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* * *
東京大学の医学系の研究室がこれまでに発表してきた数多くの論文のデータにきわめて不自然な点があることを告発する匿名の文書(2016年8月14日付)が、文科省や東京大学に対して届けられました。東京大学は8月22日付けでこの告発を受理し直ちに予備調査に入りました。予備調査は原則として30日以内に結論を出すことが規定されています。
一例を挙げると、データのばらつきが少なく見えるように、エラーバーを棒グラフの中に押し込んで隠してしまったようなデータ改竄の可能性が指摘されています。
Nature 2013 Nov 28;503(7477):493-9 Fig.5d (nature.com 原図) (告発文書 http://xfs.jp/ に掲載された図を、スペースを省くために一部改変)
告発対象となっている11論文は、以下の通り。
Contents
門脇 孝 教授の研究室から発表された論文
(東京大学医学部付属病院 糖尿病・代謝内科 門脇研究室ウェブサイト)
- Yamauchi T, Kamon J, Ito Y, Tsuchida A, Yokomizo T, Kita S, Sugiyama T, Miyagishi M, Hara K, Tsunoda M, Murakami K, Ohteki T, Uchida S, Takekawa S, Waki H, Tsuno NH, Shibata Y, Terauchi Y, Froguel P, Tobe K, Koyasu S, Taira K, Kitamura T, Shimizu T, Nagai R, Kadowaki T. Cloning of adiponectin receptors that mediate antidiabetic metabolic effects. Nature 2003 Jun 12;423(6941):762-9.
- Yamauchi T, Nio Y, Maki T, Kobayashi M, Takazawa T, Iwabu M, Okada-Iwabu M, Kawamoto S, Kubota N, Kubota T, Ito Y, Kamon J, Tsuchida A, Kumagai K, Kozono H, Hada Y, Ogata H, Tokuyama K, Tsunoda M, Ide T, Murakami K, Awazawa M, Takamoto I, Froguel P, Hara K, Tobe K, Nagai R, Ueki K, Kadowaki T. Targeted disruption of AdipoR1 and AdipoR2 causes abrogation of adiponectin binding and metabolic actions. Nat Med. 2007 Mar;13(3):332-9. Epub 2007 Feb 1.
- Okamoto M, Ohara-Imaizumi M, Kubota N, Hashimoto S, Eto K, Kanno T, Kubota T, Wakui M, Nagai R, Noda M, Nagamatsu S, Kadowaki T. Adiponectin induces insulin secretion in vitro and in vivo at a low glucose concentration. Diabetologia 2008 May;51(5):827-35. doi: 10.1007/s00125-008-0944-9. Epub 2008 Mar 28.
- Iwabu M, Yamauchi T, Okada-Iwabu M, Sato K, Nakagawa T, Funata M, Yamaguchi M, Namiki S, Nakayama R, Tabata M, Ogata H, Kubota N, Takamoto I, Hayashi YK, Yamauchi N, Waki H, Fukayama M, Nishino I, Tokuyama K, Ueki K, Oike Y, Ishii S, Hirose K, Shimizu T, Touhara K, Kadowaki T. Adiponectin and AdipoR1 regulate PGC-1alpha and mitochondria by Ca(2+) and AMPK/SIRT1. Nature 2010 Apr 29;464(7293):1313-9. doi: 10.1038/nature08991. Epub 2010 Mar 31.
- Awazawa M, Ueki K, Inabe K, Yamauchi T, Kubota N, Kaneko K, Kobayashi M, Iwane A, Sasako T, Okazaki Y, Ohsugi M, Takamoto I, Yamashita S, Asahara H, Akira S, Kasuga M, Kadowaki T. Adiponectin enhances insulin sensitivity by increasing hepatic IRS-2 expression via a macrophage-derived IL-6-dependent pathway. Cell Metab. 2011 Apr 6;13(4):401-12. doi: 10.1016/j.cmet.2011.02.010.
- (著者の説明) “指摘された論文の一つは私が筆頭著者です(Cell Metab 2011)。元データも存在しますし、いつでも提出できます。 Fig2bでコントロールのグレーのバーがX軸から離れている、との指摘ですが、手作業でエクセルを図表に直した時に生じたズレです。”(東大医学部の研究不正 医療ガバナンス研究所理事長のブログ 2016年9月2日 コメント 4:32 PM2016年9月2日)
- Shojima N, Hara K, Fujita H, Horikoshi M, Takahashi N, Takamoto I, Ohsugi M, Aburatani H, Noda M, Kubota N, Yamauchi T, Ueki K, Kadowaki T. Depletion of homeodomain-interacting protein kinase 3 impairs insulin secretion and glucose tolerance in mice. Diabetologia 2012 Dec;55(12):3318-30. doi: 10.1007/s00125-012-2711-1. Epub 2012 Sep 16.
- Okada-Iwabu M, Yamauchi T, Iwabu M, Honma T, Hamagami K, Matsuda K, Yamaguchi M, Tanabe H, Kimura-Someya T, Shirouzu M, Ogata H, Tokuyama K, Ueki K, Nagano T, Tanaka A, Yokoyama S, Kadowaki T. A small-molecule AdipoR agonist for type 2 diabetes and short life in obesity. Nature 2013 Nov 28;503(7477):493-9. doi: 10.1038/nature12656. Epub 2013 Oct 30. (著者らによる日本語での解説 ライフサイエンス 新着論文レビュー)
藤田 敏郎 教授の研究室から発表された論文
(東京大学・先端科学技術研究センター 臨床エピジェネティクス講座 藤田研究室ウェブサイト)
- ShengYu Mu, Tatsuo Shimosawa, Sayoko Ogura, Hong Wang, Yuzaburo Uetake, Fumiko Kawakami-Mori, Takeshi Marumo, Yutaka Yatomi, David S Geller, Hirotoshi Tanaka & Toshiro Fujita. Epigenetic modulation of the renal β-adrenergic–WNK4 pathway in salt-sensitive hypertension. Nature Medicine 17, 573–580 (2011) doi:10.1038/nm.2337
辻 省次 教授の研究室から発表された論文
- Mitsui J, Matsukawa T, Ishiura H, Fukuda Y, Ichikawa Y, Date H, Ahsan B, Nakahara Y, Momose Y, Takahashi Y, Iwata A, Goto J, Yamamoto Y, Komata M, Shirahige K, Hara K, Kakita A, Yamada M, Takahashi H, Onodera O, Nishizawa M, Takashima H, Kuwano R, Watanabe H, Ito M, Sobue G, Soma H, Yabe I, Sasaki H, Aoki M, Ishikawa K, Mizusawa H, Kanai K, Hattori T, Kuwabara S, Arai K, Koyano S, Kuroiwa Y, Hasegawa K, Yuasa T, Yasui K, Nakashima K, Ito H, Izumi Y, Kaji R, Kato T, Kusunoki S, Osaki Y, Horiuchi M, Kondo T, Murayama S, Hattori N, Yamamoto M, Murata M, Satake W, Toda T, Dürr A, Brice A, Filla A, Klockgether T, Wüllner U, Nicholson G, Gilman S, Shults CW, Tanner CM, Kukull WA, Lee VM, Masliah E, Low PA, Sandroni P, Trojanowski JQ, Ozelius L, Foroud T, Tsuji S. Mutations in COQ2 in familial and sporadic multiple-system atrophy. N Engl J Med. 2013 Jul 18;369(3):233-44. doi: 10.1056/NEJMoa1212115. Epub 2013 Jun 12.
高柳 広 教授の研究室から発表された論文
(東京大学大学院医学系研究科 免疫学 高柳研究室ウェブサイト)
- Komatsu N, Okamoto K, Sawa S, Nakashima T, Oh-hora M, Kodama T, Tanaka S, Bluestone JA, Takayanagi H. Pathogenic conversion of Foxp3+ T cells into TH17 cells in autoimmune arthritis. Nat Med. 2014 Jan;20(1):62-8. doi: 10.1038/nm.3432. Epub 2013 Dec 22. (著者らによる日本語での解説 ライフサイエンス 新着論文レビュー)
- Takaba H, Morishita Y, Tomofuji Y, Danks L, Nitta T, Komatsu N, Kodama T, Takayanagi H. Fezf2 Orchestrates a Thymic Program of Self-Antigen Expression for Immune Tolerance. Cell 2015 Nov 5;163(4):975-87. doi: 10.1016/j.cell.2015.10.013.
”我々自身も研究者であり,他者の論文の不正を検証するような行為は不毛であると当初は考えていた.しかし,常習性,頻度,公正性,論文の与える影響の深刻さ等を鑑みれば,もはや看過すべきではないという結論に至った.ここで告発するのは,発見したもののごく一部に過ぎないことも申し添えておく.”(はじめに Ordinary_researchersの告発文書 http://ow.ly/d/5cvq より)
”もちろん、我々が行ったこれらの確認作業は,論文著者の関知できないところで図形の変形が起きる可能性を完全に否定するものではない.いずれにせよ,生データと照らし合わせれば,すべての疑問は氷解するはずである.
東京大学には直ちに正式な調査をお願いしたい.あらぬ疑いをかけられている研究室の潔白を証明する良い機会になるか,それとも膿を出すことになるか,どちらにしても東京大学にとってのみならず,日本の生命科学研究にとって良い方向へと進むきっかけになるはずである.
きわめて遺憾なことに,東京大学がかかる告発を有耶無耶にするよう扱ったり,隠蔽しようとしたりする,あるいは告発者に何らかの圧力をかけようとするなどといった話も耳にする.我々が匿名にしたのも,最後の話があるためである.この告発をもとにした調査を粛々と実施するという行動を以って,こうした風聞がただの下らない噂であることを示してもらいたい.”(さいごに Ordinary_researchersの告発文書 http://ow.ly/d/5cvq より)
告発文書(ダウンロードサイト)
- ”はじめに 近年,論文捏造事件が大きな社会問題となっている.言うまでもなく,科学論文においてはデータが真正であることが絶対条件となる.… ” (12ページ PDF) http://ow.ly/d/5cvq (上昌広氏がツイッターで共有しているダウンロードサイトへのリンク)
- ”研究資金リスト”(5ページ PDF) http://ow.ly/d/5cvr
- データの不自然さの指摘 (52ページ PDF)
http://xfs.jp/(上昌広氏がツイッターで共有しているダウンロードサイトへのリンク)(*既に削除されたようです)
実験が本当に行われたのかどうかさえ疑わしいと指摘されていますが、文科省のガイドラインによれば、
(3)特定不正行為か否かの認定
① 調査委員会は、上記(2)により被告発者が行う説明を受けるとともに、調査によって得られた、物的・科学的証拠、証言、被告発者の自認等の諸証拠を総合的に判断して、特定不正行為か否かの認定を行う。証拠の証明力は、調査委員会の判断に委ねられるが、被告発者の研究体制、データチェックのなされ方など様々な点から客観的不正行為事実及び故意性等を判断することが重要である。なお、被告発者の自認を唯一の証拠として特定不正行為と認定することはできない。
② 特定不正行為に関する証拠が提出された場合には、被告発者の説明及びその他の証拠によって、特定不正行為であるとの疑いが覆されないときは、特定不正行為と認定される。また、被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬等の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により、特定不正行為であるとの疑いを覆すに足る証拠を示せないときも同様とする。
(研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン 平 成 2 6 年 8 月 2 6 日 文部科学大臣決定 PDF)(*赤色の文字と下線での語句の強調は、当ブログによる)
となっています。論文の図の根拠となる実験の記述が実験ノートに存在しないなど、実験が行なわれた形跡がない場合にも研究不正と認定されるような判断基準が定められています。
資料
- 告発文1 5cvq.pdf (12ページPDF はじめに~ 2016年8月14日)
- 告発文2 5cvr.pdf (5ページPDF 研究資金リスト 2016年8月14日)
- 告発文3.pdf (52ページPDF 不自然なデータの指摘 2016年8月14日)
- 追加の告発文 http://toudai20168.up.seesaa.net/image/E69DB1E5A4A7E5918AE799BAE7ACACE4BA8CE5BCBE20-20E382B3E38394E383BC.pdf (2016年8月29日)
参考
- 東大、医学系4教授、11の論文不正疑惑を予備調査 匿名の告発文が発端、「もはや看過すべきではない」 (m3.com レポート 2016年9月1日)(記事閲覧は要登録) :”告発文は匿名で、本文は12ページ弱にわたる。加えて、11の各論文のグラフなどの問題点を指摘した資料(52ページ)、各論文の研究資金リストを付けている。”
- 東大の教授4人を名指し、論文11本に不正告発 (TBS NEWS 01日10:55):”東京大学の医学系の研究室が発表した論文11本に改ざんなどの不正を指摘する告発があり、大 学が事実関係の確認を始めました。先月中旬、東京大学に届いた告発文には、教授4人が名指しされていたということです。”
- 東大の医学論文に不正指摘=4研究室の11本、予備調査開始(時事ドットコムニュース 2016/09/01-12:39):”東大と文部科学省などによると、指摘があったのは、東大の医学系研究室が報告した生活習慣 病に関わる論文11本で、4研究室の教授らが責任著者となり、2003年から15年までにネイチャーなど海外の科学誌に掲載された。告発文は、論拠となる 図版に不自然な点があると指摘している。”
- 東大 医学論文に不正疑惑 4研究室対象、本部が予備調査 (毎日新聞2016年9月1日 07時40分(最終更新 9月1日 10時33分)):”東京大の医学系4研究室が報告した論文計11本に捏造(ねつぞう)や改ざんといった研究不正の疑いがあるとする匿名の告発があり、大学本部が予備調査を8月22日に始めていたことが分かった。”
- 医学論文11本に不正疑い 東大が予備調査(日本経済新聞 電子版 2016/8/31 20:00):”東京大に所属する4つの研究グループによる医学系の研究論文に不正の疑いが浮上し、東大が予備調査を始めたことが31日までにわかった。”
- 東大の論文11本に不正疑惑 匿名で告発、予備調査開始(朝日新聞DIGITAL 2016年9月1日17時33分):”東京大の医学系4研究室の論文11本に捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正の疑いがあるとする告発があり、大学が予備調査を始めたことがわかった。”
- 東大論文で不正疑惑 11本を予備調査(産経ニュース 2016.9.1 11:26更新):”東京大の4つの医学系研究グループが発表した計11本の研究論文に不正の疑いがあるとする匿名の告発があり、東大が告発内容を精査する予備調査を始めたことが1日、分かった。”
- 当ウェブサイト上での過去のアンケート結果
- 東大は、今回の11報の告発を本調査するなら、昨年に理由を言わずにシロにした12報も再調査すべきでしょう。完全に同根ですから。関連がないと考えるならもはや科学者ではありません。(匿名A 捏造問題にもっと怒りを 日本の科学を考えるガチ議論)
- 内閣府 科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術・イノベーション会議有識者議員との会合 議事次第 平成26年8月7日 資料 調-1-2 高い研究倫理を東京大学の精神風土に(25.10.8)
- 東京大学が類似画像論文に関する予備調査結果を発表: ”不正行為が存在する疑いはない”論文12報のリスト
- 研究に関する不正の告発受付窓口 文部科学省
- 東大医学部の研究不正 (医療ガバナンス研究所理事長のブログ 2016年9月2日)
更新 20170508 Cell Metab 2011の著者の説明を追加