日本の科学と技術

全微分をどう教えるべきか【科学教育】

物理で使うための数学をどう教えるか、数学的な厳密さをどこまで大事にするかは、教える側としては悩ましいのだろうと思います。

物理数学は自分にはよくわからないのですが、生物学に関する内容で、わかりやすさを優先するあまり、科学的に正しいとはいえないところまで単純化した記述をしている生物系の教科書を見たことがあります。また、別の生物系の教科書を精読していて、どうしても疑問が解消しなくて著者にメールして直接訊いてみたところ、「長年教えた経験から言えることだが、正確さを犠牲にしてでもわかりやすさを優先しなければ、かえって学生を混乱させることになる」というコメントをもらったことがあります。

 

目次

全微分がトレンド入り

学術用語がSNSのトレンド入りをするのは、珍しいのではないでしょうか。

 

全微分炎上

 

炎上発生の周期性について

 

炎上の効果

自分もこれを機に家の本棚に眠っていた高木「解析概論」を見てみました。大学生のときに買って以来、なんとなく敷居の高い本だと思ってほとんど開いたこともなかったのですが、実は初心者向けに易しく書かれた本よりもよっぽど丁寧な説明(デルタxとdxの区別がしっかりと書かれていた)があって、少々驚きました。

 

全微分とはなにか 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」

【大学数学】全微分とは何か【解析学】 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」 チャンネル登録者数 117万人

全微分動画炎上に対するヨビのりたくみ氏のコメント

 

全微分は何ではないか

自分は数学のことは何もわからないのですが、おそらく、全微分は、全日本微分協会の略ではないと思います。

 

お気持ちとは

この炎上案件に関するツイートに、「お気持ち」という言葉が見られましたが、どういう意味でしょうか。

 

全微分を心に抱えて生きている人の多さについて

 

余談ですが、「10代の頃に渇望していたもの」「10代の頃に手に入らなかったものに人は一生執着する」「ひとは10代の頃に手に入らなかったものに死ぬまで執着する」といった言説を良く目にします。

  1. ひとは10代で渇望したものを求めて生き続ける ひとは「あの頃のなにか」の再来を、待ち遠しく生きている。@taichinakaj 2021年7月18日 12:08 note.com

自分の場合、それに該当することの一つが、「大学に入学して理解したかったけど全く理解できなかった理数系の科目」なので、全微分が話題になっているのを見ると、心がざわつきます。生物系の大学院に進んだら、使う数学は小学校レベルの四則演算だけになってしまい、その後、研究を続けていても、ほとんど数学が必要ない状態だったので、理解できていなくても何も困らないのですが。ただし、その後、時代が進んで、生命科学のデータでも機械学習を使った分析を使うのがまったく珍しくないようになってきたため、自分の研究者としての能力の限界を感じました。生物系は測定手法や実験手法も昔は想像もつかなかったようなことが実現していき(オミックス解析、シングルセルRNA sequencingなど)、実験手法、分析手法の革新的な進展の波に自分が取り残されたように感じます。数十年後に時代に取り残されないようにしたければ、実は学生時代に基礎的な理数系の知識をしっかりと習得しておく必要があったなと思います。今さらですが。昔、分子生物学の波に乗れた人と乗れなかった人で研究者の明暗が分かれるのをリアルタイムで目撃していましたが、それと同様に現在、人工知能という大きな波を始めとして、遺伝子発現や代謝物その他さまざまな生体物質の網羅的解析、単一細胞レベルでの解析、さまざまな画像測定・分析手法などいくつもの大きな波が研究者に覆いかぶさっており、これらの波に乗る人と乗り損なう人とで、やはり明暗が分かれるんだろうなと思います。もはや、小さなラボで小さな研究予算でこれらの波の上に乗るのはほとんど不可能なのではないでしょうか。話がだいぶそれました。

 

全微分を教えてもらえなかった心残りについて

 

最近、自分は独学したい初学者向けにしっかりと系統的に書かれた教科書に出会うととてもうれしくなります。

  1. John McMurry’s Organic Chemistry 10th edition

 

数学徒および数学徒ではない人たち

 

自分は高校1年の数学の最初の授業で躓いて以来、全く挽回できないままなので、数学ができる人はもうそれだけで尊敬します。完全にリタイヤして暇になったら、数学をゼロから勉強してみようかな。

 

教える側にとっても学ぶものにとってもやっかいな物理数学というものについて

 

ここでの話題からズレるかもしれませんが、高校の数学の時間ではdy/dxは一つの記号だからdyとdxは分けられないと習ったのに、予備校の物理の時間には、dyとdxが式の両辺に出てきて両辺を積分したり当たりまえのようにしていたことに、戸惑った記憶があります。わけもわからず見よう見真似でそんなことをやって物理の勉強をしのぎましたが。

 

正確性とわかりやすさの両立の難しさ

 

教える対象の多様さゆえの困難について

非常勤講師をしたときの自分の経験から言うと、大学で生物を教える場合、高校で「生物基礎」しか履修していない学生と、「生物」を履修してきた学生が混在しているので、どこにレベルを合わせて授業を行えばいいの?という問題が生じます。高校の生物をしっかりと勉強してきた学生を面白がせる授業をしようとすれば、他の多くの学生はついてこれないでしょう。昔、職探し中に面接で某大学で模擬授業をやらされたときも、その点に関してどういう考えを持っているか?という質問が飛んできました。

YOUTUBEの視聴者の専門性もピンキリなので、すべての層を満足させる説明というのはあり得ないのかなと思います。

 

最初から厳密な説明をされたほうがむしろわかりやすいことがあることについて

 

理解に至るまでの道のりが人それぞれであることについて

 

大学の理数系の科目で学ぶ内容は、理解するのに骨が折れるものばかりなので、入門するための本、俯瞰するための本、細かい議論を詰めるための本など、結果的に何種類も読むことになると思います。自分の身の丈に合った教科書に取り組んで、挫折せずに勉強を続けていけることが一番大事なのではないでしょうか。

 

ヨビノリさんの動画を見る際の正しい心構えについて

上のツイートの内容は、物理や数学の教科書でまえがきなどによく書かれていることです。自分で納得できるまでは本に書かれていることを信じるなというわけです。教科書は誤植もあれば著者の考え違いによる間違いも含まれていることが珍しくないのだそうです。自分は生物系の講義を非常勤講師として教えることになって、教科書を精読してみたら、誤植やイラストの間違いなどに気づくことが結構ありました。1行1行、それはmake senseなのか?と自問自答しながら読み進める必要がありますね。

 

ヨビノリさんの動画の活用法

 

ヨビノリさんの動画について

 

みんながYOUTUBERになることの勧め

 

ヨビノリチャンネルで議論することの勧め

  1. 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」 @yobinori • チャンネル登録者数 117万人

 

全微分の定義の理解が試されるとき・全微分の定義を知らなすぎなことについて

上のツイートを見て、東大が入試で定義を問うたことが以前話題になったことを思い出しました。

  1. 東大入試の数学の良問その2 ~公式は証明してから使おう~ 東大家庭教師友の会

 

全微分を説明した教科書が見当たらないことについて

 

自分は、物理数学の教科書としては、説明のわかりやすさという点で群を抜いているので、

メアリー・ボアス『物理科学における数学的方法』(amazon.co.jp) 2022/7/25 プレアデス出版

原書 Mary L. Boas Mathematical Methods in the Physical Sciences 3rd Edition (amazon.co.jp) 2004/2/1 Wiley

を一番気に入っています。全微分がどのように説明されているかと思ってみてみたら、高木『解析概論』と同じ説明が、さらにかみ砕いて書かれていました。

 

全微分の有効な活用方法の紹介

 

全微分の教え方に関する論点整理

微分形式もトレンド入り

さまざまな意見

 

数学書や物理数学書における全微分の説明

高木貞治『解析概論』

小平邦彦『解析入門』

杉浦光夫『解析入門』

松本幸夫『多様体の基礎』

 

参考

 

  1. ガトー微分とフレッシェ微分:方向微分と勾配の一般化
  2. 全微分の定義・性質・求め方を詳しく解説~全微分可能性~ 数学の景色
  3. 多変数関数の微分線型近似としての全微分 wiis.info
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