「これは科学的に正しいことが証明されている」と言われると、なにか絶対的な真実として受け入れないといけない気にさせられます。しかし、世の中にはそんな絶対的に正しいことなど存在しません。科学的に言えば、「科学的に正しいこと」とは、「今のところはまだ反証されずに残っている仮説」に過ぎないのです。この考え方は、カール・ポパーが提唱した反証可能性(Falsifiability)に基づいています。
ck12.orgはウェブを通じて世界中の子供が質の高い教育を無料で受けられるようにというコンセプトのウェブサイトですが、ポパーの反証可能性の考え方を前面に出して、「科学における仮説とは何か」(英語)を高校生向けにわかりやすく解説しています。このウェブページの著作権の形態がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスなので、以下、日本語化して紹介します。
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上の漫画は科学における仮説をからかっていますが、仮説という概念は科学においてもっとも重要なことの一つです。 科学研究によって、科学を進歩させるような証拠が見つけられます。科学研究の目的は通常、仮説をテストすることです。仮説を支持するかまたは退けるような証拠を見つけることによって、科学が進展するのです。
目次
科学的な仮説とは何でしょう?
「仮説」という言葉は、「根拠のある推測」と定義できます。例えば、ある自然現象がなぜ生じるのかに関する根拠ある推測が仮説といえます。 しかし、全ての仮説がーー仮に自然界に関するものであったとしてもーー科学的な仮説というわけではありません。単に根拠のある推測というだけでなく科学的な仮説であるためには何が必要でしょうか?科学的な仮説は、次の2つの基準を満たしていなければなりません。
- 科学的な仮説は検証可能であること
- 科学的な仮説は反証可能であること。
科学的な仮説は検証可能でなければならない
仮説が検証可能であるとはどういうことかというと、観察をしてその結果が仮説に合うか合わないかを調べることができるような、そんな観察が可能だということです。 もしも仮説を観察によって検証できないのであれば、それは科学的ではありません。次の文を考えてみましょう。
「どんな方法を用いても観察することができない、目に見えない生き物が、私たちの周りには存在しています。」
この主張は正しいかもしれないし正しくないかもしれません。しかし、これは科学的仮説ではありません。なぜなら、検証できないからです。この仮説の内容だと、それが間違いかどうかを検証する観察手段が科学者にないのです。
科学的な仮説は反証可能でなければならない
ある仮説が検証可能なものだとしても、まだ、科学的な仮説と呼ぶには不十分です。さらに、その仮説がもし間違いの場合には間違いであるということを示すことができなければなりません。次の主張を考えて見ましょう。
「宇宙には生命が存在する惑星が他にもある.」
この主張は検証可能です。もし真実であれば、少なくとも理屈上は真実である証拠を見つけることができます。例えば、宇宙船を地球から送って宇宙を探索し生き物が存在する惑星を見つけたら報告させるようにすることができます。もしそんな惑星が見つかれば、この主張の正しさが証明できたことになります。しかし、この主張は科学的な仮説ではありません。なぜでしょう?もし仮説が間違いの場合にそれが間違いであるということを示すことが不可能だからです。 宇宙船は生き物が住んでいる惑星を見つけることは決してないかもしれませんが、だからといって生き物が住む惑星が存在しないとは必ずしもいえません。宇宙はとても広いので、全部の惑星に関して生き物がいるかどうかを調べつくすことは不可能だからです。
検証可能かつ反証可能であること
最後にもう一つ、下に図を示した例を考えてみましょう。
「2つの物体を同じ時刻に同じ高さから落とすと、地面に同時に到達する(ただし空気抵抗が存在しないものとする)」
この主張は検証可能でしょうか?可能です。あなたは2つの物体を同じ時刻に同じ高さから落として、いつ地面に達するかを観察することができます。もちろん、空気抵抗の影響を避けるために空気が存在しない状態で実験する必要はあります。しかし、そのような実験は少なくとも理論上、可能です。この主張がもし間違いの場合は、反証可能でしょうか?それも可能です。2つの物体に関して多くの組み合わせを試すことが容易にできます。そして、もし同時に着地しないような2つの物体の組み合わせを見つけたら、仮説が間違いであったということになります。仮説が間違いの場合には、間違いであることを証明することは比較的容易でしょう。
一匹のゾウと一人の少年が重力によって地面に向かって落下しています。重力による力Fgravは、ゾウに対する方が少年のものよりも大きくなります。なぜなら、ゾウの方が質量が大きいからです。それにも関わらず、両者は地面に同時に達するでしょう(前提として同じ高さから同じ時刻に落ち始めて、空気抵抗はないものとします)。
仮説の正しさを証明することは可能でしょうか?
上の例で考えた、物体の落下に関する仮説が実際には間違いならば、たくさんの物体に関して実験を行うことにより遅かれ早かれ間違いだったいうことがわかるでしょう。ある仮説を反証するのには、一つの例外を見つければ事足ります。しかし、もしある仮説が実際に真実の場合はどうでしょう? 真実であるということも示し得るのでしょうか?いいえ。2つの物体が常に同時刻に着地することを示すには、考え得るあらゆる組み合わせを試す必要があるでしょう。それは不可能です。新たな物体は常に作り出されていますので、それらを全てテストしなければならないということになります。この仮説を反証するような例が将来見つかる可能性が常にあります。ある仮説が正しいと結論付けることはできませんが、その仮説を支持する証拠がより多く集まれば、その仮説が正しいという可能性がさらに高まります。
まとめ
- 科学における仮説とは、観測により検証することができ、もし間違いであるときには反証することが可能であるような根拠ある推測のことである。
- ほとんどの場合、仮説の正しさを証明し、そのように結論付けることはできない。なぜなら、仮説に対する反例を求めてあらゆる可能性を吟味することは一般的に不可能だから。
さらに
下のリンク先のウェブページの一番下にある、科学的仮説に関する確認クイズを試してみましょう。答えの確認を忘れずに。
http://www.batesville.k12.in.us/physics/phynet/aboutscience/hypotheses.html
おさらい
- 科学における仮説の役割が何かを述べよ。
- 科学的な仮説であるための2つの基準は何か説明せよ。
- 以下の2つの主張のうちどちらが科学的仮説の基準を満たすか?
- 酸は赤いリトマス試験紙を青色に変える。
- 宇宙には地球上にしか生物が存在しない。
- ある仮説が真実であることを証明することが通常は不可能である理由を説明せよ。
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参考
- Hypothesis:Testable, falsifiable statements are essential to the scientific process.(ck12.org)
- The Logic of Scientific Discovery, by Karl Popper (PDF, 545 pages)
- カール・ライムント・ポパー記念講演会講演録(日本語)(PDF) 稲盛財団 京都賞 第8回(1992年) 精神科学・表現芸術部門 カール・ライムント・ポパー (Karl Raimund Popper)哲学(20世紀の思想)
- カール・ポパーの生い立ちと哲学 伊勢田哲治 (PDF 12 pages)
- 「ポパー哲学」への手引 ― 科学的・合理的なものの見方・考え方 ― 高坂邦彦
- 疑似科学から見えてくる科学と社会 季刊誌『ゑれきてる』 談 戸田山和久:”科学と疑似科学を分けるたったひとつの基準はないのですが、いくつかの基準はあります。…そのなかで、一番重要なのは科学哲学者カール・ポパー(1902~1994)が提案した「反証可能性」だと思います。科学哲学としての「反証主義」というポパーの考え方は、今はあまり支持者はいないのですが、彼が出してきた「反証可能性」という科学の基準そのものは、やはり、科学らしさの大事な目安としてあります。”
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