黄禹錫(ファン・ウソク)博士は、体細胞由来のヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作製することに成功したとして、2004年と2005年にサイエンス誌に論文を出しました。
Woo Suk Hwang et al., Evidence of a Pluripotent Human Embryonic Stem Cell Line Derived from a Cloned Blastocyst. Science 12 Mar 2004:Vol. 303, Issue 5664, pp. 1669-1674 DOI: 10.1126/science.1094515
Woo Suk Hwang et al., Patient-Specific Embryonic Stem Cells Derived from Human SCNT Blastocysts. Science 17 Jun 2005:Vol. 308, Issue 5729, pp. 1777-1783 DOI: 10.1126/science.1112286
しかし、それらの論文はデータ捏造によるものであったことがわかり、サイエンス誌編集部により撤回され、韓国で有罪判決を受け研究の世界から追われました。
博士はソウル大学を追われ、政府から与えられた名誉はすべて剥奪された。研究費詐取や生命倫理法違反の疑いで起訴もされた(今年2月に最高裁で懲役1年6ヶ月、執行猶予2年の判決が確定)。 そんな博士を救ったのは、支援者たちだった。06年7月に350万ドル相当の基金を集めて「スワム生命工学研究財団」を作ったのである。スワムとは、黄博士の愛称だという。(クローンES細胞論文を捏造した黄禹錫博士の「復活」webronza.asahi.com 2014年09月08日 高橋真理子)
黄禹錫(ファン・ウソク)氏(元ソウル大学獣医学部教授)は06年、ソウル大学から解任された後、同年7月、自分を慕った約20人の研究員とスアム生命工学研究院を設立した。ソウル九老洞(クロドン)のある建物に研究室を設け、研究を進めたものの、住民抗議が殺到し、廃業に追い込まれるなど、最初はなかなか定着できなかった。(黄禹錫氏、外部と接触せずに研究活動…これまでどんなことが?東亜日報 October. 27, 2009)
ヒトES細胞の研究ができなくなった黄博士は、クローン動物の研究を続け、愛犬クローン作製ビジネスを成功させました。愛犬クローン作製の価格は10万ドル(約1,000万円)もしますが、希望者は多いといいます。
The science behind dog cloning
黄博士のクローン動物事業は拡大、発展を遂げ、科学者として再び脚光を浴びるに至っています。
「クローン牛、年100万頭生産プロジェクト」は、黄禹錫(ファン・ウソク)博士にとっても新しい挑戦だ。(韓国人博士の黄禹錫「世界初の商業用クローン牛を作る」中央日報日本語版 2015年11月25日)
成功を収めている愛犬クローン事業ですが、黄博士にとってビジネスでの成功は目的ではないそうです。
スアム研究院はクローン犬事業を通じて今年100億ウォン(約10億7600万円)程度の売り上げを予想している。しかし、儲けるために犬のクローニングをするのではないと明らかに一線を画した。非営利機関として他のプロジェクトを遂行するための研究資金づくりのための手段に過ぎないというのだ。…黄博士は最後に「人間生命の延長と価値ある人生のために意味あるレンガを積みたい。自分のせいで崩れたところにレンガを改めて積む心情で生きている」とし「2006年以後、『逆境と苦痛がない人生は生きている価値がない』という文を毎日午前に読みながら自分自身に『まだ終わっていない』と言い聞かせている」と話した。(韓国、「世界初の産業用クローン犬を生産…仏英からも技術研修に来る」 中央日報日本語版 2015年03月11日)
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参考
クローン作製の夢
- 「バイオの悪童」は、クローンマンモスを実現できるか (WIRED 2015.04.27 BY NICK STOCKTON):”マンモスのクローン作成を夢見る科学者がいる。遺伝学界の悪童、黄禹錫(ファン・ウソク)だ。”
クローンビジネスの展開
- 世界最大のクローン動物工場、中国・天津にオープン予定 (WIRED 2016.01.20 BY SANDRO IANNACCONE):”2016年上半期中に、中国の天津に世界最大のクローン動物作製センターがオープンする。肉用牛や警察犬、競走馬を「取り扱う」予定だという。”
- 本当に大丈夫? 中国の動物クローン工場建設 ES細胞捏造の韓国教授とタッグで不安倍増(産経ニュース 2015.12.6):”中韓共同による世界最大の動物クローン工場建設計画が、物議を醸している。”
スワム生命工学研究財団の愛犬クローンビジネス
- 1千万円で愛犬「復活」 韓国研究所の“クローンビジネス” (YAHOO!JAPAN ニュース 2017年 1/12):”亡くなった愛犬がもう一度、自分の元に戻ってきたら? 何もかもそっくりなペットをもう1匹、そばに置くことができたら? クローン技術によってそれを実現させてくれる施設が韓国・ソウルにあるという。”
- 永遠に愛犬と共に?韓国のクローン研究所 (AFP BB NEWS 2016年07月13日):”韓国の首都ソウル(Seoul)西部でフェンスに囲まれた芝生の上を駆け回っている子犬たち。1匹の値段は10万ドル(約1000万円)もするが、少なくとも買い手たちはその価値をよく分かっている。 その芝生はペットクローン技術で世界をけん引するスアム生命工学研究院(Sooam Biotech Research Foundation)にある。同研究院は過去10年間、文字通り永遠に愛犬と暮らし続けたいと願う人々を相手にビジネスを行い、商業的な成功を収めてきた。”
- あなたの愛犬を1070万円でもう1匹-世界初のクローン工場 (Bloomberg 2014年10月23日 By Jessica Dean):”黄博士は今、中国・山東省の威 海市に8日間の突貫工事で建設した仮施設で最終チェックをしている。 ここで数時間内に、中国で初のクローン犬の出産が行われる。”
スワム生命工学研究財団の作製したクローン動物
- クローン警察犬2匹、サハ共和国の内務省に採用予定 ロシアの警察と保安局は、爆発物や麻薬の捜査においてクローン犬を実験的に使用する予定。(jp.sputniknews.com 2016年12月13日):”3匹のベルジアン・シェパードは、韓国の生物学者、黄禹錫教授がクローン技術を用いて作成された。1匹当たりおよそ1,000万円の価格が付けられているが、今回は人が住む地域としては世界で最も寒いとされるロシア連邦のサハ共和国の警察と公安局にプレゼントされたという。”
- コヨーテ複製に成功した黄禹錫氏「マンモスの復活が目標」(東亜日報 October. 18, 2011 ):”黄禹錫(ファン・ウソク)博士の研究チームが、コヨーテの体細胞をイヌの卵子に移植する体細胞核移植の技術で、コヨーテのクローンに成功した。”
- 「地に堕ちた英雄」、論文ねつ造の黄氏がコヨーテのクローン作製に成功 (AFP BB NEWS 2011年10月18日):”胚性幹細胞(ES細胞)に関する研究論文のねつ造などで有罪判決を受けた韓国の黄禹錫(ファン・ウソク、Hwang Woo-Suk)元ソウル大教授が17日、コヨーテのクローン8頭の作製に成功したことを明らかにした。”
- 黄禹錫博士チーム、チベタン・マスティフ17匹を複製 (中央日報日本語版 2008年06月18日):”スアム生命工学研究院は黄禹錫(ファン・ウソク)博士が中国の絶滅危惧種で、一般に獅子犬と呼ばれているチベタン・マスティフ17匹のクローニングに成功したと17日、発表した。 “
特許取得
- 黄禹錫氏のES細胞 韓国で週内にも正式登録 (聯合 ニュース 2016/11/15):”疾病管理本部は、黄氏側がNT―1を体細胞クローン技術によるES細胞として登録するよう求めて提出した関連資料を、専門家でつくる検証委員会で検討した結果、体細胞クローン技術で樹立されたES細胞株と見なす科学的な根拠はないと判断した。ただ、単為発生のヒトES細胞であるのは確かだとして、登録することにした。”
- 黄禹錫元教授が米国で特許登録「研究再開させてくれれば…」(中央日報日本語版 2014年02月12日):”黄禹錫(ファン・ウソク)元ソウル大学獣医学部教授が作ったNT-1幹細胞株(1番幹細胞株)が11日に米国で特許登録された。”
捏造事件に関する報道
- ソウル高裁、“幹細胞論文ねつ造”黄禹錫ソウル大教授の罷免は不当(中央日報日本語版 2011年11月04日):”‘幹細胞論文ねつ造’事件で06年に罷免された黄禹錫(ファン・ウソク)元ソウル大獣医科大学大学院教授(59)が罷免取り消し訴訟の控訴審で勝訴した。”
- 黄教授宅など26カ所を押収捜索 (東亜日報 January. 13, 2006):”黄禹錫(ファン・ウソク)ソウル大名誉教授が12日、押収捜索のためソウル市江南区論硯洞(カンナムグ・ノンヒョンドン)の自宅を訪れたソウル中央地検捜査官に、門を開けている。”
- 黄禹錫教授「論文の捏造、ミズメディが主導」(innolife.net2006/01/12):”黄教授は「チームワークと信頼を土台に、ミズメディの言葉をすべて信じた。2004年に成立された1回目のES細胞はパク・チョンヒョク研究員が、2005年の2・3回目のES細胞はキム・ソンジョン研究員が研究、報告した」とミズメディが操作に関与したことを主張した。”
- <2005年を反省します>真実知らぬまま「黄禹錫神話」作り(中央日報日本語版 2005年12月30日):” 「黄禹錫(ファン・ウソク)教授論文疑惑」から多くのことを自省させられます。マスコミも被害者だとは弁解しません。 2つの点を深く反省しています。第一に「黄禹錫神話」を作ることに加担した責任です。…2つ目は黄教授論文をめぐる論争が起こったとき、読者の皆さんを混乱させてしまった責任です。 “
- <ES細胞論文ねつ造の波紋>「ねつ造」どうして可能だったか(中央日報日本語版 2005年12月26日):”論文ねつ造の共謀の疑いを受けている人はピッツバーグ大に派遣されていたキム・ソンジョン研究員、黄教授チーム員であるソウル大獣医学部姜成根(カン・ソングン)教授と数人の研究員だ。 キム研究員は17日、ピッツバーグで行った記者会見で「黄教授の指示で幹細胞写真2個を11個に増やし、姜成根教授もその事実を知っている」と述べた。”