あなたがこの世を去って長い年月が経ったとき、あなたの科学的遺産は、主として、あなたがこの世に書き残した論文とそれらの論文が放つインパクトです。(When you are long gone, your scientific legacy is, in large part, the literature you left behind and the impact it represents.) - フィリップ・E・ボーン
データを取り終え、論文を書き上げ、学術雑誌に投稿してアクセプト(受理)されてようやく仕事が一つ完結します。しかし、投稿してすぐアクセプトされることなど滅多になく、多くの場合最初にリジェクト(却下)を食らいます。何年間も心血を注いだ仕事が却下されれば、誰でもへこむもの。そこからアクセプトに持っていくところで、研究者としての力量やタフさが問われます。
では、この「論文を出す力」はどうすれば身につくのでしょうか?
若い研究者向けに行われた講演の内容に加筆してまとめた、「論文を出すためのシンプルな10原則」という記事が、以前、PLoS Computational Biology誌に掲載されました。一番大事なことは、自分の仕事をどれだけ客観的に見ることができるか。その記事Bourne PE (2005) Ten Simple Rules for Getting Published. PLoS Comput Biol 1(5): e57. doi:10.1371/journal.pcbi.0010057を以下に訳出しました。
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目次
- 1 論文を出すためのシンプルな10原則
- 1.1 フィリップ・E・ボーン
- 1.2 原則1:たくさんの論文を読んで、他人の優れた仕事やダメな仕事から学びなさい
- 1.3 原則2:あなたが自分の仕事を客観的に捉えられるようになればなるほど、あなたの仕事は最終的により良いものになる。
- 1.4 原則3:良いエディターやレビューアーはあなたの仕事を客観的にみてくれます。
- 1.5 原則4:英語を使いこなして書くということができていないのなら、早めにレッスンを受けなさい。後々、非常に役に立ちます。
- 1.6 原則5:リジェクションを受けとめられるようにしなさい。
- 1.7 原則6:何が良いサイエンスをつくるのかは明らかですー研究トピックの新しさ、関連する文献を包括的にカバーしていること、良いアイデア、強力な統計的裏付けを含む良い解析、示唆に富むディスカッション。何が良いサイエンスレポートをつくるのかは明らかですー良い構成、テーブルや図の適切な利用、 適度な長さ、想定した読者に向けて書くことー明らかなことを無視してはいけません。
- 1.8 原則7:追求したいクエスチョンの着想を得たその日のうちに論文を書き始めなさい。
- 1.9 原則8:研究者のキャリアの早い段階でレビューアーになりなさい
- 1.10 原則9:論文をどこに出したいのかを早い段階で決めなさい。
- 1.11 原則10:クオリティが全てです。
- 2 Ten Simple Rules for Getting Published
- 2.1 Rule 1: Read many papers, and learn from both the good and the bad work of others.
- 2.2 Rule 2: The more objective you can be about your work, the better that work will ultimately become.
- 2.3 Rule 3: Good editors and reviewers will be objective about your work.
- 2.4 Rule 4: If you do not write well in the English language, take lessons early; it will be invaluable later.
- 2.5 Rule 5: Learn to live with rejection.
- 2.6 Rule 6: The ingredients of good science are obvious—novelty of research topic, comprehensive coverage of the relevant literature, good data, good analysis including strong statistical support, and a thought-provoking discussion. The ingredients of good science reporting are obvious—good organization, the appropriate use of tables and figures, the right length, writing to the intended audience—do not ignore the obvious.
- 2.7 Rule 7: Start writing the paper the day you have the idea of what questions to pursue.
- 2.8 Rule 8: Become a reviewer early in your career.
- 2.9 Rule 9: Decide early on where to try to publish your paper.
- 2.10 Rule 10: Quality is everything.
論文を出すためのシンプルな10原則
フィリップ・E・ボーン
原則1:たくさんの論文を読んで、他人の優れた仕事やダメな仕事から学びなさい
批評家になるのに早すぎるということはありません。ジャーナルクラブは、グループで論文の批評を行うものですが、そのような類の対話をする素晴らしい機会 です。毎日少なくとも論文2報を詳細に読み(あなたの専門分野だけでなく)、それらの論文のクオリティについて考えることも、役に立ちます。多読のもう一つの大きな効用ーそれは自分自身の仕事をよりよく客観視するのに役立つことです。コンピューターの画面の前やラボの実験ベンチで毎晩夜遅くまで過 ごしていると、自分の仕事が画期的なものだとあまりにも簡単に思い込んでしまいます。そうではない可能性がかなり高いのですが、あなたのメン ターも同じ罠にはまってしまう可能性があるため、原則2があります。
原則2:あなたが自分の仕事を客観的に捉えられるようになればなるほど、あなたの仕事は最終的により良いものになる。
悲しいかな、自分自身の仕事を客観的に捉えることができない科学者もいます。そういう人は決して一流の科学者にはなれないのです。エディター(編集者)やレビューアー(査読者)らの客観的な物の見方を早い時期に学びなさい。
原則3:良いエディターやレビューアーはあなたの仕事を客観的にみてくれます。
エディトリアルボード(編集委員会)のクオリティが、レビューの過程がどのようなものかを示す最初のヒントになります。自分が論文発表したいと思っているジャーナルの発行人欄を見てごらんなさい。一流のエディターは、レビューが一流であることを要求しそれを実現します。サブミット(投稿)する前に、エネルギーを注ぎ込んで原稿のクオリティを上げましょう。理想的なことを言えば、レビューはあなたの論文のクオリティを上げてくれるものなのです。しかし、もし根本的な欠陥があれば、レビューアーらはそんなアドバイスをしてくれないでしょう。
原則4:英語を使いこなして書くということができていないのなら、早めにレッスンを受けなさい。後々、非常に役に立ちます。
これは文法だけの問題ではなく、もっと重要なこととして、理解の問題です。優れた論文というものは、説明が巧みなので、全くの部外者にも複雑なア イデアが理解できるようになっているのです。最も高名な科学者はたいていの場合、最もロジカルで、簡潔な表現を用いながら、刺激に満ちたレクチャーをしますよね?このことは、彼らが書く論文にも当てはまります。英文雑誌に良い論文を出すこととは無関係の職にあなたが将来就くにして も、わかりやすい文章を書くことは有益です。良い英語でわかりやすく書かれていない投稿論文は、サイエンスが際立って良いわけでも無い限り、たいてい リジェクトされるか、うまくいっても広範囲に及ぶ編集作業が必要なため出版が遅れます。
原則5:リジェクションを受けとめられるようにしなさい。
客観的でいられないと、リジェクションを受け入れるのが辛いものになりますし、この先、リジェクトはされるものなのです。サイエンスの世界で生きる以上、リ ジェクトされることはいくらでもあります。一流のサイエティストであってもです。論文がリジェクトされたり大幅なリビジョンが要求された場合における正し い反応は、レビューアーの言うことによく耳を傾け、主観的ではなく客観的に対応することです。レビューはあなたの論文がどのようにジャッジされているのかを反映していますから、それを受け入れられるようになりましょう。もしレビューアーたちが全員一致で論文のクオリティが低いというのであれば、固執せず気持ちを切り替えましょう。ほとんど全ての場合、彼らの言い分が正しいのです。もしメジャーなリビジョンが要求されたのなら、そうしなさい。問題にされたポイントひとつひとつに対処したことをカバーレターに記し、修正箇所がはっきりとわかる形で原稿の本文を直しなさい。リビジョンが何回も必要になるのは、当事者全員にとって苦痛を伴うことであり、論文の発表を遅らせることにもなります。
原則6:何が良いサイエンスをつくるのかは明らかですー研究トピックの新しさ、関連する文献を包括的にカバーしていること、良いアイデア、強力な統計的裏付けを含む良い解析、示唆に富むディスカッション。何が良いサイエンスレポートをつくるのかは明らかですー良い構成、テーブルや図の適切な利用、 適度な長さ、想定した読者に向けて書くことー明らかなことを無視してはいけません。
初稿を自分で読み直すときはこれらの構成要素を客観的にみるようにし、自分のメンターには頼らないようにしなさい。その仕事で利害関係が生じない同僚に論文を読んでもらい、率直な意見を得るようにしなさい。そのとき、トピックと同じ分野で研究していない人を含めるようにしなさ い。
原則7:追求したいクエスチョンの着想を得たその日のうちに論文を書き始めなさい。
この原則は論文発表に重点を置きすぎだという人がいるかもしれないが、こうすれば研究の範囲が定まるし仮説駆動型サイエンスも容易になる。初めて論文を書く人は、知っていることをなんでもかんでも論文に詰め込もうとしがちです。あなたが書いた学位論文はなんでもかんでも詰め込む場所でした。あなたの発表論文は簡潔で、最低限の文字数で最大限の情報を伝えなければなりません。著者へのガイドをよく読んでそれに従いなさい。エ ディターもレビューアーもそうします。研究を進めながらきちんと文献目録のデータベースを管理して、その中の論文を読みなさい。
原則8:研究者のキャリアの早い段階でレビューアーになりなさい
他人の論文をレビューすることは、より良い論文を書く助けになります。手始めに、あなたのメンターと共同作業しなさい;メンターがレビュー中の論文をもらって、レビューの最初のバージョンを作りなさい(たいていのメンターは喜んでそうさせてくれるはずです)。それから、メンターが提出する最終版のレビューを読んでみなさい。可能であれば、本誌では可能ですが、他のレビューアーが書いたレビューも読んでみなさい。そうすることで、自分が書いたレビューのクオリティを評価する重要な能力が身につきますし、うまくいけば、自分自身の仕事をより一層客観的にみることができるようになります。また、あなたはレビューのプロセスやレビューのクオリティを理解することができるようになります。このような理解は、自分の論文をどのジャーナルに出すかを決めるうえでも重要です。
原則9:論文をどこに出したいのかを早い段階で決めなさい。
この原則で、あなたが行っている仕事の形や細かさの程度や新しさが決まります。多くのジャーナルには投稿前問い合わせの制度がありますので、それを使いましょう。論文を書く前であっても、仕事の斬新さはどれくらいあるのか、また、あるジャーナルが興味を持ってくれそうかという感覚を得なさい。
原則10:クオリティが全てです。
質の高いジャーナルに論文を一本出すことのほうが、何本かの論文を質の低いジャーナルに出すよりも良いのです。論文のインパクトの有無を隠すことはますます難しくなってきています。グーグルスカラーやISIウェブ・オブ・サイエンスなどのツールがテニュア審査委員会や雇用者によって利用され、あなたの仕事のクオリティの指標がはじき出されています。かつてはジャーナルの名前だけが指標として使われていました。現在のデジタル世界では、誰にでも、ある論文にインパクトがないかどうか分かってしまいます。インパクトファクターが高いジャーナルに論文を発表するように努力しなさ い。そのようなジャーナルにもしアクセプトされれば、あなたの論文も高いインパクトを持つことになるでしょう。
あなたが世を去って長い年月が経ったとき、あなたの科学的な遺産の大部分が何かといえば、それは書き残した論文とそれらの論文の持つインパクトということになります。未来の世代の科学者が賞賛するようなものをあなたが遺せるように、これらの10個のシンプルな原則がお役に立てば幸いです。
Ten Simple Rules for Getting Published
Philip E Bourne
Citation: Bourne PE (2005) Ten Simple Rules for Getting Published. PLoS Comput Biol 1(5): e57. doi:10.1371/journal.pcbi.0010057
Copyright: © 2005 Philip E. Bourne. This is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original author and source are properly credited.
The student council (http://www.iscbsc.org/) of the International Society for Computational Biology asked me to present my thoughts on getting published in the field of computational biology at the Intelligent Systems in Molecular Biology conference held in Detroit in late June of 2005. Close to 200 bright young souls (and a few not so young) crammed into a small room for what proved to be a wonderful interchange among a group of whom approximately one-half had yet to publish their first paper. The advice I gave that day I have modified and present as ten rules for getting published.
Rule 1: Read many papers, and learn from both the good and the bad work of others.
It is never too early to become a critic. Journal clubs, where you critique a paper as a group, are excellent for having this kind of dialogue. Reading at least two papers a day in detail (not just in your area of research) and thinking about their quality will also help. Being well read has another potential major benefit—it facilitates a more objective view of one’s own work. It is too easy after many late nights spent in front of a computer screen and/or laboratory bench to convince yourself that your work is the best invention since sliced bread. More than likely it is not, and your mentor is prone to falling into the same trap, hence rule 2.
Rule 2: The more objective you can be about your work, the better that work will ultimately become.
Alas, some scientists will never be objective about their own work, and will never make the best scientists—learn objectivity early, the editors and reviewers have.
Rule 3: Good editors and reviewers will be objective about your work.
The quality of the editorial board is an early indicator of the review process. Look at the masthead of the journal in which you plan to publish. Outstanding editors demand and get outstanding reviews. Put your energy into improving the quality of the manuscript before submission. Ideally, the reviews will improve your paper. But they will not get to imparting that advice if there are fundamental flaws.
Rule 4: If you do not write well in the English language, take lessons early; it will be invaluable later.
This is not just about grammar, but more importantly comprehension. The best papers are those in which complex ideas are expressed in a way that those who are less than immersed in the field can understand. Have you noticed that the most renowned scientists often give the most logical and simply stated yet stimulating lectures? This extends to their written work as well. Note that writing clearly is valuable, even if your ultimate career does not hinge on producing good scientific papers in English language journals. Submitted papers that are not clearly written in good English, unless the science is truly outstanding, are often rejected or at best slow to publish since they require extensive copyediting.
Rule 5: Learn to live with rejection.
A failure to be objective can make rejection harder to take, and you will be rejected. Scientific careers are full of rejection, even for the best scientists. The correct response to a paper being rejected or requiring major revision is to listen to the reviewers and respond in an objective, not subjective, manner. Reviews reflect how your paper is being judged—learn to live with it. If reviewers are unanimous about the poor quality of the paper, move on—in virtually all cases, they are right. If they request a major revision, do it and address every point they raise both in your cover letter and through obvious revisions to the text. Multiple rounds of revision are painful for all those concerned and slow the publishing process.
Rule 6: The ingredients of good science are obvious—novelty of research topic, comprehensive coverage of the relevant literature, good data, good analysis including strong statistical support, and a thought-provoking discussion. The ingredients of good science reporting are obvious—good organization, the appropriate use of tables and figures, the right length, writing to the intended audience—do not ignore the obvious.
Be objective about these ingredients when you review the first draft, and do not rely on your mentor. Get a candid opinion by having the paper read by colleagues without a vested interest in the work, including those not directly involved in the topic area.
Rule 7: Start writing the paper the day you have the idea of what questions to pursue.
Some would argue that this places too much emphasis on publishing, but it could also be argued that it helps define scope and facilitates hypothesis-driven science. The temptation of novice authors is to try to include everything they know in a paper. Your thesis is/was your kitchen sink. Your papers should be concise, and impart as much information as possible in the least number of words. Be familiar with the guide to authors and follow it, the editors and reviewers do. Maintain a good bibliographic database as you go, and read the papers in it.
Rule 8: Become a reviewer early in your career.
Reviewing other papers will help you write better papers. To start, work with your mentors; have them give you papers they are reviewing and do the first cut at the review (most mentors will be happy to do this). Then, go through the final review that gets sent in by your mentor, and where allowed, as is true of this journal, look at the reviews others have written. This will provide an important perspective on the quality of your reviews and, hopefully, allow you to see your own work in a more objective way. You will also come to understand the review process and the quality of reviews, which is an important ingredient in deciding where to send your paper.
Rule 9: Decide early on where to try to publish your paper.
This will define the form and level of detail and assumed novelty of the work you are doing. Many journals have a presubmission enquiry system available—use it. Even before the paper is written, get a sense of the novelty of the work, and whether a specific journal will be interested.
Rule 10: Quality is everything.
It is better to publish one paper in a quality journal than multiple papers in lesser journals. Increasingly, it is harder to hide the impact of your papers; tools like Google Scholar and the ISI Web of Science are being used by tenure committees and employers to define metrics for the quality of your work. It used to be that just the journal name was used as a metric. In the digital world, everyone knows if a paper has little impact. Try to publish in journals that have high impact factors; chances are your paper will have high impact, too, if accepted.
When you are long gone, your scientific legacy is, in large part, the literature you left behind and the impact it represents. I hope these ten simple rules can help you leave behind something future generations of scientists will admire.
参考
- Bourne PE (2005) Ten Simple Rules for Getting Published. PLoS Comput Biol 1(5): e57. doi:10.1371/journal.pcbi.0010057
- プロフェッショナルな科学研究者になるためのキャリア形成ガイド:「10個のシンプルな原則」集
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