日本の科学と技術

「寄生虫ダイエット」寄生虫で肥満を抑制 

日テレニュース24の記事で知ったのですが、寄生虫を使った実験で肥満を抑制できる(マウスの実験)という論文が報告されたそうです。群馬大学医学部と国立感染症研究所の日本人の研究者らによる研究成果。用いた寄生虫は、Heligmosomoides polygyrusという腸内に住む線虫。この線虫を寄生させた肥満マウスは体重の増加が抑えられたとのこと。

Suppression of obesity by an intestinal helminth through interactions with intestinal microbiota Chikako Shimokawa, Seiji Obi, Mioko Shibata, Alex Olia, Takashi Imai, Kazutomo Suzue, Hajime Hisaeda. Infection and Immunity. DOI: 10.1128/IAI.00042-19

Heligmosomoides polygyrusという線虫をマウスの腸内に感染させると、腸内に多種類存在する細菌のバランスが変化して、ノルエピネフリンという物質の分泌を促すような細菌の種類が増加し、その結果ノルエピネフリンが血液中で増加し、褐色脂肪細胞の細胞膜上に存在するノルエピネフリン(ノルアドレナリン)の受容体(β3アドレナリン受容体)にノルエピネフリンが結合し、その結果、褐色脂肪細胞の中で、脱共役タンパク質1(uncoupling protein 1 (UCP1) )という遺伝子の発現が増加し、UCP1蛋白質の働きにより、エネルギーを利用可能な形(ATP)に蓄えずに熱として「浪費」することで、肥満を抑制するというシナリオが考えられているようです。

 

参考(報道)

  1. 寄生虫ダイエット?小さな生物のパワー活用 (2019.04.12 20:25 日テレNEWS24)(動画ニュース)
  2. 寄生虫による肥満抑制メカニズムを科学的に検証 (2019年04月11日 PM01:30 QLife Pro)群馬大学は4月9日、寄生虫が体重増加を抑制するメカニズムを、世界で初めて科学的に証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の下川周子助教と、国立感染症研究所の久枝一部長らの共同研究グループによるもの。
  3. 寄生虫でダイエット効果 世界初証明 群馬大などグループ 働き研究しサプリ開発に期待 (上毛新聞 2019/YAHOO!JAPAN) (ヤフーコメント925件)群馬大と国立感染症研究所の研究グループは9日、体内に特定の寄生虫がいると、脂肪が燃焼して痩せやすい体になることを、世界で初めて証明したと発表した。寄生虫によるダイエット効果はこれまで俗説的に語られてきたが、科学的な根拠は明らかでなかった。
  4. 「寄生虫ダイエット」世界で初めて科学的に証明 国立感染研 (ハザードラボ 2019年4月9日 15:06 exciteニュース)20世紀最高のソプラノ歌手として讃えられたマリア・カラスは、腹にサナダムシを飼っていて、体重が106キロまで太ったときも1年で55キロまで減量したという噂があるほど、古くからサナダムシを体内に寄生させるとダイエット効果があると言われている。

 

参考

  1. Suppression of obesity by an intestinal helminth through interactions with intestinal microbiota. Chikako Shimokawa, Seiji Obi, Mioko Shibata, Alex Olia, Takashi Imai, Kazutomo Suzue, Hajime Hisaeda. Infection and Immunity. DOI: 10.1128/IAI.00042-19
  2. helminth 寄生蠕虫。体内に寄生し、蠕動により移動する動物で、条虫(cestode)、線虫(nematode)、吸虫(trematode)の3種類がある。parasitic wormとも呼ばれる。(参考:ALC)
  3. 脱共役タンパク質(ウィキペディア)酸化的リン酸化のエネルギーを生成する前に、膜間のプロトン勾配を浪費することができるミトコンドリアの内膜のタンパク質。UCP1は褐色脂肪細胞にのみ存在し、UCP2は白色脂肪細胞、免疫系細胞、神経細胞などに認められ、UCP3は主に骨格筋、心臓などの筋組織において多く存在する。ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のβ3受容体に結合すると、UCP1が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり熱が産生される。日本人を含めた黄色人種ではβ3受容体の遺伝子に遺伝変異が起こっていることが多く、熱を産生することが少ない。
  4. dyslipidemia の日本語を脂質異常症としました 日本医学会医学用語辞典WEB版
  5. Emerging Complexities in Adipocyte Origins and Identity. Sanchez-Gurmaches J, Hung CM, Guertin DA. Trends Cell Biol. 2016 May;26(5):313-326. Epub 2016 Feb 11. (PMC4844825)
  6. エネルギー代謝調節機構―UCP を中心に 斉藤 昌之 第 124 回日本医学会シンポジウム (PDF)
  7. 褐色脂肪組織でのエネルギー 消費と食品成分による活性化 斉藤昌之 化学と生物 Vol. 50, No. 1, 2012 (PDF)
  8. Brown adipose tissue: function and physiological significance. Cannon B, Nedergaard J. Physiol Rev. 2004 Jan;84(1):277-359.
  9. ミトコンドリア共役蛋白質UCPファミリーとエネルギー消費・肥満 入江由希子,斉藤昌之化学と生物Vol.37,No.8,1999(PDF)

 

参考(熱産生)

  1. UCP1熱産生 (2011/08/16 Bio TEchnical フォーラム) UCP1が存在すること、ATPを合成することなく、H+を直接熱にして散逸するとありますが。。。どのようにH+を熱に変えるのでしょうか?
  2. Why exactly does uncoupling & proton leak cause heat? (reddit.com)
  3. Mitochondria and Chloroplast Bioenergetics. (Gale Rhodes Chemistry Department University of Southern Maine 2006/07/14) Proton-motive force: free energy change during movement across a proton gradient.  Mitochondrial proton gradient as a source of energy for ATP synthesis.
  4. Uncoupling ETC from ATP synthesis leads to heat generation (ccrc.uga.edu)
  5. What is uncoupling? Dr. A.A.Starkov Weill Medical College Cornell University New York NY USA
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