東大医論文(4)不正調査報告書不開示の違法性

      2018/05/01




東大医学部のフェイク論文が不正にならない理由 (4)不正調査報告書不開示の違法性

東大医学部から出た論文の中に、実験で得られたデータとグラフが示すデータが一致しないような論文が見つかったが、研究不正ではないので、研究不正ではないと判断した根拠は公開しませんと言います(⇒記事)。

立派な行動規範があっても実践されなければ空虚でしかありません(⇒記事)。自らが示している行動規範を守ること、文科省が示す科学研究のガイドラインを守ること、が期待されるわけですが、残念ながら全く守られていません。そうなると、最終的には、法的にどうなかという疑問が湧きます。もう科学者としての行動規範とか、そんな高尚なことは東大に期待しないから、最低限、日本の法律くらいは遵守していただきたいという話です。そこで、不正調査報告書や調査資料を国民に公開しないという東大の行為が違法なのかどうかについて考えてみたいと思います。自分は裁判官でも法律家でもないので、以下に書き綴ることは、これまで法律になんて全く興味を持ったこともなかった、一納税者、一研究者の考えです。

まず、東大は不正調査報告や調査資料を開示すべきだと私が考える根拠は、「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」です。

第五条 独立行政法人等は、開示請求があったときは、開示請求に係る法人文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該法人文書を開示しなければならない

(太字強調は当サイト、引用元:e-gov.go.jp

本来ならこんな法律とは無関係に、科学者の当然の義務として調査報告書を国民に公開すべきだと思いますが、仮に乗り気でなくても、開示請求をされた場合には原則として公開することが法的に義務付けられているわけですから、公開しないのは違法でしょう。ただし、この第五条には例外的に開示しなくても良い場合が掲げられおり、東大はそれを盾に開示を拒んでいます。

第五条 独立行政法人等は、開示請求があったときは、開示請求に係る法人文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該法人文書を開示しなければならない。
一 
一の二 
 
三 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
四 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
 
 
ハ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
 
ホ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ヘ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
 
(一部割愛、太字強調は当サイト、引用元:e-gov.go.jp
東大が調査報告書や調査資料の公開を拒む法的根拠はこの不開示にする条項なので、結局、東大のその法解釈は合ってるの?ということが争点になります。
不開示とする場合には開示請求者にその理由を伝えなければなりません。「不開示とした部分とその理由」という項目には、東大の主張が書いてあります。

22報論文に関する調査報告書(117枚117頁)

開示する法人文書の名称
研究推進部保有の

 

不開示とした部分とその理由
・当該委員会の開催日時については、本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため、法第5条第4号柱書に該当するため不開示とする。
・当該委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名については、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり、法第5条第3号に該当するため不開示とする。
・調査の経緯、調査の概要、調査結果等に関する文書のうち、審議、検討又は協議に関する情報であって、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、本学の事務及び事業に関する情報であって、当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ、内容確認に係る事務に関する情報であって、当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ、研究に関する情報であって、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ、及び人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分については、法第5条第3号、法第5上第4号柱書、法第5条第4号ハ、法第5条第4号ホ及び法第5条第4号へに該当するため不開示とする。
 最初この理由を読んだときは、なんてまどろっこしい物言いをするのかと思いましたが、なんてことはない、対応する第五条の不開示事由の事項の文言が使われているだけでした。以下、理由と根拠とする法律の文章を並べて、ひとつひとつみていくことにします。

調査委員会の開催日時

不開示とした部分とその理由
・当該委員会の開催日時については、本学として当該会議をどの程度の頻度で開催していることが公になることが本学にとっての当該事業の適正な遂行に支障がでるため、法第5条第4号柱書に該当するため不開示とする。
法第5条第4号柱書
四 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
 自分が知りたいことは、研究不正があったのかなかったのか、不正が疑われている論文の図に対応する実験が本当になされていたのか、データの捏造や改竄がなかったのかどうかなので、調査会議がどの程度の頻度で開催されていたかには興味はあまりありません。なぜ日時を公表すると事業に支障がでるのかはわかりませんが。

調査委員の氏名

不開示とした部分とその理由
・当該委員会委員長以外の委員名及び部局内調査班班長以外の構成員名については、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり、法第5条第3号に該当するため不開示とする。
法第5条第3号
三 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
 調査委員の氏名を明かすと”率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれる”というのは、まったく論理的ではありません。調査は全て完了しているわけですから、物理的に時間を遡って意見交換や意思決定が影響を受けるわけがありません。むしろ逆に開示することによって、調査委員の人選が適切に行なわれ、意思決定の中立性が保たれていたかどうかが第三者に明らかになるのですから、開示すべきです。不開示にすると、不正を疑われた研究者たちのお友達が調査をして手心を加えたんじゃないの?という疑念が払拭されません。実際、調査書の開示部分だけ読んでみても、手心を加えたどころか、医学系は全員無罪だからー!と目をつむって叫んでいるようにしか読めない、奇異な日本語になっています。
 氏名を開示することでひとつ心配があるとすれば、外部調査委員として参加した科学者が、科学者の良心に従ってちゃんと調査はしたのに、国や東大首脳らからの強大な圧力のために報告書の結論を捻じ曲げざるをえなかった場合です。その場合、調査委員の氏名を明らかにすると、その方たちの科学者としての名誉が毀損される状況にならないとも限らないのではないかと、心配になります。そのような懸念をなくすためには、調査委員全員の氏名を公開すると同時に、調査結果だけでなく、調査結果から結論に至るまでにどのような審議が行なわれたのかに関する資料もあわせて公開されるべきだと考えます。この事件はもはや「研究」不正にとどまらず、「研究不正調査」不正の様相を帯びて見えます。

意思形成過程情報

不開示とした部分とその理由
・調査の経緯、調査の概要、調査結果等に関する文書のうち、審議、検討又は協議に関する情報であって、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ
法第5条第3号
三 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
 審議、検討又は協議といった意思形成過程は、調査が完了した以上、時間を遡って影響されることはありませんから、理由になり得ません。ただし、研究不正は将来新たに起きることもあるでしょうから、今回の開示が将来の研究不正調査に影響するのではないかと思う人がいるかもしれませんが、研究不正調査報告が調査完了後に発表されるのであれば、審議検討の段階が悪い影響を受けるということは考えられません。
 そもそも、研究不正の捏造、改竄、剽窃は極めてに明確に定義されており、これらに該当する事実があるかないかを調査によって客観的に判断することが、調査委員には期待されているわけです。つまり、研究不正調査というのは、非常に高い客観性を伴う作業であって、言い換えれば、プロの研究者であれば誰が調査委員を請け負ったとしても、不正の定義や共有された研究倫理によって同じように調査、議論、結論されることが期待される作業です。ですから、審議検討協議の過程が公開されることは、客観性を強固にすることになりこそすれ、それによって自身のあるいは他の審議等が大きな支障を受けることはありません。法第5条第3号が想定しているような、先の見通しが立ちにくいがために協議の過程で未成熟な意見が飛び交う可能性がある事業と、研究不正調査とは全く性格が異なります。

事業に関する情報

(調査の経緯、調査の概要、調査結果等に関する文書のうち、)本学の事務及び事業に関する情報であって、当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ、法第5上第4号柱書
四 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
この説明は、一体調査報告書のどの部分に書かれたどういう内容を具体的に指しているのかが不明なため、突っ込みようがありません。不開示事由を明確に具体的に述べていない点が違法なのではないかと思います。

スポンサーリンク

内容確認

(調査の経緯、調査の概要、調査結果等に関する文書のうち、)内容確認に係る事務に関する情報であって、当該事務及び事業の適正な遂行に支障が生じるおそれ、法第5条第4号ハ
ハ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
これも内容確認が具体的にどのような作業を指すのかがわかりにくいですが、例えば実験ノートの存否や、実験データの有無、実験データから論文図表作成に至る作業内容などを指すのだとしたら、まさにそれこそ開示すべき情報だといえます。それらを開示したからといって、東京大学の事務や事業の遂行に支障が生じるおそれがあるとはいえません。もしそう主張したいのなら、もっと具体的で明確な説明があってしかるべきでしょう。
(調査の経緯、調査の概要、調査結果等に関する文書のうち、)研究に関する情報であって、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ、法第5条第4号ホ
ホ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
この日本語の説明も具体性に欠けるため、意図がよくわかりません。研究不正の調査なのに、研究内容を開示すると研究が不当に阻害されるとは、一体何を意味しているのでしょうか?まさか、今後、同様の手口で不正ができなくなると困るから?
研究がまだ論文発表に至るまえであれば、研究計画や進行中の研究計画を公開したくないというのは、研究者として当然のことです。しかし、今問題になっているのはすでに論文発表がされて世の中に公開された研究内容に関する調査ですから、過去の研究内容を公開したからといって、なんら今後の研究を阻害することになりません。
(調査の経緯、調査の概要、調査結果等に関する文書のうち、)人事管理の公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報に該当する部分 法第5条第4号へ
ヘ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
 なにしろほとんど真っ黒に墨塗りされているため、人事管理に関する内容がいったいどういう内容なのかが自分にはわかりません。研究不正の有無とは直接関係がなさそうですので、調査委員氏名を指す内容でないのであれば、特にこの部分には興味はありません。

 

以上、みてきたように、東大が「22報論文に関する調査報告書(117枚117頁)」の大部分を不開示として墨塗りにした理由書には、その主張を裏付ける事実が存在せず、従って、第五条の条項は法的な根拠になり得ない、つまり東大のこの墨塗りは違法であるというのが、私の考えです。
(つづく)

同じカテゴリーの記事一覧


 - 東大医学部論文不正疑惑, 科学者の不正行為, 論文データ捏造