日本の科学と技術

福島第1原発で起きたこと 今中氏のセミナー

2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故から5年: 5年前に福島第1原発で起きたこと (今中 哲二 氏のセミナー動画)

2011年(平成23年)3月11日14時46分に東北地方太平洋沖地震が発生し、津波に襲われた福島第一原子力発電所では非常用電源も含めて全ての電気が止まりました。その結果、炉心を冷却して発熱を止めることができなくなり、炉心溶融(メルトダウン)に至る大事故となりました。

5年前に福島第1原発で起きたことおよびこれまでの5年間を考えるための参考になりそうな、最近行われた市民向け講演会の動画を紹介します。講師は京都大学原子炉実験所の今中哲二氏。

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勉強会 『事故直後の被曝量をいまから見積もる試み:飯舘村といわき市』 NPO法人いわき放射能市民測定室 たらちね
講師:京都大学原子炉実験所 今中哲二 先生

今中哲二 勉強会 2016年1月31日 (本論の始まり 8:30-)

今日の話題
1.5年前に福島第1原発で起きたこと (8:55-38:33)
2.飯舘村での初期被爆評価プロジェクト:結果と宿題
3.いわき市での初期被爆評価について:これからの構想

1.5年前に福島第1原発で起きたこと (* 完全な文字起こしではありません)

地震、津波、運転停止
8:55 まず、5年前に起きたこと。福島第一原発で大変な事故が起きました。3月11日14時46分地震が発生。1号機、2号機、3号機が運転中。
10:05 地震が起きたときの、原子炉の非常事態の3つのスローガン:「止める、冷やす、閉じ込める」
11:58 震源の距離は180km、地震が起きました。制御棒が自動的に原子炉に入って原子炉は止まった。「止める」にはこの3つは成功しました。地震で原子炉があるのはちょくちょくある話です。
11:40 そのときにこの原子炉で何が起きたかというと、原子力発電所は普段は電気を作って外へ出しているわけ。地震で1,2,3は停まってしまった。4,5,6(号機)も動いてなかったということになると電気がなくなるわけです。そういうとき外から電気を持ってきます。外部電源。送電線があって、この発電所の場合2系統+予備で3つ、それが全部やられた。送電線のタワーが地震で倒れ、変電所の碍子が地震で壊れて、電気を受けられなくなった。ひとつの緊急事態です。そこまでは日本の原発は対策は考えていた。そういうときに備えて、非常用発電機、ディーゼル発電機を備えている。
13:00 ディーゼル発電機が予定通り動き始めた後に起きたこと、津波ですよね。15時35分、36分、37分と何回かにわけて津波が来た。
13:30 この発電所の非常用発電機がどこにあったか?原子炉が入っている原子炉建屋というのがこの四角の建物、長細いのは電気を起こすタービンが入っているタービン建屋。非常用発電機は、このタービン建屋の地下にあった。
14:00 この発電所の津波対策は5.7m。そこに10mを越える津波がきて、全部水浸しになって非常用発電機も止まってしまった。本当に深刻な事態が始まってきたということになります。

非常用電源、メルトダウン

14:26 福島原発事故も、原子炉の安全性に責任を持っている人たちが「原発は危ないものだ」と本当に思っていたら、簡単に回避ができた。なぜならば、この非常用発電機をちょっと山のほうに置いておくとかすれば回避できた。ここに10mをこえる津波が来るかもしれないよという警告はずいぶんまえからされていた。
15:04 吉田調書を読んでいくと、「2008年に、東電内部チームから、福島原発で10mを越える津波の可能性の報告があった」。結局全部それを握りつぶしてきた、ということがこの事故につながったんだろうと思います。そういうことで人災であることは間違いない。
15:38 結局、3月12日、1号機で水素爆発、3月14日に3号機で水素爆発。冷やせなくなって。電源がなくなるということは、ポンプを回せなくなる。ポンプを回せないということは、水が送れない。

16:04 ちょっとややこしい話なんですけれども、核分裂の連鎖反応は止まっているんですよね。日常生活で火が燃えているところに水をかけたら火が消えて発熱は終わります。原子炉が厄介なのは、核分裂の連鎖反応が止まっても発熱は続いている。これはどいう発熱かというと、莫大な量の放射能が溜まっているんですよね。ウランが核分裂を起こすと、核分裂生成物これが非常に放射能が強い。放射能が強いということは放射線を出しているわけ。アルファ線、ベータ線、ガンマ線という言葉を聞かれたことがあると思いますが、それぞれ強いエネルギーを持っている。この真ん中に莫大な放射能が溜まっていると、放射線が出たら最終的に熱になる。その熱(崩壊熱あるいは残留熱と呼ぶ)をうまく取り除かないと、全部溶けてしまう。これが原子力発電の一番やっかいな点です。

17:45 1号機の電気出力46万kW。要するにタービンをぐるぐる回して出てくる電気の量が46万kW。原子炉の中でどれだけの熱が出ているかというと、運転中が46万kWだったとするとその3倍、だいたい120万kW。原子力の発電効率は非常に悪くて3分の1。原子炉の中では3倍の熱が出る。

18:30 (スライド:全交流電源喪失→炉心冷却不能がおきたら)

18:30(スライド:BWRの構造図) 核分裂が止まったときどれくらいの熱がまだ発生しているかというと、その6%か7%、ですから10万kWくらいの発熱があります。その熱をうまいこと取り除いてやらないと溶けてしまう。ポンプが止まって、崩壊熱が冷やせなくなって、メルトダウン。
19:20 (燃料棒の説明)

20:35 燃料棒の鞘の金属、ジルコニウムは1000度を越えると水とよく反応する。酸素とジルコニウムがくっついて酸化ジルコニウム。結局、水とジルコニウムの反応で、水素が生じる。

21:35 最終的に放射能を閉じ込める役割をするのはこの格納容器。この中の温度、圧力が上がっているぞと。(燃料集合体が)高温になって溶けてしまうのがメルトダウン。厚さが15cm、20cmの鋼鉄製のお釜と言いましたけれど、これが溶けてしまうのがメルトスルー。

22:20 メルトダウン、メルトスルーが1号機では11日の夜から多分始まっていたと思います。
23:16 福島がチェルノブイリになってしまったのは15日のことです。「とめる、ひやす、とじこめる」の閉じ込めるという役割はこの格納容器なんですよね。1号機3号機は派手に爆発したけれどもこの格納容器はまだ壊れていなかった。「閉じ込め」機能はまだあった。3月15日の午前11時に枝野さんが「格納容器が壊れた」。ここで「閉じ込める」もできなくなった。私は、本当に大変だもう涙が出る思いがしました。
24:36 (スライドのグラフ)これは放射能濃度を後から調べた結果。Iはヨウ素、Csはセシウムの記号
25:30 (グラフ)3月15日のSPEEDIの結果。

放射能汚染
27:30 原発事故のときはいろんな放射能が出るんですけれども、福島の事故で問題になるのは主に放射性のヨウ素131、放射性セシウム134と137。ヨウ素131は半減期が8日間なので2ヶ月か3ヶ月で消えます。一方、セシウム134の半減期が2年、セシウム137の半減期が30年。
28:48 私は東京だってある意味で放射能まみれだと言っています。東京の土を採って私の職場の測定器で測ると、どこでも、セシウム137と134が出てきます。そういう意味ではかなりの汚染です。
29:08 (スライド)セシウム137の汚染が1平方m当り1万ベクレル以上の面積は約2万5000平方km。
29:58 (スライド)ある程度の被爆は避けられない。専門家の役割は被爆リスクについてできるだけ確かな情報を出す、これが私の役割だと思っています。ここなら住める住めないという一般的な判断は私にはありません。みなさんがどうするというのは私からは言えない、そういうスタンスでやっています

1960年代の核実験による放射能との比較
32:34 (スライド)私が子供のころ、1962年から1963年にかけて空から放射能セシウム137)が降ってきました。ソビエト、アメリカ、中国が核実験。一つの目安になると思う。1平方mあたり3000ベクレルから5000ベクレル。セシウムは土につかまりやすい、あまり流れない。半減期が30年。1962年から50年、そのときの放射能というのは日本中どこでも残っています。人の手のはいっていない山とかで土をとってくると、上の10cmから20cmの間にセシウム137があります。これは福島原発からではなくて、(当時の)核実験。1平方mあたり1000ベクレルくらい残っています。というのがひとつの目安になります。
34:54 この1万ベクレルというのがどれくらいの量かということなんですけれども、多摩市で土をとってくると1平方mあたり1万4千(ベクレル)ありました。

もともと自然に存在する放射能との比較
35:58 自然界にもともと放射能あります。その量がどれくらいかというと東京でだいたい0.05マイクロシーベルトくらいです。それに1平方mあたり10,000ベクレルのセシウムがあったら、
0.05だったものが0.06か0.07くらいに上がります。ですから、1平方mあたり10,000ベクレルというのは、放射線量を0,01か0.02(マイクロシーベルト)上げる量。
36:53 福島くらい行くと10万ベクレル、0.1から0.2(マイクロシーベルト)上がります。これは自然放射線よりかなり大きなレベルになります。
37:10 自然放射線というのは実は場所によって違います。東京は0.05(マイクロシーベルト)と言いましたけれども、福島は比較的低くて0.04くらいだったと思います。広島が日本で一番高くて、平和公園で測ると0.08あります。たいていの人は「原爆のせいか」というんですけど、そうではありません。土の性質によります。自然放射線というのは、地面からくるやつ、宇宙からくるやつ、があります。広島の場合は花崗岩が多いんですよね。花崗岩の中には放射線の元、ウラン、トリウムが他の地域に比べると多いので0.08になります。ということを考えながら、この汚染というものを見ていただきたい。

38:39 飯舘村の話に入ります。5年前、放射能汚染の情報がまったくといっていいほど出てこなかった。

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第112回 原子力安全問題ゼミ (2016年2月10日に京都大学原子炉実験所で開催された「最後」の原子力安全問題ゼ­ミより、今中哲二さんの講演部分の映像)

第112回原子力安全問題ゼミ 今中哲二さん講演(全編版) (youtu.be/PpUclT4dDlA)

今日の話 (スライド 7:53)
1.飯舘村のいま
2.5年前に福島第1原発で起きたこと (11:45-30:33)
3.これまで福島でやってきたこと
4.日本も、放射能汚染と向かい合う時代になった

参考

  1. 東電社長 メルトダウンの判断巡り「隠蔽ではない」(HHK NEWSWEB 2016年3月3日):”東京電力の廣瀬社長は3日の参議院予算委員会に参考人として出席し、…「3月14日の朝の時点で1号機は55%の損傷率だと報告したが、マニュアル上は『5%という数字をもって炉心溶融と判定しなさい』と書かれており、明らかに5%より大きく、隠蔽するということではなかったと考えている」と説明しました。”
  2. 「メルトダウン」判定基準問題 菅氏「可能性あると思っていた」 (FNN 2016/02/25) ニュース動画 ”東日本大震災から5年近くがたち、新たに驚きの事実が判明した。事故を起こした福島第1原発、核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が公表されたのは、発生から2カ月後というタイミングだったが、実際には、事故発生のほぼ直後から「メルトダウン」と判断できたはずの東電社内マニュアルが存在していたことがわかった。事故発生から3日後の2011年3月14日午前11時ごろ。福島第1原発では、12日に水素爆発した1号機に続き、3号機でも爆発が発生した。事態が緊迫の度を増す中、東京電力は会見で、炉心溶融いわゆる「メルトダウン」が起きている可能性について聞かれ、「燃料の損傷の程度というのは、ちょっと今の時点ではわかりません」、「(溶融の可能性はあると?)可能性はあります」と話していた。実際はこの時、原子炉内の核燃料が1号機で55%、3号機で30%損傷したことがわかっていたが、東電は当時、「メルトダウンと判断する定義がない」などと説明。会見などでは、炉心の溶融ではなく損傷の表現にとどめていた。しかし、事故から5年近くがたって、驚きの事実が発覚。メルトダウンの判定基準が記された社内マニュアルを東電はこれまでずっと見過ごしてきたという。24日の会見で、東電は「マニュアル上で、炉心損傷割合が5%を超えていれば、炉心溶融と判定するということが明記されているということが判明致しました」と話した。”
  3. 東電、「メルトダウン」社内マニュアルを5年経って「発掘」 事故1年前に改訂していたのに「気づかなかった」とは (JCASTニュース 2016/2/25):”2011年3月11日に起きた東京電力福島第1原発事故で、本来であれば事故から3日後には核燃料が融け落ちる「メルトダウン(炉心溶融)」が起きたことを発表できていたことが、16年2月24日の東電の発表で明らかになった。東電は事故について「炉心溶融だと判定する根拠がなかった」などとして、炉心溶融を認める11年5月まで、溶融ほど深刻ではなく、燃料が傷ついた状態を指す「炉心損傷」という言葉を使い続けてきた。だが、事故から丸5年もたった今になって、当時の事故判定マニュアルを「発見」したのだという。そこには「炉心損傷の割合が5%を超えていれば、炉心溶融と判定する」という記述が明確にあった。”
  4. 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)
  5. 福島第一原子力発電所事故(ウィキペディア)
  6. 今中哲二・京大原子炉実験所助教の最終講義(2016年1月28日) (大間原発止める道 ooma.exblog.jp)
  7. 放射能汚染の時代を生きる~京大原子炉実験所・”異端”の研究者たち~ 2011年10­月23日(日)深夜25:00-26:00 大阪MBS関西ローカル (youtu.be/vBg1XUr88ow
  8. 原子力安全問題ゼミ<最近の安全ゼミ>
  9. 原子力安全問題ゼミ全レジュメ集 第一回(1980.6.4)~第100回(2005.3.22)
  10. 炉心溶融のシミュレーション 防災用事故シナリオ理解のための教材(BWRマークI型)
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