日本の科学と技術

制御性T細胞 (Treg)とは

T細胞(T cell、T lymphocyte)は、抹消血中のリンパ球の7~8割を占めるリンパ球の一種です。T細胞の元となる細胞(前駆細胞)は骨髄で作られますが、その後、胸腺(Thymus)で選択され分化することにより成熟したT細胞ができます(T細胞のTはThymusのT)。成熟したT細胞は、細胞表面のマーカー分子としてCD4かCD8のどちらか一方の遺伝子を発現しており、CD4陽性のヘルパーT細胞(T helper cell, Th)は他のT細胞の機能発現を誘導したりB細胞の分化成熟、抗体産生を誘導する働きを持っています。他方、CD8陽性のキラーT細胞(細胞傷害性T細胞、cytotoxic T lymphocyte; CTLまたはTc)は、ウイルス感染細胞などを破壊する働きがあります(参考:T細胞 ウィキペディア)。T細胞の種類としては、ヘルパーT細胞とキラーT細胞が古くから知られていたのに対して(1960年代~)、制御性T細胞はずっと後になって見つかったものです。

 

制御性T細胞とは

制御性T細胞の発見者である坂口 志文博士による解説をJT生命誌研究館のサイエンティストライブラリーで読むことができます。制御性T細胞の正体を突き止めていく研究の歴史は非常に読み応えがあります。研究を始めた当初の仮説および制御性T細胞の存在を決定づけた分子マーカーの発見のくだりを紹介します。

なぜ生後3日目のマウスの胸腺を取ると免疫細胞が自己を攻撃し始めるのか? それは、自己を攻撃する免疫細胞がマウスの体内に始めからあったためではないか。胸腺には、それを抑える未知のT細胞が存在するのではないか。まずそう考えました。(中略) 当時最先端だったモノクローナル抗体の技術でT細胞を分類してみると、僕たちの実験で免疫反応を抑えているとみられるT細胞はCD4という表面分子を持っていた (中略) 色々な抗体を試し、どうやらCD25という表面分子が、僕たちの追うT細胞に特異的なマーカーになりそうだというところまで絞り込めました。 (中略) そして2000年には、「Cell」でこの細胞について詳しく紹介して欲しいと依頼され、改めて「制御性T細胞(Regulatory T cell)」と名前をつけました。 (中略) 制御性T細胞が注目を集めつつあった2003年、CD25をしのぐ決定的な発見に成功しました。制御性T細胞の特徴を決めているとみられる、マスター遺伝子を見つけたのです。それはFoxp3という遺伝子です。 (ゆらぐ自己と非自己―制御性T細胞の発 Sakaguchi Shimon 坂口 志文 サイエンティストライブラリーNo.89  JT生命誌研究館

 

制御性T細胞の役割

  1. Treg細胞は免疫応答を抑制する機能を持ち、自己免疫疾患や炎症性疾患、アレルギー疾患などを引き起こす過剰な免疫応答を抑制する役割を担っています。(制御性T細胞の新しい免疫抑制メカニズム-転写因子BATFが組織における免疫制御に重要- 2017年8月2日  東京大学 理化学研究所
  2. Treg(制御性T細胞)は、そういった自己免疫疾患や健康な細胞に対する誤った破壊を防ぐために、免疫系を負に制御し、免疫系の恒常性の維持に働いている免疫細胞です。(Treg (制御性T細胞) COSMO BIO)

制御性T細胞の種類

  1. Tregは胸腺で誘導される内在性Treg(natural Treg;nTreg)と末梢で分化誘導される誘導性Treg(inducible Treg;iTregs)に大きく分類されます。(制御性T細胞 bdbiosciences.com
  2. Regulatory T cells (Tregs), especially naturally arising CD25+CD4+ Tregs, in which expression of the transcription factor forkhead box p3 (Foxp3) occurs in the thymus (as opposed to ‘induced’ Tregs, in which Foxp3 is induced in the periphery), actively engage in the maintenance of immunological self-tolerance and immune homeostasis. (Regulatory T cells: how do they suppress immune responses? Sakaguchi et al., International Immunology October 2009; 21(10):1105-1111)

 

制御性T細胞の分子マーカー

 

アニメ『はたらく細胞』の制御性T細胞

  1. はたらく細胞(AbemaTV)
  2. はたらく細胞公式サイト CAST 制御性T細胞 早見沙織

 

制御性T細胞の細胞表面に発現しているCTLA-4分子の役割

CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen 4, 細胞傷害性Tリンパ球抗原4, cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4CTLA4、あるいはCD152 (cluster of differentiation 152))は、抗原提示細胞表面のCD80やCD86タンパク質と結合することにより、免疫反応をオフにするスイッチとして働く。CTLA-4は制御性T細胞においては常時発現しているほか、他のT細胞においては細胞が活性化されたときにのみ遺伝子発現が上昇する(参考:CTLA-4 Wikipedia)。

制御性T細胞特異的 CTLA-4 欠損マウスを解析し、CTLA-4 は制御性T細胞の産生、生存ではなく、抑制活性に重要であることを示した。即ち、制御性T細胞は、抗原を提示する樹状細胞と反応することで、後者における副刺激分子 CD80, CD86 の発現を抑制するとの結果を得た。CD80, CD86 の発現を抑えられた樹状細胞は、エフェクターT細胞を活性化できず、従って免疫応答が抑制されるものと考えられる。(制御性 T 細胞による新しい免疫制御法の開発 研究期間 平成15年10月~平成21年3月 報告書PDF

 

Tレグ細胞をたくさん増やす食べ物

NHKスペシャル「人体」 万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった(記事: 2018年1月14日 NHK)では、免疫系の暴走を防ぐ役割を持つ制御性T細胞(Tレグ;Treg)を増やす働きを持つ腸内細菌、クロストリジウム菌が紹介されていました。

なんとそんな大事なTレグが、腸内細菌の一種であるクロストリジウム菌の働きによって、私たちの腸でつくり出されていることが、最新研究で明らかになってきました。クロストリジウム菌は、私たちの腸内の「食物繊維」をエサとして食べ、「酪酸」と呼ばれる物質を盛んに放出します。 (中略) クロストリジウム菌が出した酪酸が、腸の壁を通って、その内側にいる免疫細胞に受け取られると、Tレグへと変身するのです。(NHKスペシャル「人体」 万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった 2018年1月14日 NHK

マウスでの実験結果に基づくものですが、クロストリジウム菌の餌となる食物繊維をたくさん含む食品を摂取すれば、Tregが増えるという理屈です。

 

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