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2021年大阪大学総長選挙の懐疑点

次期阪大総長は現職の続投

大阪大学が2021年5月25日(火)に発表したところによりますと、次期総長は現職の西尾章治郎氏(69)が再選されました。任期は、令和3年(2021年)8月26日から令和7年(2025年)3月31日まで。

西尾 章治郎 氏 略歴:

平成27年8月 国立大学法人大阪大学総長

(引用元:大阪大学総長プロフィール

  1. 令和 3 年 5 月 25 日 総長予定者の決定について 大阪大学総長選考会議
  2. 阪大総長、西尾氏を再選 教職員対象調査では2位 狩野浩平2021年5月25日 21時23分 朝日新聞DIGITAL 04年の国立大学法人化以来、再任は初めて。
  3. 阪大新総長に西尾氏再任 澤氏ら破る 2021.5.25 22:11 産経新聞 専任教授らを対象にした意向調査では澤氏が346票を集め、西尾氏の得票(263票)を上回った。ただ、続いて実施された選考会議委員による投票で西尾氏が澤氏らを破り、続投を決めた。終了後にオンラインの記者会見が開かれ、選考会議の鈴木直議長は結果について「意向調査の内容も踏まえ、各委員が総合点で判断した」と説明。

 

阪大総長候補者

2021年4 月 1 日~4 月 16 日に総長候補者の推薦の受け付けがなされ、① 澤 芳樹 氏 ② 仲野 徹 氏③ 西尾 章治郎 氏(氏名五十音順)の3 名の「推薦書」、「所信表明書」 、「履歴書」が受理されていました。

学内意向調査と総長選考会議の結果

5 月 25 日に、総長選考会議が学内意向調査を実施しました。 意向調査結果は投票率が83%で、得票は、

という結果でした。さらに同日、総長選考会議が開催され、面接、所信表明及び学内意向調査結果 を総合的に判断した選考と投票の結果、

で、西尾章治郎氏が次期総長 予定者に決定しました。

学内意向調査は、学内の教授ら数百人が投票するもので、そこで澤 芳樹 氏が346 票で圧勝していたわけですが、その結果がその後11名からなる「総長選考会議」での投票でひっくり返ったというわけです。ちなみに阪大が公開した資料によれば、総長選考会議のなかの1名は、COIにより総長選挙への関与を途中の段階で降りています。

総長選考の開始にあたり、総長候補者との関係性において利益相反が疑われる 総長選考会議委員からの自己申告を受け、令和 3 年 4 月 27 日開催の総長選考会 議において、当該 1 名の委員を、その後の総長選考に関する議事に関与させない ことを決定した。

引用元:令和 3 年 5 月 25 日 総長予定者の決定について  大阪大学総長選考会議

ですから委員は本来12人いたということでしょうか。阪大のウェブサイトの情報によればメンバーの顔触れは、学外6名、学内6名からなるようです。

1号委員<経営協議会学外委員>6名 氏名 職名

  1. 井野瀬 久美惠 甲南大学文学部教授
  2. 大石 佳能子 株式会社メディヴァ代表取締役社長
  3. 鈴木 直 公益財団法人地球環境センター理事長
  4. 鳥井 信吾 サントリーホールディングス株式会社代表取締役副会長
  5. 村尾 和俊 西日本電信電話株式会社相談役
  6. 米田 悦啓 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所理事長

2号委員<教育研究評議会評議員>6名 氏名 職名

  1. 今里 聡 大学院歯学研究科長
  2. 馬場口 登 大学院工学研究科長
  3. 竹村 景子 外国語学部長
  4. 岡田 雅人 微生物病研究所長
  5. 関野 徹 産業科学研究所長
  6. 有川 友子 国際教育交流センター長

(引用元:総長選考会議委員(名簿) 令和3年4月21日現在 大阪大学

大阪大学総長選挙の懐疑点

さて、「学内意向調査」での大差をひっくり返した「総長選考会議委員」はどのようにしてきまるのでしょうか。国立大学法人大阪大学総長選考会議規程によれば、

第2条 総長選考会議は、次に掲げる委員をもって組織する。
(1) 国立大学法人大阪大学経営協議会規程第2条第4号に掲げる者のうちから、経営協
議会において選出された者 6名
(2) 国立大学法人大阪大学教育研究評議会規程第2条第1項第3号から第11号までに
掲げる者のうちから、教育研究評議会において選出された者 6名
(3) 理事のうちから、役員会において選出された者 3名

この規定だと15人いるようですが、なぜ上の名簿で12名なのでしょう?それはとりあえずおいておいて、「大阪大学経営協議会規程第2条第4号に掲げる者」がダレなのか、大阪大学経営協議会規程第2条第4号をみてみると、

(4)本法人の役員又は職員以外の者で大学に関し広くかつ高い識見を有するもののうちから、教育研究評議会の意見を聴いて総長が任命する者

なんと総長が任命する者となっています。大阪大学教育研究評議会規程も見てみると、第2条第1項第3号から第11号までは

第2条 教育研究評議会は、次に掲げる評議員をもって組織する。

(1) 総長

(2) 理事

(3) 副学長

(4) 各学部長

(5) 各研究科長

(6) 各附置研究所長

(7) 医学部附属病院長及び歯学部附属病院長

(8) 附属図書館長

(9) 国際教育交流センター長、日本語日本文化教育センター長、核物理研究センター長及びサイバーメディアセンター長

(10) 全学教育推進機構長

(11) 文学研究科、人間科学研究科、法学研究科、経済学研究科、理学研究科、医学系研究科、歯学研究科、薬学研究科、工学研究科、基礎工学研究科、言語文化研究科、国際公共政策研究科、情報科学研究科及び生命機能研究科から選ばれた教授各1名

2 前項第11号の評議員は、当該部局の長が、総長に推薦するものとする。

(部局の選出評議員の任期)

こちらもやはり「総長に推薦」とあるので、総長の意向が反映する余地があるかもしれません。つまり、「総長選考会議委員」のメンバーは、総長の意に沿った人選なんですね。現職の総長が再選するのは当たり前なんじゃないかと思います。かりに現職の総長が立候補していなくても現職の総長の意向にそった後任が選ばれるような仕組みになっているように思えます。今回の候補者の一人である仲野徹氏が述べていた通りですね。

学長選考会議が最終的に決定する。(大阪大学の総長選考会議は、総長が任命する経営協議会の学外委員から6名、学内の教育研究評議会評議員から6名の計12名)一般的には構成員による「意向投票」が行われるが、それはあくまでも最終選考の参考でしかない。  ちょっとおかしいと気付かれた方がおられるかもしれない。もし、総長が続投を希望した場合、公平性が担保されるのだろうか、と。ごもっともだ。建前としては、総長選考会議は独立して運営することになっている。とはいえ、誰が考えてもおかしい。ちなみに、今回の大阪大学での総長選考では、現職総長も候補者のひとりである。こんな制度がまかり通っているのが、国立大学法人なのだ。

(国立大学総長選がわからなすぎる 学生無視、おかしな選考方法が変わらないワケ 5/19(水) /2021 6:02 デイリー新潮 YAHOO!JAPAN

誰が考えてもおかしい。全くその通りだと思います。学内意向調査の結果とは乖離した最終決定になったわけで、全く民主的ではないですね。

阪大といえば自分にとっては2017年の物理の入試問題の出題ミスに対する対応の仕方が、実に強烈でした。物理を捻じ曲げ、入試の作問のルールをひっくりかえしてまでして、大学の体面を取り繕おうとしたように見えたからです。

  1. 阪大が2017年入試物理出題ミスを解説
  2. 阪大2017年入試「物理」出題ミスの真相

湯川秀樹博士(阪大教員時代に書いた博士論文がノーベル賞受賞論文)がこの阪大の対応を見たら、さぞかし嘆いたことでしょう。


現職が続投するということは、もし今後また同様のミスが起きたときには、科学を冒涜し高校生や阪大受験生を裏切ったあの対応を、再び繰り返すのでしょうか。それだけは勘弁願いたいです。

 

阪大総長選に対する世間の反応(ツイート、ヤフーコメント)

総長選考委員12人の中に工学部長がいることが問題。西尾総長は元工学部教授。明らかな利益相反。外国語学部長は新キャンパス設立で西尾総長に借りがある。産業科学研究所長も工学部系列。学外選考委員6名も西尾氏が任命。今回の選挙、ただの茶番でしかない。hsh*****

とんだ茶番劇。大切な意向投票が無駄。利権の塊。総長が選んだ選考委員メンバーには総長派理事の後輩のベンチャー企業なども入っている。set*****

自分が立候補する選挙の選考委員を自分が好きに決めれるなんて、子供でも不公平って怒りますよ。ppj*****

大阪大学長に西尾氏が再選 「改革にまい進」任期は25年3月まで 5/25(火)/2021 20:57 毎日新聞 YAHOO!JPAN コメントより

 

選考理由

同氏は、「求められる総長像」に掲げる 5 つの資質・能力を十分に備えている。
総長としての 6 年間に、その資質・能力に裏付けられたリーダーシップを発揮し、
社会との共創を通じた知の創出と人材の育成を図ることに努めてきた。
特に同氏は、現在大学が抱える多くの課題について適切に把握・分析しており、
本学の直面する諸課題に対応できるよう「OU マスタープラン 2027」において将来
のビジョンを明確に示している。そのビジョンを実現するための「ACE プロジェク
ト」において掲げる具体的施策は、俯瞰的・網羅的かつ実現可能性にも留意された
ものであり、本学の教育研究のさらなる発展・充実に資すると判断した。
第 4 期中期目標期間の到来をはじめ、大学を巡る変革の荒波の中で、同氏が持つ
組織のリーダーにふさわしい決断力、実行力及び使命感によって、大学改革を着実
に実行し、「生きがいを育む社会を創造する大学」の実現を期待する。

引用元:令和 3 年 5 月 25 日 総長予定者の決定について  大阪大学総長選考会議

学内意向調査で現職の総長が1位に大差をつけられた2位でしかなかったということは、阪大の教職員幹部らが現職の総長のこれまでの活動を必ずしも高く評価していないということの表れなのではないでしょうか。理由書を読むと、総長自らが人選したメンバーが現職候補を高く評価しているだけの話で、つまりは、自画自賛して続投を決めたという図式。

 

かわろう!大阪大学 – ―大学改革と総長選考―

  1. かわろう!大阪大学 – ―大学改革と総長選考―

 

2015年の総長選挙

学内意向調査の結果を無視して、現職の息のかかった選考会議で自分自身を選ぶというのは今までの選挙ではなかったようです。

2011年の阪大総長選挙

下の動画を見ると、2011年当時の選考の手順は全外(2021年)とは異なっており、もう少し民主的に見えます。2011年6月に前鷲田清一総長の任期満了にともなう総長選挙が実施されました。その結果、第17代大阪大学総長に平野俊夫先生が選出されています。

アニメ「総長ができるまで」大阪大学総長選挙(2011) 2012/06/18 大阪大学公式Youtubeチャンネル (Osaka University official)

学長はどうやって選ぶべきなのか

選考会議の議論の前に大学構成員による選挙を行う大学が少なくない。選挙は学長と構成員の意識をそろえるという利点もあるが、企業人からは「従業員が社長を選んでいるようだ」と違和感を持たれている。(学長選考方法再検討の必要性

学長選挙を何に例えるかで、随分と議論の方向が変わるものですね。会社の従業員が社長を選ぶようなものという議論の持って行き方もあるのかもしれませんが、自分は市長選に例えてみたいと思います。自分が住む市の市長選に置き換えてみたら、現在の学長選の在り方の異常ぶりがよくわかります。市民の圧倒的な支持を得て最大の得票を得た候補がいたのに、現職市長が選んだ数人による選考会議で現職の再選が決まりましたということになれば、市民は怒り狂うのではないでしょうか。阪大の意向投票で投票権があるのは、教授などそれなりのポジションのある人たちなので、なおさらです。

参考

 

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