日本の科学と技術

ニコニコ動画の(株)ドワンゴが人工知能の研究に乗り出す

ニコニコ動画などを運営する株式会社ドワンゴが、人工知能学会理事の山川宏氏を所長に迎えて、ドワンゴ人工知能研究所を発足させました。山川所長の挨拶文の一部を紹介すると、

… 人と同じかそれ以上に知的な機械、つまり超人的人工知能(AI)を創造し利用できれば、科学技術の進展を大幅に加速することで、環境破壊の臨界点が訪れる以前に何らかの解決を見出すことも可能になるでしょう。

… 機械自身が現実世界から知識表現を獲得できないという長年の問題がありました。… しかし 近年、脳の神経回路を模したニューラルネットワークモデルを深い階層まで積み上げることで、人の脳(大脳新皮質)のように抽象的な概念を学習できるディー プラーニング技術が成功を収めました。

… ドワンゴは、人工知能における本当の技術革新は正にこれから訪れると考え、新たに人工知能研究所を設立します。そして次世代への贈り物 となりうる、日本発での超人的AIの実現を目指します。その実現に向けた最速の道筋として、脳の神経科学的知見を参考にしながら、機械学習の組み合わせと しての脳全体の計算機能の再現を目指す、「全脳アーキテクチャ」という研究アプローチを軸として研究を進めていきます。このために当研究所では主にディー プラーニング技術を拡張・発展による多様な知識を獲得や、記憶の座である海馬体の計算モデル構築を通じた創造性や不変性等の実現を目指す研究、さらに高次 の知能に関わる脳器官に対応する機械学習装置を統合するための認知アーキテクチャ研究を進めます。 … (http://info.dwango.co.jp/pi/ns/2014/1128/index3.html)

とのことであり、人間の能力を超えた人工知能の実現を目指す非常に野心的な試みです。一企業内の研究に留めずに産学官連携の環境も作りたいとも述べており、日本の人工知能研究をパワーアップさせる効果があるかもしれません。

近年、メジャーなインターネット関連企業はビッグデータをビジネスに生かすために人工知能の研究に本腰を入れて取り組んでおり、ドワンゴのこの事業も、世界の潮流に沿ったものといえます。

例えば、グーグルでは、「グーグルブレイン」と呼ばれるディープラーニング(深層学習)研究プロジェクトに取り組んでいます。グーグルブレインは、2011年にスタンフォード大学のアンドリュー・ング(Andrew Ng) 教授によって始められたプロジェクトで、2012年にはコンピューター上のニューラルネットワークに膨大な量の画像を見せて学習させたところ、これが猫だよと人間がコンピュータに教えたわけでもないのに、「猫」を認識する「神経細胞」が自然に生じたとして、話題になりました。グーグルはさらに、2013年にディープラーニングのパイオニアであるジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)博士を招き入れたほか、人工知能研究の企業を買収するなど非常に積極的に人工知能の研究を推し進めています。(WIKIPEDIA参照)。

アンドリュー・ング教授によるディープ・ラーニングについての講義動画。
Andrew Ng: Deep Learning, Self-Taught Learning and Unsupervised Feature Learning

また、フェイスブックはフェイスブック人工知能研究所にディープ・ラーニングの第一人者であるニューヨーク大学教授のヤン・ルカン博士を所長として迎えて、人工知能の研究を行っています。

ヤン・ルカン博士のディープ・ラーニングに関するセミナー動画(本題に入っていくのは16分12秒あたりから)。
Data Science @ ESIEE Paris – Yann LeCun

その他、マイクロソフト社は「プロジェクト・アダム」というディープ・ラーニングのアルゴリズムに基づいた人口知能システムを開発しています。
Introducing Project Adam: a new deep-learning system

検索エンジン「百度(バイドゥ)」を運営する中国のBaiduも、Silicon Valley AI Lab、Beijing Deep Learning Lab (旧名Institute of Deep Learning)そしてBeijing Big Data Labという3つの人工知能研究所を擁しており、グーグル・ブレインを主導したAndrew Ng博士を2014年5月にリーダーとして迎えています。

バイドゥがシリコンバレー(カリフォルニア州サニーベール)に開設した人工知能研究所の紹介動画。
Baidu Research – An Inside Look into Baidu’s Silicon Valley A.I. Lab

参考

  1. ドワンゴが人工知能の開発に着手 – 社内に研究所を発足(マイナビニュース2014/11/28):”ドワンゴは11月28日、社内研究機関として、人工知能に関わる研究を行う「ドワンゴ人工知能研究所」を発足し、人工知能学会理事および副編集委員長である山川宏氏を所長として迎えると発表した。”
  2. 「ドワンゴ人工知能研究所」発足のお知らせ(株式会社ドワンゴ 2014年11月28日):”ドワンゴ人工知能研究所は、人類の課題である、教育、エネルギー、環境、水資源、食糧、貧困、セキュリティ等に対して大きな貢献をなしうる高度な人工知能を日本発で早期実現することを目的とし、発足いたしました。”
  3. 編集:人工知能学会誌 連載解説「Deep Learning(深層学習)」:”2012年は,機械学習分野にとって,まさしくdeep learningの年であったといえよう.Langfordの機械学習関連のブログなどで,2012年の顕著な成果として取り上げられるのは当然として,一般紙である New York Times にまで記事が掲載された.新しい機械学習手法がこれほど話題になったことは,サポート・ベクトル・マシンやノンパラメトリック・ベイズなど最近のどの手法でもなかったことである.”
  4.  ディープラーニング (ITPRO By日経コンピュータ 2014/09/19):”グーグルは2012年、「ディープラーニングを採用することで、人工知能が人間に頼らずに『YouTube』の画像の中から猫を発見した」と発表して世界を大きく驚かせた。グーグルがディープラーニングを使って開発した人工知能「GoogLeNet」は、2014年8月に開催された画像認識技術のコンテスト「Imagenet Large Scale Visual Recognition Challenge 2014(ILSVRC2014)」で首位となっている。”
  5. 脳に挑む人工知能 (ITPRO By日経コンピュータ 2014/10/01):”人工知能技術の新潮流「ディープラーニング」が、物体認識を筆頭に音声認識、自然言語解析、医薬品候補の探索などで、他の技術を圧倒する性能を示している”
  6. ニューラルネットの逆襲(岡野原 大輔 research.preferred.jp 2012-11-01):”脳が単純なニューロンの組み合わせによって高度な認識・知識活動を実現しているのと同様に、ニューラルネットも複雑な現象を学習できるのではないのかと期待されていました。しかし、一度盛り上がった機運は70年頃には一度下火となり、人工知能や機械学習の中心はもっと現実的な手法(線形識別器、カーネル法など)に置き換わっていました。そうした中でもトロント大のHintonらなどを中心にニューラルネットの研究は地道に進んでいました。その中でも2000年代後半にいくつかのブレークスルーがおき、状況は大きく代わりました。”
  7. グーグル「世界を覆う人工知能ネットワーク」構想(2014.1.29):”米WIREDのダニエラ・エルナンデスは、非常勤でグーグルで働くことになった深層学習のパイオニア、ジェフリー・ヒントンを紹介する記事の中で、深層学習がAIへのそのほかのアプローチと大きく違うのは、人間の関与の必要性からマシンを自由にして、マシンに対して、環境を人間のように理解する能力を与えることを目指している点だと述べている。”
  8. Google Brain (Wikipedia) “Google Brain is an unofficial name for a deep learning research project at Google.”
  9. Building High-level Features Using Large Scale Unsupervised Learning (論文PDFリンク)Quoc V. Le quocle@cs.stanford.edu,Marc’Aurelio Ranzato ranzato@google.com, Rajat Monga rajatmonga@google.com, Matthieu Devin mdevin@google.com, Kai Chen kaichen@google.com, Greg S. Corrado gcorrado@google.com, Jeff Dean jeff@google.com, Andrew Y. Ng ang@cs.stanford.edu
  10.  Using large-scale brain simulations for machine learning and A.I. (Google Official Blog June 26, 2012): ” … So we developed a distributed computing infrastructure for training large-scale neural networks. Then, we took an artificial neural network and spread the computation across 16,000 of our CPU cores (in our data centers), and trained models with more than 1 billion connections. We then ran experiments that asked, informally: If we think of our neural network as simulating a very small-scale “newborn brain,” and show it YouTube video for a week, what will it learn? Our hypothesis was that it would learn to recognize common objects in those videos. Indeed, to our amusement, one of our artificial neurons learned to respond strongly to pictures of… cats. Remember that this network had never been told what a cat was, nor was it given even a single image labeled as a cat. Instead, it “discovered” what a cat looked like by itself from only unlabeled YouTube stills. That’s what we mean by self-taught learning. …”
  11. Deep Learning Japan (東京大学 工学部 松尾研究室):”Deep Learning は機械学習アルゴリズムの1つで, 人間の脳を模した構造をもつニューラルネットワークを多層に重ねた構造をもちます. Deep Learning の大きな特徴は, 多段に重ねることによって抽象的なデータの表現を獲得することができる点で, 真の人工知能への第一歩であると考えられます.”
  12. Facebook’s Quest to Build an Artificial Brain Depends on This Guy (WIRED 08.14.14):”It’s good to be Yann LeCun. Mark Zuckerberg recently handpicked the longtime NYU professor to run Facebook’s new artificial intelligence lab. The IEEE Computational Intelligence Society just gave him its prestigious Neural Network Pioneer Award, in honor of his work on deep learning, a form of artificial intelligence meant to more closely mimic the human brain. And, perhaps most of all, deep learning has suddenly spread across the commercial tech world, from Google to Microsoft to Baidu to Twitter, just a few years after most AI researchers openly scoffed at it. All of these tech companies are now exploring a particular type of deep learning called convolutional neural networks, aiming to build web services that can do things like automatically understand natural language and recognize images. “
  13. 京都大学ー稲盛財団合同京都賞シンポジウム2014.7.12-13 ヤン ルカン Yann LeCun :”2013年の後半にフェイスブックの人工知能研究所長に任命されたが,今もニューヨーク大学での教授職 (常勤ではない)を継続している。… 1980年代の半ばより彼は深層学習手法,特に畳み込みニューラルネットワークモデルについて研究を行った。その成果は,フェイスブック,グーグル,マイクロソフト,百度,IBM,NEC,AT&T 等の企業が開発した画像・ビデオ理解,書類認識,人間・計算機相互作用,音声認識分野の多くの製品やサービスの基礎技術となっている。”
  14. フェイスブックが人工知能研究所、ニューヨーク大学と提携 (afpbb.com 2013年12月10日):”米SNSフェイスブック(Facebook)は9日、ニューヨーク大学(New York University、NYU)との提携の下、人工知能を研究するための新たな施設を開設すると発表した。フェイスブックの大量のデータの活用を目指している。フェイスブックは、NYUのデータ科学センター(Center for Data Science)のヤン・ルカン(Yann LeCun)教授が同プロジェクトの指揮を執ると発表。”
  15. Microsoft Challenges Google’s Artificial Brain With ‘Project Adam’ (WIRED 07.14.14):”Drawing on the work of a clever cadre of academic researchers, the biggest names in tech—including Google, Facebook, Microsoft, and Apple—are embracing a more powerful form of AI known as “deep learning,” using it to improve everything from speech recognition and language translation to computer vision, the ability to identify images without human help.”
  16. Baidu Opens Silicon Valley Lab, Appoints Andrew Ng as Head of Baidu Research (百度 プレスリリース May 16, 2014): “Baidu, Inc., the leading Chinese language Internet search provider, today announced the appointment of pioneering Artificial Intelligence (AI) researcher Andrew Ng as Chief Scientist of Baidu. Mr. Ng will lead Baidu Research, with labs in Beijing and Silicon Valley.”
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