京都大iPS細胞研究所で論文不正

★2018.1/22放送 NHKニュース7 京大iPS細胞研究所で論文のねつ造や改ざん★

経緯

経緯

iPS細胞研究所相談室に、同研究所所属の助教が著者である論文の信憑性について疑義があるとの情報が寄せられた。これを受け、相談室において研究所に保存されていた1次データ(実験機器の測定値をそのままエクセルファイルに写したもの)から論文の一部のグラフの再構成を試みたところ、論文通りのグラフを再現することができず、論文の主張を裏付けることができなかったことから、平成29年7月3日、大学の通報窓口へ通報が行われた。通報を受け、予備調査を行った結果、本格的な調査を行うことが必要であると判断し、外部委員を含む調査委員会を設置し、調査を開始した。

結論

調査の結果、論文を構成する主要な図6個すべて、また補足図6個中5個において捏造と改ざんが認められる。これらの捏造または改ざん箇所の多くは、論文の根幹をなす部分において論文の主張にとって重要なポイントで有利な方向に操作されており、論文の結論に大きな影響を与えていると認められる。かつ、論文の図作成過程において、正しい計算方法に基づき正しい数値を入力するという基本事項が徹底されていなかった。

(京都大学における研究活動上の不正行為に係る調査結果について(概要) PDF)

 

データ捏造が認定された論文

  1. In Vitro Modeling of Blood-Brain Barrier with Human iPSC-Derived Endothelial Cells, Pericytes, Neurons, and Astrocytes via Notch Signaling. Stem Cell Reports Volume 8, Issue 3, 14 March 2017, Pages 634-647 Available online 23 February 2017. 論文著者:Kohei YamamizuMio Iwasaki2 Hitomi Takakubo1 Takumi Sakamoto3 Takeshi Ikuno1Mami Miyoshi1 Takayuki KondoYoichi Nakao3 Masato Nakagawa2 Haruhisa Inoue4 Jun K.Yamashita1  所属1:Laboratory of Stem Cell Differentiation, Department of Cell Growth and Differentiation, Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, 53 Shogoin Kawahara-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8507, Japan 2:Department of Life Science Frontier, CiRA, Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan 3:Department of Chemistry and Biochemistry, Waseda University, Tokyo 169-8555, Japan 4:Laboratory of Stem Cell Medicine, Department of Cell Growth and Differentiation, CiRA, Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan

オピニオン

記者会見で質問された流れで、山中伸弥所長が自身の進退に言及する発言があったようです。所内の助教が単独で働いたと思われる不正行為の責任をとって所長が辞職するようなことはおかしいという意見がツイッター等で数多くみられました。また、研究不正の指摘を受けてきちんとした調査を行い公表した大学をむしろ評価すべきだという声もあります。

山中先生は、この問題となった論文の著者ではない。研究所長として管理責任はあるとしても、大学の組織上、研究所長がそれぞれの研究室が発表する論文の内容に立ち入ることは、普通はない。論文に関しては、筆頭著者を含め、全著者が責任を取るべきである。大きな研究所のトップは、自分自身の研究室の研究内容について全責任を負うのは当然だが、他者の研究室の内容・運営に口出しする事はない。研究の内容・指導・予算管理は研究室単位で独立して管理される。常識的に考えても、研究所長が多くの研究室の細かい生のデータまですべて目を通すことなど不可能だ。山中先生は日本の宝であり、この研究所が山中先生がいなくなっても存立しうるものかどうか、わずかな常識があればわかるはずだ。この件で、山中先生が辞職することなどあってはならない。(京大論文不正;これでいいのか、日本メディア 中村祐輔のシカゴ便り 01232018)(一部のみ抜粋して紹介)

  1.  山中教授が悪いみたいな感じのニュースになっていますが、あくまで組織の長として謝罪しているのであって、彼を辞任に追い込むのは早計でしょう。これで辞職して海外に行ってしまったら、日本は大きな宝を失う。
  2. きちんと調査をして、不正認定した組織の長が辞任しなくてはならない状況になれば、組織はますます隠蔽するようになるだろう。>山中所長、辞職の可能性に言及 助教の論文不正問題(テレビ朝日系) – Yahoo!ニュース
  3. 研究不正疑義に対して、適切に調査して公表した組織は「プラス評価」をすべき。 不正があったと公表したら、組織にとって「マイナス評価」になってしまうと、不正隠蔽した方が得策という事になってしまいます。
  4. 山中所長に「やめないで」の声続々 記者から「辞任」質問も出るが… (JCASTニュース 2018/1/23 15:50)

 

報道

  1. iPS細胞研の山中所長をめぐる記事に批判集中 共同通信は内容「差し替え」認める 炎上を受け、BuzzFeed Newsは共同通信に取材した。 (BUZZFEED NEWS 2018/01/26 17:59 Kensuke Seya 瀬谷健介 BuzzFeed News Reporter, Japan):”共同通信は通信社として、契約する全国の新聞社にニュースを提供している。ネット上では、少なくとも東京新聞、北海道新聞、西日本新聞、佐賀新聞が、共同通信に提供された初報の「山中氏、科学誌創刊に深く関与か」の記事を配信したとわかる。”
  2. 共同通信さん、京大iPS研の論文不正に山中伸弥所長が関わっているかのような記事を公開し非難轟々→しれっとタイトル&内容改変 (togetter)
  3. 山中所長が給与全額寄付 京大iPS研、論文不正 (共同通信 2018/1/25 20:45 https://this.kiji.is/329123813377803361) 京都大iPS細胞研究所の論文不正問題を受け、山中伸弥所長が、給与を当面の間、研究所に全額寄付するとの考えを示していることが25日、分かった。今月の給与から寄付するとしている。 論文の研究費約310万円のうち、一般の人から募った寄付金「iPS細胞研究基金」の二百数十万円が使われていたための措置という。 山中所長は不正を発表した22日の記者会見で「多くの方から頂いた支援が使われてしまった」と謝罪。発表後に対応を検討し、寄付する考えを担当者らに伝えた。 24日に京都市内で行われた講演では、寄付金が使われていたことや今後の寄付活動について、「どうしたら皆さまに納得していただき、自分自身が納得できるのか。最良の方法を探したい」と発言していた。 問題の論文を掲載した米科学誌ステム・セル・リポーツは、山中氏が国際幹細胞学会の理事長を務めていた2012年に、学会と出版社が提携する形で創刊を発表。 科学誌のホームページなどによると、山中氏は現在この科学誌の編集委員の一人だが、既に不正問題とは関係なく理事長を退任している。研究所は「科学誌の編集委員は通常、所属する研究機関の論文の審査には関与しない」としている。 京大は22日、山水康平特定拠点助教(36)の論文で捏造と改ざんがあったと発表した。
  4.  山中氏、科学誌創刊に深く関与か 京大、iPS研の論文不正発表 (共同通信 2018/1/25 14:25 https://this.kiji.is/329123813377803361) (archive.org) 京都大iPS細胞研究所の研究不正で、問題の論文を掲載した米科学誌ステム・セル・リポーツの創刊に、当時、国際幹細胞学会の理事長を務めていた山中伸弥・研究所長が深く関わったことが25日、分かった。 この論文の審査に山中氏は関与していないとみられるが、現在も編集委員の一人となっている。科学誌の論文審査制度に対しては、不正を見抜く仕組みが不十分だとの声もある。 山中氏はノーベル賞を受賞した2012年、学会と米出版社が提携し新たな科学誌を創刊すると発表。無料公開を原則とし、iPS細胞などの幹細胞に関する基礎研究から医療応用までの幅広い領域の論文を扱うとした。(注:14:25のこの記事は、思わせぶりな書き方で悪意に満ちており、実際ツイッターなどでも多くの人が批判していました。炎上したせいか、20:45には異なる印象を与える記事に差し替えられています。)
  5. 「不正防げず後悔、反省」山中所長、表情険しく 辞任可能性も (産経WEST 2018.1.22 21:22):”約2時間に及ぶ会見の終わり際、責任の取り方として所長を辞める場合もあるかどうか問われると「もちろん全ての可能性は考えている」と前を見据えた。”
  6. 山中所長「辞任も検討」 京大iPS研・助教の論文不正 (京都新聞 2018年01月22日 22時20分):”同研究所長の山中伸弥教授は京都市左京区の京大で開いた会見で、「論文不正を防げなかったことについて強く反省している。所長の辞任を含めて責任の取り方を検討したい」と謝罪した。”
  7. 京大iPS論文不正 再生医療 金看板に傷 (毎日新聞2018年1月22日 22時30分 最終更新 1月23日 01時40分):”データの捏造や改ざんに手を染めた山水(やまみず)康平・特定拠点助教(36)は2014年11月に同研究所に着任し、18年3月までの任期付きの研究者。… 同研究所は、不正防止のために研究内容を厳しく管理する体制を敷いている。3カ月に1回は全ての研究者の実験ノートを確認し、論文を発表する場合は元データや画像などの提出をルール化している。‥‥ ただ、提出させるだけで詳しい内容までは確認しない体制になっており、実際には100%の提出実績に至っていないという。山水助教のノートの提出率は86%だったが、かなり高い割合で、問題の論文についてもデータや画像を全て提出していた。”
  8. iPS研の特定拠点助教、論文に捏造や改ざん (読売新聞 YOMIURI ONLINE 2018年01月22日 19時20分):”京都大は22日、同大iPS細胞研究所に所属する山水康平・特定拠点助教(36)(幹細胞生物学)が昨年2月に米科学誌に発表したiPS細胞(人工多能性幹細胞)に関する研究論文で、グラフ12個のうち11個に捏造や改ざんの不正行為があったと発表した。 山水助教は「論文の見栄えを良くしたかった」と不正を認めているという。京大は既に科学誌の出版社に対し、論文の取り下げを申請している。”
  9. 山中所長、辞職の可能性に言及 助教の論文不正問題 (KFB福島放送 2018-01-22 20:11:57) :”山中所長も会見で自身の辞職の可能性について言及しています。”
  10. 京大iPS細胞研究所で論文のねつ造や改ざん (NHK NEWS WEB 1月22日 17時45分):”京都大学はiPS細胞研究所に所属する助教が中心となって去年発表した論文の11の図にねつ造などの不正があったと発表しました。大学は、不正はこの助教が行ったと認定し、論文が掲載された雑誌に撤回を申請するとともに、近く関係者を処分することにしています。京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長らは記者会見を開き、所属する山水康平助教が中心となって、去年2月に発表した論文に不正があったと発表しました。論文は、ヒトのiPS細胞から脳の血管にある「血液脳関門」という組織を作ることに成功したという内容で、主要な6つの図のすべてと補足データの5つの図の合わせて11の図にねつ造や改ざんが認められたということです。改ざんやねつ造は、論文の結論に合わせて操作されていて、大学ではデータの解析や図の作成を行った山水助教が不正をしたと認定しました。助教は「私がやりました。論文の見栄えをよくしたかった」と話しているということです。”
  11. 京大iPS研助教らの論文で捏造・改ざん発表 (日本経済新聞 2018/1/22 17:37):”京都大学は22日、iPS細胞研究所の山水康平特定拠点助教らの論文について捏造(ねつぞう)と改ざんの不正があったと発表した。研究所に保存していた実験データから成果の根拠となるグラフを再現できず、調査を進めていた。”

 

参考

  1. 研究活動上の不正行為に係る調査結果について(京都大学 2018年1月22日)

  2. 京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)増殖分化機構研究部門(山下 潤 教授)
  3. iPS細胞から血液脳関門モデルの作製に成功  (京都大学 研究成果 2017年02月27日):”山水康平 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)特定拠点助教、山下潤 同教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞から血液脳関門(物質が血中から脳内へ入るのを制限している脳毛細血管)のモデルを作製することに初めて成功しました。今後、このモデルを用いることで、血液脳関門の機能やアルツハイマー病などの神経変性疾患と脳血管の関連についてのさらなる理解や薬の開発に役立つことが期待されます。 本研究成果は、2017年2月24日午前2時に米国の科学誌「Stem Cell Reports」でオンライン公開されました。”
  4. 「(ノートを)出さない人は不正をしているとみなします」

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