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八事日赤(やごとにっせき)病院の医療過誤でSMA症候群の高校生男児(16歳)が亡くなった事件に関して

名古屋の第二日赤病院(”八事日赤”)でSMA症候群の高校生男児(16歳)が亡くなった事件の報道と病院の説明(PDF)を読むと、あまりにも両者の乖離がひどくてとても不可解でした。報道を読むと研修医が上級医に相談せずSMA症候群を急性胃腸炎と誤診したことが問題視されていますが、病院の報告書や医師によるツイートなどを読むと、むしろ入院後の対応における重大なミスがあったように見えます。しかし病院の報告書では適切な対応が取れなかったのは患者がせん妄を起こしていたためだと説明していて、責任逃れをしているようにも感じました。

この事件に関しては多くの医療関係者がSNSで意見を述べており、「せん妄」という判断がそもそもおかしいと指摘しています。また、リスクが大きい鎮静剤の使用に際して、せん妄のため心電図モニターの装着をしなかったという判断が、医師の指示だったのか看護師の独断だったのかも病院の報告書からは読み取れませんでした。病院が遺族に対して、研修医の責任の範疇をどのように説明したのかもよくわかりません。

報道が事実を全く正しく伝えていないのは明らかですが、病院の報告書も事実や責任の所在を明らかにするようには書かれていないように思います。多くの医師や看護師がSNSでコメントしている内容が、現場での常識的な判断・行動がどのようなものであるべきなのかの参考になると思い、目に留まったものを紹介します。

研修医のミスで高校生が亡くなったとする報道

  1. 研修医の誤診などで男子高校生死亡、遺族「何度も助けられる機会あったのに見過ごされた」 2024/06/17 22:36 読売新聞オンライン
  2. 名古屋日赤、誤診で高校生死亡 1日2回受診でも治療遅れ 2024年6月17日 18:57 (2024年6月17日 21:05更新) 日経新聞
  3. 「研修医の勝手な判断・誤診がなければ…」遺族の叫び 医療ミスで16歳男子高校生が死亡 研修医が採血結果の異常を見逃す 2024年6月20日(木) 05:02 CBC NEWS
  4. 研修医が“誤診”…16歳男子高校生が死亡する医療ミス 十二指腸閉塞で腹痛等訴えるも急性胃腸炎として帰す 2024/06/17 17:29 東海テレビ
  5. 研修医が2回“誤診”高校生(16)死亡 胃腸炎のはずが…翌日“心肺停止”【スーパーJチャンネル】(2024年6月18日) ANNnewsCH チャンネル登録者数 412万人 (YOUTUBE)
  6. 研修医が2回“誤診”高校生(16)死亡 胃腸炎のはずが…翌日“心肺停止”  テレ朝news
  7. 【謝罪】研修医が2度にわたり誤診…16歳高校生死亡 遺族「決して忘れないで」 日テレNEWS チャンネル登録者数 231万人 (YOUTUBE)
  8. 研修医が“誤診”…16歳男子高校生が死亡する医療ミス 十二指腸閉塞で腹痛等訴えるも急性胃腸炎として帰す 東海テレビ NEWS ONE チャンネル登録者数 8.71万人 (YOUTUBE)

 

研修医の誤診による死亡とした報道に対する疑問

 

研修医の誤診による死亡とした報道姿勢に対する批判

研修医が上級医に相談していれば誤診が防げた可能性はありますが、誤診したことが死亡の直接的な原因では決してないということを多くの医師や医療関係者が指摘しています。

  1. 【緊急寄稿】研修医を守らねばならない 名古屋第二日赤の“誤診報道”、SMA症候群を救急外来で診断する必要はない 2024/06/20 谷口 恭
  2. 「研修医の誤診で高校生死亡」と報じるマスコミの罪…岩田健太郎「目の前の事実を正確につかむ思考法」 6/22(土) 9:17配信 193 コメント193件 YAHOO!JAPANニュース プレジデントオンライン

 

報道記者の体質

 

その他の報道

多くの報道が研修医の診断ミスが死亡原因だという伝え方をしていましたが、NHKはそのようには書いていませんでした。報道としては比較的まともなほうです。

  1. 日赤名古屋第二病院で医療過誤 適切な治療行わず高校生死亡 2024年6月17日 18時48分 NHK

遺族が病院に寄せたコメント

「今回の日曜日朝方より2度に渡り来院したにも関わらず、研修医2名によって、胃の拡張を急性胃腸炎と誤診され、上級医への相談・報告がルールにも関わらず報告をせず、後日クリニックへの受診を指示し、翌日症状の悪化によりクリニックからの紹介状にて至急の処置を指示されたにも関わらず、日赤では何度も脱水症状を訴えたにも関わらず、時間だけが過ぎてしまいました。更には前日の研修医による誤診のまま入院となり、入院後も脱水時の副作用があるセレネースを2回投与の指示を1回の投与に変更されたにも関わらず、看護師による引継ぎミスで2回投与され、脱水時の重大副作用にある注意事項があるにも関わらず、管理モニターの装着を怠り高度脱水による心停止に気が付かれませんでした。

これまでの複数回の病院側の報告では、各科の専門医は当時研修医からの報告・相談があればCTを見て胃の拡張に対し胃の減圧は確実にできていたと報告されています。

日曜の朝方、1回目、2回目と来院したにも関わらず、研修医の勝手な判断・誤診がなければ、このような結果にはなっていなかったと確信しています。

こちらは受診時、研修医なのか上級医なのか分かりません。まさか日赤という大病院がこれほどずさんな管理のもと、運営されているとはその時は思いもしませんでした。
また、報告書では救急外来に電話で相談した際には翌日の日赤の再診指示が望ましかったとありますが、同日2回受診しており、すぐに再受診を指示してほしかったです。

何度も助けられる機会はあったのに見過ごされてしまいました。こちらが病院で訴えた症状が正しくカルテに記載されていたなら。本当に後悔しかありません。
急性胃腸炎と誤診され、入院したにも関わらず、その数時間後には心停止になってしまいました。CTだけでは判断が難しい稀な病気では、今回は決してありません。初期の段階で胃の拡張に対しての減圧がされていれば、このような結果にはならなかったはずです。
その結果が病院で入院中におきた高度脱水です。

目の前で苦しんでいる人の声をもっとしっかり聞いてください。パソコンばかり見るのではなく、目の前の苦しそうな、つらそうな顔をしっかり見てください。訴えている症状をそのままカルテに記載してください。
もう息子は帰ってきません。
先生方の診断ミスでまだ16歳の男の子の人生を突然終わらせてしまったこと、夢見ていた未来を奪ってしまったこと、決して忘れないでください。

ただ、大多数の医師、研修医の方はこのような事は無く日々医療に邁進していると思います。皆さん自分の能力を決して過信せず、2度とこのような事が起きないよう切に願います」

  1. 「研修医の勝手な判断・誤診がなければ…」遺族の叫び 医療ミスで16歳男子高校生が死亡 研修医が採血結果の異常を見逃す 2024年6月20日(木) 05:02 CBC NEWS

病院の報告書

SMA症候群を適切に治療できなかったことにより死亡に至らせた事例

医療過誤公表について
今般、6月17日に記者会見でお伝えしましたとおり、当院の医療過誤についての公表をいたしました。あってはならないことが起きてしまい、お亡くなりになられた方、ご家族には心からお詫びし、ご冥福をお祈り申し上げる次第です。地域の皆さまにも不安や不信感を与えることとなってしまい、大変申し訳なく思っております。再発防止策を徹底し、医療安全管理体制をいっそう強化するとともに、患者さんに寄り添った安心できる医療を提供することで、職員一丸となって信頼の回復に努めてまいります。

令和6年6月 院長 佐藤公治 https://www.nagoya2.jrc.or.jp/patient/iryouanzen/Publication_case/

SMA 症候群を適切に治療できなかったことにより死亡に至らせた事例について

2024 年 6 月
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院
当院において、上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)に対し適切な治療ができず、高度脱水が進行し心停止に至り死亡した医療過誤が発生しました。この度、ご遺族の同意をいただきましたので、本事例を公表させていただきます。

1.事案の概要
2023 年5月、10 代の患者さんが腹痛、嘔吐を中心とする消化器症状を主訴に救急搬送されました。2 年次研修医が診察し、CT で胃の過拡張所見を認めましたが採血結果を正常範囲内と判断し、急性胃腸炎の診断となり、帰宅としました。

その後、患者さんは嘔吐症状が持続するため救急外来に再受診し、電話相談を2回しました。いずれも 2 年次研修医が対応し、翌日に近医再診と判断しご家族へ伝えました。

翌日、近医にて緊急処置が必要と判断され、当院の一般消化器外科へ紹介受診されました。外科ではSMA 症候群の疑いと診断し、腸閉塞の治療が必要と考え、消化器内科を紹介、入院となりました。

初、脱水所見が著明で炎症反応の上昇があるが、大きな電解質異常がないことから、胃管挿入はなされず絶食と補液を治療方針とし、改善がなければ後日追加検査を行う方針としました。

入院から 3 時間後、患者さんに冷汗と脈拍触知微弱、大量嘔吐がありました。その時点で点滴と胃管挿入を準備しましたが、患者さんに過活動性せん妄(末梢静脈ルート自己抜去、医療者への危険行為、病棟内徘徊などの異常行動)が出現したため治療継続が困難と判断し、ご家族に来院を依頼しました。

ご家族来院後、点滴ルートを再確保し脱水の補正を図りました。過活動性せん妄はいったん落ち着いたものの易怒性が残っていたため、当番医は患者さんの年齢を考慮し鎮静剤を通常の半量投与しました。なおせん妄が助長される恐れから、胃管挿入は行いませんでした。

その後、患者さんが発熱し解熱剤を投与しましたが、投与後も眠れていないのを確認したため、看護師が残りの鎮静剤を投与しました。また、心電図モニターについても体動制限がせん妄の助長となると考え、装着せずに退室しました。

患者さんは同日深夜に心停止に至り、16 日後に死亡されました。

2.事故後の対応
医療事故調査制度に基づき外部専門医を委員に含めた院内医療事故調査委員会を設置し、診療プロセスの検証、関係職員からの聞き取り調査に基づいて原因究明と再発防止策について検討しました。

3.事案の検証結果
(1)CT 画像の評価が不十分で、急性胃拡張に対する減圧治療ができていなかった。
救急外来で撮影した CT における胃の過拡張像は、上級医に相談するべき画像所見でしたが相談していませんでした。翌日の専門外来受診時・入院後においても、胃管で減圧を図るべき状態でしたが、その処置が開始できていませんでした。

(2)脱水症の評価が不十分で、治療の開始に遅れが生じていた。
来院時の嘔吐・下痢症状から、脱水症の指標である採血結果に注意を払うべきでした。この時アルブミンとラクテートに異常値を示していましたが、その他の採血結果についてはほぼ正常範囲内であり、救急外来診療に関わったすべての医師は異常値に気付きませんでした。また、専門外来受診時は急性腎障害を伴う高度脱水症の所見がありましたが、補液量は十分な量でなく、当直時間帯に大量補液を開始しましたが、総じて治療に遅れが生じていました。

(3)救急外来において研修医が診療する場面での報告・相談体制に不備があった。
1 回目の受診では、脱水を示唆する採血結果を見落とし、正常範囲内と判断していました。検査値の異常を気づきやすくするシステム的な診療支援が必要でした。同日 2 回目の受診では、ご家族の不安も強かったことから研修医2年次による単独診療で帰宅の判断をせず、上級医へ相談をするべきでした。相談できなかった背景として、当院では研修医 2 年次は上級医への報告確認が義務化されておらず、上級医への報告基準が明確なルールとして規定されていませんでした。

(4)職員間において患者さんの情報を正確に共有できていなかった。
一般外来において、患者さんの重症感、緊急性の伝達が十分に行われていれば、消化器内科での診察や緊急性に応じた処置を迅速に行えた可能性がありました。病棟での鎮静剤の投与については、看護師間の情報共有不足により鎮静剤の残量分が追加投与され、当番医の意図した指示量の倍量投与となっていました。緊急時の口頭指示においては、より慎重
に医療者間でのコミュニケーションが必要でした。

(5)患者さんの容態変化時に、院内で定められた緊急体制が活用されなかった。
入院後の過活動性せん妄での不穏状態を意識障害と捉え、バイタルサイン測定や心電図モニターの装着、院内緊急コールを行い、患者さんの状態を多職種で評価し必要な治療や処置について検討するべきでした。また、体動制限でせん妄を助長することへの懸念や、快適性を過度に重視した結果、患者さんの状態把握が不十分となってしまいました。患者さん状態を客観的かつ正確に把握するためにバイタルサインを測定し対応すべきでした。

4.当院の問題として表出したこと
ご家族との対話の中で、それぞれの診療場面において患者さんの「訴え」「不安」に対し十分な対応ができていなかったとのご指摘を受けました。患者さんの病気や訴え・不安に真摯に向き合うという医療人としての基本姿勢が欠けていたことも、今回の診療において重大な過誤であったと考えております。当院は高度急性期病院として、どのような病気にも 24 時間 365 日絶え間なく応えることを使命としており、業務の繁忙や切迫感が常態化している背景があります。そのような業務環境のなかで、疾患の重症度、緊急性を優先して患者さんを診てしまう傾向があったのかもしれません。忙しさを理由に、患者さんに対しての職員の思いやりや丁寧さが欠けていたのかもしれません。今回の事例には、病院全体の体制や組織風土が根本的な問題ではないかと考えています。

5.再発防止策
今後の再発防止策として、当院では次の事項に取り組んでまいります。
(1)初期対応時の診断が後々の診療に影響を及ぼす事を認識し、病態の正確な把握を心がけること。
(2)症状改善なく救急外来を再受診した際には、上級医も必ず診察に関わること。
(3)一般外来では診療の遅れが生じがちであるため、一般外来に重症患者さんが受診した場合には速やかに救急外来に引き継ぐこと。
(4)一般病棟で治療が困難な場合(重症、複雑、精神症状による患者非協力)は、より集中的な管理を行うことができる部署に早めに転棟すること。
(5)今事例を風化させず、医療安全のための組織風土づくりを全職員で取り組む。

https://www.nagoya2.jrc.or.jp/content/uploads/2024/06/fdc0e7650fffff257ce52946c42b3c79.pdf

遺族の方に対する病院側の説明の仕方に関する疑問

遺族のコメントを読むと、病院側が研修医の責任を強調して説明したのかなと思いましたが、経過を考えたら病院の説明がどうであれ研修医の誤診が原因だと考えてしまうのも当然の感情なのではないかという指摘がありました。

夜間救急の研修医の診療・診断、責任に関して

研修医の上級医への報告義務に関して

研修医と上級医との関係性について

消化器内科医の診療、責任に関して

看護師のやるべきことについて

 

 

せん妄で治療できなかったことを理由にしていることに関して

せん妄ではなくショックによる不穏ではなかったのか

病院の報告書を読んでみて驚いたのは、患者さんが「せん妄」を起こしていたために必要な措置が取れなかったとしていることです。

 

 

ツイートをみていると、そもそも「せん妄」でなく「不穏」ではないかという指摘がありました。

不穏とは“行動が活発になり、落ち着きがない状態”のことで、せん妄などさまざまな原因により生じます。せん妄は、“身体疾患などが原因で生じる意識障害の一種”です。

そもそも不穏って何?|不穏のメカニズム、せん妄との違い 2017/06/01 看護roo!

せん妄としたのはおかしいと指摘したツイートを紹介します。

 

今回の医療過誤に関する医師の解説

  1. 【徹底解説】日赤名古屋第二病院で研修医が誤診?男子高校生が死亡 20246/21医療現場の実情医療ニュース2024年6月19日2024年6月21日
  2. 「研修医の誤診で高校生死亡」と報じるマスコミの罪…岩田健太郎「目の前の事実を正確につかむ思考法」 6/22(土) 9:17配信 193 コメント193件 YAHOO!JAPANニュース プレジデントオンライン
  3. 救急外来を振り返って~日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院のSMA症候群の件~内科医として考える 2024年6月19日2024年6月22日 女医ママ くまさん

 

八事日赤(やごとにっせき)とは

 

 

三次救急病院

 

病院の体質について

参考

  1. ルートとは 看護roo! ルート(るーと)とは体外から血管内へのアクセスのことで、一般には(点滴の)管を指す。薬剤を経管で注入する意味でも使う。ラインと同義点滴などのために血管に針を刺すことを「ルートを取る」「ルートの確保」などと言う。
  2. タキるとは 看護roo!  タキる(たきる)とは、呼吸や脈が早くなることを意味する業界用語のことである。頻脈を意味する英語「tachycardia(タキカルディア)」に由来する。
  3. バイタルサイン(=生命兆候)  バイタルサインとは 人間が生きている状態であるということを示す兆候を意味する。 1:意識    Cons (Consciousness) 2:血圧    BP  (Blood Pressure) 3:脈拍    HR   (Heart Rate) 4:呼吸数  RR   (Respiratory Rate) 5:体温    BT  (Body Temperature) 
  4. 入院患者の急変を捉えるRRSの啓蒙と医療の質を高める研究に取り組む 聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 救命救急センター 医員/大学病院救命救急センター 医長 内藤 貴基 先生 access_time 2021年5月27日
  5. 名古屋・日赤病院で男子高校生「誤診死」未熟な研修医とヤブ医者から命を守る「3つの鉄則」 アサ芸プラス 新型コロナ以降、日赤に限らずどこの病院でも、ベテランの勤務医、看護師の大量離職が相次いでおり、体調が悪くなった時に名医が診察するか、研修医が診察するかがわからない「医者ガチャ」状態が続いている。
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