論文をどのジャーナルに投稿しようかと悩む人がいるかもしれません。インパクトファクターが全てではないという研究者も多いですが、実際には、インパクトファクターが高いジャーナルに論文業績があるほうが、良い評価を受けられる可能性が高いことは間違いありません。
教員公募の際に、応募者の論文業績リストにインパクトファクターを書かせる大学がありますし、教員の任用・昇進に際して論文数だけでなくインパクトファクターを考慮する大学もあります。いろいろな学会が自分のところの学会誌のインパクトファクターの変化を一喜一憂したりもしています。
研究キャリア形成の途上にいる限り、研究者はインパクトファクターを度外視して論文投稿先のジャーナルを選ぶことは不可能でしょう。そこで、インパクトファクターの範囲を意識しつつ、どのジャーナルに論文を投稿したらいいのかについて自分の思うところを書いてみます。これが正しいというわけではなく、考えるための話題提供程度のつもり。
ジャーナルには歴然とした「ランク」が存在します。一つの出版社は、それぞれのランクの論文を取りこぼしなく取り込むために、異なるランクのジャーナルを用意していることが多いです。例えば、ネイチャー系であれば、Nature、Nature姉妹紙、Nature Communications、Nature Communications姉妹紙、Scientific Reportsといった感じです。セルプレスであれば、Cell、Cell姉妹紙、Cell Reports、iScienceといったところでしょうか。
ネイチャー系が一番段階付けが細かいので、これを参考に他の出版社の雑誌がどのあたりに相当するのかを考えて雑誌を選ぶのも一つの方法だと思います。
目次
- 1 NatureかScienceかCellか(インパクトファクター40以上)
- 2 Nature姉妹紙かCell姉妹紙か (IF=15以上)
- 3 PLOS BiologyかeLifeかNature CommunicationsかCell ReportsかCurrent BiologyかPNASか(インパクトファクター10前後の総合生命科学雑誌)
- 4 Communications BiologyかPLOS姉妹紙かFrontiers専門誌か(インパクトファクター5前後の専門誌)
- 5 Scientific ReportsかiScienceかPLOS ONEか(オープンアクセスメガジャーナルの総合誌)
- 6 インパクトファクターで選ぶ
- 7 トランスファーか他社の同程度の雑誌に出し直すか
- 8 専門誌か総合誌かで選ぶ
- 9 アクセプトまでが最短最速の雑誌を選ぶ
NatureかScienceかCellか(インパクトファクター40以上)
生物系の場合、「CNS持ち」という言葉があるくらいで、セル、ネイチャー、サイエンスは別格の扱いです。インパクトファクターはNature、Science、Cellのいづれも40を超えており、他のジャーナルとは一線を画しています。NatureとScienceが科学の総合誌なのに対して、Cellは名前が示す通り生物学の専門誌、特に細胞生物学の専門誌です。細胞生物学の研究成果であれば、専門誌であるCellの方が掲載されやすいはずで、総合誌と専門誌を同列に並べるは変な話なのですが、それでもCNSと一括りにされて語られることが多いです。
これらの雑誌は、既成概念を変えるような大発見であったり、長年にわたって誰も成功しえなかったようなことを成し遂げた研究成果が掲載されるものであり、conceptural advanceの大きさが絶対条件となります。
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Nature姉妹紙かCell姉妹紙か (IF=15以上)
Nature Medicine、Nature Immunology、Nature Cell Biology、Nature Neuroscienceなど、Nature姉妹紙のトップには専門誌が位置しています。Cell Pressの専門誌としては、Neuron、Immunity、Molecular Cellなどがあります。
よくリジェクトされるときの決まり文句で「専門誌のほうに出したほうがよい」というものがありますが、Nature系の一般誌であるNature CommunicationsやScientific Reportsよりもこれらの専門誌の方が上位なので、これらの姉妹紙のトップジャーナルに蹴られた際に専門誌への投稿を勧められたとしても、それより「下位」の一般誌に掲載される可能性は十分にあります。
ネイチャーの姉妹紙の中のトップジャーナルやセルプレスの専門誌のトップジャーナルは、それぞれの研究領域における最高峰に位置するものであり、インパクトファクターの大小だけでは雑誌の評価や受理される難しさは測れません。業界ごとに、このジャーナルはこうだよねという見方が存在しています。
- Nature Medicine: Impact factor (2020) = 53.44
- Nature Genetics: Impact factor (2020) = 38.333
- Nature Cell Biology: Impact factor (2020) = 28.824
- Molecular Cell: Impact factor (2020) = 17.970
- Nature Immunology: Impact factor (2020) = 25.606
- Immunity: Impact factor (2020) = 31.745
- Nature Neuroscience: Impact factor (2020) = 24.884
- Neuron: Impact factor (2020) = 17.173
PLOS BiologyかeLifeかNature CommunicationsかCell ReportsかCurrent BiologyかPNASか(インパクトファクター10前後の総合生命科学雑誌)
生命科学分野における総合誌で、インパクトファクターが10前後のものが多数あります。
PLOS BiologyはPLOSのフラッグシップジャーナル。eLifeは独自の編集・査読方針を打ち出した生命科学専門誌で、どちらもインパクトファクター的には同じところに位置します。理念が素晴らしくてもインパクトファクターが低いと、高い雑誌に客を奪われる傾向が強いみたい。PNASは総合科学雑誌なので、他分野の研究者からも認められやすいため、雑誌の見られ方としては、インパクトファクターの影響を受けにくい。
- Nature Communications: Impact factor (2020)=14.914
- PNAS: Impact factor (2020)=12.291
- Current Biology: Impact factor (2020)=10.834
- Cell Reports: Impact factor (2020)=9.423
- PLOS Biology: Impact factor (2020)=8.029
- eLife: Impact factor (2020)=8.14
全然関係ないけど、PNASのことを「ピーナス」と発音する日本人研究者がいまだにいるけど、それはジャーナルの名前ではなくて、男性の外部生殖器であるところのpenisにしか聞こえないので、やめたほうが良いといつも思う。ピーエヌエイエスでいいんじゃないかな。
Communications BiologyかPLOS姉妹紙かFrontiers専門誌か(インパクトファクター5前後の専門誌)
- Communications Biology: Impact factor (2020)= 5.489
- Journal of Biological Chemistry: Impact factor (2020)= 5.157
Scientific ReportsかiScienceかPLOS ONEか(オープンアクセスメガジャーナルの総合誌)
サイエンティフィックリポーツはネイチャー系ジャーナルの一番下に位置付けられています。上で戦うのに疲れたら、サイレポにトランスファーするというのは一つの選択です。
- Scientific Reports: Impact factor (2020)= 4.379
- iScience: Impact factor (2020)= 5.08
- PLOS ONE: Impact factor (2020)= 3.240
インパクトファクターで選ぶ
研究は中身が大事と言いつつもインパクトファクターを重視する研究者がほとんどですので、上記のようにインパクトファクターを意識して投稿先を選ぶことは基本的な態度だと思います。
トランスファーか他社の同程度の雑誌に出し直すか
最近は投稿したファイル一式をトランスファーする制度があるので、同じ出版社で雑誌のレベルを落として投稿する場合には、出し直す手間がありません。レフリーーのコメントも次の雑誌に送られるので、採否の決定がスピードアップします。
この便利なトランスファー制度のおかげで、論文の投稿先は最初のサブミッションよりも、リジェクトされたあとの方が悩みます。つまり、同じ出版社の下位ジャーナルにトランスファーするか、それとも別の出版社の同じインパクトファクターの雑誌に出し直すかで悩むわけです。自分の論文の価値を信じるなら、雑誌の格を落としたくないのですが、さっさと通る雑誌に通して楽になって次に進みたい気持ちもよぎります。
専門誌か総合誌かで選ぶ
論文業績を誰に対してアピールする必要があるのか?生物系の人間が、物理化学系の人たちにも業績を認めてもらう必要がある状況が想定されるのであれば、生物、物理、化学と広いスコープを持つジャーナルを選ぶという戦略があります。
アクセプトまでが最短最速の雑誌を選ぶ
公募されていた教員の職の最有力候補に選ばれたが、規程の論文数に足りていないため、いついつまでに論文数を増やす必要がありという状況になることがあり得ます。また、有期の職を得た場合、何年間で何報という規定を満たさないと職が更新してもらえない場合がありえます。
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そんなときは、雑誌の評判に構っている場合ではないので、要件を満たすジャーナルであればどの雑誌でも良いでしょう。そんなニーズを満たすために作られた言われているのがMDPIのジャーナル群です。