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痕跡細胞からの記憶想起にシナプス増強は不要

逆行性健忘においても、記憶は痕跡細胞の中に保持されていることをMITの利根川研究室がマウスの実験で明らかにし、サイエンス誌に発表しました。論文タイトルはEngram cells retain memory under retrograde amnesia。

マウスを小箱に入れ、弱い電気刺激を与えて小箱の環境が怖いことを記憶させました。通常、こうした体験をさせた翌日に、マウスを同じ小箱に置くと怖い体験を思い出してマウスは“すくみ”ます。しかし、マウスが小箱は怖いと記憶した直後に、シナプス増強が起こらないようにする薬剤を与えると、マウスは怖い体験の記憶を失って、同じ小箱に入れられてもすくみませんでした。

ところが、翌日、怖い体験をした小箱とは別の小箱に同じマウスを入れ、怖い体験の記憶痕跡を人工的に活性化したところ、記憶を失ったはずのマウスがすくみました。これは、シナプス増強がなくても記憶は痕跡細胞群の中に直接、保存されていることを意味します。理化学研究所60秒でわかるプレスリリースより)

論文著者は、Tomás J. Ryan, Dheeraj S. Roy, Michele Pignatelli, Autumn Arons, Susumu Tonegawaで、最初の3人に関してはcontributed equally to this workとのことです。

Tonegawa Lab Members (利根川研究室ラボメンバー The RIKEN Brain Science Institute and the Picower Institute for Learning and Memory at MIT)

参考

    1. Engram cells retain memory under retrograde amnesia. Science 29 May 2015: Vol. 348 no. 6238 pp. 1007-1013 DOI: 10.1126/science.aaa5542 (Sciencemag.org)
    2. 記憶痕跡回路の中に記憶が蓄えられる-神経細胞同士のつながりの強化は記憶の想起には不要- (理化学研究所 2015年5月29日 60秒でわかるプレスリリース):より詳細な報道発表資料
    3. 逆行性健忘:発症前の過去のことがらを思い出すことができなくなること。外傷性脳損傷や認知症で発症することが多い。(理研プレスリリース補足説明
    4. 思い出せないけど…脳には記憶残る 理研がマウスで実験(朝日新聞デジタル 2015年5月29日):”認知症などで過去を思い出せないのは、記憶が失われたのではなく、残っているのに取り出せないだけ――。そんな可能性を示すマウス実験の成果を、理化学研究所のグループが29日付米科学誌サイエンスに発表する。”
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