日本の科学と技術

分生研・加藤研に関する論文不正調査報告書 を東京大学が発表

分子細胞生物学研究所・加藤茂明研究室における 論文不正に関する最終調査報告を東京大学が発表しました。この最終報告書では、史上稀にみる論文捏造の連鎖がどのように生じたのか、研究室内の人間模様にまで踏み込んだ記述があります。

6.発生要因等
(1)本件事案においては、研究室の相当数の者により、不正行為や貼り間違い等の不適切な行為が多数発生している。これほど多くの不正行為等が発生した要因・背景としては、旧加藤研究室において、加藤氏の主導の下、国際的に著名な学術雑誌への論文掲載を過度に重視し、そのためのストーリーに合った実験結果を求める姿勢に甚だしい行き過ぎが生じたことが挙げられる。そうした加藤氏の研究室運営を同研究室において中心的な役割を担っていた栁澤氏、北川氏及び武山氏が助長することにより、特定の研究グループにおいて、杜撰なデータ確認、実験データの取扱い等に関する不適切な指導、画像の「仮置き」をはじめとする特異な作業慣行、実施困難なスケジュールの設定、学生等への強圧的な指示・指導が長期にわたって常態化していた。このような特異な研究慣行が、不正行為の発生要因を形成したものであると判断する。

旧加藤研究室には当時、大きく3つの研究グループが存在し、上述の栁澤氏が率いた(後に北川氏が引き継いだ)コファクターチーム、武山氏が率いたショウジョウバエ解析チームのほか、学外から旧加藤研究室に参画した研究者が率いたノックアウトマウス作製チームがあった。これら関係教員のうち、最初に助教として採用された栁澤氏の初期の論文に不正行為が確認され、その影響を大きく受けた北川氏がその後の多くの不正論文に関与したと考えられる。したがって、今回の不正行為には、栁澤氏と北川氏が極めて大きな影響を及ぼしており、不正行為に関与した者は両氏の指導下にあった者が大半である。事実、北川氏の転出後は不正論文が激減している。また、不正行為に関わった者の多くは、大学院学生の頃から加藤氏が指導してきた者たちで、加藤氏に従順であり、過大な要求や期待に対し、それを拒否するどころか、無理をしても応えるしかないといった意識を持つような環境が存在していたといえる。

(2)ショウジョウバエ解析チームの中核的役割を担っていた武山氏は研究室の最古のメンバーであり、学生の頃から加藤氏の指導を受け、加藤氏とともに本学にて研究室設立に従事し、栁澤氏に次いで助教となった。武山氏は加藤氏の信頼に応えるべく結果を出すことに腐心し、不正行為に関わったと思われる。栁澤氏又は北川氏と関わりの無いノックアウトマウス作製チームのメンバーの中には不正行為を行った者はいない。また、研究者としてある程度自立(キャリアを積んだ)した段階で旧加藤研究室に参加したメンバーも不正行為に関わってはいない。

(3)以上から、不正行為を行ったのは、栁澤氏、北川氏に直接指導を受け、また加藤氏の大きな影響力の下にあったメンバーであることが明らかになる。これに対し、同じ研究室に所属していた他のメンバーには不正行為とは関わりのない者もいる。それゆえ、本件は研究室全体(又はチーム全体)にわたる不正行為であるとまではいえないと判断できる。最終調査報告4-5ページ

この報告書に拠れば、加藤茂明(元)教授が捏造を部下に指示していたわけではなく、グループリーダー的な役割を担っていた二人が中心になって捏造を主導し、その研究グループに属する学生らがそれに従わざるを得なかった、もしくは上の期待に応えようとして捏造に励んだようです。加藤教授は部下に過大な期待・要求をしてこのような不正を生じさせるような特異な環境を作り出したこと、および不正の露呈を防ごうとしたことに関して責任を問われています。

この調査委員会の決定に関して加藤茂明・元教授は、論文の作製過程で研究員に対して強制的な態度や過度の要求をしたことも、そのような意図を持って発言したこともなく、不正行為が発生する環境を作り上げたとの認定には承服できない、と反論しています(NHKの報道など)。

 

東大 論文不正に元教授ら11人関与と発表

平成24年1月10日、本学に対し、加藤茂明東京大学分子細胞生物学研究所教授(当時)の主宰する研究室の関係者が発表した論文について、不正行為が存在する旨の申立てがあった。これを受け、本学においては、分子細胞生物学研究所における予備調査を経て、科学研究行動規範委員会において調査・審議を行い、論文の不正行為を認定した。このたび、本事案の調査が終了しその結果をまとめたので、公表する。

記者会見「東京大学分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における
論文不正に関する調査報告( 最終 )」の実施について
日 時:平成26年12月26日(金)9:30~11:00
場 所:東京大学総合図書館3階会議室
出席者:
濱田 純一 東京大学総長
相原 博昭 東京大学理事・副学長(科学研究行動規範担当)
原田  昇 東京大学副学長 科学研究行動規範委員会委員長
鈴木 真二 東京大学広報室長

配付資料一覧(すべてPDFファイル):
1)理事声明
2)分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告(最終)
3)分子細胞生物学研究所研究不正再発防止取り組み検証委員会結果報告
4)研究倫理アクションプランに係る取組状況等について
5)東京大学の科学研究における行動規範
6)東京大学科学研究行動規範委員会規則
資料ウェブサイト http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_261226_j.html

参考

  1. 東京大学分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告(最終)(東京大学平成26年12月26日)
  2. 東大 論文不正に元教授ら11人関与と発表(NHK NEWSWEB 12月26日):”東京大学で学位を取得した当時の学生ら6人についても、学位の取り消しを審議するということです。”
  3. 不正論文に関与、元特任講師の学位取り消し 徳島大 (朝日新聞 DIGITAL 2014年12月26日):”東京大学の加藤茂明元教授の研究グループによる不正論文に関わり博士論文を捏造(ねつぞう)、改ざんしたとして、徳島大学は26日、北川浩史(ひろちか)・元東大特任講師に授与した博士の学位を取り消した、と発表した。”
  4. 東大論文不正:捏造報告に加藤元教授「到底承服できない」(毎日新聞 2014年12月26日):”加藤氏はコメントで「関係各所に膨大な労力をおかけしたことを心よりおわびする。論文作成や受理の過程で、強制的な態度や過度の要求などをしたことはない。最終報告は私の弁明を十分に考慮せず、一部の証言のみに基づいている」と釈明した。”
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