築」 研究領域:「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」
研究総括:細野 秀雄(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)

       氏名

所属機関

役職

課題名

宇佐美 徳隆

名古屋大学 大学院工学研究科

教授

多結晶材料情報学による一般粒界物性理論の 確立とスマートシリコンインゴットの創製

大場 史康

東京工業大学 科学技術創成研究院

教授

データ駆動型材料探索に立脚した新規半導 体・誘電体の加速的開拓

清水 研一

北海道大学 触媒科学研究所

教授

触媒インフォマティクスの創成のための実 験・理論・データ科学研究

中嶋 健

東京工業大学 物質理工学院

教授

熱可塑性エラストマーにおける動的ネットワ ークのトポロジー制御

水上 成美

東北大学 材料科学高等研究所

教授

計算科学を用いた磁気抵抗スイッチ素子基盤 材料の創出

<総評> 研究総括:細野 秀雄(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
日本の強い製造業を支えてきた材料研究の強さが失われつつあります。また、米国で始まったMaterials Genomeに代表される新しい研究手法が欧米や中国で急速に進展しています。本研究領域では、 これらを背景に強い実験とデータ科学や物性理論や数学などを横串として駆使した、日本らしい新しい材料研 究の手法の確立を図るのが目標です。具体的には、世界に勝てる新しい材料研究のやり方を、重要性の高い材 料の開発に挑戦することで、ケーススタディとして社会に提示することを目指しています。

本研究領域は今年度の発足で、公募情報公開から締切までの準備期間が限られていたにもかかわらず、幅広 い材料・物質分野から60件の応募を頂きました。
選考にあたっては、公募要領や説明会で示した次の5つの観点に注目し、提案の評価を行いました。
1.これまでに無い新しい材料開発手法の提案となっているか
2.研究のアウトプットである、重要な「材料」が具体的に明記されているか
3.物性理論の裏付けのある革新的な計算科学的手法やデータ科学的手法を用いた提案となっているか
4.チーム体制の独自性と強みについて(特に実験研究者)、明記されているか
5.研究代表者が次世代の材料開発を担う人材として適切であるか

選考は12名の領域アドバイザーの協力を得ながら、厳正かつ公平に進め、12件を面接選考の対象とし、 その中から革新的な材料開発手法の構築が期待される5件の提案を採択しました。今回の選考では、分野別に 件数を決めずにより優れた提案を採択するという方針を採りました。その結果、採択されたテーマはスピント ロニクス、半導体・誘電体、触媒、結晶成長、高分子に分類されます。

選考を終えた印象としては、第一に気鋭の研究者からの従来の材料研究とは大いに異なるチーム編成での提 案が多数に及んだことです。採択に至らなかった提案の中にも、これまでの材料開発研究では殆どみられなか ったチーム編成での興味深い研究提案が数多くあり、今年度提示された戦略目標の重要性をあらためて認識し ました。一方で、学術的には重要で興味深いものの、基礎的なレベルの物質研究にとどまっている提案は、本 研究領域の趣旨に合致しないので、残念ながら不採択としました。第二に、初年度であったためかデータ科学 や物性理論などとの連携が形式的で、有機的に連携しブレークスルーを狙うという具体的な提案が少なかった ことです。すなわち、データ科学などで分析した結果を実験にフィードバックし、独自のアプローチを行うこ とで材料研究者の本来の腕を試したい、という強い意欲が伝わってくる提案がもっと欲しかったということです。 本研究領域は平成30年度、31年度も公募を予定しているので、リスキーであっても成功すれば、世界をリードできる材料創製をターゲットとした意欲的な提案を期待します。

戦略目標:「材料研究をはじめとする最先端研究における計測技術と高度情報処理の融合 研究領域:「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」 研究総括:雨宮 慶幸(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授)
副研究総括:北川 源四郎(明治大学 先端数理科学インスティチュート 所員)

       氏名

所属機関

役職

課題名

岡田 真人

東京大学 大学院新領域創成科学研究科

教授

ベイズ推論とスパースモデリングによる計測 と情報の融合

高田 彰二

京都大学 大学院理学研究科

教授

高速原子間力顕微鏡 1 分子計測のデータ同化に よる生体分子 4 次元構造解析法の開発

平田 直

東京大学 地震研究所

教授

次世代地震計測と最先端ベイズ統計学との融 合によるインテリジェント地震波動解析

向川 康博

奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科

教授

多元光情報の符号化計測と高次元化処理の協 調設計

矢代 航

東北大学 多元物質科学研究所

准教授

超圧縮センシングによるミリ秒 X 線トモグラフ ィ法の開発

<総評> 研究総括:雨宮 慶幸(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授)
本研究領域は、計測・解析技術の深化による新たな科学の開拓や社会的課題の解決のために、多様な計測・ 解析技術に最先端の情報科学・統計数理の研究を高度に融合させることによって、インテリジェント計測・解 析手法の開発とその応用を目指します。

本研究領域は平成28年度に発足し、今回は第2回目となる募集でした。応募説明会 では、「これまでの計測 技術の高度化・高分解能化だけでは超えることが困難な計測限界(課題)を、高度情報処理(情報科学・統計 数理)との融合により突破(問題の解決)して、新たな物理量・物理状態・潜在要因を検出することを可能に し、物質・材料をはじめ、生命・医療・創薬、資源・エネルギー、地球・宇宙の広い分野にわたる出口で、イ ンパクトのある研究成果に繋がるテーマを期待している」ことを説明しました。本研究領域の情報は下記のU RLに掲載しています。
http://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah28-3.html

書類選考および面接選考では、下記の観点で評価を実施しました。
① 新たに捉えようとする計測対象が具体的であり、具体的にどのような計測限界を突破しようとしている のか。また、それにより、どのようなインパクトのある研究成果が生まれるのか。
② 計測技術と情報科学の研究者が、各々高いレベルで緊密な協力関係を築いて融合研究を進める状況が整 っているか。

そして、総計67件の応募について、14名の領域アドバイザーと4名の外部評価委員の協力を得ながら厳 正かつ公平に書類選考を行い15件の面接課題を選び、その中から意欲的な提案を5件(融合アプローチ3件、 情報アプローチ2件)採択することができました。採択課題は昨年の6件と併せて11件になります。その分 野は材料、生命、医療、地球物理など広範であり、これだけ幅の広い課題の採択は学際的な本研究領域ならで はであり、計測と情報の融合を中心軸において、更には、さきがけの研究課題との情報交換もより密にして、 本複合領域全体の研究を推進して行きたいと思います。

書類選考や面接選考に至らなかった研究提案の中にも、研究レベルが高く、挑戦的な提案が数多くありま した。研究のビジョン(具体的な計測限界の突破)や融合の度合いを深化させて、再挑戦されることを期待し ています。

戦略目標:「量子状態の高度制御による新たな物性・情報科学フロンティアの開拓」 研究領域:「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出」
研究総括:荒川 泰彦 (東京大学 生産技術研究所 教授・光電子融合研究センター長)

        氏名

所属機関

役職

課題名

青木 隆朗

早稲田大学 理工学術院

教授

スケーラブルな光学的量子計算に向けた超 低損失ナノファイバー共振器 QED 系の開発

神成 文彦

慶應義塾大学 理工学部

教授

波長分割多重プログラマブル大規模量子シ ミュレータの研究

小坂 英男

横浜国立大学 大学院工学研究科

教授

ダイヤモンド量子セキュリティ

齊藤 志郎

日本電信電話(株)

NTT 物性科学基礎研究所

主幹研究員・特 別研究員

超伝導量子ビットを用いた極限量子センシ

ング

仙場 浩一

情報通信研究機構

未来 ICT 研究所

上席研究員

超伝導量子メタマテリアルの創成と制御

田中 歌子

大阪大学 大学院基礎工学研究科

講師

オンチップ・イオントラップによる量子シ ステム集積化

田中 雅明

東京大学 大学院工学系研究科

教授

強磁性量子ヘテロ構造による物性機能の創 出と不揮発・低消費電力スピンデバイスへ の応用

<総評> 研究総括:荒川 泰彦(東京大学 生産技術研究所 教授・光電子融合研究センター長) 本領域は、量子状態制御の物理と機能の探究、新たな量子情報処理、ならびに従来性能を凌駕する量子素子・
システム機能の実現を目指し、このたび2年目の研究課題の募集と採択を実施しました。募集は、昨年同様、 本領域の2本柱である“量子状態制御の物理の探究とその新しい源流の創出を計る「新しい源流の創出」”と、 “将来の社会・産業イノベーションを牽引する量子技術の実装に向けた「革新的システム機能の創成」”を基本 的な枠組として行いました。特に、本年度は、これまでの研究分野(量子計算、量子通信、量子計測)に加え、 それらの枠を超えた量子技術の開拓とその応用展開を目指す「新量子技術」の提案も期待しました。

本年度の募集では、光子、原子・分子、半導体、磁性体、超伝導体、生体分子など、実に様々な系の量子状 態制御・システムに関する提案が29件ありました。10人の領域アドバイザーの先生方と厳正なる書類なら びに面接選考を実施し、計7件の提案を採択しました。採択にあたっては、提案内容の学術的価値のみならず、 研究の独創性と提案者の熱意、ならびに提案が量子技術として将来的に社会的に実装できるかどうかについて も評価しました。結果として、量子計算、量子通信、量子計測、新量子技術の各分野の課題をバランス良く採 択することができました。研究対象となる量子系も、イオン、NV センター、超伝導体、光量子、磁性体など多 様であり、昨年度採択した課題と合わせて、領域全体として分野バランスと物理的多様性を兼ね備えた研究ポ ートフォリオを構築することができました。今回採択した課題が量子状態の制御の科学に新風を吹き込み、本 領域を学術的に豊かで技術的革新性にも富み、社会的に意義深いものとすることを期待します。

今回採択に至らなかった提案にも優れたものが数多くありました。量子状態制御の科学は新しい分野であり、その研究はこれまでに採択された課題の分野・内容に限定されるものではありません。今年度ご応募頂いて残 念ながら採択されなかった方々、そして今年度応募いただかなかった方々も来年度はふるって優れた研究提案 を本領域にいただければ幸いです。

量子状態制御の科学は日々進展する分野であり、今後科学技術・社会に大きなインパクトを与える可能性を 秘めています。量子状態制御の新しい物理の探求と量子技術の実装に向けた革新的システム機能の創成を通じ て、科学技術と社会の発展に貢献できるよう本研究領域を運営して行く所存です。

戦略目標:「新たな光機能や光物性の発現・利活用による次世代フォトニクスの開拓」 研究領域:「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」
研究総括:北山 研一 (光産業創成大学院大学 特任教授)

          氏名

所属機関

役職

課題名

石田 康博

理化学研究所 創発物性科学研究センター

チームリ ーダー

殆どが水よりなる動的フォトニック結晶の開発 と応用

成瀬 誠

情報通信研究機構 経営企画部

プランニ ングマネ ージャー

ナノ光学と光カオスを用いた超高速意思決定メ カニズムの創成

野田 進

京都大学 大学院工学研究科

教授

変調フォトニック結晶レーザーによる 2 次元ビ ーム走査技術の開発

福田 大治

産業技術総合研究所 計量標準総合センター

研究グル ープ長

単一光子スペクトル計測によるイメージング技 術開発と細胞機能ヴィジュアライザの創成

藤 貴夫

自然科学研究機構 分子科学研究所

准教授

超短赤外光パルス光源を用いた顕微イメージン グ装置の開発と生命科学への応用

<総評> 研究総括:北山 研一 (光産業創成大学院大学 特任教授)
本研究領域では、応募される提案は次世代フォトニクスに関わる基礎的な学理の創造だけではなく、成果が 将来の社会・産業ニーズに応える「破壊的イノベーション」の創造に貢献できるものでなければならないこと を強調し、募集説明会において説明して参りました。また本研究領域が、ナノスケール領域における微細光加 工・計測技術開発、有機物や未知の半導体等の新物質・機能創成、バイオフォトニクス分野のセンシング・イ メージング手法の高度化、プラズモンなどの電子状態の観察手法やそのデバイス応用、アト秒領域の時空間計 測・制御技術、レーザ冷却、コヒーレント光通信におけるシャノン限界の実現など多岐にわたることを示し、 領域の趣旨に合致する提案を募りました。

さて最終回(3回目)となるH29年度の公募では、昨年度よりも多い57件の応募をいただきました。11名の領域アドバイザーとともに公平かつ厳正に書類選考し、13件の面接課題に絞り込み、最終的に単一光 子分光素子開発、赤外超短パルス光源開発、レーザー光の高速ビームステアリング技術開発、新たなフォトニ ック結晶材料、超高速意思決定に関する5件を採択しました。結果として競争率は3年連続して10倍(H27年度は16倍超)を越える難関となりました。選考に当たっては新規性や独創性、チーム編成、成果が近い 将来もたらす社会的インパクトを勘案し、さらには基礎研究と実用化の間に横たわる「死の谷」を越える道筋 と覚悟が示されている提案を厳選しました。

採択されなかった提案の中にも、目標が達成されれば環境問題、バイオ・医療などの身近な問題の解決につ ながる実用上重要な提案もありました。しかしながら、既存技術に対する優位性が明確ではない、期待される 社会へのインパクトが描き切れていないなどの理由により採択には至りませんでした。 今年度採択した5課題を含む16件の研究課題により、他の研究領域との連携を推進すると共に、世界の第一 線の研究グループとの交流を通じ、世界をリードする国際的共同研究体制の構築を目指します。これらの活動 は順次ホームページ等で報告していきますので、引き続き関心を持っていただければ幸いです。

戦略目標:「多様な天然炭素資源を活用する革新的触媒の創製」 研究領域:「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」
研究総括:上田 渉(神奈川大学 工学部物質生命化学科 教授)

        氏名

所属機関

役職

課題名

片田 直伸

鳥取大学 大学院工学研究科

教授

メタンによる直接メチル化触媒技術の創出

高橋 啓介

物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門

研究員

実験・計算・データ科学の統合によるメタン変 換触媒の探索・発見と反応機構の解明・制御

松村 晶

九州大学 大学院工学研究院

教授

原子分解能その場観察解析に基づく触媒機能 の原理解明と革新的触媒創製

山下 誠

名古屋大学 大学院工学研究科

教授

超臨界メタンを基質兼媒質とした均一系・不均 一系触媒プロセスの開発

<総評> 研究総括:上田 渉(神奈川大学 工学部物質生命化学科 教授)
本研究領域は、多様な天然炭素資源をバランスよく活用できる将来の産業基盤の確立を目標に、その根幹をなすメタンをはじめとするアルカンガス資源を従来にない形で有用な化成品・エネルギーに変換するための革 新的触媒の創出を目的にしています。この目的のもと、2チームによる酵素系触媒研究、1チームによる錯体 系触媒研究、そして4チームによる固体系触媒研究、1チームによる計算化学の視点から本研究領域とさきが け領域にまたがり、各研究チームを支援する研究がすでに進行しており、革新的な触媒創出をめざした研究が 活発になされ、組織展開を期した体制を敷いています。

本年度にあたっては、本領域課題であるメタン利用触媒研究の拡充をさらに図りつつも、触媒機能あるいは 触媒物質自体の創出方法論の開発を指向した研究、特異なメタン反応場を与える新規な反応システム研究、ま たマテリアルズインフォマティクスを展開するなどして触媒インフォマティクスを構築し、新規触媒物質を創 出する研究、さらに環境 TEM や放射光などを用いたその場観察計測をベースにして、実触媒に近い環境下での 触媒機能のダイナミズムを理解、高度解析・予測することを主題にした革新的触媒を連携研究的に創出する研 究などを推進する方針のもと、研究提案を募集しました。このような中、本年度は28件の応募があり、いず れもメタン利用触媒技術開発への研究提案者の強い熱意と情熱を基盤にし、様々な角度からの飛躍的発想と挑 戦的創造を示したすばらしい研究提案がありました。応募された皆様に感謝いたします。

触媒分野を中心とした領域アドバイザー12名の協力を得て、これらの応募課題の選考を厳正かつ公正に進 め、4件の研究提案を採択しました。1つは固体系触媒研究で、ゼオライト物質に革新をもたらす物質研究と メタン活性化研究を実施するもので、メタン利用の化学を考える中で欠くことのできないゼオライト物質の新 展開を期すものです。物質研究のターゲットを限定した上記提案とは対極に、ハイスループット式触媒反応の ビッグデータ収集からなる触媒インフォマティクス構築により新規メタン選択酸化触媒を生み出す取り組み も採択しました。さらに、メタン超臨界というメタンが反応基質でもあり溶媒でもある特殊場を利用した反応 システムの応用基盤を構築する課題、および実触媒反応環境下での固体触媒の作用現場をみるオペランド分析 システムを構築・実施する課題を採択しました。特に後半2件はこれまで採択した課題すべてと連携し、研究 の新展開を図ることができるものと期待しています。

本研究領域の募集は今年度で終了となりますが、触媒革新への着実な道筋として必要な物質科学、生体化学、 物質情報科学、高度計算分析化学の参画が成立し、メタン反応のための触媒化学の学術と技術に革新をもたらす本格的な研究・連携体制ができたと考えています。これよりメタン利用革新的触媒創出を導く戦略的かつ挑 戦的な研究が本格スタートしますので、社会基盤の発展に貢献していけるようこの研究領域を運営していく所 存です。

戦略目標:「細胞外微粒子により惹起される生体応答の機序解明と制御」 研究領域:「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」 研究総括:馬場 嘉信(名古屋大学 大学院工学研究科 教授)

        氏名

所属機関

役職

課題名

秋田 英万

千葉大学 大学院薬学研究院

教授

リンパシステム内ナノ粒子動態・コミュニケー ションの包括的制御と創薬基盤開発

秋吉 一成

京都大学 大学院工学研究科

教授

糖鎖を基軸とするエクソソームの多様性解析と 生体応答・制御のための基盤研究

澤田 誠

名古屋大学 環境医学研究所

教授

シグナルペプチド:細胞外微粒子機能の新規マ ーカー

福田 光則

東北大学 大学院生命科学研究科

教授

細胞外小胞の形成・分泌とその異質性を生み出 す分子機構の解明 ~人工細胞外小胞への展開

山下 潤

京都大学 iPS 細胞研究所

教授

分化再生と生体恒常性を制御するエクソソーム の新しい細胞同調機能の解明とナノ粒子による 生体機能制御への応用

吉森 保

大阪大学 大学院生命機能研究科

教授

オートファジーによる細胞外微粒子応答と形成

<総評> 研究総括:馬場 嘉信(名古屋大学 大学院工学研究科 教授) 本研究領域は、細胞外微粒子を対象として、それに起因する生命現象の解明及びその制御に向けた基盤技術の創出を目指し本年度より発足しました。細胞外微粒子は、環境中から生体内に取り込まれる外因性微粒子と 生体内由来の内因性微粒子に大別されますが、本研究領域は双方の微粒子研究のコミュニティの融合を特色の 一つとして掲げています。これは、お互いの知見の持ち寄りや課題を共有することで両者のシナジー効果を高めるとともに、これまでにない分野融合的・集学的な研究領域に発展させることで、新たな生命現象の解明や 革新的な技術開発の創出につなげていくことを狙いとするものです。具体的には、本研究領域の柱として、
「(1)細胞外微粒子の生体・細胞への取り込み、体内動態の理解に基づく生体応答機序解明」、「(2)細胞外 微粒子の検出・分離・計測・解析に係る基盤技術の創出及び高度化」、「(3)細胞外微粒子の体内動態制御に 向けた基盤技術創出への展開」の3つを据えて研究開発を推進します。

本年度は、上記3つの柱のうち少なくとも2つは取り込んだチーム構成での提案募集を行い、総計79件の 応募がありました。今回のCRESTで募集を行った研究領域の中では最多の応募数であり、本研究領域への 注目度の高さが伺えました。選考では、「内因性と外因性の融合との親和性や本研究領域への波及効果の面か ら戦略目標の達成にどのように貢献できるか」、「新たな『微粒子研究』の突破口となるポテンシャルを有して いるか(従来の研究の延長に留まっていないか)」、「チャレンジングなテーマについては、予備データの提示 等その実現可能性についても考慮する」といった観点を重視しました。そして、12名の領域アドバイザーの 協力を得て、厳正かつ公平に選考を進めた結果、12件の研究提案に対して面接選考を行い、多くの優れた提 案の中から外因性微粒子研究と内因性微粒子研究の融合に大きく貢献するブレークスルーをもたらすと期待 される意欲的な研究提案を6件採択いたしました。

一方で、厳しい競争下での選考において、残念ながら不採択となった提案の中には、社会的にも意義のある重要なテーマに取り組んでおり、ポテンシャルの感じられる意欲的な研究提案も多くありました。このうち、 外因性微粒子を対象とした提案には、優れた基盤技術を有するものの、生体応答解析の観点で踏み込みが今一 歩不足しているといった提案もありましたので、研究提案内容やチーム編成も含めて今一度ご検討いただき、 是非、来年度の再提案を期待しています。また、来年度は、外因性微粒子・内因性微粒子の研究を融合したチ ーム構成による研究提案を歓迎いたします。細胞外微粒子の研究領域は、非常に幅広い分野の研究者の方々が 関わっており大変競争の厳しい分野ではありますが、今年度残念ながら採択されたかった方々、さらに今年度 応募いただかなかった方々も来年度ふるって本研究領域に応募いただければ幸いです。

戦略目標:「生命科学分野における光操作技術の開発とそれを用いた生命機能メカニズムの解明」 研究領域:「光の特性を活用した生命機能の時空間制御技術の開発と応用」
研究総括:影山 龍一郎(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 教授)

        氏名

所属機関

役職

課題名

礒村 宜和

玉川大学 脳科学研究所

教授

シナプス光遺伝学を用いた脳領域間シグナル伝 播機構の解明

小澤 岳昌

東京大学 大学院理学系研究科

教授

定量的光操作と計測技術を基軸とする生体深部 の細胞応答ダイナミクスの解析

神取 秀樹

名古屋工業大学 大学院工学研究科

教授

細胞内二次メッセンジャーの光操作開発と応用

野田 昌晴

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

教授

オプトバイオロジーの開発による体液恒常性と 血圧調節を司る脳内機構の解明

和氣 弘明

神戸大学 大学院医学研究科

教授

ホログラム光刺激による神経回路再編の人為的

創出

渡邉 大

京都大学 大学院医学研究科

教授

自由行動下での神経情報操作・解読技術の開発 と意思決定の神経基盤解明への応用

<総評> 研究総括:影山 龍一郎(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 教授) 本研究領域は、光操作技術の開発および応用による生命機能の高度理解と制御を目的として昨年度に発足しました。光操作技術の開発を推進することで、生体に対する侵襲性および操作と観察範囲の局所性といった課題を克服し、これらの技術開発をもとに複雑な生体システムの理解と制御を目指します。 研究提案募集の2年目となる今回は28件の応募があり、いずれもレベルの高い内容であったことから、研究課題を選考するにあたって非常に苦労いたしました。提案内容の多くは、新規技術開発から光操作技術と観 察技術との連携構想、複雑で巧妙な生命原理の理解と制御など、領域の目標に合致するものでした。

これら28件の応募に対し、生命科学、イメージング、光操作などを専門とする11名の領域アドバイザー の協力を得て選考を進めました。各研究提案に比較的近い分野を専門とする領域アドバイザー5名が提案書類 の査読をし、それらの書面評価に基づいた討議を通じて、12 件の面接選考対象課題を選定しました。面接 選考では、領域アドバイザーの意見を踏まえ、最終的に6件の研究提案を採択しました。選考の全過程を通し て、JSTの規則に基づき、利害関係にある評価者の関与を避けた厳正な評価を行いました。

選考にあたっては昨年同様、領域の趣旨に合致している提案の中で、選考方針である以下の視点を取り込ん だ提案を特に重視しました。
・提案した観察技術あるいは光操作技術でしか解明できない生命機能を含むこと。
・既存技術ではなく新しい技術を開発し活用していること。
・最適な研究実施体制であり、研究構想の実現に必要な手掛かりが得られていること。 採択に至らなかった提案の中にも、重要な生命現象を取り上げたもの、独自性の高いアイデアに基づくもの
など、優れた提案が多くありました。しかしながら、そのような提案であっても、新規技術開発の要素が不十分と思われるもの、予備データ等が不足し実現可能性が不明確なもの、あるいは生命機能の解明に焦点が合っていないものは不採択としました。残念ながら不採択となった研究提案者におかれましては、今回の不採択理由を踏まえて研究提案を再考され、是非来年度に再応募していただきたいと思います。

今年度は、光操作技術があまり浸透していない生命現象へ応用する提案もありました。最終回となる来年度の募集では、引き続き既存技術では解析できなかった生命現象の理解と制御につながるような革新的な提案を期待しています。特に、様々な分野に応用できる汎用性の高い技術を含み、領域内外の研究との連携に意欲的 な提案を期待します。

戦略目標:「気候変動時代の食料安定確保を実現する環境適応型植物設計システムの構築」 研究領域:「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」
研究総括:田畑 哲之((公財)かずさDNA研究所 所長・副理事長)

        氏名

所属機関

役職

課題名

宇賀 優作

農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター

上級研究員

ROOTomics を利用した環境レジリエント作物 の創出

杉山 暁史

京都大学 生存圏研究所

准教授

根圏ケミカルワールドの解明と作物頑健性制 御への応用

中川 博視

農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター

ユニット長

ハイブリッドモデリングによる環境変動適応 型品種設計法の開発

<総評> 研究総括:田畑 哲之((公財)かずさDNA研究所 所長・副理事長)
本研究領域は、フィールドにおける植物の環境応答機構を包括的に理解し、これに基づいて実用植物を分子 レベルから設計する技術の確立に資する研究を推進することを目的として平成27年度に発足しました。主と して実用植物を対象として、環境変動にロバストに応答する植物の特性を定量的に把握し、生長や機能の人為 的な制御を可能とする新技術の確立を目指しています。本領域では、各種Omics解析を含むゲノム生物学、 植物分子遺伝学、統計学、情報学、農学、工学など幅広い学問分野が対象となりますが、これらが有機的に連 携・融合することによって、単なる従来分野の発展や既存技術の改良に留まらない新たな展開が生まれること を期待しています。

募集にあたっては、①植物の環境応答機構に関する高精度定量解析に関する研究、②植物の環境応答機構に 関するモデルの構築、③遺伝子群の人為的再構築によって生じる植物の形質評価、の3本の柱を立てて、本領域の目標を達成するための道筋を明示しました。さらに、先端性に優れた高精度オミクス解析法、高精度形質 評価法や高精度オミクスデータと高精度表現型データの連関解析技術の独自性が高い改良や新規開発、新規性が高いモデル化技術の開発、また、ナス科、アブラナ科、マメ科やイネ科等の実用植物に重点を置いた提案や、 幅広い植物種に適用可能な汎用性が高いモデル構築や技術開発を含むチャレンジングな提案を求めているこ とを周知しました。その結果、本年度は39件の応募がありました。

選考においては、「新規植物創出のための基盤技術の開発」を強く意識していることに加えて、斬新な発想 に基づく先端性が高い研究開発、世界に誇れるような革新的な技術開発や異分野融合による新たな研究領域な ど、チャレンジ性が高い提案に特に着目しました。
選考は、本領域に関連するさまざまな研究分野からの9名の領域アドバイザーと12名の外部専門家による 審査の結果8件を面接対象とし、最終的に3件を採択しました。

今年度に採択の3課題は、根の高解像度フェノタイピング等に基づく環境変動頑健性に優れた作物の創出、 根圏環境のミネラルや代謝物の高精度計測等による頑健性バイオマーカーの同定、作物生育モデルと環境応答モデルを融合した新たな生育モデルの開発に関するもので、環境変動に対する頑健性を有する実用植物の設計 に資する新規技術の開発に向けて、今後の成果が期待されます。

今回の選考の結果、本研究領域の12課題が確定しました。全体として当初に設定した3本の柱を広くカバ ーしており、充実したポートフォリオを構築することができました。今後の領域運営にあたっては、各課題で 実施されている研究開発の競争力を高めること、各課題の進捗度評価をもとに重点化を図り領域全体としての先進性、革新性を確保すること、課題間の情報共有や連携を強化しシナジー効果を創出することに注力し、領 域目標の達成に努めるとともに、戦略目標の達成にもつなげていきたいと思います。

戦 略 目 標:「ネットワークにつながれた環境全体とのインタラクションの高度化」 研 究 領 域:「人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開」
研 究 総 括:間瀬 健二(名古屋大学 大学院情報学研究科 教授)

        氏名

所属機関

役職

課題名

五十嵐 健夫

東京大学 大学院情報理工学系研究科

教授

データ駆動型知的情報システムの理解・制 御のためのインタラクション

神田 崇行

(株)国際電気通信基礎技術研

究所 知能ロボティクス研究所

室長

街角環境で共生するロボットのインタラ クション基盤技術

小池 英樹

東京工業大学 情報理工学院

教授

技能獲得メカニズムの原理解明および獲 得支援システムへの展開

津田 一郎

中部大学 創発学術院

教授

脳領域/個体/集団間のインタラクショ ン創発原理の解明と適用

中澤 篤志

京都大学 大学院情報学研究科

准教授

「優しい介護」インタラクションの計算 的・脳科学的解明

<総評> 研究総括:間瀬 健二(名古屋大学 大学院情報学研究科 教授)
本研究領域は、人間・機械・情報環境からなる共生社会におけるインタラクションに関する理解を深め、人 間同士から環境全体まで多様な形態でのインタラクションを高度に支援する情報基盤技術の創出と展開を目 指して、平成29年度に発足し、今回が初回の募集でした。

本募集に対して、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)、機械学習、ロボティックス、認知 科学、脳科学、データ科学、エージェント工学など様々な分野の技術を基礎にして、医療・介護・健康、教育・ 学習、スポーツ、発想支援、コミュニケーション支援、芸術、流通、社会システム、ゲーム・エンタテイメン トなど多岐にわたる共生インタラクションの実現を目指す研究提案の応募が73件ありました。

選考に当たっては、情報科学、ロボティックス、HCI、インタラクションデザイン、コンピュータグラフ ィクス、機械学習、人工知能、セキュリティ等に関わる研究者や産業界の有識者を中心に、法律の専門家も加 えた9名の領域アドバイザーの協力を得て、公平かつ厳正に実施し、書類選考での評価が優れていた12件の 研究提案を面接選考し、特に優れた提案5件を採択しました。

書類選考、面接選考では、以下の観点を重視して評価を実施しました。
・ 成果が活用される分野
・ 研究課題の社会ニーズ、成果の社会インパクト
・ コア技術または概念の独創性と新規性
・ 挑戦的で国際的に通用するテーマ
・ 分野のベストメンバーのチーム
・ ELSI 課題の将来解決へのアイデア 今回採択されなかった提案の中にも、教育・学習におけるインタラクションなど重要な社会課題に取り組もうとする意欲的な提案や学術的意義の高いものが多くありました。しかしながら、戦略目標である「ネットワ ークにつながれた環境全体とのインタラクションの高度化」や、研究領域の趣旨である「革新的な情報基盤技術と共生インタラクション技術の研究開発」などに合致しないものや、前述の評価の観点において不十分な要 素があるもの、提案内容が十分練られていないものなどについては不採択としました。また、社会実装を意識 するあまり、研究開発要素が弱い提案も見受けられました。戦略的な基礎研究を推進するCRESTの趣旨を 勘案し、研究成果の社会的インパクト等を意識しつつも、コア技術の独創性や新規性について十分アピールし た多彩な提案が集まることを期待しています。今回採択とならなかった提案につきましても、不採択理由を踏 まえて研究提案を再検討され、是非来年度に再応募していただきたいと思います。

戦 略 目 標:「急速に高度化・複雑化が進む人工知能基盤技術を用いて多種膨大な情報の利活用を可能とする 統合化技術の創出」
研 究 領 域:「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」
研 究 総 括:栄藤 稔(大阪大学 先導的学際研究機構 教授)

        氏名

所属機関

役職

課題名

落合 陽一

筑波大学 図書館情報メディア系

助教

計算機によって多様性を実現する社会に 向けた超 AI 基盤に基づく空間視聴触覚技 術の社会実装

角田 篤泰

中央大学 研究開発機構

機構教授

AI 技術を用いた法的文書作成支援

関谷 勇司

東京大学 情報基盤センター

准教授

サイバー脅威ビッグデータの解析による リアルタイム攻撃検知と予測

田中 聡久

東京農工大学 大学院工学研究院

准教授

脳波の機械判読によるてんかん診断・治療

支援 AI の構築

松谷 宏紀

慶應義塾大学 理工学部

准教授

リアルタイム性と全データ性を両立する エッジ学習基盤

諸岡 健一

九州大学 大学院システム情報 科学研究院

准教授

3D 画像認識 AI による革新的癌診断支援シ ステムの構築

<総評> 研究総括:栄藤 稔(大阪大学 先導的学際研究機構 教授)
本研究領域は、実社会の膨大なデータを知的・統合的かつセキュアに収集・処理・学習・制御するための人 工知能基盤技術と、その成果を組み合わせることにより社会問題の解決と産業の自動化・最適化に貢献するイ ノベーション創発に資する技術の確立を目指して平成 28 年度に発足し、今回が 2 回目の募集でした。

本募集に対して、産業応用に資する汎用的機能の実現を目指す基盤研究実証型の提案が 11 件、医療・農業・ インフラ・観光等の多岐にわたる社会課題を取り上げたイノベーション創出型の提案が 21 件、合計 32 件の応 募がありました。社会実装を見据えて企業等との連携体制を構築した研究提案も多く見られました。

選考は、機械学習、画像処理、ロボティクス、データベース、セキュリティなどの研究者に、産業界で社会 イノベーション創出や新規事業立ち上げに携わる有識者も加えた 10 名の領域アドバイザーと、医学分野の 1 名の外部評価委員の協力を得て公平かつ厳正に実施しました。書類選考での評価が優れていた 13 件の研究提 案を対象に面接選考を行い、特に優れた提案 6 件を採択しました。

選考にあたっては、以下の点を考慮して評価を実施しました。
・イノベーションに向けたシナリオが明確か。2 年 6 ヶ月後/5 年 6 ヶ月後に得られる成果が想像できるか。 その成果に向けた熱意が感じられるか。
・チーム内の役割分担が明確で、必要不可欠な研究体制になっているか。
・機械学習をベースとした提案の場合、データが準備されているか。あるいはデータが準備される具体的な予定があるか。
・社会実装を目指す提案の場合、システムを実装運用することが考慮された研究体制になっているか。
・適切な規模および範囲で、解決すれば有用な問題設定を行い、焦点の定まった研究提案となっているか。
– 複数の社会問題の一部分のみを切り出して集めたテーマ設定ではなく、小さくても役に立つ、ある社会問題を的確に捉えたテーマ設定となっているか。
・研究には、その技術課題が達成できないかもしれないというリスクがある。それが明確に意識されている か。スモールフェーズ採択チームのうち 1/2~1/3 が加速フェーズに進むという本領域の枠組みを鑑みて、 挑戦的な目標が設定されている提案を歓迎する。

今回採択されなかった提案の中にも、重要な社会課題に取り組もうとするもの、学術的意義の高いものが多くありました。しかしながら、上記の観点において不十分な要素のあるものや、提案内容の新規性・独自性について説明が不足しているもの、また、「人工知能基盤技術の創出と統合化」という領域の趣旨に合致しない ものなどについては不採択としました。今回採択とならなかった提案につきましても、不採択理由を踏まえて 研究提案を再検討され、是非来年度に再応募していただきたいと思います。

 

参考

  1. 平成29年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)の新規研究課題及び評価者について(JST)

あなたが論文を書けない理由がわかる40の質問


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なぜあなたの研究は進まないのか?
なぜあなたは論文が書けないのか?
なぜあなたの発表は伝わらないのか?


 

実験を頑張って良い結果を得ることと、それらのデータに基づいて論文原稿をまとめることは、頭や体の使い方がまったく異なる別の作業です。事実、実験は楽しくてそれだけで満足感が得られるが、その後、論文を書くのは苦痛という大学院生やポスドク研究者は相当数います。さらに、論文原稿を書き上げてから、実際にどこかの学術誌にアクセプトされるまでがまた遠い道のりです。

Work, Finish, Publish. (Michael Faraday) 「はたらき、まとめ、出版せよ」(科学者として成功した秘訣をたずねられたときのマイケル・ファラデーの答え) (参考:学術論文作成の基本 2012エルゼビア ランチョンセミナー PDF

論文掲載に至る途上には、研究者の気持ちをくじく障壁はたくさんあるわけですが、それを全てクリアしてめでたく論文アクセプトに持っていく底力が、研究者には要求されます。この力は論文を実際に出すことによってしか身につきません。ただし、その際、見通しが良くなるような指針があるとその苦労は軽減されます。

 

「なぜあなたは論文が書けないのか?」という、多くの研究者をギクッとさせるタイトルの本があります(メディカルレビュー社 2016年)。自分が責められているような気分になる人がいるかもしれませんが、ご安心を。副題は、「理由がわかれば見えてくる,論文を書ききるための処方箋」となっており、論文を書くという行動に心のブレーキをかけている研究者の心強い味方となる本です。

本書のプロローグのQ3では、まず、論文が書けない人、出せない人のパターンを4つに分けて分析しています。あなたの今の状況も、以下の4つの症状のどれかに当てはまるのではないでしょうか?

症状1:論文を書こうとパソコンに向かいはするが、どうも効率が悪い。いつまでたっても仕上がらない。

症状2:論文を書きたい、あるいは書かなければならないとは思っている。しかしどこから手をつけたらいいのかわからず、堂々巡りを繰り返している気がする。

症状3:論文を書いていはいるが、クオリティが低い気がする。それぞれのパートをどのように仕上げていったらいいかわからず、しっくりこない。

症状4:論文を一度は書き上げたもののpublicationに結びついていない。どこかの段階で止まってしまっている。

(Q3 論文作成のどこが律速段階になっているか─論文欠乏症の具体的症状を考えてみたか? より)

本書では、各々の症状に対する処方箋が章仕立てになっているので、解決策がすぐに見つかります。

 

IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)の解説本は多数ありますが、本当に論文をアクセプトにまで持っていくための心の持ち方、時間の遣い方や生活態度、論文の各セクションの書き方のポイントをここまで実践的に教えてくれる本は、他に例がありません。論文を書くときに一番悩ましいのがディスカッションのセクションだと思いますが、これに関しても、その必要性、目的、盛り込むべき内容、典型的な書き方のパターンなど、具体的かつ実際的な解説があります。

また、せっかく論文の原稿を書き上げたのにボスが読んでくれずに放置されているという悩みを大学院生やポスドクがしばしば口にします。この問題はQ38で取り上げられており、問題点の分析および対処法が述べられています。

 

論文を書かなきゃいけないのに億劫がっている人には、本書の目次だけでもかなり参考になるので、以下、目次を紹介します。

プロローグ

Q1 何のためにあなたは論文を書くのか,明確な答えがあるか?
Q2 論文を書くことはあなたの人生にとって無駄ではないと言い切れるか?
Q3 論文作成のどこが律速段階になっているか─論文欠乏症の具体的症状を考えてみたか?

CHAPTER 1 あなたが論文を書けないのには理由がある 執筆スタイルから取り組む論文作成術

Q4 学会発表は結構しているのに論文が書けていない,ということはないか?
Q5 論文をイッキに書き上げようとしていないか?
Q6 論文作成の大部分は「単純作業」だと認識しているか?
Q7 目標と同時に「持ち時間」も小分けにしているか?
Q8 「まとまった時間がないから書けない」を言い訳にしていないか?
Q9 論文作成はあなたにとって「差し迫った」問題か?
Q10 論文作成中,ついネットやメールをしていないか?
Q11 論文作成に必要な「知的作業」のために,まとまった時間を確保しているか?
Q12 論文作成中にデータが不十分だと感じて筆を止めていないか?
Q13 書きかけの論文が複数ないか?
Q14 英文を書くことに意識過剰になっていないか?

CHAPTER 2 すべての物事は2度作られる いよいよ論文執筆? その前にやっておくべきこと=第一の創造

Q15 論文の核になるデータがあるか?
Q16 データさえ揃えば論文はすぐに書けると思っていないか?
Q17 ストーリーは描けているか?
Q18 論文の構想(第一の創造)を相談できる相手がいるか?
Q19 論文のテーマに関連した文献を30 以上集めて目を通したか?
Q20 モデルとなる論文が3 本程度見つかったか?
Q21 論文作成のためのWord 文書を作成したか?

CHAPTER 3 なんとなく書いていないか? メリハリをつけるパート別論文執筆のコツ

Q22 まずはここから:論文の結論を1 ~ 2 行で簡潔に書ききれるか?
Q23 Introduction 1 明確な研究の「目的」または「仮説」を書いているか?
Q24 Introduction 2 知識のギャップを中心にした3 段論法を展開できているか?
Q25 Introduction 3 味付けはサラッとしているか?
Q26 Materials and Methods 1 なぜ何を書くかを頭の中で整理できているか?
Q27 Materials and Methods 2 Reviewer・読者にわかりやすく簡潔にまとまっているか?
Q28 Result 1 Figure の紙芝居で組み立てたストーリーに沿って書き進めているか?
Q29 Result 2 建て前と本音を区別して読者を誘導できているか?
Q30 Result 3 Result とDiscussion の棲み分けができているか?
Q31 Discussion 1 なぜ論文にDiscussion が必要かを理解しているか?
Q32 Discussion 2 書き出しのパターンを押さえているか?
Q33 Discussion 3 ポイントとなる結果と過去の文献を使って結論を支持しているか?
Q34 Discussion 4 研究の限界(limitation)を述べているか?
Q35 すべてのパートが同じベクトルを持って書かれているか?

CHAPTER 4 書いただけで終わっていないか? ここからが本当に大事なツメの作業

Q36 目標Journal の投稿規定に目を通したか?
Q37 倫理規定は守れているか?
Q38 書き上げたはずの論文が放置されていないか?
Q39 Reject されて心が折れていないか?
Q40 Reviewer の質問に,前向きかつポジティブに答えられているか?

 

以上40個の質問に対する答えが自分の頭の中で明確に整理できていない人には、本書の内容が非常に深い示唆を与えてくれるでしょう。やるべきことが明らかになれば、論文を書くモチベーションが高まり、アクセプトまでの道のりがたとえ長くても、そのモチベーションを維持することができるはずです。

 

参考

  1. なぜあなたは論文が書けないのか?(メディカルレビュー社 書籍詳細ページ )

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なぜあなたの研究は進まないのか?
なぜあなたは論文が書けないのか?
なぜあなたの発表は伝わらないのか?