日本の科学と技術

平成29年度 卓越研究員ポストが公開される

平成29年度 卓越研究員を受け入れる大学、研究所、企業が提示したポストのリストが公開されました。日本全国の国公立大学、私立大学のほか、日立製作所、出光興産、パナソニック、住友電気工業、富士通、日本電気、キリン、日本電子、第一三共、ソニーコンピュータサイエンス、その他の企業が受け入れを表明しています。ジョブタイトルは、助教、講師、准教授、教授、グループリーダー、主任研究員、その他となっており、エクセルファイルの一覧を見ると全部で204件あります。

エクセルファイル、分野別PDFで閲覧可能 ⇒ 平成29年度 卓越研究員事業 公開ポスト一覧 (日本学術振興会)

JREC-INのサイトでも、卓越研究員の求人を検索できます。⇒ JREC-IN(検索:「卓越研究員」

 

卓越研究員の年齢制限について

卓越研究員事業の英語名はLeading Initiative for Excellent Young Researchers(LEADER)で、「若手」対象であることが明言されており、実際、卓越研究員応募条件には平成30年4月1日の時点で40歳未満であることという年齢制限があります。2012年のデータですが、ポスドク14171人のうち40歳以上は16.4%(2324人の計算)、35歳以上と合わせれば37.2%(5272人の計算)にもなります。それから5年近く経ちポスドク高齢化が一層進んでいること、ポスドクとは別に、任期付き助教も相当数存在することを考えると、年齢がネックで卓越研究員に応募すらできない人は、かなりの数にのぼりそうです。

平成28 年度からの5年間の科学技術政策の方向性を定める第5期科学技術基本計画においては、「40 歳未満の大学本務教員の数を1割増加」、「我が国の企業、大学、公的研究機関のセクター間の研究者移動数を2割増加」させることが目標値として掲げられています。本事業においては、この2つの目標値の達成にも資するため、新たな研究領域に挑戦するような若手研究者が安定かつ自立して研究を推進できるような環境を実現するとともに、全国の産学官の研究機関をフィールドとして活躍し得る若手研究者の新たなキャリアパスを提示することを目指しています。(Q 卓越研究員事業の狙いは何か。)

Q 「②平成30 年4月1日現在、40 歳未満(ただし、臨床研修を課された医学系分野においては43 歳未満)の者」とあるが、例えば、病気休暇等で研究を中断した場合など、個別の事情がある場合、例外的に申請することはできるのか。
A 申請者(研究者)の要件について、出産又は育児により、子供1人につき、合計3カ月以上の間、研究を中断した場合を除き、個別の事情を考慮せず、一律に判断させていただきます

Q 「②平成30 年4月1日現在、40 歳未満(ただし、臨床研修を課された医学系分野においては43 歳未満)の者」とあるが、雇用対策法との関係はどうなるのか。
A 雇用対策法の改正により、平成19 年10 月1日から、労働者の募集及び採用に当たって、年齢の制限を設けることができなくなっています(雇用対策法第10 条)。一方、本事業は、若手研究者の安定的な雇用の促進を目的とする国の施策であることから、雇用対策法施行規則第1条の3第1項第3号ニに該当するため、雇用対策法第10条の適用除外となります。平成29年度卓越研究員事業公募に係るQ&A 平成29年2月6日 文部科学省 科学技術・学術政策局

 

中でも深刻なのは発展著しい生命科学の分野で、日本分子生物学会の最新のアンケート調査(2015年、会員のみ対象)では、ポスドクの59%が35歳以上となっている。(ポスドク問題と人材の流動化―日本のサイエンスを救うために―サイエンスポータル 2016年12月6日)

 

近藤:20年前に大学院の重点化を進めたことで、現在40歳前後のPDがたくさんおり、非常に厳しい就職難になっています。この年齢層に対する何らかのケアは可能でしょうか?
生田:難しいと思います。財政当局の視点からすると、その年齢層の研究者に対して、大学院重点化を通じて高額の投資を したという解釈になっており、その人達をケアするための別途の予算措置は理解を得られないのではないでしょうか。本来であれば、産業界が、その人材を吸収 するはずだったのですが、産業界と大学とのミスコミュニケーション、さらには90年代からの不況がそれを不可能にしたのではないでしょうか?日本の科学を考える ガチ議論 2015.10.24)(当ウェブサイトの記事:新たに創設される「卓越研究員」制度(2016年公募開始)は、博士研究員(ポスドク)や任期付大学教員の雇用不安の改善に貢献できるのか?)

平成28年度の卓越研究員について

卓越研究員候補者リスト 開始初年度(平成28年度)は、849名の申請者(研究者)の内176名が卓越研究員候補者として認定されましたが、各研究機関との雇用調整が完了し、安定した研究環境を得た卓越研究員は83名に留まりました(平成28年10月末現在、下記のサイトより引用)。残りの93名については、今もなお来年度以降の職を得るために雇用調整を続けている状態ですが、未だ状況は不透明です。文部科学省発表によれば、平成29年度にも再度新たな形で各研究機関からポストを募り、雇用調整を行う事が可能とされています。しかし、卓越研究員候補者達が一体どのような研究を行っているのか、どのような人物達なのかについての一般向けの情報提供が行われていないため、各研究機関側としてもポストを提供するための検討材料に乏しいのが現実です。そのため、我々卓越研究員候補者リスト 発起人一同は、研究分野の垣根を越えて協議しながら、まずは卓越研究員候補者自身の氏名・採択課題名等をリスト化して一般公表する事に致しました。

参考

  1. 平成29年度卓越研究員事業の公募説明会(申請者(若手研究者)向け) (日本学術振興会)日時:平成29年3月29日(水)  13:00~14:00 場所:一橋大学 一橋講堂(東京都千代田区) 平成29年度の本事業において、一覧化公開されたポストを提示した研究機関により、個別のポスト等について説明
  2. 平成29年度科学技術人材育成費補助事業「卓越研究員事業」公募説明会(申請者(若手研究者)向け)の開催について(文部科学省 お知らせ平成29年3月6日)日時:平成29年3月29日(水曜日)13時00分~14時00分 説明会終了後、平成29年度の本事業において一覧化公開されたポストを提示した研究機関により、個別のポスト等について説明する場を設けます。場所:一橋大学一橋講堂(東京都千代田区)
  3. 卓越研究員事業(Leading Initiative for Excellent Young Researchers(LEADER) ) 文部科学省 お知らせ 平成29年3月6日  平成29年度卓越研究員事業ポストの一覧化公開について、掲載しました。
  4.  

報道

  1. 文科省の若手研究者仲介、JFEなど21社が名乗り(日本経済新聞 電子版2017/3/5 23:34):”文部科学省が2016年度から始めた若手研究者を企業や大学に仲介する「卓越研究員」制度で、17年度の受け入れ先に住友電気工業やJFEスチール、パナソニックなど21社が名乗りを上げたことがわかった。大学や公的研究機関を合わせると72機関、約200人の求人となる。”

ネットの反応(TWITTER)

  1. 今年度も年齢制限が明記されているシニアポスドク排除の公募「卓越研究員制度」が始まった。年齢制限ふざけるな。(@tetsujister 20:37 – 2017年3月7日)
  2. 卓越研究員事業の募集を見ると、非卓越研究員の人々は絶望する気がする( ・ิϖ・ิ)この事業は、非卓越研究員のヤル気を削ぎ落とす、気がする。(@y2o1012 19:29 – 2017年3月6日)
  3. 卓越研究員。去年も思ったけど、なんで年齢制限するんだろ。若手救済の意味はわかるけど、老齢ポスドクは競争に参加することも許されないわけ?(@sato_dehanai 17:28 – 2017年3月6日)
  4. 40過ぎてもテニュアにつけないヤツなんかどうなろうと知るかって感じ?今の30前半の若手を実際に指導したのは、この世代なんだけどね。ポスドク増、任期制増、テニュアポスト減の中、研究も雑用も学生の面倒もって頑張ったのに報われない人たちいるよね。。(@sato_dehanai 17:35 – 2017年3月6日)
  5. 卓越研究員オーバーエイジ枠(@ritzberry15:35 – 2017年3月6日)
  6. 春の季語 卓越研究員募集 (@detsup 3月6日)

ポスドク問題

  1. ポスドク問題と人材の流動化―日本のサイエンスを救うために―(サイエンスポータル 掲載日:2016年12月6日 東京大学分子細胞生物学研究所教授(生物科学学会連合・ポスドク問題検討委員会委員長) 小林武彦 氏):”… ところがこの状況が一変するのは、まさにその頃から始まった大学院重点化政策、つまり大学院生を増やす政策である。1997年には大学院博士課程の修了者数が9,860人、2013年には16,446人と急激に増加した(図1)。…2000年代に入ると目標の1万人をはるかに上回り、2007年には17,945人、それから若干減少したものの2012年の調査でも依然16,000人をこえるポスドクがいる(図2)。…2013年の調査では37.1%(約6千人)が35歳以上の「シニアポスドク」となっている。中でも深刻なのは発展著しい生命科学の分野で、日本分子生物学会の最新のアンケート調査(2015年、会員のみ対象)では、ポスドクの59%が35歳以上となっている。”
  2. 生物科学学会連合 生科連からの<重要なお願い> 平成27 年4 月(第二版)(PDF) 生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い 今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください。平成27 年4 月(第二版) 生物科学学会連合 ポスドク問題検討委員会
  3. 国立大学で若手研究者が減少、「40代でも先見えないのが普通」の声 (THE PAGE 2016.10.27 12:08):”40歳代になっても任期付き教員の職すら得られず、かといって年齢もあり民間企業へも行けない、そういった人たちが増えているという。博士課程に進む後輩も減っているという。「出身研究室(トップ層国立大)では、学部からの内部進学が減り、中堅私大からの進学が増えている。トップの学生は研究の道へ入るのを避け始めているのかも」と憂う。”
  4. 悪化する研究環境とポスドク若手研究者の無権利 月刊誌『KOKKO』2015年11月号(第3号)座談会:”研究環境が悪化し続けていて希望が見えない、光が見えてこないというのが正直なところで、現場の研究者や職員の心が荒んできているのではないかと心配に思いました。アンケートの中で、精神的な不安を訴える方も多いですし、うつ病が増えている状況もあります。非正規雇用の研究者や職員を使い捨てる研究現場で、人間として尊厳が破壊されるような現状が広がっているので、医者としてものすごく心配です。”
  5. ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2015年度実績)の実施について 科学技術・学術政策研究所 2016年11月11日 「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査(2015年度実績)」は、平成27年度内(平成27年4月1日~平成28年3月31日)に、日本の大学、研究開発を行っている独立行政法人、公的研究機関で研究活動に従事しているポストドクター等の雇用状況およびその後の進路(平成28年4月1日時点)を調査いたします。提出期限 平成29年1月20日(金)
  6. 「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査 -大学・公的研究機関への全数調査(2012年度実績)-」 調査資料-232の結果公表について 科学技術・学術政策研究所 2014年12月22日 

科学政策

  1. 2016.5.10内閣委「特定国立研究開発法人促進特措法案」理研のSTAP細胞不正事件の総括、まだですよね?! (参議院議員 山本太郎 国会活動 2016年05月11日)”… そうなんですよね、40歳ぐらいの方々、40歳未満の方々ということですよね。手を差し伸べられやすい状況が若手の中にはあるんですけれども、全体の37.1%を占める35歳以上のシニアポスドクと言われる方々がかなり厳しい状況に置かれていると。大学の博士課程修了の任期付き研究者、いわゆるポスドク、シニアポスドク問題について少し触れさせてください。…さらに、シニアポスドク、より年上の人たちになると次のポジションを見付けにくい。正規のような昇級、昇進なども少ないため自身の将来像が見えない。特に熟練した研究者であるシニアポスドクに対する雇用の促進、健全な研究者社会を維持するためには急務だとこの方々がおっしゃっている。…要は、この方々に対する手厚いといいますか、高給じゃなくてもいい、でも安定した先が見通せるような働き方が提案されなければ非常に厳しいと思うんですよ。日本の科学というものは終わってしまうかもしれない。そこを何とか大臣に検討していただきたいんですけど、いかがでしょうか。
    国務大臣(島尻安伊子君) おっしゃるとおり、やはり若手研究者をどう育てていくかというのは、将来の科学技術の発展にもうこれは欠かせないところでございますので、そこもしっかり対応させていただきたいと思います。
  2. 安倍政権「一億総活躍」の意味が、ようやく分かった ~なるほど、進次郎に逃げられたのも納得 (鈴木哲夫 現代ビジネス 2015.11.05):”安倍政権にも通じている経産省OBが、「一億総活躍社会」という第三次安倍改造内閣のキャッチフレーズについてこんな説明をしてくれた。「発足以来の安倍政権を船に見立てれば、いまの内閣の問題がよく分かります。船長も船員スタッフも同じ、向かっている方向も同じ、船の大きさも同じ、スピードも同じ。ただ、船の名前や外側の色を変えているだけです。船長は安倍首相、スタッフは経産省を中心にした側近たち。方向は長期政権維持や憲法改正、財界と連携した経済政策など。船の名前はこの前までは統一地方選挙を見据えた『地方創生号』でしたが、今は参院選へ向かって『一億総活躍社会号』と名前を変えただけです」…事実、10月19日には加藤勝信・一億総活躍担当相と、石破茂・地方創生担当相との間で初の政策のすり合わせが行われたが「そこで行われたのは、新しいものを考え出すのではなく、これまでにある地方創生政策のどれを一億総活躍に移動させどれを残すか、といったすみ分けに過ぎなかった」(自民党政調幹部)という。…「中身がないないとあなたは言うが、そもそもそれは当然、まったく不思議じゃない。だってこの一億総活躍社会は、官邸が『政策』ではなく、『国民運動』として考えたみたいだからね」”
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