日本の科学と技術

存在しないマウスを解析した不思議な阪大論文

2004年に阪大から出たNature Medicineの論文でビックリ仰天なのは、「脂肪細胞異的PTENノックアウトマウス」を作製し、その解析を行ったと言いつつ肝心の遺伝子改変マウスが存在すらしていなかったということです。

アカデミックなポストに就くことも、研究費を獲得することも非常に熾烈な競争を強いられます。これほど悪質な不正行為を働いても普通に研究を続けられるというのであれば、研究者間の公平な競争が妨げられ、日本の研究レベルが下がるだけでしょう。「これでクビにならないのなら、データ捏造しない研究者の方が頭がおかしいのか!?」と錯覚してしまいそうなくらいにたまげた話です。

論文の撤回など普通の研究者なら一生に一度も無いのが普通ですが、捏造論文を一度出したラボは面白いことに何度でも同じようなことを繰り返す傾向があります。このラボからも、2004年のnature medicineに続いて、2005年にはサイエンス誌にVisfatin: a protein secreted by visceral fat that mimics the effects of insulin.という論文が発表され(Science 307(5708):426-30)、その後撤回されています。撤回の事情はというと、

『大阪大学医学系研究科は14日教授会を開き、同研究科の下村伊一郎教授らが、肥満と糖尿病に関する研究で04年に米科学誌に発表した論文を取り下げるよう、本人に通知した。捏造(ねつぞう)、改ざん、盗用などの証拠は認められなかったが、実験がずさんで不備があり、不正の疑いがあると判断した。』(asahi.com 2007年06月14日 日々是好日

のだそうです。

存在しないマウスを解析したという不思議な論文:

Nature Medicine 10, 1208 – 1215 (2004)
Published online: 17 October 2004 | doi:10.1038/nm1117There is a Retraction (June 2005) associated with this Article.

Enhanced insulin sensitivity, energy expenditure and thermogenesis in adipose-specific Pten suppression in mice

Nobuyasu Komazawa1, Morihiro Matsuda2, Gen Kondoh1, Wataru Mizunoya3, Masanori Iwaki2, Toshiyuki Takagi2, Yasuyuki Sumikawa4, Kazuo Inoue3, Akira Suzuki5, Tak Wah Mak6, Toru Nakano7, Tohru Fushiki3, Junji Takeda1,8 & Iichiro Shimomura2,9,10

Abstract

Pten is an important phosphatase, suppressing the phosphatidylinositol-3 kinase/Akt pathway. Here, we generated adipose-specific Pten-deficient (AdipoPten-KO) mice, using newly generated Acdc promoter–driven Cre transgenic mice. AdipoPten-KO mice showed lower body and adipose tissue weights despite hyperphagia and enhanced insulin sensitivity with induced phosphorylation of Akt in adipose tissue. AdipoPten-KO mice also showed marked hyperthermia and increased energy expenditure with induced mitochondriagenesis in adipose tissue, associated with marked reduction of p53, inactivation of Rb, phosphorylation of cyclic AMP response element binding protein (CREB) and increased expression of Ppargc1a, the gene that encodes peroxisome proliferative activated receptor gamma coactivator 1 alpha. Physiologically, adipose Pten mRNA decreased with exposure to cold and increased with obesity, which were linked to the mRNA alterations of mitochondriagenesis. Our results suggest that altered expression of adipose Pten could regulate insulin sensitivity and energy expenditure. Suppression of adipose Pten may become a beneficial strategy to treat type 2 diabetes and obesity.

参考

  1. これだけの大々的な捏造論文を出して、この程度での軽い処分なら、今後捏造者がまず減ることはないだろうと思います。捏造論文に甘い大阪大学(生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ2006年 02月 16日)
  2. 「下村教授の責任は重い。その理由は、責任著者であるということだけではない。…この論文が正しいと世の中で通ればその果実の大半は下村教授が受け取っていたはずだからである。間違っていたから知りませんでは通らない。いわんや被害者のような態度を取ってはいけない。」阪大医下村グループ等捏造論文事件について On scientific fraud (生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ 2005年 05月 31日)
  3. (論文の捏造データに関して)「わたくしは、科学の世界における最悪の行為とみなしてます。」阪大での捏造論文について(続き) Scienfic fraud 2 (生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ 2005年 05月 31日)
Exit mobile version