2026年現在、AIはMDPIをどう見ているのでしょうか?GeminiとClaudeに訊いてみて、両者の回答を合わせてブログ記事にすることをClaudeにお願いしました。以下、完成した記事。
目次
- 1 MDPIってどうなの? ——「ハゲタカ」という一語では終われない話
- 1.1 はじめに:この記事は誰のために書かれたか
- 1.2 第1章 そもそも「ハゲタカ」とは何を指す言葉なのか
- 1.3 第2章 MDPIの来歴——化学サンプルの保存機関から世界第5位の出版社へ
- 1.4 第3章 学術的批判の本丸——Oviedo-García論文とその顛末
- 1.5 第4章 ビジネスモデルの解剖——「特集号」の工業化
- 1.6 第5章 システム全体への負荷——「科学出版への圧迫」
- 1.7 第6章 MDPIの反論を、真面目に検討する
- 1.8 第7章 構造的脆弱性——ペーパーミルはどこを狙うか
- 1.9 第8章 市場の審判——2023年のClarivate除外
- 1.10 第9章 各国の制度的対応——現実のキャリアリスク
- 1.11 第10章 4人の読者へ
- 1.12 第11章 結論——問いを立て直す
- 1.13 出典と注意書き
MDPIってどうなの? ——「ハゲタカ」という一語では終われない話
はじめに:この記事は誰のために書かれたか
MDPIの話題は、学術界でもっとも荒れやすい話題のひとつです。冷静な議論が成立しにくい理由のひとつは、この問いに向き合う人たちが、まったく違う立場から同じ言葉を使っているからだと思います。
たとえば、こんな人たちがいます。
「MDPIってどうなのよ?」 ——投稿先を探していて、査読が速いらしいと聞いた。でも指導教員が微妙な顔をした。何が問題なのか、はっきり教えてほしい。
「MDPIに出しちゃったよ……」 ——もう載ってしまった。あるいは今まさに査読中。今さら言われても困る。自分の業績は傷物なのか。
「MDPIは悪くないぞ」 ——自分の分野では普通に読まれている雑誌だ。速くて安いオープンアクセスを既得権益側が叩いているだけではないのか。
「MDPIなんてゴミだろ」 ——毎週届く特集号ゲストエディターの勧誘メール。3日で返せという査読依頼。もう付き合いきれない。
この4つの感覚は、どれも現実に根ざしています。そして厄介なことに、どれも部分的に正しい。この記事の目的は、どれかを論破することではなく、それぞれの感覚がどの事実に対応しているのかを腑分けし、最後に「では自分はどう判断すればいいのか」という実務的な問いに答えることです。
長くなりますが、結論だけ先に置いておきます。
厳密な定義に照らせば、MDPIはハゲタカ出版社ではない。しかし、ハゲタカ的な結果を生みやすい構造を抱えており、その構造はポートフォリオの一部で実際に破綻している。
以下、その根拠を順に見ていきます。
第1章 そもそも「ハゲタカ」とは何を指す言葉なのか
議論が噛み合わない最大の原因は、「ハゲタカ」という語の定義が人によって違うことです。ここを固めないと、あとは水掛け論になります。
ビールの定義:欺瞞と不在
この語を広めたのは、コロラド大学の図書館員 Jeffrey Beall でした。彼が想定していたのは、はっきりと詐欺的な業者です。
- 索引収録の状況について嘘をつく
- 実在しない、あるいは本人の承諾を得ていない研究者を編集委員に並べる
- 査読をほとんど、あるいはまったく行わずに掲載料だけを徴収する
- 大量の勧誘メールで投稿を集める
要するに、著者を騙して金を取るビジネスです。
2019年の合意定義:三本柱
Beallのリストは基準の不透明さを批判され、2017年に閉鎖されました。その後、より厳密な定義を求める動きが起こります。その到達点が、Grudniewicz らによる Nature の論説「Predatory journals: no definition, no defence」(2019年、576巻210–212頁)です。分野をまたいだ専門家による合意形成の結果、ハゲタカジャーナルの中核要件は次の三点に整理されました。
- 欺瞞(deception)
- 査読の不在または偽装
- 透明性の欠如
この定義は現在、学術界でもっとも広く参照される基準です。そして重要なのは——MDPIはこの三点をいずれも満たしていないということです。
MDPIは実際に査読を行っています。編集委員は実在します。COPE(出版倫理委員会)に加盟し、DOAJに収録され、主要誌の多くはScopusとWeb of Scienceに収録されています。掲載料も公開されています。
だから、「MDPI = ハゲタカ」という等号を、この定義のもとで成立させることはできません。この点については、MDPI側の反論に筋が通っています。
では、批判は的外れなのか
そうとも言えません。定義に当てはまらないことと、問題がないことは別だからです。
批判者の多くが実際に問題にしているのは、詐欺かどうかではなく、次のような論点です。
- 出版量の急拡大が、査読という有限資源を食い潰していないか
- 特集号の乱発が、品質管理を構造的に不可能にしていないか
- 速度の追求が、不正を検出する余地を奪っていないか
これらは「ハゲタカ」という語の射程外にあります。にもかかわらず、批判者はしばしばこの語を借用し、擁護者は「定義に合わない」と反論する。すれ違いはここで起きています。
ですので、この記事では以降、「ハゲタカかどうか」という問いをいったん脇に置き、実際に何が起きているのかを見ていきます。
第2章 MDPIの来歴——化学サンプルの保存機関から世界第5位の出版社へ
MDPIは1996年、化学者の Shu-Kun Lin によって設立されました。当初の名称は Molecular Diversity Preservation International(分子多様性保存国際機構)。希少な化学サンプルの交換を促進するための組織で、学術出版はその付随事業でした。
現在の本拠地はスイス・バーゼル。頭文字はそのままに、Multidisciplinary Digital Publishing Institute と読み替えられ、年間数十万本の査読論文を発行する世界第5位規模の商業出版社に変貌しています。
ビールのリストと、そこからの除外
2014年2月、Beall はMDPIを「潜在的・可能性のある・おそらくの」ハゲタカOA出版社のリストに追加しました。彼の主な論拠は次のようなものでした。
- 数百本の軽い査読論文を抱える「倉庫ジャーナル」を運営している
- 昇進・テニュア目的の論文生産装置になっている
- 攻撃的な勧誘メールを送っている
- ノーベル賞受賞者を本人の承諾なく編集委員に掲載している
MDPIは公開の場で激しく反論しました。ノーベル賞受賞者については、本人が委員就任を認識していた証拠を提出。ケンブリッジ大学の化学者 Peter Murray-Rust など、著名研究者からも「実証的根拠を欠く無責任なリスト入れだ」とする擁護が出ました。
2015年10月、MDPIはBeallの独立審査委員会への異議申し立てに成功し、リストから完全に削除されます。
その後2017年、Beallのリストは出版社からの圧力を理由に閉鎖されました。Beall自身は後に、MDPIが彼の勤務先大学に対して執拗な働きかけを行ったと主張しています。この件は双方の主張が対立したままで、外部から検証することは困難です。
実証的なテスト:2013年のスティング作戦
ここで注目に値するのが、2013年の Science 誌によるおとり調査です。John Bohannon が意図的に致命的な欠陥を仕込んだ偽論文を作成し、数百のOA誌に投稿して査読の質を試しました(「Who’s Afraid of Peer Review?」)。
結果——MDPIの Cancers 誌は欠陥を見抜き、この偽論文をリジェクトしました。
さらに2014年4月には、OASPA(オープンアクセス学術出版社協会)が独立調査を実施し、MDPIが倫理的出版に関する会員基準をすべて満たしていると結論づけています。
つまり、「査読が機能していない」という最も強い形の批判は、少なくとも当時、実証的に支持されなかった。これは擁護派にとっての重要な根拠であり、批判を組み立てるならここは迂回する必要があります。
第3章 学術的批判の本丸——Oviedo-García論文とその顛末
MDPI批判が、ブログや図書館員のウォッチリストの領域から査読付き学術文献の領域へ移ったのが2021年です。
何が主張されたか
セビリア大学の M. Ángeles Oviedo-García が、Oxford University Press の Research Evaluation 誌(30巻3号)に「Journal citation reports and the definition of a predatory journal: The case of the Multidisciplinary Digital Publishing Institute (MDPI)」を発表しました。
分析対象は、2018年・2019年のClarivate Journal Citation Reports に収録されたMDPIの53誌。主な指摘は以下の通りです。
自己引用率の異常な高さ。同一誌内からの引用(自己引用)、および同一出版社の他誌からの引用(出版社内引用)が高い水準にありました。自己引用を除去すると、53誌のインパクトファクターは平均14.8%低下。Sustainability 誌では約39%の崩落が生じました。2019年時点で、53誌中24誌が、索引機関が許容範囲とする15%の閾値を超えていたとされます。
成長速度と査読期間。53誌平均で年148.9%の論文数増加、そして平均19日という画一的な査読期間。
そして結論。初版の抄録は、これらの形式的基準と引用パターンが「それらをハゲタカジャーナルとして特定する」と、断定的に述べていました。
MDPIの反論
MDPIは即座に、逐条の公開反論を発表します。中心的な論点はベンチマークの取り方でした。
Oviedo-García は、Q2・Q3ランクのMDPI誌の引用指標を、当該JCRカテゴリの第1位誌と直接比較していました。MDPIの反論はこうです——中位ランクの雑誌がカテゴリ首位誌と異なる引用パターンを示すのは数学的に当然であり、科学的に妥当な比較をするなら、他社の同ランク誌と比較しなければならない。
さらにMDPIは、この論文が「MDPIはハゲタカである」という結論を前提として置き、そこから逆算して基準を選択的に適用している(循環論法である)と批判し、透明な査読プロセスと、真のハゲタカを厳格に排除する主要データベースへの収録実績を無視していると主張しました。
撤回・差し替え
2021年9月、Research Evaluation 誌は Expression of Concern(懸念表明)を発出。そして2023年、論文は撤回・差し替え(retracted and replaced)されました。公式通知は「論文中で導かれた結論に関する懸念」を理由としています。
差し替え版では表現が大幅に緩和されました。ハゲタカであると断定するのではなく、引用パターンが「それらがハゲタカジャーナルである可能性を示唆する」という表現に変わり、トップ誌のみをベンチマークとした方法論上の限界についての但し書きと、比較研究の必要性への言及が追加されています。
この一件をどう読むか
ここは、立場によって読み方がきれいに分かれるところです。
擁護派の読み方:最も権威ある批判論文が、査読誌の判断で撤回された。方法論に欠陥があったことは編集部が認めた事実である。
批判派の読み方:データ自体が否定されたわけではない。自己引用率も成長率も19日の査読期間も、差し替え版に残っている。変わったのは「断定」から「示唆」への表現であり、出版社からの強い働きかけの後に起きた変更である。
中立的に言えること:この論文は、もはや「MDPIはハゲタカである」という主張の典拠としては使えません。使うなら、必ず2023年の差し替え版(version of record)を参照し、撤回・差し替えの経緯に触れる必要があります。旧版の断定的な抄録を引用する記事や発表をときどき見かけますが、それは不正確です。
同時に、この一件は出版社が学術批判に対して持つ影響力の実例でもあり、その観点から議論されるべき論点でもあります。
第4章 ビジネスモデルの解剖——「特集号」の工業化
形式的な索引基準を満たしているかどうかを離れて、MDPIの成長が実際に何によって駆動されているのかを見ると、議論の様相が変わります。
答えは、通常投稿の自然増ではありません。特集号(Special Issue)モデルへの、意図的かつ工業的な転換です。
特集号とは本来何だったか
伝統的に、特集号は稀で、高度にキュレーションされた企画でした。雑誌の中核編集委員会が管理し、新興のサブ分野を浮かび上がらせたり、重要な会議のプロシーディングスをまとめたりするために組まれるものです。年に数回あれば多いほうでした。
MDPIはこのパラダイムを完全に反転させました。特集号は、例外ではなく主力エンジンになったのです。
Crosettoのデータ
経済学者 Paolo Crosetto が自身のブログで公開した大規模なスクレイピング分析(2021年4月「Is MDPI a predatory publisher?」)は、この転換の規模を定量化しました。この記事はTwitter/Xで爆発的に共有され、学術論文以外でこの問題に最も影響を与えた一本になっています。
インパクトファクターを持つMDPI誌74誌(当時の出版量の約90%)を分析した結果——
2016年から2020年にかけて、通常号の論文数は2.6倍に増えた。同じ期間に、特集号の論文数は7.5倍に増えた。
2020年時点で、これら主力誌の全論文の68.3%が特集号由来でした。
そして加速は止まりません。2021年3月時点で、Sustainability 誌は3,303本の特集号を同時進行させていました。通常号はわずか24本。1日あたり9本の新規特集号が立ち上がる計算です。
| 年 | 特集号総数(IF保有74誌) | 1誌あたり平均 |
|---|---|---|
| 2013 | 388 | 約5 |
| 2015 | 710 | 約9 |
| 2017 | 1,386 | 約18 |
| 2019 | 4,096 | 約55 |
| 2020 | 6,756 | 約91 |
| 2021(推計) | 約39,500+ | 約500+ |
表1:MDPI特集号の指数的増加。Crosetto によるMDPIドメインのスクレイピング分析に基づく。
ゲストエディター制という仕組み
この規模を支えているのが、高度に分散化されたゲストエディター制です。中核編集委員会に依存する代わりに、MDPIのスタッフが世界中の研究者に大量の勧誘メールを送り、特集号のゲストエディター就任や新設コレクションへの投稿を依頼します。
学術界がこれを「アカデミック・スパム」と呼ぶのには理由があります。専門分野からまったく外れた研究者にも勧誘が届くことが日常的に報告されているからです。生態学者に材料科学の特集号を、臨床医に計算社会科学の特集号を、といった具合に。
構造として見れば、これは次のようなことをしています。
査読者の手配と著者の募集という労働を、一時的なゲストエディターに外部委託し、MDPIは掲載料(誌によって概ね1,180〜3,200スイスフラン)を回収する。
ゲストエディターは無報酬(あるいは自身の掲載料免除)で、多くの場合キャリア初期の研究者です。彼らには、自分が招いた著者の論文をリジェクトする強いインセンティブがありません。むしろ逆です。特集号が論文ゼロで終われば、自分の企画が失敗したことになるのですから。
これが、批判の核心です。詐欺があるわけではない。査読が存在しないわけでもない。しかし、リジェクトしにくい構造が、制度として大量に複製されている。
内部からの異議:Nutrients 誌の集団辞任
この構造が品質管理と衝突した最も可視的な事例が、2018年8月の Nutrients 誌編集委員の集団辞任です。
編集長を含む10名の上級編集委員が同時に辞任し、Science 誌の報道によれば、辞任した編集者たちは「MDPIの経営側から、掲載料収入を維持するために編集基準を下げ、質と重要性において凡庸な原稿を受理するよう継続的に圧力を受けた」と主張しました。
MDPIはこの見方を否定しています。この件は現在も、双方の主張が並立したままです。ただし、個別事案としては最も頻繁に引用される出来事であることは間違いありません。
第5章 システム全体への負荷——「科学出版への圧迫」
問題はMDPI一社にとどまりません。果てしない特集号と超高速の処理速度が、科学出版システム全体に何をしているか。これを計量書誌学的に扱ったのが、Mark A. Hanson らによる「The strain on scientific publishing」です(2023年 arXiv プレプリント、その後 Quantitative Science Studies 掲載)。
数字
2016年から2022年にかけて、索引収録論文の世界総産出は47%増加しました。年間190万本から280万本へ。
一方で、現役研究者数と博士号取得者数は、これに見合う速度では増えていません。結果として生じるのは、無報酬の査読労働プールへの、持続不可能な負荷です。
さらに、この負荷の大部分を生み出しているのは、ごく少数の出版社です。Hanson らのデータによれば、この期間の世界的な論文数増加のうち——
- MDPI:約27%
- Elsevier:約16%
- Springer Nature:約9.5%
単独の出版社が、世界の論文増加の4分の1以上を生み出していた。これがMDPIをめぐる議論の温度の高さの、最も客観的な説明です。
Hanson は Bluesky 上の議論で、「publish or perish の文化が、無限に刷る意志を持つ出版社と衝突した結果、科学者は圧倒され、編集者は過労に陥っている」という趣旨のことを述べています。
なお、この議論の射程はMDPIより広いことに注意が必要です。Elsevier の16%という数字も、決して小さくありません。「MDPIだけが悪い」という話にはなっていないのです。
査読の現場で起きていること
この疲弊は、SNS上の生の声に鮮明に反映されています。Reddit の r/Professors では、MDPIの査読期限が定番の不満として繰り返し投稿されます。
7〜10日での包括的な査読を求められ、その後「3〜5日で」という自動リマインダーが矢継ぎ早に届く。
研究者たちの反論はきわめて真っ当です。複雑な方法論を評価し、コードを確認し、データの整合性を検証し、引用を照合するには、数時間の集中作業が必要であり、多くの場合それを複数日に分散させて、認知的な反芻の時間を確保する必要がある。
3日で返せという要求は、構造的に、流し読みとゴム印押しと不正の見落としを奨励している。
この感覚を象徴するフレーズとして、r/Professors では「アカデミアのTikTok」という言い方が使われました。高速で中毒性の高い指標生成に最適化されているが、伝統的な学術探究が持つ深さとキュレーションを根本的に欠いている、という揶揄です。
Zen Faulkes がブログ NeuroDojo で実施したTwitter投票では、回答した研究者の50%が「MDPI誌には投稿しない」と答えました。掲載の速さという明白な魅力があるにもかかわらず、です。
もっとも、Twitter投票は当然ながら、MDPI批判に関心のある層が集まりやすいというサンプリングの偏りを持ちます。「学術界の半分がMDPIを拒否している」という読み方は正確ではありません。この数字は、特定のコミュニティにおける懐疑の強さを示す指標として読むべきものです。
第6章 MDPIの反論を、真面目に検討する
ここまで批判を重ねてきましたが、MDPIの反論には検討に値する部分がかなりあります。擁護派の主張を藁人形にしないために、一つずつ見ていきます。
「速さは手抜きではなく、設計である」
MDPIは、市場最速の処理速度を、専用編集管理システム(SuSy)への投資、数千人規模のグローバルサポートスタッフ、そして厳格な分業の結果だと説明しています。
フォーマット調整、盗用チェック、査読者の探索といった管理業務は社内編集スタッフが全面的に担い、Academic Editor は科学的判断のみに集中する。
この主張は、少なくとも論理としては妥当です。従来の出版社で6〜12か月待たされるのは、科学的厳密さの証ではなく、単なる非効率かもしれない。「遅いこと」を品質の代理指標として扱う習慣は、批判的に検討されるべきです。
「リジェクト率60%」
MDPIは総合リジェクト率を公表しています。2024年・2025年の年次報告によれば、66万9,000件超の投稿を処理し、総合リジェクト率は約60%、掲載は約26万1,500本とされています。
論理としては強力な反論です。60%をリジェクトする出版社は、「金を払えば載る」という定義には当てはまりません。
誌別の数字も公開されています。
| 誌名 | 創刊年 | IF(近年) | CiteScore | 報告リジェクト率 |
|---|---|---|---|---|
| Materials | 2008 | 3.2 | 6.4 | 約50–60%(推定) |
| Information | 2010 | 4.3 | 8.2 | 62% |
| Data | 2016 | 2.4 | 5.4 | 59% |
| Resources | 2012 | 4.3 | 7.3 | 66% |
| Stats | 2018 | 1.1 | 1.9 | 48% |
| Reports | 2018 | — | — | 42% |
表2:MDPI各誌の公式統計ページに掲載された指標とリジェクト率。
ただし、この数字には慎重な読み方も必要です。リジェクト率は分母に何を含めるかで大きく変動します。事務的トリアージで弾かれる明らかな不適格投稿を分母に含めるかどうかで、同じ雑誌の数字が20ポイント動くことは珍しくありません。また、総合値は誌ごとの、さらには特集号ごとのばらつきを覆い隠します。60%という平均の裏には、95%リジェクトする誌と、実質的にほぼ通る特集号が同居しうる。
「60%だから問題ない」でも「公表値だから信用できない」でもなく、この数字は誌単位・企画単位で見ないと意味を持たない、というのが妥当な整理だと思います。
索引とコンプライアンス
MDPI誌のうち329誌以上がWeb of Science、355誌がScopusに収録されています。2024年の論文の97%が PubMed / MEDLINE に収録されました。これらは厳格な参入基準を持つデータベースです。
盗用検出には業界標準の iThenticate を使用し、ICMJE と COPE のガイドラインを遵守し、ペーパーミルとAI生成テキストに対抗するため研究公正チームを3倍に拡充したと発表しています。
2016年には17.5GBの内部データと査読者メールが流出するデータ漏洩がありましたが、MDPIは露出したインスタンスを保護し、インフラを更新するという対応を取りました。
また、MDPI自身がハゲタカ的行為の被害者になった例もあります。2024年初頭、predatoryreports.org というサイトが、恣意的なブラックリストからMDPIを削除する見返りに金銭を要求する恐喝スキームを仕掛けました。「ハゲタカ認定」自体がビジネスになりうるという、この問題の複雑さを示す事例です。
最強の反論:オープン査読
そして、サブスタンダードな査読という批判に対するMDPIの最も強力な防御が、オープン査読の早期導入です。
MDPIに投稿する著者は、査読報告書・著者の反論・編集判断のログを含む査読履歴の全文を、最終論文と並べて公開するオプションを選べます。査読者は自分の名前を署名して労働に対する信用を得ることもできます。
MDPIの主張はこうです——この水準の透明性は、ハゲタカ的行為の正反対である。査読者と著者の実際の対話をテキストとして公衆に晒すことで、実質的で反復的な科学的批判が現に行われていることを、科学界が独立に検証できるようにしている。
これは、真剣に受け止めるべき反論だと思います。そして、批判者にとっては使える道具でもあります。ある特定のMDPI誌の査読が実質的かどうかを知りたければ、その誌の公開査読履歴をいくつか読んでみればよい。「速いから中身がない」という推測ではなく、実物を見て判断できる。これは従来型の出版社の多くではできないことです。
第7章 構造的脆弱性——ペーパーミルはどこを狙うか
技術インフラとオープン査読オプションにもかかわらず、大量・分散型ゲストエディターモデルの構造的脆弱性は、出版後査読のネットワークによって継続的に露呈しています。最大の脅威がペーパーミル(論文工場)です。
ペーパーミルの標的選択
ペーパーミルとは、捏造ないし大幅に盗用された原稿を大量生産し、著者枠を販売する違法な営利組織です。顧客は、所属機関のテニュア要件を満たすために必死になっている研究者たちです。
ペーパーミルは、特集号モデルを使うオープンアクセス出版社を系統的に標的にします。理由は明快で、一時的なゲストエディターは、経験が浅いか、量に圧倒されているか、極端な場合には引用カルテルと不正に積極的に加担しているからです。
機械学習分類器を用いた研究によれば、がん研究のような特定のサブ分野の文献では、約10%がペーパーミル由来と整合するテキストパターンを含むとされ、しかもこれらの不正論文は逆説的に相当数の引用を集めます。
出版後査読の現場から
MDPIは迅速な出版を優先し、果てしない特集号を埋めるために編集的監督を外部委託しているため、こうした操作された論文の可視的な通り道として機能してきました。
Elisabeth Bik のような独立した科学探偵とデータ公正の専門家は、MDPI誌における大規模な異常、画像操作、テキスト上の不自然さを日常的に記録しています。PubPeer では、重複したウェスタンブロット、使い回された電子顕微鏡画像、捏造されたデータセットが、19日の査読窓をすり抜けた事例として指摘されています。
科学ジャーナリスト Leonid Schneider が運営する独立ブログ ForBetterScience も、こうした構造的失敗を継続的に記録し、ペーパーミルがMDPI誌に侵入し、不正データが学術記録に入ってからずっと後になって静かに撤回される事例を扱っています。
ただし、公平を期すために
ここで二つ、バランスを取るべき点があります。
第一に、MDPIは決定的証拠を示されれば実際に撤回しています。問題は「撤回しないこと」ではなく、最初の査読フィルターを通過してしまう不正論文の絶対量です。3週間未満で複雑な科学を評価することの実行可能性が、そこで問われています。
第二に、ペーパーミル問題はMDPI固有ではありません。2023年に数千本の撤回に至った Hindawi の事例は、出版社としては Wiley 傘下で起きました。Elsevier も Springer Nature も無縁ではありません。ペーパーミルは、監督が薄いところならどこでも狙う。MDPIの特集号モデルが狙いやすい標的であることは事実ですが、「MDPIだけの問題」という整理は不正確です。
第8章 市場の審判——2023年のClarivate除外
特集号モデルの構造的リスクが、最も劇的な形で顕在化したのが2023年初頭です。
何が起きたか
Web of Science Core Collection を管理する Clarivate は、編集的公正性と品質基準への適合を評価するAI駆動のツールを導入しました。500誌超を精査した結果、50誌以上を索引から正式に除外し、インパクトファクターを剥奪しました。
除外された雑誌の大半は Hindawi のものでしたが、MDPIは最高位の個別被害を出しました。International Journal of Environmental Research and Public Health(IJERPH)の除外です。
粛清前のIJERPHは、インパクトファクター4.0超、月間約1,800本を発行するMDPIの旗艦メガジャーナルであり、世界最大級の学術誌のひとつでした。
同時期に、Journal of Risk and Financial Management も除外されています。
除外の理由が重要
Clarivate がIJERPHを除外した公式理由は、「content relevance(内容の関連性)」基準の不適合でした。
つまり、この雑誌は掲げている環境・公衆衛生というスコープから完全に外れた研究を大量に掲載していた。これは、掲載料を生み出せるならどんな主題でも数千の未キュレーション特集号をホストしてきたことの、直接的な帰結です。
Scholarly Kitchen に寄稿する業界アナリスト Christos Petrou は、Web of Science が明示的な不正を理由に挙げなかった点に注目し、技術的なスコープ基準の使用は、果てしない量の重みの下で品質管理が完全に侵食された雑誌を抑え込むための、計算された機構だった可能性が高いと指摘しました。
伝染効果
財務的・評判的な余波は前例のないものでした。IJERPHの除外だけで、MDPIは年間3,000万ドル超の収益を失うと試算されました。
しかし、より重大だったのはポートフォリオ全体への「伝染効果」です。
MDPI誌は、個別の学会によって区分けされていません。すべての誌が同一の企業ブランドの下で、同じウェブサイトテンプレート、同じ編集方針、同じビジネスモデルを共有しています。そのため著者たちは即座に、「次は自分の投稿先が除外されるのではないか」と恐れました。
結果、数か月以内に残りのポートフォリオの出版量が17%減少。2023年夏までに、ピーク時から通算27%の縮小に至りました。
この市場の反応が示すのは、二つのことです。ひとつは、研究者は索引ステータスに極めて敏感であること。もうひとつは、速く摩擦の少ない出版は、認証されたインパクトファクターがなければ著者を惹きつけないということです。
そして、ここが決定的に重要な点
Clarivate の制裁は、一貫して「誌単位」でした。「出版社単位」ではありません。
IJERPH は除外されたが、Sensors も Viruses も Remote Sensing も残った。同じ審査で精査対象になった他のMDPI誌も、収録が維持された。
この事実は、一律の断罪よりも、現実をはるかによく説明します。そして、後で述べる実務的判断の出発点にもなります。
第9章 各国の制度的対応——現実のキャリアリスク
計量書誌学的な異常、ペーパーミルの侵入、Web of Science 除外が公知となるにつれ、各国の研究機関・省庁・助成機関が防御的な政策を取り始めました。ここが、個々の研究者にとって最も実害に直結する部分です。
中国科学院(CAS)早期警告リスト
2020年末、中国科学院国家科学図書館(NSLC)は、編集基準の低さ、ペーパーミル活動のリスク、過剰な掲載料徴収に関連する出版物を指定する「早期警告ジャーナルリスト」を設置しました。掲載されると、中国の研究者にとっては深刻な抑止力になります。国家の昇進・助成評価で割り引かれるからです。
2021年版ではMDPIの7誌が指定されました。MDPIはNSLCと積極的に協議し、単に出版成長率が高いことを罰するかに見える基準は不透明で不公正だと主張しました。
2024年には、4誌が「引用操作」を理由に追加されます。MDPIは内部調査を実施し、当該の操作は著者が第三者出版社の雑誌への引用を不適切に膨らませたものであり、MDPI自身の指標を膨らませたものではないと説明しました。
そして——ここは私が確認できていない部分ですが——2025年版で、中国科学院はMDPI誌をすべて早期警告リストから削除したとされています。事実であれば、問題論文の除去と編集統制の強化に向けたMDPIの集中的努力を、暗黙に認めたことになります。
この浮き沈みの激しさ自体が、MDPIの評判の流動性を物語っています。「MDPIは○○である」という静的な断定が、いかに賞味期限の短いものかということです。
北欧の格下げ
欧州の国家研究評価は、より厳しい姿勢を取りました。
フィンランド。出版チャネルへの資金配分を左右する国家格付けシステム、Publication Forum(JUFO)は、2024年12月にOA出版社の大規模レビューを実施し、レビュー対象271誌のうち193誌のMDPI誌を「レベル0」(非学術ないし未承認)に格下げしました。フィンランドの研究者にとって、これらの雑誌で出版してもキャリアと国家助成においてinstitutional value がゼロであることを意味します。
ノルウェー。Norwegian Scientific Index は、ハゲタカ的ないし境界的な慣行が疑われる雑誌のための「レベルX」ウォッチリストを新設しました。執行委員会はこの新階層の創設を、MDPIの品質管理に関する多数の懸念に直接結びつけ、複数のMDPI誌をレベルXないしレベル0に降格させています。
ポーランドの論争
ポーランドでは、MDPIが科学への国家介入をめぐる政治的論争に深く巻き込まれました。
ポーランドの学術評価システムは、教育省が定める中央集権的なポイント制に大きく依存しています。2023年、Przemysław Czarnek 教育相の下で、省は複数のMDPI誌のポイント値を、無名の国内神学誌とともに引き上げました。その結果、特定のMDPI誌での出版が Nature、Science、The Lancet での出版と同等に評価されることになりました。
ポーランドの学術界からは激しい反発が起こり、この措置が政治的意図によるものだという批判が展開されました。この件は現在も評価が分かれる政治的論争であり、ここでは詳細な当否の判断は避けますが、構造的な教訓は明確です。
高受理率・高速度のモデルは、国家アクターによって、国内の科学産出指標を操作するために転用されうる。
科学的革新を実質的に前進させることなく、数字だけを動かせてしまう。
大学レベルのブラックリスト
2023年1月、中国の公立大学である浙江工商大学は、MDPI・Hindawi・Frontiers が発行するすべての雑誌を正式にブラックリスト化し、これらの媒体で発表された論文を研究業績評価および助成統計に含めないと明示的に宣言しました。
同様の議論は、スペインの学術審査委員会や南アフリカの大学でも記録されており、評価者はMDPI論文に大きく偏った業績リストへの懐疑を強めています。
そして、キャリア初期の研究者にとって最も重要な点。正式なブラックリストが存在しない場合でも、非公式な懐疑が採用・テニュア委員会に浸透しています。MDPIの特集号論文に大きく依存した業績ポートフォリオは、方法論的厳密さよりも便宜と指標の膨張を優先した、と見なされうる。この非公式のバイアスは、学術的昇進と助成申請を静かに阻害します。
第10章 4人の読者へ
さて、冒頭の4人に戻ります。
「MDPIってどうなのよ?」というあなたへ
「MDPIはどうか」という問いは、問いの立て方として適切ではありません。
第8章で見た通り、制裁は一貫して誌単位でした。Remote Sensing の論文と、周縁的なMDPI誌の2023年の特集号論文は、まったく別の対象です。前者は分野で普通に読まれている媒体であり、後者は品質管理が働いていたかどうかを個別に確認する必要のあるものです。
これを一語でくくろうとするから、議論が不毛になります。記事の最後に、誌単位で判断するためのチェックリストを置きます。
「MDPIに出しちゃったよ」というあなたへ
まず、落ち着いてください。そして次の三点を確認してください。
第一に、その雑誌の現在の索引状況を確認する。Scopus と Web of Science に収録されているか。これが実務上、最も効く指標です。
第二に、自分の論文の中身を見る。あなたの研究が方法論的に妥当で、データが正しく、結論が支持されているなら、その科学は掲載誌によって毀損されません。評価する側が見ているのは最終的に、どこに載ったかではなく、何をやったかです。少なくとも、真面目な評価者はそうします。
第三に、業績リスト全体のバランスを見る。問題になりうるのは、MDPIに1本あることではなく、業績のほとんどがMDPIの特集号であるという状態です。1本や2本であれば、実務上ほとんど問題になりません。
そのうえで、公開査読を選んでいたなら——それは有利に働きます。「この論文はこういう査読を受けました」と実物を示せるのは、従来型の雑誌ではできないことです。
「MDPIは悪くないぞ」というあなたへ
あなたの主張のうち、次の部分は事実として強固です。
- 2019年の合意定義に照らせば、MDPIはハゲタカではない
- 2013年のスティングで Cancers は偽論文を見抜いた
- OASPA の独立調査は倫理基準の充足を確認した
- 最も権威ある批判論文(Oviedo-García)は撤回・差し替えされた
- リジェクト率約60%は「金を払えば載る」という描像と整合しない
- オープン査読という透明性は、ハゲタカ的行為の対極にある
- 「遅いこと」を品質の代理指標とする習慣は、批判的に検討されるべきである
- 批判には既得権益の防衛という側面が、まったくないとは言えない
ただし、次の部分は避けて通れません。
- 2023年のIJERPH除外は、実際に起きた。理由は「スコープ逸脱」であり、これは特集号の無秩序な乱発の直接的帰結である
- Hanson らの分析で、MDPIは世界の論文増加の約27%を単独で生み出していた
- フィンランドとノルウェーの国家評価システムは、実際に多数のMDPI誌を格下げした
- ゲストエディター制は、リジェクトしにくい構造を大量に複製している
これらは「ハゲタカかどうか」とは別の問題です。そして、別の問題であるからこそ、「定義に当てはまらない」という反論では解消されません。
「MDPIなんてゴミだろ」というあなたへ
あなたの疲労には、実証的な裏付けがあります。3日で査読を求められるのは異常であり、専門外の特集号勧誘が週に何通も届くのも異常です。Hanson らの数字は、あなたの体感が個人的な気分ではなく、システムレベルの現象であることを示しています。
ただし、二つだけ。
第一に、「ハゲタカ」という語を使うのは、戦術的に損です。定義に当てはまらないため、その一語を使った瞬間に、相手は定義論に逃げ込めます。あなたが本当に批判したいのは詐欺ではなく、量による品質管理の侵食のはずです。そう言ったほうが、議論はずっと強くなります。
第二に、この問題はMDPI固有ではありません。Elsevier は世界の論文増加の16%を生み出し、Hindawi の壊滅的なペーパーミル侵入は Wiley 傘下で起きました。MDPIだけを叩くことは、構造問題を一社の悪徳に還元してしまい、結果として問題を見えにくくします。
そして、おそらく最も苦い指摘を。この構造を作ったのは、出版社だけではありません。無限かつ迅速な出版産出を求めて助成とテニュアを配分する、私たち自身の評価制度が、それを正確に供給する商業出版社を必然的に生み出したのです。MDPIはその症状であって、原因ではありません。
第11章 結論——問いを立て直す
MDPIは、資本主義的で、超競争的で、指標駆動の学術的枠組みのなかで作動する Gold Open Access モデルの、論理的で極端な帰結です。
計量書誌学的な証拠が確認しているのは、次のことです。
MDPIは、伝統的・詐欺的な意味でのハゲタカ出版社ではありません。巨大で機能する技術インフラを維持し、受け取る数十万件の投稿の過半をリジェクトし、オープン査読のような先進的なオープンサイエンス施策を採用し、世界中の正当な科学者による有効で高被引用の研究を実際に流通させています。
しかし同時に、証拠が等しく確認しているのは、MDPIが、深い学術的キュレーションよりも規模・収益・速度を構造的に優先する、量駆動の攻撃的なビジネスモデルを運営しているということです。未請求の特集号、一時的なゲストエディター、超加速された査読期限への基礎的依存は、無報酬の査読者プールに巨大で持続不可能な負荷をかけています。速度への構造的な強調は危険な脆弱性を生み、それはペーパーミル、引用カルテル、不正行為者によって日常的に悪用され、結果として高位の索引除外と深刻な機関ブラックリストを招きました。
個々の研究者のための判断枠組み
そこで、「MDPIはどうか」ではなく、特定の雑誌について、次を確認してください。
1. 現時点での索引状況は?
Scopus と Web of Science に収録されているか。過去に除外歴はないか。これは数分で調べられ、最も実効性のある指標です。
2. 掲載論文のうち、特集号由来はどの程度か?
雑誌のトップページから特集号一覧を開いて、数を見てください。数千本の特集号が同時進行していれば、それは品質管理が構造的に不可能な状態を意味します。
3. 編集委員は誰で、その人たちは自誌に投稿しているか?
編集委員が自分の雑誌に頻繁に投稿している状態は、健全ではありません。
4. 公開査読履歴を実際に読んでみたか?
MDPIの最大の強みを使ってください。その誌の最近の論文を数本開いて、査読レポートを読む。実質的な批判が行われているか、数行の「Minor revision」で終わっているか。推測ではなく実物で判断できます。
5. 自分の分野の同僚は、実際のところどう見ているか?
これは、どんな指標よりも重要かもしれません。分野によって評価は大きく異なります。工学と計算機科学では普通に使われる雑誌が、生命科学では白眼視されることがあります。
6. 自分の所属国・所属機関の評価制度は、その誌をどう扱っているか?
フィンランドの研究者とブラジルの研究者では、同じ雑誌の価値がまったく違います。これは科学の問題ではなく、純粋に制度の問題ですが、キャリアには直結します。
最後に
採用委員会もテニュア委員会も、この違いを次第に理解しつつあります。「MDPIだから減点」という粗い運用は、優れた研究者を不当に罰することになるからです。逆に「索引されているから問題なし」という運用も、もはや通用しません。
MDPIをめぐる議論が本当に問うているのは、私たちが科学の評価をどう行うかということです。論文数を数えることをやめられない限り、それを効率的に供給する誰かは必ず現れます。MDPIを非難して済ませることは簡単ですが、それは鏡を見ないための、もっとも手軽な方法でもあるのかもしれません。
出典と注意書き
この記事の記述は、以下を主要な典拠としています。
査読付き文献
- Grudniewicz, A. et al. (2019) “Predatory journals: no definition, no defence.” Nature 576: 210–212.
- Oviedo-García, M.Á. (2021) “Journal citation reports and the definition of a predatory journal: The case of the Multidisciplinary Digital Publishing Institute (MDPI).” Research Evaluation 30(3). ※2021年9月にExpression of Concern、2023年に撤回・差し替え。引用する場合は必ず差し替え版を参照のこと。
- Hanson, M.A. et al. “The strain on scientific publishing.” arXiv:2309.15884 / Quantitative Science Studies.
- Bohannon, J. (2013) “Who’s Afraid of Peer Review?” Science 342: 60–65.
ブログ・業界分析
- Paolo Crosetto (2021) “Is MDPI a predatory publisher?” paolocrosetto.wordpress.com
- Christos Petrou, Scholarly Kitchen 寄稿(2020年以降、特に2023年3月「Of Special Issues and Journal Purges」、2023年9月「Reputation and Publication Volume at MDPI and Frontiers」)
- Zen Faulkes, NeuroDojo (2021) “The paradox of MDPI”
- Leonid Schneider, ForBetterScience
- Elisabeth Bik, Science Integrity Digest
- Dan Brockington によるMDPIの国別シェア分析シリーズ
報道・データベース
- Retraction Watch(2018年の Nutrients 編集委員辞任、2023年のOviedo-García論文撤回)
- Science 誌による Nutrients 辞任報道
- PubPeer
MDPI公式
- mdpi.com/about/announcements(Beall・Oviedo-García・CAS早期警告リストへの各反論)
- 各誌の Journal Statistics ページ
- 年次報告
SNS
- Reddit r/Professors 各スレッド
- Bluesky(Mark Hanson)
検証を強く推奨する箇所
執筆にあたりウェブ検索を行っていないため、以下は特に原典確認をお願いします。
- 中国科学院が2025年版で全MDPI誌を早期警告リストから削除したという記述。事実関係と時期の確認が必要です。
- フィンランドJUFOが2024年12月に271誌中193誌を格下げしたという具体的な数字。
- 表2のリジェクト率および2024・2025年の年次報告の数値(66.9万件、26.15万本、60%)。
- Norwegian Scientific Index の「レベルX」の正式名称と導入時期。
- Crosetto の2021年推計値(約39,500特集号)——これは推計であり、実測値ではない点に注意。
- ポーランドの評価制度改定の経緯と現在の状況。政治的に係争中の話題であり、その後の政権交代等で状況が変わっている可能性があります。
- MDPIの掲載料レンジ(1,180〜3,200 CHF)——誌ごと・年ごとに変動します。