ラボ川柳 絶望編

*全ては空想に基づく創作です

アカデミア 見切りし時は 退路無く 転職希望ポスドク

【解説】アカデミアの世界で生きていくと強くコミットしている人間にとって、多少の困難は当然のことなのでアカデミアを去ることになるかもしれないということはなかなかオプションに入ってこないものです。その結果、完全に進退窮まって民間への就職を考えることになるわけですが、その時には年齢も経ていて雇って貰えるところはどこにもないという状況になっているのです。

アカデミア 進むも退(ひ)くも 地獄谷 高齢ポスドク

しりぞくも 進むも地獄 アカデミア 特任研究員

【解説】アカデミアでギリギリまで粘ってもう無理と思って民間で職を探そうとしても時すでに遅しです。いつ潰れるか分からないバイオベンチャーの技術営業職が紹介されて、それも自分の希望年収を100万円下げたものでした。ここに就職しても路頭に迷う可能性高そうだなと思いそれは流しましたが、かといってアカデミアに居続けても路頭に迷うのは目に見えています。まったく身動きが取れない状態に嵌り込んでしまいました。

アカデミア すがればハマるアカデミア 高齢ポスドク

論文を 出しても先が 無い小径  万年ポスドク

【解説】アカデミアに見切りをつけたからといって、民間などに職が簡単に見つかるわけではありません。ある程度年齢が高くなっている場合には、特任研究員などで食いつなぐにしても、アカデミアをやめるにしても、どちらにも希望も光も見出せない状況になっています。

五十超え お祈りメールは 100を超え 万年公募戦士

【解説】50歳を過ぎたらもう職は無いよとシニアサイエンティストに言われたことがあります。自分が50を過ぎたときには、それまでに出した公募はかるく100件を超えていました。出した公募の数=受け取ったお祈りメールです。

アカポスの お祈りメールに心折れ 任期付き研究員

【解説】公募に出さないと何の可能性もないので出し続けるわけですが、そうすると、かならずもらうのが「お祈りメール」です。今回は採用に至りませんでしたが、貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げますというアレです。ほとんどが定型文なのですが、同じ定型文であっても心のこもった定型文と心のこもらない定型文が存在することを見出したのが、小さな発見でした。どうでもいいことですが、言葉の力ってすごいと密かに思います。

論文を出しても出しても職は来ず 万年ポスドク

【解説】論文を出すのは最低限の条件であって、論文がコンスタントに出ているからといって職が得られるほど現在の研究業界は甘くありません。とにかくポジションが非常に少ないのです。

新発見 新聞載るも 職は無く 任期切れ研究者

【解説】自分の研究成果が新聞に掲載されると嬉しいのですが、それは自分の親が喜ぶ程度のことであって、職に繋がるだけのインパクトはありません。新発見の大きさにもよるのですが。

学会で 喝采浴びて 職切れる 任期付き研究者

【解説】学会で注目されるような研究成果は、次々に出てくるわけでその数だけ職が用意されているわけではありませんので、ほとんどの人は一過的に時の人となり、そのうち忘れ去られます。

論文は身を助けると言うはウソ 任期の切れたCNS持ち

【解説】セル、ネイチャー、サイエンス(CNS)は生命科学の3大トップジャーナルで、これらの雑誌に論文を出すことを夢見ている人、目標にしている人は多いことでしょう。しかしCSNに論文が掲載されることは研究者としてのキャリアを約束してくれるものではもはやありません。一昔前、いや、二昔前、いやもっと前かな、であれば、CNSに出して東大教授になっったと思われるキャリアパスを見かけましたが、今の時代、CNS持ちで溢れていますので、地方大学の助教の口をCNS持ちが争うというインフレ状態のようです(ネットの噂に基づく)。CNSのどれかに論文業績あるけれどもアカデミアに見切りをつけた人は、自分が直接知るだけでも何人もいます。

ネイチャーに 蹴られて研究 終わり告ぐ 高齢ポスドク

論文を ネイチャーが蹴り 夢終わる 崖っぷち高齢ポスドク

【解説】セル、ネイチャー、サイエンスに出したからといって職があるわけではないのですが、何しろどんな公募でもCNS持ちが殺到するわけですから、最低限の武器としてCNSは必要だと自分は思っていました。研究テーマを選ぶときは、うまくいけばCNSに届くような大きなテーマで研究したいと常々思っていましたし、論文を投稿するときは迷わずCNSのどれかに最初は投稿していました。最低でもCNSのすぐ下の姉妹紙に論文を出さないとあとがないと思っていました。ですから、ネイチャーやネイチャーなんとかといった雑誌に蹴られたときに、ああ自分の研究者人生は終わってしまったなと思いました。

論文が サイレポに出て キャリア止(や)む 任期付き助教

【解説】CNSを目指して研究をしていれば、それよりも2段以上下の雑誌からアクセプトをもらったところで、何も嬉しくありません。10年以上職探しをしてきた人間にとって、それは単なる死刑宣告に過ぎません。

上狙おう!任期気にせぬ ボスが言う  有期助教

【解説】トップジャーナルに論文を出すことは、研究者として生き残るためには絶対必要なのですが、それと同時に、任期が切れるまでにとにかく論文を出して食いつながなければならないというのも真実です。この2つの相対立する戦略の両方が大事なのです。自分としてはジャーナルのレベルはもう問わないから早くこの仕事はケリをつけて次に進みたいと思うこともあります。しかし、部下の切羽詰まった状況を理解してか理解せずしてか、もうちょっといいジャーナルに出せるのではないかと夢を見始めたボスが「もったいないから、もっといいジャーナルを目指そう!」などと寝ぼけたことを言ったりするわけです。部下にそれだけの雇用条件を保証でいない人が何を言う?と思いますが、任期付き研究員とパーマネント職にあぐらをかくボスとの間の温度差はそれくらい大きいのです。

公募職 百人群れて 当たり無し 万年公募戦士

【解説】都内の私立大学の教授の公募だと、数百人の応募者がいるようです。しかしフタを開けてみると、採用されたのは東大や京大を定年退官した日本で知らぬ人はいない有名な人でしたというのを良く見ます。これはもうその私立大学が是非うちに来てくださいと招いていただけのことでしょう。そういう人事を公募にかけるのは、他の何もしらない無垢な若者の貴重なエネルギーを奪うだけなのでやめてほしいものです。

ポスドクの 無間地獄に さようなら 元研究者

アカポスを夢見て過ごした15年 引退した公募戦士

【解説】研究をしていたのか職探しをしていたのかわからない研究者人生でした。結局のところ研究者としては定職につけなかったため、始まらないうちに終わってしまったと感じます。

論文は 途切れなくても 任期切れ 任期付き助教 

研究費 切らさなくても 任期切れ  任期付き助教

アカデミア 長居し過ぎて 竜宮城  老齢ポスドク

【解説】大学の同期の友達は、結婚して家庭を築いて子供が成長して大学生になっていたりするのに、自分は定職も得られずに任期付きの職を長年繰り返していて、家庭も築いていない、何もできていないまま年だけとってしまって、浦島太郎と自分とが重なって見えて仕方がない、そんなことを感じていました。

オメデトウ 論文出たけど さようなら  博士号取得者

【解説】大学院生は論文を出して博士号を取得して、さっさと定職に就けるところに就職するのが一番よい選択なのではないかと思います。

ジョブトーク 反応薄い 出来レース   公募戦士

【解説】出来レースといのは証明しようがないのですが、聴いてる教員たちのやる気のない態度に、自分は当て馬に呼ばれただけだったんだなと確信したことがあります。

それで何?モデル生物 立場無し モデル動物の研究者

この研究 面白がるのは 自分だけ? タコつぼに住む研究者

【解説】ジョブトークで自分が話し終えた後、オーディエンスの先生の一人が、あなたがそれ(自分が用いていた実験動物モデル)を愛していることはよくわかりました。というコメントを述べたのが、今でも印象に残っています。そういう見られ方しかしなかったのなら、そりゃ採用されないわなと納得しました。

アカポスが 目の前に来て 通り過ぎ 夢破れた公募戦士

【解説】自分のジョブハントは、惜しかったと言えるところまで行かずについえてしまったのですが、それでも10年以上公募に出し続けていると終盤はちょっと手応えを感じることが増えたという感触がありました。ネットの匿名掲示板を見たら、公募20か所に応募して1回面接に呼ばれる程度という数字がありましたが、それでも、自分は全然その数字には達していませんでした。もっと面接に呼ばれる頻度が多ければ、どこかに縁が出来たのかなあと今更考えてもどうしようもないのですが。

研究を 辞めて初めて 街を見る 元ポスドク

【解説】都内のトレンディドラマに出てくるようなおしゃれな街並みの中に大学の研究室がある場合でも、研究に勤しんでいる間は街の光が目に入りませんでした。研究をやめた立場で、同じ場所を眺めたときに同じ街の風景が違って見えたものです。

ラボ去りて 論文コピーの 居場所なく 元研究者

ラボ辞めて我が家に並ぶラボノート 元研究者

【解説】自分はいつか実験ノートを処分する日が来るんだろうか。

級友を 先生と呼ぶ 事務初日 期限切れ助教

ラボ辞めて コナカで揃える 安スーツ 元ポスドク

【解説】洋服の青山はイメージ的にですがノリが良すぎて居心地が悪いので、落ち着いた雰囲気のコナカでスーツを揃えました。

スーツ着て 満員電車に 今日も乗る 元ポスドク

【解説】今日も山手線に乗っています。

ラボ去りて 満員電車に 身を埋める  元ポスドク 

【解説】研究者をやっていたときは、徒歩圏内だったり電車を使ってもせいぜい30分以内の通勤距離でした。通勤ラッシュの時間帯に電車に乗る必要もありませんでしたので、満員電車に乗るという経験は大学生のとき以降はありませんでした。普通のサラリーマンになってしまうと、定刻に送れずに出勤する必要があり、いやでも満員電車に身を投じることになります。最初の何回かは、とても新鮮な気分で、その後は単に疲労困憊するだけです。

アカデミア 辞めて分かった プレッシャー 元研究者

研究者 辞めてみて知る 大気圧 プレッシャーから解放された元研究者

【解説】研究を辞めてみて驚いたのは、実験して発見して結果を出して論文を出さなければいけないというプレッシャーや緊張感が無くなったことにより、それまで体でにかかっていた「大気圧」が無くなって、身軽になったということです。自分はそれが当然と思っていたあの重圧は、大学院入学以来何十年も感じていて当たり前になっていたのですが、それが存在しない状態というものを初めて知りました。

ラボ去りて 実験続ける 夢の中 元研究者

【解説】研究を辞めたあとでも、ラボで実験していたり、ラボのみんなと学会に出かけていたり、ラボのセミナー室で研究のディスカッションをしていたりという夢を良く見ます。というか毎晩見ている。ただ、ラボのメンバーはなぜか小中学校、高校、大学、大学院、その後に出会った人たちがごちゃまぜになっている。

研究者 成る者が成る 研究者 一研究者 

【解説】研究者として生き残った人達を見ると、結局のところ、出身大学でも研究能力でも頭の良さでもなくて、なりたい人間がかってになっただけだなあと思います。もちろんなりたくてもなれなかった人間の方がはるかに多いわけですが。

科学者は 職は無くとも 科学者か さまよえる博士

【解説】研究者は職業ではなく生き方だと考えれば、職があろうがなかろうが、サイエンスをやり続けることは可能な気がしてきました。大学に職がないと実験して自分の手でデータを取得する機会は得られないかもしれませんが、パブリックドメインにもやまのようにデータが蓄積されていて、何か誰も見つけていないことを見つけ出すことは可能かもしれません。