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説明が丁寧でわかりやすい大学の有機化学の教科書

大学で学ぶ有機化学の難しさについて

大学の有機化学は高校時代と比べてなぜ難しくなるのか、どのように勉強すればいいのか、もろぴーさんが解説。

大学有機化学詰む人の特徴と解決法 もろぴー有機化学・研究ちゃんねる チャンネル登録者数 2.88万人

 

そんな難しい大学の有機化学を易しく学べる教科書を知ったので紹介したいと思います。

大学の有機化学のわかりやすい教科書

有機化学の反応機構の説明で、電子対の移動を「巻き矢印」で示しているのをよく見かけます。自分はあれが一体何を意味するのかがちゃんとわかっていませんでした。矢印の始点は何なのか、終点は何なのか、矢印本体の意味するところは何なのか、新しくつくられる結合は何であり、結合が切れたり脱離するのはどの部分なのか、なぜ正電荷や負電荷を帯びるのか、なんとなくわかっているようで本当に理解してはいなかったのです。そこのところを非常に丁寧に説明している本に出合いました。化学同人の『基礎講座有機化学』です。大学で学ぶ内容をここまでわかりやすく噛み砕いて説明した教科書って作れるものなんですね。

(amazon.co.jp)

  1. 基礎講座 有機化学(化学同人)  2022/04/05 チャレンジ問題,確認問題,実戦問題の解答と解説 訂正表(1刷)『基礎講座 有機化学』動画集

自分が『基礎講座有機化学』を手にした理由は、生物化学の勉強のために『マクマリー 生化学反応機構』を読んでもちんぷんかんぷんだったからなのですが、『基礎講座有機化学』で巻矢印の意味を理解し、主要な化学反応をおさえたうえで、『マクマリー 生化学反応機構』をあらためて読んだら、書いてある内容がとてもスムーズに頭に入ってきて、生物化学の勉強が面白いと思えました。特に酵素の活性中心に酸や塩基として働くアミノ酸の側鎖がちゃんとあって、それらの助けで化学反応が進むことを学ぶと、本当に生命はうまいことできているものだと感心します。

自分の大学時代ははるか彼方の大昔ですが、その当時は、理数系の講義をやっている先生たちは自分の講義の原稿?みたいな教科書を書いていて、無駄をそぎ落とした理路整然と書かれたものであったせいか、無味乾燥すぎてとても予習復習などの独学に使えるものではありませんでした。そんなわかりにくい教科書で勉強していても、クラスメイトの優秀な人たちはその道のプロになっていったので自分がアホなだけだったのでしょう。しかし、当時、この本のようなわかりやすい教科書があればもっと頑張って勉強できたのになあと思います。

自分は専門を生物のほうに進んだので、有機化学は学部の授業でちょろっとやった程度です。パズルのようにプラスとマイナスが引き合うだけという単純な理屈で好きなものを合成する経路がわかるのは、他の科目(量子力学や統計力学など)とは随分毛色がちがう学問だなあと思っていました。学生時代に難しいという印象を持った記憶はないのですが、今から振り返るとどれだけ理解できていたのか怪しいものです。仮に当時理解できていたとしても、大学卒業以来何十年もご無沙汰していて、今やほとんど記憶に残っていませんでした。しかし、生物が専門である以上、生体で起こっている反応はちゃんと理解しておきたいものです。化合物の構造式と反応を司る酵素の名前を覚えたところで、どんな反応が起きているのかを理解したことにはなりません。

子供の理系離れをどうやって防ぐかという議論が良くなされますが、理系大学生が勉強に落ちこぼれずに自学自習できて、さらなる高みを目指すように(=大学院進学、研究者への道に)仕向けるのも一つの方策だと思います。そのためには独学可能な親切な教科書が不可欠で、有機化学の場合、この教科書はその役割を担うものだと思いました。理解できないものは面白くないですが、理解できるとなんでも面白くなります。また、最近はアクティブラーニング反転学習など、講義前に内容を学習して理解することを学生に対して要求する傾向があります。その場合は、「わかりやすい授業」なみにわかりやすい、自習可能な教科書は不可欠であり、この本はそういう要求にも応えるものだと思いました。

 

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